勇者の違和感・・・討伐隊
ロロに強引に連れられて王国のメインストリートへ出ると、そこは異様な熱気に包まれていた。
「勇者様だ!」「勇者様が魔族を討ち取られたぞ!」
民衆の耳をつんざくような歓声。その中心を、金色の鎧を纏った一人の男が馬に跨り、傲慢な笑みを浮かべて進んでいた。
「……あいつが、勇者?」
俺の問いに、横にいたロロが苦虫を噛み潰したような顔で頷く。
「名前はカイル。一週間前に突然覚醒したと名乗り出てきた。見てなよ、彼が連れてきた『手土産』を」
男が引き連れた荷馬車の檻の中には、二体の魔族が転がっていた。それを見た瞬間、俺はわずかに目を細めた。
「……魔族か?」
「ドロリス大空洞の幹部、ガザとミリスだ。数年前、あの総指揮官ガルですら進軍を止めるのが精一杯だった脅威だよ。王国中が驚いてる。だが……」
ドロリス大空洞を拠点に数百年、その地域を恐怖と暴力で支配してきた高位魔族。王国騎士団やギルドですら手を出せずにいた「既知の脅威」を、新星の男が二人同時に仕留めたという。
ロロの視線の先には、バルコニーからその様子を見下ろすギルドマスターたちの姿があった。参謀役のバージニアはニヤリとした薄笑いを消し、騎士団統括のカロライナは不機険そうに腕を組んでいる。彼らの目は、あれを単なる「救世主」とは見ていない。
「怪しいんだよ。全くの情報がなかった。ガルに撤退させられてから大人しかったが、ここらじゃ一番の脅威と言われていて、見張りもいたにも関わらずだ。どこで、どうやって倒したのかが不透明すぎる」
そこへ、ギルドの使いがやってきた。
「ルーシュとロロだな。 ギルド本部へ急げ! カロライナ様がお呼びだ」
「……嫌な予感しかしないな」
俺が呟く間もなく、ギルド本部へ引き摺り込まれた。
中では四人のギルドマスターたちが揃い踏みで、こちらを待っていた。全員が揃ったのを確認し、カロライナが重々しく口を開く。
「世間を騒がせている勇者と名乗る男カイルが、『ドロリス大空洞からいつの間にか出てきていた魔族を仕留めた。その《残党狩り》の編成を組んでほしい』と頼まれている」
「残党狩りということで、騎士団から討伐隊を出す予定となった。よって、学園側からも数名の同行をお願いしたい」
危険が少ないとの判断で、学生の実地訓練も兼ねて連れていくことにしたらしい。
「残党狩りならおれはパスだ。忙しい」
俺が即答すると、政治担当のバージニアが眼鏡の奥の目を光らせた。
「そうもいかないのだよ。あの勇者はドロリスの拠点を壊滅させると息巻いている。我々ギルドとしては、あの『手柄』が本物かどうかを現場で見極める必要があるのだ。君の『剣士』としての力は、ギルド内でも評価が高くてね」
「……要するに、マスターどもは忙しいから、おれに現状を把握してこいと」
「話が早くて助かるよ。君のとこのメンバーは、『賢者』だと知る者の中から選んでいい。明朝、ドロリスへ出発だ」
俺は深いため息をついた。
せっかく杖を手に入れ、自分のペースで調整をしようと思っていたのに、これでは台無しだ。
ギルドマスターたちとの話を終え、部屋に戻ると俺はすぐに準備に取り掛かった。
「ロロ、お前も行くだろ?」
俺の問いに、ロロは肩をすくめて応える。
「そうだな。賢者と知ったもので編成しろってことは、ギルド側もお前を好きに動かせたいんだろう」
「ああ、万が一のこともあるということだ。何かあった時に動ける奴じゃないと足手まといになるからな」
「なら、ヴィニーとアーサーしかいないぞ……」
「そういうことだな」
俺を『賢者』だと知る学生は限られている。
王子のロロ。従者のヴィニー。そしてロロの従兄弟である格闘家のアーサー。
攻撃、支援、格闘、そして俺の「剣士(偽)」。
「うまいことバランス取れててよかったな」
「全くだ。表向きは学生の後方支援だが、実戦になれば俺が抜けても問題ない構成なのは助かる」
俺は荷物をまとめ終えると、ヴィニーに向き直った。
「にしても急すぎだろ……。悪いがヴィニー、アーサーに明日早朝出発だって伝えてきてくれ」
「分かりました、すぐに向かいます」
ヴィニーが部屋を出ていくのを見届ける間もなく、俺は上着を脱ぎ捨てた。
「おれはもう寝るぞ」
「おい、もっと緊張感持てよ……」というロロの呆れ声を背中で受け流しながら、俺は一目散に布団へと潜り込んだ。




