不発・・・教皇の思惑
「あれ? 私って天才!?」
淡々と任務をこなしていた姿はどこへやら。一人になったミズーリは、さっきまでの緊張を爆発させるように飛び跳ねて喜んでいた。
「ふふ~ん」
ご機嫌なミズーリは、ルーシュの指示通り効率よく手がかりを求めて引き出しや本棚を物色し始める。
「ないわね……こういうのって隠し扉がドーンとか、ガチャ!とかいって秘密の鍵が開くもんじゃないの?」
一通り探したが、目ぼしい収穫がないことに不満げな表情を浮かべる。
「となると、堂々と置いてあるけど鍵のかかったこの金庫、これかしら?」
本棚の一角に鎮座する重厚な金庫の前で腕を組み、ため息をつく。
「魔法で開けようとすると魔力の残痕が残っちゃうし……。今日は何もなかったって報告しよっと」
『全部聞こえてるぞ』
「はうわっ!?」
直接脳を揺さぶるような感覚。出発前に術式を刻まれたことを思い出し、ミズーリは顔を赤くした。鼻歌まで聞かれていたかと思うと、羞恥心で消えてしまいたい。
「わ、忘れてました……。でも、本当に何もないですし、これ開けられないですよ」
ミズーリは小声で現状を説明する。
『どんなタイプの金庫だ?』
「鍵穴のないダイヤルタイプです。しかも、触れた者の魔力を感知するタイプですよ」
『本人の魔力特性を照合しつつダイヤルか。なかなか良いものを使っているな』
「感心している場合じゃないですよ! どうします?」
『破る方法は?』
「無いです。破壊して元に戻すくらいしか……。でも、そんなことしたら絶対にバレます」
『……仕方ない。今回は引き上げるぞ』
「了解!」
直後、廊下から誰かが近づく足音が聞こえた。
ガチャリ、と扉が開く。
「ごちそうさまでした」
ソファに座り、ちょうど紅茶を飲み終えたような風を装ってミズーリが挨拶する。
戻ってきたのは、サクラ教皇だ。
「こちらこそ、お待たせしました。先ほどの件、調査を検討することにします」
「そうですか! ありがとうございます。それで、私の処分は……」
「今回はこの功績もあります。謹慎一ヶ月ということで処理しましょう。遠征という名目で少し休みなさい。その間、文献の続きを解読してみること」
そう言ってサクラが差し出したのは、持ち出し厳禁のはずの『賢者の文献』だった。
「いいんですか?」
「私の独断ですが、問題ありません」
「ありがとうございます!」
大きく一礼し、ミズーリは安堵の息を漏らす。
「それと……」
「まだ何かあるのですか?」
「先日会った学生のこと、調べていますよね? 何かあるのでしょうか」
「……はぁ。そんなことまで。あなたは情報屋か何かですか?」
ミズーリは目を逸らしながら誤魔化すが、サクラの冷徹な眼差しは逃してくれない。
「まぁ、あなたの知り合いのようですし、正直に言いましょう。あの神殿に興味を示したこと、床の術式の話をした時の反応……そして、何か『縁』を感じてね」
「縁?」
「ええ、個人的な話です。……優秀な生徒さんのようですが、私どもでも足取りを掴めませんでした。気になるのは、あなたから報告を受けた、隠れ蓑として学園に入り込んでいる王子のルームメイトであり、ギルドマスター室にも出入りし、あのガルとも接触していたこと」
「……もうほとんど知っているような感じですね」
「知っているのは周辺だけ。彼自身が何者で、どこ出身か、一切が不明です。けれど……」
「けど?」
「いえ、何でもありません。また機会があれば、お話ししてみたいものです」
それ以上の追及はなかった。
ミズーリは渡された文献を抱え、逃げるようにルーシュのもとへと走った。
部屋に残されたサクラは、ゆっくりと自身の書斎を見渡す。
(引き出しも開けられ、本棚も触られているな……。しかし、金庫には一切触れていない。なぜだ? 何を探している)
引き出しや本棚の微かなズレを、一ミリの狂いもなく元に戻しながら、不気味な笑みを浮かべた。




