教皇・・・賢者
(《マナ・リンク》の課題を先に片付けるべきか、それとも俺を疑っている男をどうにかすべきか。……何から手を付けるべきか)
思考を整理しようとしたが、どうにも追手の気配が煩わしい。俺は考えるのを一度やめ、元凶である男の情報を洗うことに決めた。
「教皇って、どんな人なんですか?」
俺の問いに、ミズーリは表情を引き締めて答える。
「本名はサクラ・ヴェリウム。もともとは非常に熱心なレイラン教徒だったそうで、わずか三十八歳で教皇に上り詰めるほど上層部からの信頼も厚い人物です。現在は四十歳。賢者についての文献を読み解き、その地位を現代に再定義した立役者の家系でもありますね。ご存知の通り、今の時代、賢者は『架空の人物』だと言う者もいるほど認知されていませんから」
「ほう。なぜ、そんな若者が台頭してきた?」
「レイラン教は900年ほど前、回復魔法に長けた者と、賢者の記録を残すことに熱心な人々が創設したと言われています。今も昔も、回復魔法は貴重です。教団に属せばその恩恵に預かれることもあり、他の宗教より教徒が多い。それゆえ、賢者について深く知りたがる若者もまた、多いんです」
「その中の一人が、今の教皇か……」
「ええ。代々司教を輩出する家系で、家族全員が熱心な信者だそうです。あまり表には出ない話ですが、各所の聖地や神殿といった建築物の立案者でもあるのだとか」
「神殿?……ミズーリ地図を」
「え? あっ、はい」
ミズーリが困惑しながらも広げた地図に、俺は問いを重ねる。
「教皇は確か、五大神殿と言ったな? どこにある」
「ええと、ここと、ここと……」
ミズーリが地図上に印をつけていく。それを見た瞬間、俺の背筋に冷たい震えが走った。
「何か、ありましたか?」
「……やっぱりな。この前のルデック神殿は、俺の作った祭壇の上に建っていたな?」
「そうですね。あの祭壇も本物かどうか確証はなかったそうですが、言い伝えを頼りに建てたと聞いています」
俺は地図上の印をなぞりながら、言葉を繋ぐ。
「そんな曖昧な情報で神殿を建てたにしては、出来過ぎている。あの時、教皇は『床の術式』と言った。祭壇と呼ばれるものに、術式があることを知っているかのように」
俺の指先が、地図の端にある辺境の地を指す。
「さらに、俺の作った祭壇や装置は、すべてが完璧だったわけじゃない。放置したものや、数回で壊れたものもある。中には二千年以上前のものだってあるんだ」
「それが、何か?」
「この神殿の位置……俺が知る限り、そのすべてに何らかの『俺の装置』がある場所だ。こうして地図を突き合わされるまで、俺自身が忘れていたような場所まで、正確にだ」
「えっ……それって」
ミズーリの顔から血の気が引いていく。
「ああ。俺の記憶にも残っていないレベルの装置がある場所に、ピンポイントで神殿が建っている。言い伝えを頼りにした程度で、これほど正確に当てることなど不可能だ」
「ということは、賢者の遺物の場所を、賢者本人以上に知っている人物……?」
「その可能性が高い。だが、俺でも記憶が曖昧なものを、なぜ赤の他人が知っている? サクラ・ヴェリウム教皇……お前は一体、何者だ?」
単なる「賢者の崇拝者」では片付けられない不気味な一致。
窓の外から、誰かの視線が突き刺さっているような錯覚を覚えた。




