賢者の盲点・・・進化の正体
「ところで、親が子に施すのが当たり前と言うほど普及したこの《マナ・リンク》ですが、その研究はどういった経緯で、今の形になったのでしょうか?」
転生するまでの空白の期間。それは俺の知らない、人類が独自の足掻きを見せた時間だ。
「いい質問ですね。そもそも、魔術というものをどう定義していますか?」
研究員が問いかける。俺は間髪入れずに答えた。
「空気中の魔力も利用し、術式で自分の魔力と結合して発動させる。それが魔法という分類の魔術です」
「正解です。理解力は大きな力となります。ですが、時には完璧な術式でなくとも魔術は使えますよね? かつての巨大な祭壇は、異質な魔力を強引に自分の領域へ引き込むための『大型変圧器』のような役割だったと考えられています。しかし、ある時期の研究で、『空気中の魔力を掴む術式』の一部を、隣り合う人間の魔力経路に干渉させる手法が発見されました」
研究員は誇らしげに続ける。
「本来、空気中の魔力は無色透明で指向性がありません。しかし、人の魔力には放出の際に特有の『癖』がある。その癖を逆手に取り、接合術式を**あえて未完成のまま隣人に『投げかける』**ことで、相手の魔力を『空気中の魔力の延長』として認識させることに成功したのです。これによって巨大な装置を介さずとも、互いの魔力の端っこを『結び目』のように繋ぎ合わせることが可能になりました」
(「なるほど……。俺は『完全に魔力を変換して結合する』ことばかり考え、あの巨大な祭壇を作った。だがこいつらは、不完全なまま魔力を放出し、お互いを空気中の魔力と誤認させることで装置を捨てたのか。緻密な演算を必要としない代わりに、適当に繋ぐための『遊び』を作った。それが普及に繋がったってわけか」)
俺は一通りの見学を終え、ロビーの椅子に深く腰を下ろした。
(俺の魔力が精密すぎて、他人が干渉できる余裕がなかったわけだ。術式でわざと曖昧なものに変換すれば、他人と繋がることはできる。……だが、俺の魔力をそこまで『ほどいた』として、その分の補完ができる奴が現代にいるのか?)
人が握れないほど太い綱を、人が握れる細さまで解きほぐす。そこから数人で編み直したとして、元の綱より強靭なものができるとは到底思えない。
(現代の《マナ・リンク》では、俺の魔力を押し上げるのは難しいのか……。いや、マティアスは言った。『世界はずっと進化してきたのだ』と。ミズーリは目覚ましい進化はないと言ったが、あいつほどの男が、この術式に俺に対抗しうる可能性を秘めていると確信していたのなら……。諦めるにはまだ早いか)
思考の海に深く沈んでいく。
未完成の術式。遊び。誤認。
賢者と呼ばれた俺がかつて切り捨てた「不完全さ」の中に、答えがあるのかもしれない。




