神殿・・・近代魔法
翌朝、神殿の前には見たくない顔が立っていた。
「……なんでスザクがいるんだよ」
「お前が神殿で何をするのか気になってな」
腕を組み、不機嫌を隠そうともしないスザク。ミズーリが小声で俺に耳打ちする。
「ごめんなさい。止めたんだけど、『姉上が心配だから』って付いてきちゃって……」
「暇なのか、お前」
「ふざけるな。そもそも昨日、俺は教皇の護衛としてここに来たんだ。暇なのは貴様だろう」
ミズーリの身内であり、その実力を買われているスザクは、時折こうして教皇の護衛を任されるらしい。
「ふーん。すぐ魔力切れを起こすのに護衛とはな。よっぽど弱い魔物しか出ないんだな」
「言ってろ。姉上は『二人とも』と言ったが、首席である俺のほうが立場は上だ」
「はあ? お前が勝ったのは筆記くらいだろ」
「総合的に優れているから首席なんだよ、雑魚が」
「前衛組に負けたのを忘れたのか?」
「たまたま雑魚が生き残った程度で粋がるな!」
「また揉めてるの! だから留守番しろって言ったんでしょ! スザクはここで待機!」
ミズーリの雷が落ち、スザクはその場にしゃがみ込んで「待機」を命じられた。
「いい機転でしょ?」
「ああ、助かったよ」
自信満々のミズーリに苦笑しながら、俺は神殿内部……かつての『祭壇』へと足を踏み入れた。
数分後、床に刻まれた術式の残滓を確認し終えた俺に、ミズーリが問いかける。
「どうですか?」
「一通り見たが、やっぱりダメだな。使えるとは思ってなかったが、損傷が激しすぎる」
「……私たちのせいでしょうか?」
「いや、千数百年も経ってるんだ。むしろこの状態で保護してくれていたことに感謝したいくらいだよ」
俺は少し迷ってから、彼女に本音をこぼした。
「ミズーリ、俺がここに来た本当の理由を話してなかったな」
「はい」
「俺……『魔力接続』が使えないんだ」
「ええっ!? なんでですか?」
「俺の時代にはなかった技術でさ。どうやら俺の魔力特性だと他者と繋げないみたいなんだ。その感覚を知りたくてここに来たんだが……」
「そうなんですか? 少し、試してみてもいいですか?」
ミズーリが俺の魔力に触れようと集中する。だが、すぐに彼女の顔が驚愕に染まった。
「……信じられません。こんなに密な魔力、感じたことないです。スザクも凄いですけど、これは……」
「スザクか。……あいつ、俺の魔力の違和感に気づいてないよな? どう思う?」
「……やめておいたほうがいいと思います。スザクも異常ですが、それでもルーシュさんは『度を超えて』異常です」
ミズーリの真っ直ぐな言葉が突き刺さる。
「賢者を隠している弊害か。……ガルでも生きていればな」
「そうですね。ガル様ほどの実力者は、今の時代にはいません」
かつての戦友を思い出し、俺たちは沈黙した。惜しい男を亡くしたものだ。
「……何か、良い案はないか? この時代の魔法を基礎から知るための場所」
「あそこはどうでしょう? 『魔術研究区』」
「魔術研究区?」
「王都の一画にある、近代魔法の研究所です。最近は進展がなくて歴史博物館みたいになってますけど、資料は揃っていますよ」
博物館、か。案外、俺が求めている「変遷」の記録が眠っているかもしれない。
「面白そうじゃん」
「私たちレイラン教も歴史調査の協力をしてますから、所長に連絡しておきますね。『近代魔法を学びたい熱心な学生がいる』って」
「ありがとう。助かるよ」
閉ざされた過去の祭壇を背に、俺は神殿を後にした。
新しい知識への扉。何かが動き出す、予感があった。




