姉弟・・・嵐の晩餐会
近くの街まで足を伸ばし、俺は一軒の宿屋の暖簾をくぐった。
「一部屋、空いているか?」
「大丈夫ですよ。一泊でよろしかったですか?」
「頼む」
案内された部屋に荷物を置き、ベッドに腰を下ろす。
「なかなかいいとこじゃないか。今日はゆっくりして、明日神殿の確認でもするかな。……その前に腹ごしらえだな」
ブラブラと夕食の店を探して街を歩いていると、聞き覚えのある声が届いた。
「ルーシュさん!」
やはり、ミズーリだった。
「先程はすいませんでした。お詫びに一緒にご飯でもどうですか? 良いお店を知ってるんです」
「そんなに気を使わなくても大丈夫ですよ」
「神殿のこと、もっと詳しく知りたいんでしょ?」
「……っ。そう言われれば、付いていくしかないな」
俺の弱みを握るような提案に苦笑いする。
「えへへ。弟も来ているので一緒ですけど、大丈夫ですか?」
「私は構いませんよ」
「なら、お店の前で待っているので一緒に行きましょう!」
ミズーリに連れられて辿り着いた店の前。一人の男が不機嫌そうに立っていた。
「遅いぞ、姉上……」
「ごめんね、待った? 知り合いと会っちゃって、連れてきちゃった」
「すいません、姉弟の食事にお邪魔して……」
俺が謝りながら顔を上げると、そこにいた人物に言葉を失った。
「――なぜ、お前がここにいる」
この、吐き捨てるような嫌な言い方。
「それはこっちのセリフだ。スザク」
「ふふふ。さあさあ、座って。ご飯食べましょ!」
「姉上……」
「ミズーリ……」
俺とスザクの視線が火花を散らす。
『知っていたな?』
あまりのタイミングに、つい声が揃ってしまった。
「当たり前でしょ。学園のトップ二人なんだから!」
ミズーリは悪びれる様子もなく、ニコニコと席に座った。
食事が始まっても、空気は刺々しいままだった。
「それにしても……姉弟だったんですね」
「そうですよぉ。似てませんか?」
終始ニコニコしている姉に対し、スザクは毒を吐く。
「そもそも、なぜ貴様が姉上と知り合いなんだ」
「色々あってな」
「その『色々』を訊いているんだ、貴様は阿呆か」
「……何だ、その言い方は」
「何か不都合なことでもあるのか? ああ?」
スザクが身を乗り出し、俺を睨みつける。
「もう、やめてよぉ! ご飯は仲良く美味しく、でしょ!」
「はぁ……なんで誘ったんですか。こうなるの、分かってたでしょ」
俺が溜息をつくと、ミズーリは少し真面目な顔をしてグラスを傾けた。
「そうは言っても、時にはライバル、時には仲間。そうやって今日まで来たんでしょ?」
ミズーリはスザクを横目で見る。
「レイモンドの時、とっても心配したんだからね。スザク」
「……あの程度、どうということはない」
「何があの程度よ。ボロボロだったくせに」
ミズーリが、スザクに聞こえないような小声で俺に耳打ちしてきた。
(ルーシュさんのパーティーだったから止めなかったけど、本当は死ぬほど心配してたんですよ?)
「何を話している! 離れろ、貴様!」
「近づいたのは俺じゃないだろ!」
「まったく、今日はルーシュくんが神殿に入れなかったお詫びなんだから、静かにして」
「たったそれだけの理由で連れてきたのか?」
「それだけじゃないわよ。レイモンドの時、同じパーティーだったでしょ? 久々かなって思って。その時のお礼も兼ねて……」
「お詫び? 俺のほうが感謝されたいくらいだ」
スザクが鼻で笑う。
「ほう? なぜそうなる」
「俺がいたから、アラバマを乗っ取った奴を倒せただろ。貴様は指を咥えて見ていただけだ」
「はあ!? どんな解釈だよ。お前の中途半端な魔法のせいでアラバマが即死しなかったから、また復活したんだろ」
「何を言っている。俺がいたから、あの場所から逃げられたんだ。最後まで抗ったのは俺だ」
「最後に魔法を外しただけだろ。殿は俺がやったんだ。大人しく逃げたくせに」
「貴様が『先に行け』と言ったんだろうが!」
「魔力が空っぽだっただろ? お前」
「それは……貴様の勘違いだ」
俺が核心を突くと、スザクは一瞬言い淀み、顔を赤くして声を荒らげた。
「もぉー! やめて!! お姉さん、本当に怒るよ!!」
ミズーリの怒声が店内に響き、ようやく俺たちは黙り込んだ。




