神殿・・・教皇
「そうか。あの時は魔力装置で無理やり繋いでいたが、基本的な構造があそこにあったとして……。魔術師全員が繋がったと仮定しよう。実際は、レオが俺の中に来た時の感覚が『マナ・リンク』……集めた魔力を俺自身に流し込んだような感覚だった気がする。記憶が古いな。あの感覚はもう味わえないか……。まぁ、一度あの祭壇に行ってみるか」
俺は当時、祭壇魔法のために建設した装置の跡地へと向かった。
だが、辿り着いたそこは、かつての面影もない立派な「神殿」へと姿を変えていた。
「なんだこれ。ものすごく立派な建物だな……」
大理石の円柱が立ち並び、各所には精巧な石像が据えられている。呆気に取られていると、不意に声をかけられた。
「あれ? ルーシュさん?」
そこにいたのは、レイラン教との連携担当であるギルドマスター、ミズーリだった。
「ミズーリ、どうしてこんなところに?」
「逆ですよ。ここはレイラン教の神殿です。ルーシュさんこそ、何でここに?」
「昔、ここに建てたものがあってな……」
「ってことは、この建物自体が……?」
「いや、たぶん床だな」
「ええ〜! なんか、やばいことしちゃってますぅ?」
ミズーリは事の重大さに気づいたのか、あわあわと狼狽え始めた。
「魔術装置なんですよね、それ……。もう使ってないんですけど、大丈夫かなぁ? まだ使えるのかなぁ……」
「少し見学させてもらってもいいか?」
「ごめんなさい。今日は教皇様が訪問される日で、一般開放していないんです」
「そうか。明日なら見れるか?」
「はい! 明日なら大丈夫です。私が案内しますね!」
約束を交わし、その場を立ち去ろうとした時、背後から声が届いた。
「その方は?」
若く、それでいてどこか心地よい響きを持った声だった。
「あ、この方はルーシュさん。ヴァイオレット学園の学生さんです。今日、訪問できるか尋ねられました」
「それは申し訳ございません。わざわざ足を運んでいただきましたのに、私のせいで……」
振り返ると、そこに立つ人物の放つ空気に、俺の直感が反応した。
「……あんたが教皇様か?」
「不思議な方ですね。私のことをご存知ないのに、なぜこの神殿に?」
「ただ通りかかっただけですよ。立派な神殿だと思ってな」
「これは失礼しました。てっきり信者の方かと。ミズーリとも仲が良さそうでしたので、知り合いかと思いましてね」
「中が見たかっただけですよ」
「そうですか。ここはレイラン教五大神殿の一つ『ルデック神殿』。賢者様がかつて魔物を追い払ったと言い伝えられている地です」
教皇は、俺の足元の地面を見つめて微笑んだ。
「特に床の術式。これは何か盛大な魔術を行った名残ではないかと言われております。現代魔術をもってしても複雑すぎて、用途さえ不明なままですがね。……もし興味がおありなら、また明日お越しください」
教皇はそう言い残し、静かに立ち去っていった。
その背中を見送りながら、ミズーリが不思議そうに呟く。
「いつもはあんなことする方じゃないのですが……」
「大丈夫だ。また明日伺うよ」
俺がその場を離れた後。
教皇は足を止め、側に控えていた側近に低く命じた。
「……おい。さっきの学生のことを探れ。何か、違和感がある」
「分かりました」
闇の中で、教皇とその側近たちが動き始めた。




