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七度転生した大賢者、今世では剣士として無双します 〜魔法全盛の世界で剣を選んだ理由〜  作者: ねむのき 圓
6章 城塞都市ピューターと超級物質魔法

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絶望の証・・・王の再臨(2)

  凍りついた静寂の中、パチ、パチ、と乾いた拍手の音が響いた。

 それは蒸気の音でも、機械の軋みでもない。この場の「空間」そのものを踏みつけるような、尊大で傲岸不遜な足音。


 闇を割り、一人の男が姿を現した。

 豪奢な外套を纏い、瞳には万象を見通すような冷徹な知性を宿した男。

《魔導の王冠》アルカナ・クラウンのボス、マティアス・レガリア。


「マティアス……! なぜここに」


 俺が警戒を強めるより先に、マティアスは膝をつくガゼルを冷たく見下ろした。


「面白い魔力を感じて来てみたが、なるほど、まだまだおもちゃの域を出ないな。だが老技師よ、その澱んだ絶望の魔力……それこそが私の求めているものだ。お前の渇きは、この偽神器ガラクタよりも遥かに価値がある」


「誰だ?なぜお前もここに来れる・・・」

 誰も寄せ付けないための迷宮

 そのはずが目に前に現れる男をガゼルが虚ろな目で見上げる。


 マティアスは俺に視線を移すと、薄く笑った。


「だが、相手が悪かったな。老技師の術式は緻密だったが、これを攻略できるのは、世界広しといえどそこの『賢者』か、私ぐらいのものだ。……場所と時代が違えば、お前の絶望は成就していただろう。言っている意味がわかるか、ルーシュ?」


「『賢者』……」

 ガゼルがポツリと、その禁忌の称号を呟く。


「……俺は関係ない」

 俺はテオを背に隠し、指先に魔力を集中させる。マティアスが指を一振りした。

それだけで、俺が固定した「絶対零度」の空間の一部が、熱力学を無視して強制的に再起動させられる。


「こうも立て続けに大精霊がちょっかいを出している。お前がこの時代に転生してから、世界の記述は綻びだらけだ。何度も言っているだろう? お前の存在そのものが、この世界を狂わせているのだと」


「俺が狂わせているんじゃない。歪んだ世界を、俺が『修正』しているだけだ」


「修正だと? 笑わせる。お前が『正しい』と思う形に書き換えることが、世界にとっての正義だとでも思っているのか?」


 マティアスが虚空に指先で幾何学模様を描く。

 瞬間、俺の足元の石畳が「水」へと定義変更され、同時に頭上の酸素が「猛毒」へと書き換えられた。


「《事象復元リストア》」


 俺は即座に周囲の記述を巻き戻す。だが、マティアスの攻撃は止まらない。

彼は俺の修正速度を上回る速さで、街の「存在定義」を次々と改ざんしていく。

さらにマティアスは、ピューターに蔓延る『偽神器』のネットワークを介し、新たな書き換えを上書きし始めた。


「どこまで対応できる? 世界はずっと進化してきたのだぞ」

 

 俺とは違い常に転生を繰り返してきた男。生きている時間で言えば倍以上。

 ガゼルの精密さを遥かに凌駕する速度と規模。俺が一箇所を直せば、十箇所の理が崩される。


「……何だ……コイツらは一体何者なんだ……!」

 目の前で起きる、偽神器すら媒介にしない魔力の奔流。その次元の違う応酬に、ガゼルは言葉を失う。


「何百年と俺がいなかったとしても、俺が導いた魔法や知識は根本的には変わらない。俺はこの魔法を、皆が幸せに使える世の中を目指したいんだ!」


 俺もまた、マティアスの侵食に真っ向から抗う。俺が編んだ魔導の根幹は、そう簡単に折れるものではない。


「ほう……まだ私の知らない領域があるか」

 マティアスの眉が僅かに動く。

ピューターの地形が、俺の魔力によって徐々に「正常」へと押し戻されていく。


「当たり前だ。俺ですら魔法の1パーセントも理解していない。何千年俺がいなかろうが、お前が俺を超えるなんてことは不可能だ!」


 パチンッ。

 指を強く鳴らすと同時に、街の形状がもとに戻り、偽神器の核が一斉に砕け散った。ピューターに、ようやく「日常」が戻る。


「……ふん。この程度で調子に乗るなよ。世界は着々と闇が深くなっている」


 マティアスは興味を失ったように背を向けると、再びガゼルへと視線を落とした。


「ガゼルと言ったか。お前の人生を『バグ』と切り捨てたこの世界を、私の手元で再定義してみないか? お前が求めた『理』の続き、私ならば見せてやれるぞ」


 自らの全てを否定した俺への憎しみ。そして、自分を「価値ある絶望」と認めたマティアスへの心服。

「私が求めたのは、平等ではない……圧倒的な魔力。他者を抑えつけ、支配できるほどの魔力だ……!」

 マティアスの言葉に当てられ、ガゼルの瞳に暗い情熱が宿る。


「……行くか、ガゼル。ここはもう、我々のような『選()()()()()()|』の居場所ではない。お前の求めた物質魔法を私に見せてくれ」


 マティアスの体が空間の裂目へと吸い込まれていく。去り際、彼は俺を振り返り、呪いのような言葉を残した。


「せいぜい、足掻くがいい。……お前に影響される者たちがいつか、お前の築き上げた『正しい世界』を、最も無邪気に、最も残酷に壊すその日までな」


 闇が閉じ、二人の気配は完全に消えた。

 後に残されたのは、平穏を取り戻した蒸気塔と、呆然とするテオ、そして震えるマテリアル。


「ねぇ、ルーシュ……あいつ、ルーシュより強いんじゃないの……?」

 マテリアルが、絞り出すような声で聞いた。


「なんでだよ! 最後はお兄ちゃんが勝って、おもちゃが壊れて街が元に戻ったじゃん!」

 テオが俺に駆け寄ってくる。だが、マテリアルは首を横に振った。


「……違うんだ。マティアスは偽神器の魔力を奪いつつ、街を破壊しようとしていた。それをルーシュが反転して食い止めていたけど……。街は取り返せたけど、偽神器に溜まっていた膨大な魔力は、全部あいつに持っていかれた」


「なら、引き分けってこと?」


「……いや。あの偽神器の魔力構成のほうが複雑だった。それを少しも奪わせずに防ぐことができなかった以上、ルーシュの負けだよ」


 マテリアルの言葉に、テオが不安そうに俺を見上げる。

 俺は、何も言い返せなかった。

 

 街は救った。だが、ガゼルの心も、偽神器に蓄えられた膨大なエネルギーも、すべてマティアスの手に落ちた。

 俺はただ、己の無力さを噛み締めながら、遠く消えた闇を見つめて立ち尽くすしかなかった。

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