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七度転生した大賢者、今世では剣士として無双します 〜魔法全盛の世界で剣を選んだ理由〜  作者: ねむのき 圓
6章 城塞都市ピューターと超級物質魔法

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神器迷宮・・・魔法の根源


 偽神器を使い蒸気塔から放たれた漆黒の波動が街を舐めるように広がった瞬間、ピューターは「都市」としての機能を失った。

 石畳が脈動して壁となり、街路灯が牙を剥く。蒸気管は血管のようにうねり、通りを歩いていた住民たちは、物理的に変質した壁の中へと飲み込まれ、街そのものに取り込まれていく。


「……空間の位相を物質的にズラしたか。住民を人質にした『迷宮』だな」


 目の前で、直進していたはずの路地がグニャリと捻じ曲がり、袋小路へと変わる。

 俺は歩みを止めず、左腕の《ベンテンディア》に指先を這わせた。


「マテリアル。お前は外部から街の『基本定義』を保持しろ。俺が踏み込んだ地点の物質情報を片端から送信する。いいな?」


『了解だよルーシュ! 街の根源データ、絶対にガゼルに渡さないんだから!』


 俺は捻じ曲がった空間へ足を踏み入れる。

 直後、天井から巨大なプレス機のような鉄の塊が、音もなく自由落下してきた。物理法則を無視した加速。だが、俺は避けない。


「《事象解析:慣性ベクトル停止》。……《属性定義:空気》」


 指先を鳴らす。

 俺の頭上に触れる直前、数トンの鉄塊は一瞬で「霧」へと霧散し、ただの涼しい風となって俺の横を通り過ぎた。鉄という物質の「結合定義」を書き換え、一時的に空気と同じ分子構造へ変換したのだ。


「……魔法の知識勝負だ、ガゼル。どっちのほうが繊細かな?」


 俺の視界には、普通の人間には見えない「世界の記述」が流れている。

 ガゼルが偽神器を使って送り込んでくる「不協和音バグ」のような術式。彼は街の物質的な噛み合わせを無理やりズラし、俺をこの迷宮の深淵へ突き落とそうとしている。


 角を曲がると、今度は無数の歯車が壁から飛び出し、高速回転しながら迫ってきた。一つ一つが複雑な魔導回路を帯びている。


「今度は並列演算マルチスレッド攻撃か」


 俺は歩きながら、空間に指で複雑な文様を描く。

「《干渉遮断》。……《術式強制上書き:恒久停止》」


 迫る歯車群が俺の周囲数メートルでピタリと止まる。

 それだけではない。俺の支配下に入った歯車たちが、逆にガゼルの制御を奪い取り、周囲の壁――囚われた住民たちが閉じ込められている区画を優しく解体し始めた。


「……ぐ、あああぁぁ!」


 迷宮の奥、蒸気塔の頂上からガゼルの苦悶の声が、街中の拡声器を通じて響いた。

 俺が彼の術式を書き換えるたび、その「反動」がガゼルの精神を直接焼いているのだ。魔法の繊細なバトルとは、すなわち情報の処理速度の競い合い。


『ルーシュ! ガゼルが街の基幹プログラム……街全体の蒸気機関の「可動限界値」を書き換えようとしてる! こんな事続けたら街どころか世界を飲み込む迷宮になっちゃうよ」


 マテリアルの叫びに、俺はふっと目を細めた。

 

「……やるな。だが、お前が組んでいるその暗号化術式、その程度の知識で俺に勝なうと思うなよ」


 俺は走り出した。

 壁が迫り、床が抜け、重力の方向が狂う。

 だが俺は一歩踏み出すごとに、周囲の理を「正常」へと書き戻していく。

 まるで、乱れた楽譜を指先一つで名曲へと整えていく指揮者のように。


「さて……どっちの処理速度(魔力操作)が速いか、白黒つけようぜ、ガゼル」


 ピューターの街は、もはや単なる都市ではなかった。

 ガゼルが書き換えた「可動限界値」。それは蒸気機関の出力を上げるなどという次元の話ではない。物質が「形」を維持するための法則そのものを引き千切り、周囲の空間、地脈、さらには大気の分子までもを「ピューターの一部」として強制的に再定義し、増殖を続ける**自己増殖型位相迷宮**へと変貌させていた。


「ルーシュ! このままだと街の外の森も、空も、全部このデタラメな歯車の中に飲み込まれちゃうよ!」


 マテリアルが叫ぶ。放置すれば、世界そのものが「バグった機械の塊」に上書きされる。まさに世界の終わりの始まりだ。


「……焦るな。どれほど巨大なシステムだろうと、命令系統の根底には必ず『理』がある」


 俺が迷宮の深層へ踏み込むと、目の前の壁が透明な膜のように変化し、その向こう側に捕らわれた住民たちが姿を現した。

 だが、単に閉じ込められているのではない。彼らの心臓の鼓動、血流、そして脳波の微弱な電気信号が、壁を流れる魔導回路と「直列」に繋がれている。


「っ……、これは……」


 ガゼルの冷徹な声が、空間そのものから響いた。


『気づいたか、若き者よ。この迷宮の各セクションは、彼らの生命活動を「定数」として組み込んでいる。お前が力任せにこの壁を壊せば、接続された彼らの神経系は過負荷で焼き切れる。論理的に解くというのなら、彼らの命という不確定要素を抱えたまま、私の構築した暗号を解いてみせろ』


 卑劣な「人質型論理爆弾」。

 もし俺が壁の構造を強引に書き換えれば、その「修正パッチ」の負荷が住民の脳に直接流れ込む。彼らを助けるには、彼らのバイタルサインを一切乱さずに、周囲の数万に及ぶ術式のみをミリ単位の精度で切り離さなければならない。


「……命をシステムの部品扱いか。どこまでも性格の歪んだ機械技師だな」


 俺は目を閉じ、両手を広げた。

 《ベンテンディア》が高速で魔力を演算し、視界には数億行に及ぶ黄金の術式記述が流れる。


「マテリアル。住民一万人、それぞれの『心拍周期』と『魔力波長』を全スキャンしろ。一ミリ秒のズレも許さん」


『無茶言わないでよ! オイラ、そんな細かいこと……!』


「やれ。お前が大精霊なら、物質の鼓動リズムを聴くのは本能だろ」


『う、うう……やってやるよ! やればいいんでしょ!』


 マテリアルが街の微細な振動に同調する。

 俺は、ガゼルが住民の神経系に潜り込ませた「悪意のコード」を見つけ出した。

それは一見、複雑に絡み合った糸のようだが、実は一つの規則性に基づいている。


「マテリアル、ズレてるぞ! 不協和音で邪魔をするな!」

 俺の叱咤に、マテリアルが半泣きで叫び返す。


 『待ってよ! オイラだって限界だよ! 一万人分なんて、並列処理のキャパを超えてるんだってば!』

 思考を高速回転させ、オーバーヒート寸前の大精霊。その時、後ろから小さな手がマテリアルの背中に触れた。


「――限界は自分で決めちゃ駄目だよ、マテリアル」


 テオだ。彼から溢れ出した澄み切った魔力が、マテリアルを通じてシステム全体へ流れ込む。

 『もぉ、それオイラがテオに言ったセリフでしょ!』

 文句を言いながらも、マテリアルの気配が劇的に安定する。テオの魔力は、ただ強いのではない。「理」への抵抗が一切ない、究極の潤滑剤のような純粋さを持っていた。


「……解析終了。ガゼル、お前のロジックは『恐怖』という感情をトリガーにしているな。なら、俺はそれを『安らぎ』で上書き(オーバーライド)する」


 俺は指先を指揮者のフィナーレのように止める。

 繊細かつ精密な魔力の波。それは住民たちの意識を一時的な深い眠り――

「生命活動の完全な一定化」へと誘う。

 外部刺激を遮断し、彼らをシステムから一時的に「独立した定数」として隔離する高度な介入だ。


「《精神・物質:完全同期フルシンクロ》。……これで、彼らはもうお前の部品じゃない」


 パチン。

 指を鳴らした瞬間、住民を繋ぎ止めていた数万の魔線が、火花を散らすこともなく、まるで雪が溶けるように静かに霧散した。壁は元の石材へと戻り、眠りについた住民たちがふわりと地面に降り立つ。


『な……っ!? 私の構築した多重暗号を、個体差のある人間に干渉しながら同時に処理したというのか!?この神器を使っても私は一人の男に及ばないのか!』


「言ったろ。お前の知識の基準で俺を測るな。……さあ、邪魔者は消したぞ。次は何を仕掛けてくる?」


 俺は一歩、また一歩と、迷宮の「コア」である蒸気塔へと進む。

 物理的な破壊はない。ただ、俺が歩く場所から、世界が「正しい姿」へと静かに塗り替えられていく。



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