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七度転生した大賢者、今世では剣士として無双します 〜魔法全盛の世界で剣を選んだ理由〜  作者: ねむのき 圓
6章 城塞都市ピューターと超級物質魔法

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大精霊への説教・・・歪む理

工房を出て、蒸気が立ち込める路地の裏。俺は人気の途絶えた場所で足を止めた。


 右手の指先を鳴らし、魔法で小さな結界を展開する。音も光も漏らさない、俺と「そいつ」だけの説教部屋だ。


詠唱を始める

~~~~~~~~~~~~~~~

万象を形作るマテリア、我が望むままにことわりを編め。

無から有を、泥から黄金を――世界を構築せよ

~~~~~~~~~~~~~~~


 返事はない。だが、俺は構わず空中に術式を編み上げる。

 《物質の強制具現》。逃げ回る物質の構成要素を、強引に一つの形へ固定する術式だ。


「三秒待つ。三、二――」


「わあああ! 待って! 待ってよルーシュ! 行くから!」


 その場に現れたのは、銀とクリスタルと女性を混ぜ合わせたようなきれいな精霊だった。**物質の大精霊マテリアル**。10人いる大精霊の1人、物質的な調和を司る高位存在だ。

 だが、今のこいつは、叱られた子供のように縮こまって震えている。


「なるべく来いと言ったはずだが。……なぜ逃げた。それも、あんな子供に加護まで与えて」


「だ、だって……あの子の作るものが、あんまりにも綺麗だったから……! オイラ、ただちょっとだけ、あの子のイメージを形にするのを手伝ってただけなんだ!」


 マテリアルが必死に弁明する。

 精霊にとって「純粋な意志」は最高の娯楽だ。ライカの時と同じ

テオの邪気のない創造心に、こいつは惹かれたのだろう。だが、大精霊の「ちょっとした手伝い」は、人間界では天変地異に等しい。


「諦めずにいっぱいおもちゃを作ってたんだ。あの子の才能が僕を呼び出した。」


あの子はね

『ぼくはいっぱい楽しいものを作りたいんだでもね・・・限界が来ちゃう。どうやっても超えられないなにか、おじいちゃんもそれにぶつかってしんどいんだって』


「ただ純粋な気持ちで僕達魔法の【理】に近づこうとしていたんだ」


『限界は自分で決めちゃ駄目だよ。次はこう考えてみて・・・』


「そうやってたらなんか楽しくなっちゃって、ルーシュと遊んでいた頃のように」


「お前のその『遊び』のせいで、不完全な神器――偽神器が世界にばら撒かれてるんだよ。説明しろ、どこから流出させた」


「えっ……? 流出? そんなはずないよ! ルーシュも見たでしょ、テオは作ったものを全部自分で壊して、ちゃんとゴミ箱に捨ててるんだ。オイラも、分解された物質が再構築されないように、その場で『原質』に戻るのを手伝ってたんだから!バラすのも知識の一つだって教えてるからね」


 マテリアルの言葉に嘘はない。

 確かに、テオは完成品を愛でるのではなく、作る過程を楽しんでいた。そしてマテリアルとの約束通り、完成品はすべてバラして破棄していたはずだ。


「……作ったものをその場で分解して廃棄している。それなら、利用される方法はないはず、か」


 俺は思考を巡らせる。

 マテリアルが「原質」に戻したゴミ。それは本来、ただの鉄屑や木片に退化するはずだ。

 だが、もし。

 その「ゴミ」を、誰かが『修復』していたとしたら?


「……マテリアル、テオが捨てたゴミの行き先を監視してたか?」


「えっ……いや、そこまでは……。分解してゴミ箱に入れたら、オイラの仕事は終わりだし……」


「この、馬鹿精霊が……!」


 俺は自分の額を押さえた。

 マテリアルが分解したといっても、それはあくまで「テオの術式」の分解だ。その素材自体に、大精霊の魔力が染み込んでいることに変わりはない。

 もし、物質魔法の入口に独学で辿り着いたガゼルのような男が、その「極上の素材」を拾い集め、歪んだ形で繋ぎ合わせたら――。


『魔法も不平等だ、求めても届かない者、無邪気に真理に近づく者もいる。私は何をしてでもその先の『理』に行きたいのだ』

 ガゼルのあの言葉が、別の意味を持って脳裏に響く。


 あれはテオの能力に気づいて、分解(パーツ化)したものを集めて何かをしているという布石ではないのか。


「……マテリアル。今すぐピューターの地下区画、特にゴミ処理場の魔力残渣を調べろ。一粒でもお前の魔力が残ってたら、その触覚を引き抜くぞ」


「ヒ、ヒェッ! 今すぐ行ってきますぅー!」


 マテリアルが霧のように消えていく。

 俺は一人、静まり返った路地で工房の方を振り返った。


 あの老技師、ガゼル。

 彼は世界に絶望していると言った。

 だがその絶望を晴らすために、彼はテオの「純粋さ」を、世界を壊すための爆薬に変えようとしている。


「……修理不能なのは、お前の性格の方だな、ガゼル。でもなぜあんなヒントを・・・」


 俺の指先で、黄金の魔力が苛立ちと共に小さく爆ぜた。

 偽神器の正体。それは大精霊の気まぐれと、それを拾い集めた「個人の悪意」の結晶。


 そして、その悪意が今、テオを使って「街を壊すための最高傑作」を完成させようとしている。



 数分後。  ピューターの地下区画、巨大な歯車が地鳴りのように響くゴミ集積所で、俺とマテリアルは立ち尽くしていた。


「……ない。一粒も、だ」


 俺の呟きに、マテリアルがガタガタと震えながら頷く。

 ゴミの山。鉄屑、歪んだ蒸気管、使い古された魔導回路。そこには本来、テオが分解した「神器の卵」の残骸が、大精霊の魔力残渣と共に転がっているはずだった。


 だが、俺の高度な解析魔法をもってしても、ここには「ただのゴミ」しか存在しない。


「マテリアル、お前、テオと一緒にどれくらいの数を作った?」

「えっ、えっと……まだ数十個だよ! 本当だよルーシュ! オイラ、そんなにたくさんは手伝ってないもん!」


 数十個。

 世界中で噂になっている偽神器の数を考えれば、あまりに少ない。

だが、その「本命」が一つでもあれば、この街どころか国一つが消し飛ぶ。


「数十個の『神の素材』が、塵一つ残さず消えている……。ガゼルが夜な夜なゴミ拾いをして集めたとしても、限界があるはずだ。だが、もし最初からゴミ箱にすら辿り着いていなかったとしたら?」


 俺の脳裏に、ガゼルのあの歪んだ笑みが浮かぶ。

 『私は何をしてでもその先の理に行きたいのだ』。

 あの言葉は、単なる願望ではなかった。すでに手を汚し、その「先」に触れている者の確信に満ちた宣言。


「……マテリアル、戻るぞ。胸騒ぎがする」


 俺は転移に近い速度で工房へと引き返した。

 夜の帳が下りた工房は、不気味なほどに静まり返っていた。表の扉は開いたままで、昼間あった活気は微塵も感じられない。


「テオ! ガゼル!」


 奥の部屋へ飛び込む。

 そこには、俺が毛布を掛け直してやったはずのテオが、呆然と床に座り込んでいた。


「……あ、お兄ちゃん」

 テオの瞳には光がなく、その小さな手には一通の手紙が握られていた。


「ガゼルはどうした。いそうな場所に心当たりは?」

「……わからない。おじいちゃん、僕が寝てる間に『最高のおもちゃを完成させに行く』って。この手紙を渡してって」


 テオの言葉に、マテリアルが叫び声を上げた。

『馬鹿な、あのおもちゃたちはオイラが原質に戻したはずなのに!』


「……原質に戻されたからこそ、再構築が容易だったんだろうな。知識のない者にはただの土くれでも、ガゼルにとっては『何にでもなれる究極の素材』だったわけだ」


 俺はテオの手から手紙を奪い取り、内容に目を走らせる。

 そこには、几帳面な、だがどこか震えたような文字でこう記されていた。


『ルーシュと言ったか。お前さんは私に、世界を修理チューニングしろと言ったな。だが、やはり私は、この狂った時計を一度叩き壊さねば気が済まんのだ』


 その時。

 ピューターの街全体が、これまで聞いたこともないような巨大な「金属の軋み」に震えた。

 地響きではない。街を構成する巨大な蒸気機関そのものが、悲鳴を上げているのだ。


 俺は工房の窓から外を見た。

 街の中央にそびえ立つ、ピューターの象徴である巨大蒸気塔。その頂上で、黄金色と禍々しい漆黒の魔力が混ざり合い、空を焦がしていた。


「……始まったか」


 その塔の頂、荒れ狂う魔力の中心で、ガゼルは狂喜に満ちた顔で天を仰いでいた。

 その手には、テオが作り、彼が「完成」させた、かつてないほど純粋な絶望が握られている。


「ハ、ハハハ……! 見ろ、これだ! これこそが、不平等な神が一部の者にだけ与えた知恵を、平等な死に変える装置だ!」


 ガゼルは、自分の体が偽神器から溢れ出す過剰な魔力で崩壊し始めていることにも気づいていない。


「ルーシュ……お前さんは正しかった。私は、お前さんのような『選ばれた者』になれなかった。……だが、持たざる者がすべてを壊す権利だけは、この不条理な世界にも残されていたようだな!」


 老技師の哄笑が、ピューターの蒸気の音をかき消して、夜の空へ響き渡った。


挿絵(By みてみん)

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