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七度転生した大賢者、今世では剣士として無双します 〜魔法全盛の世界で剣を選んだ理由〜  作者: ねむのき 圓
6章 城塞都市ピューターと超級物質魔法

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超級物質魔法・・・城塞都市ピューター

 ヴォイドの騒乱から数日。

 学園の廊下で、休学届を片手に事務局へ向かおうとするリカルナの肩を叩いた。


「リカルナ、ちょっといいか」

「……ルーシュ。ええ、ちょうどあなたを探していたところよ」


 相変わらず顔色は青白く、不健康そのものだ。だが、その瞳にはどこか憑き物が落ちたような潔さがある。


「今回の件、なぜお前がヴォイドにいた? 実力者とはいえ、ギルドがわざわざ生徒に直接依頼を出すとは思えないが」


 リカルナは自嘲気味に笑い、手元の木の傀儡を弄んだ。

「……実は、街のトップから個人的に密書が届いていたの。『街を救ってほしい』ってね。あそこは私の故郷だけど、昔から悪い噂が絶えない場所。ギルドもまともに取り合ってくれないから、私を頼るしかなかったんでしょうね」


 彼女は一歩踏み込み、周囲に聞こえないよう声を落とした。


「でも、実際に行ってみて確信したわ。メイの暴走なんて、氷山の一角よ。街の指導者層そのものが、あの『偽神器』に魅せられ、正気を失っていた。彼らはメイを手引きして、街全体を巨大な実験場に変えようとしていたの」


「……あの大人が、自ら街を壊そうとしていたのか。反吐が出るな」


 俺が呆れ半分に吐き捨てると、リカルナは俺の腕を強く掴んだ。その指先は驚くほど冷たい。


「今回の調査で、私は長期でヴォイドに戻ることになったわ。……でも、ルーシュ。正直に言うわ。相手は私の故郷。私一人では、いつか情に流されるかもしれない。あるいは、消されるか……」


 リカルナは、祈るような目で俺を見つめた。

「お願い、ルーシュ。あなたは学園に残る側だけど、この件は私たちじゃ解決できない。あの戦いを見て確信したわ。あなたは、なにか特別なものを持っている」


 彼女が手渡してきたのは、鈍く淀んだ輝きを放つ「偽神器の欠片」だった。


「これ、あなたにしか解けない気がして取っておいたの。……頼めるかしら?」

「分かった。なんとかしてみるよ」


 俺が欠片を握りしめると、彼女は少しだけ安心したように笑って、そのまま事務局へと去っていった。一人残された俺は、手の中の欠片を睨みつける。


(故郷を実験場にする魔法、か。そんな芸当ができる奴には、一人心当たりがある)


---


 ヴォイドの一件後、学園の様子は一変していた。

 各地で「神器発見」のニュースが飛び交い、ギルドマスターのアリゾナは、イリュウやクシィ、リカルナといった優秀な生徒たちを「特務派遣」として現場へ送り出した。


 残された俺は、放課後の無人の資料室で、左腕の《ベンテンディア》を外していた。


「……やっぱり、ビンゴだな」


 欠片に指先をかざし、魔力の波長を解析する。

 浮かび上がった術式は、現代の魔導理論を嘲笑うかのような、失われた超級魔法――**『物質魔法』**のソレだった。

 魂を強引に「モノ」へ固定する、狂気じみた権能。


「マティアスが用意した術式じゃない。あいつすら、この完璧な設計に騙された側だ。……だが、なんだ、この稚拙な魔力の通し方は」


 術式は完璧。だが、そこを流れる魔力は、悪意も戦略もない、ただひたすらに純粋なもの。

 ――大精霊の加護、そのものだ。


 世界のバランスを保つべき神の使いが、まるでおもちゃを弄る子供のように、禁忌の術式で遊んでいる。その残酷な足跡が、はっきりと刻まれていた。


「俺が転生した歪みのせい?神器の模造品を作れる存在」

マティアスに言われた事が頭をよぎる


 窓の外では、何も知らない連中が模擬戦に明け暮れている。

 かつての友、勇者レオなら、この空を見て何と言っただろうな。


「……悪いな、レオ。お前が守ったこの世界、俺が壊すことになるかもしれない」


 俺は刀身のない刀を握り直し、呼び出しの言葉を紡ぐ。

 俺と大精霊の関係は、契約という名のお願い事だ。言うことを聞かない連中に、俺は最低限の条件をつけている。

 【自由にしていいが、暴れるな。力を貸してほしい時は『なるべく』来い】。


 超級魔法――**時空、概念、生命、物質、煉獄、溟海、地核、天空、聖域、虚無**。

 未契約の4人を除けば、物質は呼び出せるはずだ。


「万物のうつわよ、我に『物質』の息吹を与えよ。 《形なき魂にハコを》」


 ……一分。資料室の埃が舞う音しか聞こえない。


「……あいつ、逃げたな」


 【来い】と言えば絶対に来ないが、【なるべく】と言えば重要な時だと察するはず。

 それでも来ないのは、自分のしでかしたことに自覚があるからだ。


「あの野郎……」


 俺の指先で、黄金の魔力が苛立ちと共に小さく弾けた。



数日後。


「ルーシュ、久しぶり~」


 廊下でヘラヘラと軽い挨拶を投げてきたのは、イリュウだった。


「おっ、もういいのか?」  あの日以来、休養を取っていたはずの彼に問い返す。


「もうばっちし。怪我はほとんどないんだけどさ、あの偽物のせいで精密検査ばっかりで参っちゃうよ」 「……おれも何回か受けさせられたわ」


 あれだけの規模の魔法だ。ギルドが神経質になるのも無理はない。


「そろそろおれもギルドに駆り出されるんだけど、一ついい話があるよ」

「なんだ?」

 歩みを止め、不思議そうに聞き返す。


「偽神器の噂、実は東の方に集中してるんだって。カモフラージュかあちこちで噂はあるんだけど、他のは全部ゴミかただのガセ。東だけが、妙に『本物』臭いって話だよ」


「……マジか。ありがとな」

「ふふっ。やっぱり、何か掴んでるみたいだね」


 足早に去ろうとした俺の背後から、イリュウの鋭い声が追いかけてくる。


「これだから勘のいい奴は」

 苦笑いしながら、俺はその場を去った。


 そうと決まれば、東だ。

「しかし、なんて理由で学園を抜けるかな……」


 部屋に戻り、身支度を整えながら考える。

マスターたちは事情を話せば理解してくれるだろうが、表向きは上手く誤魔化してもらう必要がある。


「んっ? どこか行くのか?」

 相部屋のロロが、荷物をまとめる俺の手元を見て聞いてきた。


「……ちょっと、色々ありすぎてな。俺にしかできないことを片付けてくる」


「へぇ。賢者様は大変なこって」


 ロロが皮肉混じりに笑う。


「今回はお一人で行かれるのですか?」

 傍らにいたヴィニーも、どこか察したような顔で聞いてくる。


「ああ。最近、周りのことや『剣士のフリ』を気にしすぎて、後手に回りすぎた。……少し、本気を出してくるわ」


 俺から漏れ出たわずかな魔力の重圧に、二人が一瞬だけ息を呑んだ。


「まあ、お前のことだ。一人の方がやりやすいんだろうけどさ……。無理はするなよ」


 ロロの台詞が、かつてのレオの言葉と重なる。


「……本当にお前って奴は」


 思わず口角が上がるのを隠せず、俺は部屋を出た。


 目指すは東の大都市。  鉄と煙と、そして「物質」の理が歪む場所――機械都市ピューターへ。

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