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七度転生した大賢者、今世では剣士として無双します 〜魔法全盛の世界で剣を選んだ理由〜  作者: ねむのき 圓
5章 境界都市ヴォイドと偽りの神器

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混沌の幕引き・・・茨の守護者

「さて、続きを始めようか。――『開演(スタート)』だ!」


 メイの指が躍る。

 だが、俺の足元には意識を失ったヴィニーと、深いダメージを負ったイリュウが横たわっている。二人を庇いながら、あの変幻自在の糸と巨大な化け物を相手にするのは、いかに俺でも分が悪い。


(……くそっ、この状況でどう立ち回る……!)


 俺が剣を構え直し、最悪の状況を覚悟したその時だった。


「――そこまでよ、メイ。遊びが過ぎるわ」


 静かな、だが有無を言わせぬ冷徹な声が響いた。

 会場の影から姿を現したのは、長い髪を揺らす青白い顔の少女――スザクのメンバー、学園3位のリカルナだった。


「おや、リカルナ。良いところなのに邪魔をしないでくれないかな? せっかく最高の下書きが描けたんだ」

 メイがいら立ちを隠さず、指先の糸をリカルナへ向ける。


「状況を見なさい。会場の崩落が始まっている。神器の確保が最優先……ここは私が引き受けるから、あなたは先にボックスを持って離脱して」


 リカルナは感情を排した瞳で俺を射抜きながら、淡々とメイを説得する。メイは舌打ちを一つ。

「……チッ。わかったよ。君の言うことはいつも正しい。……じゃあね、僕の『素材』たち。また次の舞台で会おう」


 メイは未練がましそうに俺たちを一瞥すると、糸を使って天井の闇へと消えていった。


「待て……! リカルナ、お前、なんで『死の進撃隊(デスパレード)』に……!」


 俺が叫ぶと、リカルナはメイが消えたのを確認してから、ふっと肩の力を抜いた。周囲に張り巡らされていた『木の枝』が、生き物のように彼女の元へと集まっていく。


「……勘違いしないで。私も潜入中よ。状況は最悪、ここももう保たない。……早く二人を連れて逃げて。後で説明するから!」


 彼女の視線の先には、会場に取り残された無力な要人や、傷ついた人々がいた。

 よく見れば、彼女の『木の傀儡』はバイヤーたちを襲っていたのではなく、崩落する瓦礫から彼らを保護し、殺し屋たちの刃から遠ざけるように配置されていたのだ。強硬手段に見せかけた、彼女なりの精密な「保護」だった。


「……リカルナ、お前……」


「……あいつらに疑われるわけにはいかないの。まだ、やらなきゃいけないことがあるから」


 リカルナはそれだけ言い残すと、再び無機質な「不死のリカルナ」の顔に戻り、メイの後を追うように闇へと消えていった。


 崩れゆく会場。背後からクシィが影から現れ、無言でイリュウの肩を担ぐ。


「……逃げるよ、ルーシュ。ここは、もう終わる」


 俺は気を失ったヴィニーを背負い、リカルナが去った闇を一度だけ見据えてから、出口へと駆け出した。



 ヴォイドの最下層、放棄された旧聖堂。  ステンドグラスは割れ、冷たい月光だけが差し込む祭壇の上に、メイは奪い取った『禁忌封印櫃アンチ・マジック・ボックス』を乱暴に放り出した。


「ふふ、あははは! 見てよリカルナ、この重厚な輝き。この中に、国を一つ腐らせるほどの絶望が詰まっているんだ。素晴らしいと思わないかい?」


 メイは狂気に満ちた瞳でボックスを愛で、細い指先でその表面をなぞる。  その背後、冷ややかな空気を纏ってリカルナが立っていた。彼女の周囲には、無数の木の枝が意思を持つ蛇のようにうごめいている。


「……はしゃぎすぎよ、メイ。会場をあそこまで壊せば、ギルドの追っ手も本気になる。計画に支障が出たら、ボスが黙っていないわ」


「お堅いねぇ。いいじゃないか、あの場には最高の『画材』が揃っていたんだ。特にあの仮面の男……毒を光で焼き払うなんて、最高の演出だよ。あんなの、僕のコレクションに加えない手はない」


 メイが指を弾くと、虚空から透明な糸が伸び、一人の死体を操り人形のように躍らせた。  リカルナはその様子を無表情で見つめながら、内心の動揺を押し殺していた。ルーシュたちの実力は知っていたが、メイの執着心はそれ以上に危険だ。


「……あの男たちのことは忘れなさい。今は神器の解凍が先よ。それが『死の進撃隊』がこの街に呼ばれた理由でしょう?」


「わかっているよ、リカルナ。……でも、君も不思議だよね。あんな混乱の中で、一人も『重要人物』が死んでいないなんて。君が配置したあの木の枝……まるでお行儀よく、彼らを逃がしてあげていたみたいだ」


 メイの視線が、ナイフのようにリカルナに突き刺さる。  リカルナは眉一つ動かさず、冷徹な声で返した。


「……私の傀儡は、獲物を逃がさないために配置したもの。逃げたのは、奴らの運が良かっただけ。……文句があるなら、今ここで私とやる?」


 ピリついた殺気が聖堂を満たす。  メイはしばらくリカルナを見つめていたが、やがて肩をすくめてケラケラと笑い出した。


「あはは! 冗談だよ。君を敵に回したら、僕のステージが台無しだ。……さあ、始めようか。この『魂喰らい』をボスのところに持っていこう、ヴォイドを最高の劇場に変えてもらわないとね」


 メイは狂気じみた笑顔を浮かべ、神器の箱を抱えて聖堂の奥へと進む。リカルナもまた、表情を消してその後を追った。


 玉座の間。そこに座っていたのは、肥大化した欲望を隠そうともしない男

 ――『死の進撃隊デスパレード』のボス、バド・バザルだった。


「おお……これか! これが伝説の神器か!」

   バドはメイから箱をひったくるように受け取ると、中身を検分して下卑た笑い声を上げた。


  「これがあれば、バイオレット王国も、南の国のリックも、皆ひれ伏すしかあるまい。……ふはは! 各国の王族に脅しをかけるぞ。これ一つで、一生遊んで暮らせるだけの金が手に入る!」


 その言葉を聞いた瞬間、メイの顔から笑みが消えた。  凍りつくような沈黙が部屋を満たす。


「……金? ボス、今なんて言ったんだい?」

「あ? 金だと言っている。この神器の圧倒的な魔力を背景に、交渉するんだ。効率的に稼げるだろうが」


「……期待外れだ。……本当に、期待外れだよ」

   メイの声から熱が失われ、代わりにドロリとした殺気が溢れ出す。


  「僕はね、この神器がヴォイドを飲み込み、人々が絶望に悶えながら最高の『死の形』を成すのを見たくて協力したんだ。……交渉? 金儲け? そんな退屈な『下書き』、僕の劇場には必要ないんだよ」


「な、なんだと……貴様、誰に向かって――」


「死ねよ。凡才」


 瞬間、見えない糸が部屋中に張り巡らされた。


「ぎ・・・!」  叫ぶ暇もなかった。


 バドの首が、そして周囲に控えていた精鋭の団員たちの手足が、メイの指先の動き一つでバラバラに切断され、宙を舞う。


「メイ、やめなさい!」

 リカルナが叫び、指先から茨の枝を伸ばす。

 だが、メイは返り血を浴びながら、すでに『魂喰らい』の封印を力ずくで引き剥がしていた。


「あははは! 団員の皆、誇りに思うといい。君たちの血と命が、この神器の『最初の一口』になるんだから!」


 黒く脈打つ宝珠が、虐殺された団員たちの魔力を一気に吸い上げ、悍ましい波動を放つ。


  「メイ、狂ったの……!?」


  「狂ってるのは、美を理解できないこの世界の方だよ、リカルナ……。おっと、君が『裏切り者』だっていう証拠、実は最初から掴んでいたんだ」


 メイの糸が、宝珠の魔力を帯びて黒く変色する。

  「君の木の枝、優しすぎたんだよ。……消えてよ、芸術を汚す不純物」


 黒い波動を纏った糸が、逃げ場のない網となってリカルナを襲う。

  「っ……!?」

   リカルナは『木の傀儡』を盾にするが、魔力を吸い上げる神器の力の前では、彼女の防御も紙のように引き裂かれた。

 腹部に深い傷を負い、吐血したリカルナの体が壁へと叩きつけられる。


「……あはは! 最高の開幕だ! さあ、もっと吸え、もっと叫べ!」


 メイが神器を掲げ、ヴォイドの街全体を飲み込もうとする中、満身創痍のリカルナは、震える手で懐の通信石を握りしめた。



 骨董屋の地下。気を失ったヴィニーとイリュウを横たえ、クシィと今後の対策を練っていたその時だ。


 卓上の通信石が、激しく、そして弱々しく明滅した。


『……ル、ーシュ……聞こえる……?』


「リカルナ!? お前、無事なのか!」

  『……メイが……暴走した。……進撃隊は、壊滅……。あいつ、神器を発動させたわ……っ。ヴォイドが……飲み込まれる……』


 通信の向こうから、メイの狂った笑い声と、地響きのような不気味な脈動が聞こえてくる。


『……お願い……。私を……助けてなんて言わない……。でも、あいつだけは……止めて……。このままだと、街中の人間が……神器の『画材』に……っ』


 そこで通信が途切れた。


「……ルーシュ」  クシィが、いつになく真剣な目で俺を見る。  俺は剣の柄を強く握り、意識を取り戻しかけているヴィニーとイリュウを振り返った。


「決まってる。……『芸術家』のデタラメな舞台は、ここで止める」


「ゴホッ、油断した。俺もいくぞ」

 意識を取り戻したイリュウが言う。


「駄目だお前はここで大人しくしてろ」

 クシィが止める


「気を失ってただけだ、負傷は少ない。まだお前よりやれる」

 そう言うと立ち上がるイリュウ


「わかった。クシィはヴィニーを頼む。ロロたちに連絡して住民の避難要請を王国にかけてくれ」


 俺たちは再び、狂気と死の霧に包まれ始めたヴォイドの闇へと駆け出した。


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