バイオレット王国帰還・・・新たなギルド
「お前、リック王のこと怪しいとか言ってなかったか?」
ロロが、不敵な笑みを浮かべてルーシュを突っついた。
「……すみませんでした。おれは人を見る目がない」
ルーシュは本気で肩を落とし、深いため息をつく。賢者として長く生きてきた自負がある分、リックの「正義」を見誤りかけたのは相当な痛手だったらしい。
「そんなホイホイ悪者が溢れてたまるかよ。」
ロロは少し馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「だってタイミングもそうだし、ちょっと雰囲気が不気味だったんだって……」
ルーシュは初対面の時に感じた、あの底知れない圧迫感を思い出していた。賢者の直感が、かえって過剰に反応してしまったのだ。
「ねぇねぇ! ライカちゃんは何ができるの?」
横で女子トークが始まっていた、リリスは新しく仲間に加わったライカに目を輝かせて詰め寄った。
「実は……」
ライカは言いづらそうに視線を泳がせた後、吹っ切れたように両手を広げた。
「時空魔法は、使えなくなりましたっ!」
「ええぇ!?」
リリスとロロが同時に叫ぶ。
「なら何ができるんだ? バイオレット校に相応しくないんじゃねぇの、お前」
ロロが意地悪くルーシュを振り返る。
「ちょっと、ひどくない!?」
ライカが頬を膨らませて怒るが、ルーシュは落ち着いた声で割って入った。
「まぁまぁ。時空魔法は古代魔法の一つで、俺でも過去に一人しか使い手を見たことがない特別な魔法だ。……ここでおさらいだ。火、水、風、土の上位魔法は?」
「炎、氷、雷、岩。楽勝すぎだろ」
ロロが退屈そうに答える。
「じゃあ、他の上位魔法は?」
「他……? あんまり聞かないわね」
ライカが首を傾げた。
「回復魔法が『修復魔法』、闇魔法が『呪詛魔法』、光が『幻影魔法』とかもそうだよな?」
ロロが補足する。
「その通り。細かく分ければもっとあるが、現代の魔法学では大まかに分類されている。なぜか? 使える奴が極端に少ないからだ。例えば『重力魔法』はレアだが、風の延長線上の『加速系』として扱われることもある。だが、時空魔法はそれらとは次元が違う。今じゃ馴染みのない名前だが、大昔は『精霊の加護』と言われていた。その魔法の原点と言われているのが――**十人の大精霊**だ」
ルーシュの瞳に、かつての英知が宿る。
「**時空、概念、生命、物質、煉獄、溟海、地核、天空、聖域、虚無。**これらを扱う魔法を、かつては『超級魔法』と呼んだ」
「何だよそれ、かっこよすぎじゃん……」
ロロが子供のように目を輝かせた。
「簡単に言えば、時空は時間、概念は魔力や見えない理、生命は生命力……といった具合だ。これらは時として地震や津波、噴火といった『厄災』を引き起こす力でもある。世の中の天変地異は魔力が関係していると言っても過言じゃない」
「……大精霊ってのは、悪い奴らなのか?」
ヴィニーが不安げに尋ねる。
「一概には言えない。星そのものを維持するために必要な事象でもあるんだ。だが……とある昔、大精霊の喧嘩で島一つが消えたことがあった。それは流石に、星の維持には必要ない災厄だった。怒った当時の人間たちは討伐隊を組んだが、アイツらは異次元の強さだったよ。……けど、そこで『そういうことはするな』ってアイツらを説得した奴がいたんだ。それで、昔に比べれば無意味な災厄は減ったんだよ」
「なんでそれをルーシュが知ってるの?」
リリスが不思議そうに聞く。
「あっ……」
調子に乗ってペラペラ喋りすぎた。
「お、俺の好きな文献だよっ。今じゃ誰も読まない賢者の書物さ」
「なるほど! おとぎ話ねっ!」
リリスの天然な納得に救われ、ルーシュは冷や汗を拭った。
「それで、私とどう関係があるの?」
ライカが身を乗り出す。ルーシュは、大精霊クロノスのことをどこまで話すべきか迷ったが、言葉を選んで続けた。
「おとぎ話によれば、大精霊は気まぐれだ。素質ある者に加護を与えることもあるらしい。今は使えなくても、君が時空魔法の適正を持っているのは確定している。これからは君の努力次第だ」
「でも、誰も使えないんじゃ、どう努力すればいいのよ?」
「文献にはこうあった。魔法の大元は『気持ち』だ。時空魔法は、**『こうなれば良いな、こうすればよかったな』**という誰もが抱く願いを、どれだけ純粋にイメージできるかが鍵なんだってさ。本当に使えた奴がいたらしいから、嘘じゃないぞ」
それはかつて、時空魔法の師でありライカの先祖でもある『ホルス・リーベルト』に言われた言葉だった。当時のルーシュも「何いってんだこのおっさん」としか思わなかったが、今ならその深淵がわかる。
「何いってんだよ、その**賢者**」
ライカが呆れたように言った。
「……っ!」
(おっさん……おっさんか。そうだよな、中身はな……)
文献への感想だろうがルーシュは人知れず、心に深い傷を負った。
「と、とにかくっ! 手続きは終わってる。ライカも今日から寮生活だ。世界一の学校で、その才能を磨け」
「待ってろよ、バイオレット校。私の才能に驚愕しろっ!」
意気揚々と拳を突き出すライカ。しかし、現実はそう甘くはなかった。
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#### 二週間後
「ルーシュ……もう無理……」
ライカが幽霊のような足取りでルーシュの部屋を訪ねてきた。
「入学してから、まだ一週間も経ってないぞ?」
「ここは私の知らない世界です……。聞いたことない言葉が飛び交ってるし、みんな当たり前みたいに上級魔法を連発するし、模擬戦がもう戦争にしか見えないよっ。あのオークたちに攻め入られたのも、ただヴァーミリオンが弱すぎただけなんじゃ……」
ライカは完全に自信を喪失し、弱音を吐きまくっている。
「そうだろそうだろ? あの程度、実質俺たち五人で阻止したようなもんだからな」
ロロが追い打ちをかけるように笑う。事実だが、ライカの心はボロボロだ。
「やっぱりもう無理。帰る……」
「まてまて! 特別教師も付けてるんだから頑張れよ」
「あの人嫌い。偉そうに指導してくるんだもんっ」
頬を膨らますライカ。特別教師――ルーシュの傀儡『フォミィ』は、時空魔法への気合が入りすぎて少しスパルタすぎたらしい。
「仕方ない。気晴らしにどこか行くか?」
ロロが、見かねたようにライカを誘った。
「ええぇ……」
「嫌そうな顔すんな。バイオレット王国の外は素晴らしいぞ。ヴィニー、お前も来い」
「嫌ですよ。ロロ様と遊ぶのしんどいですもん……」
「……様?」
ライカが聞き咎めた。
「ヴィニー、罰金な」
ロロが冷ややかな目で睨む。
「あ、いや……ちょっとした身分差ごっこ(遊び)をしてたんですよ! ハハハ……」
ヴィニーがバツが悪そうに笑って誤魔化す。
「ならさ、ギルドの依頼でも受けるか? 多少の賞金も出るぞ」
ルーシュは、幹部が消えて人手不足のギルドから、カロライナ(騎士団統括)に「手伝え!」と言われていたのを思い出した。
「おっ、面白そうじゃん。行くだろ、ライカ?」
「……学園よりは、少人数の方が落ち着くかな。いきまぁす」
「よし、決まりだ。今から出発するぞ」
ルーシュは素早く準備を整え、ロロ、ヴィニー、ライカを連れて学園の門を潜った。
それが、王国の「闇」と「ギルド」の世界への、第一歩になるとも知らずに。




