奮闘ヴァーミリオン・・・沈黙の一閃
### 避難所の攻防と王妃の決意
王都内部を走っていたルーシュたちは、予想していたよりも被害が少なかったことに違和感を覚えた。侵入した魔物は暴れているようだが、転がっている死体はほとんどが魔物ばかりで、市民の被害は最小限に抑えられているようだった。
「どうなってる?」
ルーシュは魔力感知を広げ、リリスたちがいるであろう、最も魔力の集中する地点へと急いだ。
「みんな無事か?」ロロが勢いよく、不安を隠さずに尋ねる。
「ルーシュ遅いっ!」リリスが、安堵と苛立ちが入り混じった表情で怒鳴った。
「悪かった。どんな状況?」
俺たちは一息つきながら、状況を訪ねた。
「わたくしから」王妃マリンが、避難所の奥から凛とした姿で出てくる。
「現在、ほぼ100%の避難が完了しております。逃げ遅れた方々も、ギルドやリリスさんたちが戻ってきてくれたので、なんとかここまで逃げることができました。ほとんどが城内に入れず、ここに避難できております」
避難所となっていたのは、数百人がひしめく大きな孤児院の建物だった。ここは強固な造りではないため、城壁を破った魔物が大挙して押し寄せれば、簡単に崩壊するだろう。
ギルドメンバーや王国騎士団たちは、城内の魔物を掃討するために向かい、この孤児院は俺たち学園のメンバーが守っていた。
「そこまで強い魔物ではなかったです。ただ、**数が多くて**」そう言うアーサーは、だいぶ無理をしたのだろう。能力を解放した直後のようで、もう変身はできないとのことだった。
「その分、私はまだまだ行けるからねっ」リリスが自信満々に胸を張る。
「一応、敵のボスのことを考え、リリスさんは温存しました。ルーシュさんが来たならもう大丈夫でしょうが」そう言うヴィニーも、だいぶ魔力を消費したようだった。
「よし、こっからは殲滅戦だ。王国の方は数で勝っているだろうから、侵入した魔物を叩いていくぞ」
「ヴィニー、アーサー、ここからは任せとけ」ロロが頼もしく立ち上がる。
「こんなにめちゃくちゃにして、私怒ってるんだからねっ」リリスも闘志を燃やした。
### 再び呪いの少女
「うわぁ!なんでお前がいるんだよっ」
奥で騒いでいる声が聞こえた。誰かが罵っている。
「お前が来ていいところじゃないだろ、消えろ!」
そこに立っていたのは、疲弊した市民たちだった。
「私もなにかできるかなって」その声は弱々しかった。
「また私達の家を壊すつもりなの?」
その言葉に、ライカは**俯いてしまう**。すると、その足元から、彼女の周囲の物が**煤けた塵**になり始めた。ライカの自責の念が、再び能力を暴走させ始めたのだ。
「きゃぁ!やっぱり呪いに来たのね!」周囲の避難民が悲鳴を上げる。
これに気づいたルーシュは咄嗟にライカに近づこうとする。しかし、そこに割り込んできたのは、なんと**王妃マリン**だった。
「違うよね。ずっと後悔していたもんね。私たちは知ってるよ。覚えてる?私のヒールが壊れちゃって歩けないってリックに駄々こねてるとき。『直せばいいじゃんって』笑いながら直してくれたよね?とても綺麗に笑う娘だなって、その時私たちはあなたを迎え入れたいって思ったのよね」
マリン王妃はそう言って、ライカを**強く抱きしめる**。彼女の肌が傷つき、触れている部分のドレスが音を立てて劣化していくのが見えた。
「王妃!」ルーシュは急いで近づく。
「大丈夫。私は知ってるの。この娘が本当はいい子だって」
しかし、ライカの負の魔力は止まらない。
「もう大丈夫です」
ルーシュは、魔力で王妃をそっと引き剥がした。マリン王妃の腕には、触れていた場所がひどくただれたような跡が残っていた。
「ヴィニー、応急処置できるかっ?」
「やってみます」ヴィニーは顔を青ざめさせながらも、すぐに王妃の手当を始めた。
ライカは、王妃に抱きしめられたことで、過去の楽しかった日々を思い出していた。
「ライカはここにいろ」
ルーシュはライカを建物の隅に座らせた。
### 殲滅戦とロロたちの成長
俺とロロたちは、残党を狩りに行った。
王国の方も負傷者は出たようだが、魔物の討伐に成功していた。
「ロロ!」
声をかけてきたのは、昨日今日と模擬戦をしたヴァーミリオン校と王国ギルドのメンバーたちだった。彼らはロロたちとの模擬戦で学んだ連携と戦術を活かし、苦戦しながらも勝利したことを教えてくれた。
「なんだ、ちゃんと戦えるじゃないか」ロロは嬉しそうだった。
「街の中心街、状況はひどいんだけど、そこにまだ魔物の主力が溜まってる」
「ボスっぽいのもいて、あそこだけはまだ苦戦しているんだ」
「おし、遅れてきた分、良いところは俺達がやってやるか」ロロは息巻く。
「私も本気出しちゃうからねっ。ルーシュ、指示お願いっ」リリスもやる気満々だ。
「よし、これを片付けて終わりにしよう」
「いくぞっ」
「おうっ」
「はいっ」
俺はロロとリリスの3人で、中心街へ向かった。
### 賢者の怒りと沈黙の斬撃
中心街にいたボスは、**オルクマンサー**、オーク系の魔術師だった。道理でオーク系の種族が多かったようだ。通常はハイオークが指揮するが、この群れは異様に知力の高いオルクマンサーが仕切っているようだった。
相当機嫌が悪いみたいだった。最初だけの勢いで次々とやられていく部下たちに、オルクマンサーは**苛立ちをぶつけるように**魔法を放っていた。通常よりも大きい、家ほどもある巨体。これから放たれる魔法は想像以上の威力だろう。
「裏をかいたようだが、俺達の実力を見誤ったな」
ルーシュはパチンと指を鳴らし、**居合の抜刀術のフリ**と共に、近寄ってきた群れを一掃した。
ロロとリリスも、一瞬で連携を決め、残りのオークたちを蹴散らしていく。
「この程度の数、問題ない」
ロロは、使いたくないと言っていた広範囲の**炎魔法**を使う。あたり一面が火の海に変わり、もがくオークたち。リリスがその隙に次々と斬りつける。俺は、ハイカークや上位種を確実に仕留めていった。
雑魚がリリスに寄っていき、囲まれる。リリスは余裕で凌いでいたが、その時、**巨大な刃のようなもの**が、リリスめがけて飛んできた。
「嘘でしょっ!」
それはオルクマンサーが放った**風魔法**だった。あの城壁を吹き飛ばしたものだろう。味方がいるにもかかわらず放った魔法は、リリスの予想外だったらしく、ロロが防御魔法を間に合わせたが、それでも大きなダメージを受け、リリスは吹き飛ばされてしまう。
「味方もろとも…なんなんだよこいつ!」ロロがリリスに駆け寄る。
「大丈夫っ、まだやれるっ」立ち上がるリリス。しかし、二人の背筋に、**冷たい氷のような異様な空気**が走った。
「**それは俺が一番嫌いな戦い方だ**」
ルーシュは静かに、しかし、**底冷えする怒り**を込めて話した。
前の魔王戦で魔王が行った、仲間もろとも狙ってくる非道な攻撃。そのせいで前勇者レオが負けたと言ってもいい。ルーシュにとって、それは決して許せない戦い方だった。
ルーシュがパチンと大きな音を立てて指を鳴らす。**ハリボテの刀の「抜きフリ」**と共に放たれた一撃が、オルクマンサーめがけて斬りかかる。向こうも負けじと風魔法で相殺してくる。
「その程度で調子に乗るなよ」
ルーシュがもう一度指を鳴らすと、**目に終えない速度の斬撃**がオルクマンサーの体を切り刻み始めた。それは**魔法陣が指先に浮かび上がる**、賢者による魔法の斬撃だった。巨体から大量に血を流したオルクマンサーは、どんどんと傷つき、倒れ込む。周囲の魔物も殆ど死んでいた。
「マジで、1人で良いんじゃないのかあいつ……」その光景に、ロロは驚愕した。
「ぐおおおおおおおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
大きな雄叫びと同時に、オルクマンサーから先ほどとは比べられないほどの**強大な魔力**が放出される。威力だけならスザクを超え、この街に甚大な被害及ぼしていただろう。
「俺がいなければな」
おれは大きく息を吸った。
**(低く、速く、口の中で呟く)**
**"Focus 'Point'.**
**Mark 'Target'.**
**...** **DECAY ABSOLUTE** **...**
(『点』を貫け。 『標的』を刻め。… 《絶望的に崩壊せよ》 )
敵の大きな魔力の塊に向かって、**ハリボテの刀を使い、居合斬りの動作**を行い、一気に腕を振り抜く。
**『パチンッ』**
周囲の音に掻き消されない、**綺麗な、しかし異様な音**が響く。敵の攻撃は完全に破壊され、そのままオルクマンサーの半身を持っていった。
ルーシュがこの斬撃を気に入っているのは、なぜなら**音がない**からだ。
**静かできれいな沈黙。**
それが、すべて終わったと教えてくれるからだ。




