超級魔法の真実・・・迫る災厄
### ギルド模擬戦の終焉
「昨日よりはやりごたえがあるな」
ロロは模擬戦の最中に、軽快に笑った。今日は王国ギルドとのチーム戦だ。学園の生徒とは違い、実戦を想定しているため、ギルド側も容赦なく実力を見せつけてくる。
「まぁまぁな攻撃してきてますもんね、ギルドさん達」
アーサーが冷静に状況を分析する。
「アイツまたどっか行ったぞ」ロロはルーシュの不在に気づいた。
「あの人、何考えてるか本当に分かりませんもんね」ヴィニーも呆れたように言う。
「リリスちゃんはなんか聞いてないの?」
「なぁんも聞いてないよ」リリスは少し不機嫌そうだ。ルーシュが相談もなしに一人で行動するのが気に食わないらしい。
「まぁ、6チームやったら終わりだ」
「そうは言っても、やっぱりアウェイですね」
「ちょうどいいじゃん。まだこいつら前衛の囮作戦だぜ。学んだこと試そう」
ロロたちは連携を取り、瞬時に実戦にアジャストしていく。前衛が場を固め、後衛が敵を殲滅していく。圧倒的な実力差があるとはいえ、彼らの**戦術理解度と適応能力**は群を抜いていた。
「あと!4つ!」ロロの声が勝利への確信を込めて響く。
### 賢者が導く希望
「ほったらかしだなアイツらのこと……」
ルーシュは彼らの成長を認めつつも、今はより重要な課題があると考えながら、森に向かっていた。
「おはよ」
ルーシュはライカに声をかけた。
「おはよ、待ちくたびれた」
彼女は昨日とは違って、憔悴しきっていた。座っている周囲には、黒ずんで朽ちた料理や、カビの生えた木片が散乱している。
「今日はだめな日なの……帰って」
弱々しい彼女の声は、昨日の強気な少女とは思えないほどで、**能力の暴走が彼女の心を蝕んでいる**ことがわかった。
「ちょっとづつ慣れていこう。今はどう?」
ルーシュはゆっくりと近づき、ライカが昨日挿した花瓶の花に触れる。
「あれ?枯れない?ルーシュ、なんかしたの?」ライカは驚き、目を丸くした。
「直接ではないが、影響を与えているのは事実だと思う」
「ってことは?あんたと一緒に行動すればいいってこと?」ライカの目に、わずかに希望の光が戻る。
「いや、そうじゃないんだ。君は昨日、自分の能力じゃないって言ったよね?呪われているって。それは**正解で間違い**なんだよ」
「魔法というものは、きっかけがないと使えないんだ。ゼロから魔法は使えないように」
「後衛って不便ね」ライカは皮肉を言う。
「いや、そうでもない。魔力は少しでも成長させられるし、天性なものもあるが、無限に成長できる能力だと俺は思ってる」
「それで、どうしたらいいの?」ライカは真剣な眼差しを向ける。
「リック王が“修復魔法”ヒーラー系の上位魔法ではないかと言っていた。でも実際はそうじゃない。ライカの能力は上位魔法のさらに上、**“超級魔法”**だ」
「なにそれ?聞いたことない、すごいの?」ライカはその言葉に息をのんだ。
「はっきり言うが、この世界で5人といない。**特別な能力**だ」
ライカはその数に驚き、言葉を失う。
「なんでそんなこと……」
「すごいことでもあるんだが、これは実際は使いこなせない能力となっている。ただ能力が暴走し、今のライカのように不安を抱え、人を遠ざけ過ごしていく人生だ」
「やっぱり私に希望は残ってないのね」ライカはうつむき、悲しそうに唇を噛んだ。
「その希望が俺だ」ルーシュはあえて明るく言ってみた。
「何よ、学生の分際で調子のるな!慰めなんていらない」ライカは感情的に叫んだ。
「よく聞いてくれ。君の生い立ちを聞いたときに引っかかったこと、そしてここに踏み入れたときに感じた違和感。君はもっと上手に魔法を使える。その方法を話そう」
ルーシュは難しい内容を、なるべく噛み砕いて説明した。魔法の根源、魔力とは何か、その力は何のためにあるのか。俺もすべてを知っている訳ではないが、賢者の知識、誰も知り得ない知識。ライカはその理解できない内容を真剣に聞いてくれた。俺がなぜそんなことを知っているのか疑いもせずに、自分が歩んできた人生、感じたことのある力、それが俺の話と**噛み合っている**からだ。
「私は呪われていない……この力は私の**好きをいっぱい叶えてくれる**」
ライカは涙目で、震える声で話した。孤独と絶望の中に、ようやく光が差し込んだ瞬間だった。
「でも、感情に左右される。それはなぜか、君がまだ使いこなせてないのもあるし、使いこなすには大きな試練がいっぱいある。それを知るために今から信じられないことをする。それは君の理解を超えているし、耐えられず状況が悪くなる可能性もある……**試すか?**」
ライカは深く考えた。孤児院が朽ちたのも、何をしても壊れていく世界も、呪いだと思っていた。逆に、それが自分のせいではないと心の何処かで希望として残っていたからだ。自分のせいだとはっきりと言われた今、この能力に向き合う自信がない。未熟な自分がもっと状況を悪くしてしまうのだと考えてしまうからだ。
「無理だよ……私のせいで孤児院がなくなって、それなら呪われている方が良かった」
こういう**負の感情**が、能力を暴走させる一番の要因だ。
「わかるよ。この年齢でこんな大きな試練には俺でも耐えられるかわからない。でも、君は昔に物を直しているときの笑顔が魅力的だったってリック王から聞いてる。それはもう**乗り越えている**のと一緒なんだよ。君ならできる。あの頃の魔法が好きだったのを思い出してほしい」
数時間話していたのもあって、ライカは疲れたようだった。うつむき、深く考えている。
「また後日にしようか?」
ルーシュはライカの傍に行き、優しく尋ねてみた。
「……痛!」
ルーシュはライカに近づくと、彼女から発される魔力に当てられ、鋭い痛みを感じた。
「大丈夫か?」俺は急にどうしたのかと心配した。
「私じゃない、誰か来る」ライカは静かに言った。
そう言ってドアの方を見ると、扉が勢いよく開け放たれた。
「ルーシュ!! 王国がやばい! **すぐ戻るぞ**」
ロロが扉を思いっきり開け、歪んだ顔で叫んだ。
### 崩壊した城壁
ルーシュはライカも連れて、全速力で王国へ急いで戻っている。ロロの話はこうだ。ギルドとの模擬戦中、王国の護衛兵から緊急連絡が来たそうだ。模擬戦もあり、だいぶ場内は手薄になっており、そこを突かれて魔物が侵入してきたようだ。
リック王の話では、南の魔物が例の**“闇夜”**から急に気性が荒くなったそうだ。危険視はしていたが、攻めてくることも少なく対処はできていたようだが、気づいたときには敵の戦力が**予想以上の規模**に膨れ上がっていた。どこまで膨れ上がるか分からず、今回この魔物調査も俺に依頼してきた一つだった。
魔物は足が遅く、砂漠の戦闘があまり得意ではないことが分かっており、すぐに進撃してくることはないとリック王は考えていた。その矢先の事件だ。
「現状は?」ルーシュの声は、焦燥を押し殺し、冷たく響いた。
「いやわかんねぇ。黒煙が見えて、俺は真っ先にお前に会いに行ったから」ロロは荒い息遣いで答える。彼の表情は、見たことのない恐怖と混乱に歪んでいた。
「そうか」
ルーシュの胸に、重い鉛のような感覚が沈んだ。常に先手を打ってきた自分が、またしても状況に追い越された。「また後手に回った。なにかしようとすると裏目に出る。ただついていないだけなら良いが……」
彼は、この予期せぬ襲撃の裏に、単なる魔物の暴走ではない、見えない悪意の糸が絡んでいるのではないかと、拭い去れない嫌な予感を抱き始めた。
「ライカ、無理するなよ」
俺とロロは全力で走っている。土埃と汗にまみれたライカは、時折つまずきそうになりながらも、必死に食らいついてくる。
「分かってる。できるだけ付いて行くから」
ライカはしんどそうだ。しかし、その瞳には、「人を傷つける呪い」から解放されるかもしれないという微かな希望と、これから目の当たりにするかもしれない惨劇への怯えが入り混じっていた。
王国に着いたルーシュは、眼の前の惨劇に戦慄した。
「王国の壁、無くなってんじゃん」
ロロは、かつて強固だったはずの城壁が、まるで巨大な拳で殴り砕かれたかのように、崩れ落ちた瓦礫の山と化しているのを見て、呆然と立ち尽くした。彼の威勢の良さは完全に消え失せ、代わりに純粋な衝撃が顔に張り付いていた。
各所から、魔法の爆発音、肉を断つ音、そして人々の悲鳴が、まるで地獄のオーケストラのように響き渡る。あれほど分厚い城壁を吹き飛ばし、中で暴れている魔物ども。各所から黒煙も立ち上がり、視界を遮る。
これは、彼らが模擬戦で味わった「実力差」などという生易しいものではない。生きるか死ぬかの絶望的な状況だった。
「まずはみんな探すぞ」
ルーシュは、賢者としての冷静さを無理やり取り戻し、最も現実的な目標を口にした。彼は近くの魔物を、容赦ない一撃で倒しながら、ロロと共に仲間を探すのだった。




