呪いの家とヴァーミリオンの歓迎
### 効かない魔法
旅は予定通り、2日前にはヴァーミリオン王国に到着しそうだった。
「つかれたぁ」
この森は普通に魔物が出る上に、急な雨も降ってきて体力を消耗した。
「近道したのもあるし、思ってたよりしんどかったな」
ルーシュは無茶をしたことをちょっとだけ後悔した。
「お陰様で、戦闘の勉強はできましたけど」
アーサーの言葉に、ルーシュは無駄なことをしていたわけではないと納得する。無事に成長してくれてよかった。
「ねぇねぇ? こっち家あるよ?」
リリスが、木立の奥に佇む古いロッジを見つけた。
「こんな辺鄙な魔物だらけの場所にですか?」ヴィニーは訝しむ。
「頼みこんで休ませてもらおうぜ」好奇心からか、みんな家の方に歩き出す。
ルーシュは近づくと、空気そのものが異様な魔力によって重くねじ曲がっているのを感じた。
「ズキッ!」
一瞬、ルーシュの頭が激しい痛みに襲われる。
(なんだ? この懐かしいような魔力の干渉……まるで……)
「誰かいませんかぁ?」ロロが玄関で尋ねる。
古びた木製のロッジは、人が住んでいるのかわからないようなボロさ。大きさは十分だが、人を寄せ付けない不気味さがあった。
「流石に住んでませんよ」
「こんなにぼろぼろだしな」
「ルーシュ、暖炉ぐらい直して使えるようにならんか?」
「今でも使えなくもないが、飛び火で火事になったら困る。ちょっと治すか」
ルーシュはそう言うと、いつものように指をパチンと鳴らした。
修復魔法が発動し、暖炉の中のこびりついた煤はきれいになくなり、割れているレンガも修復した。
「よし、これで完璧だ。薪を……」
そう言いかけると、暖炉がみるみるうちに**もとの朽ちた状態に戻っていった**。
「うそだろ?」
詠唱を間違えるはずがない。上級の修復魔法は難しいが、ルーシュが失敗するわけがない。
「おい、失敗か?」ロロが見下してくる。
「いや、そんなはずは……」
もう一度指を鳴らす。今度はさっきより早く、修復したレンガが塵のように崩れ、もとに戻った。
「待て待て!」
ルーシュは焦り、壊れた椅子やテーブルにも修復魔法をかけた。さっき同様、もとに戻ってもすぐに朽ち、崩れ落ちていく。
「駄目ですね」
「お前この旅、役に立ってねえぞ」
ロロの言葉は盗賊の件も含めてだろう。ルーシュは、自分の魔法が打ち消されたことに心底落ち込んだ。
### 呪われた少女との出会い
「何してるの?」
入口で、静かだが強い拒絶の感情を伴った声がした。
「あっ、勝手にごめん。雨がきつくてさ、少し休憩を……」ロロが話し終わる前に、
「出ていって!!」
女の子は、その細い体からは想像できないほどの大きな声を上げた。
「えっ? 勝手に入ったことは謝るけど、ちょっとぐらい駄目かな?」ロロは彼女の気迫に押される。
「駄目って言ってるでしょ!」
「今ちょっとここ直そうとしてたんだって。絶対に損はさせないから」
「治るわけ無いでしょ。私は**呪われている**の。あなた達も危険だから出ていって!」
そう言う彼女は、全身がボロボロの衣服で、両手には包帯がぐるぐる巻き。その痛ましい見た目に反して、髪は深く美しい漆黒だったのが、余計に違和感が残った。
ルーシュは彼女から放たれる魔力を感じた。それは異彩を放ち、その魔力が干渉する部分がボロボロと崩れていくのが感じ取れた。
「ヤバそうだな」
ルーシュは、彼女の能力を賢者として違和感を覚えた。このままでは、ロッジ全体が崩壊しかねない。
ルーシュはそう言うと、彼女に軽くお辞儀をしてみんなを外に追いやった。その時、彼女からかすかに「ごめん」と聞こえたような気がした。
「まったく何だったんだよ。こんな雨の中放り出すか普通?」
「人それぞれですよ」
「あんなとこに住んでるからおかしくなったんだよ」
「やめとけ。彼女には彼女なりの理由があるんだよ」
「なんだ? なにか知った口だな」
「いや、知らないよ。**経験だ**」
ルーシュはそう言って、雨の中、再びヴァーミリオンを目指した。彼の頭の中は、先ほどの少女と、自分の修復魔法が打ち消された理由でいっぱいだった。
### 南の国の歓迎と、王妃の熱狂
「おお~見えてきた見えてきた」
ロロが先頭でヴァーミリオン王国が見えたことにはしゃいでいる。
「思っていたより大きいですね」
「おれもこんな国は初めて見たよ」
森を抜けると、暑いくらいの天気に変わり、服もすっかり乾いていた。少し砂漠地帯があったが、その真中にちょこんと大きな塀を携えた、**巨大な都市**があった。
入口前に並ぶ植物を見て、ヴィニーが「なんか変わった植物ですね」と尋ねる。
「ヤシって言うそうです。この熱さでしか育たない、10mも超えるほど成長する植物だそうです」来たことのあるアーサーが答える。
「南の国、南国、なんか楽しみになってきたな」ロロたちは楽しそうだ。
「これうまぁ!!」
リリスが大きな声を上げる。入口でもらった**『ココナッツミルク』**という飲み物に興奮していた。
「ルーシュこれやばいよ! めっちゃいい匂いだし」
このヤシの木から得られるココナッツが、流通を支え、大国に成り上がった一つの要因だという。
「早速王国に行くか」ルーシュが盛り上がっているところに声を掛ける。
「そうだなおもてなしがあるかもしれないし、さっさとベットで寝たい」ロロが疲れをあらわにする。
王室に向かい待たされること2時間。
「遅すぎる、失礼なやつだなリックとかいうやつは」とロロが呼び捨てにした瞬間、
「お待たせしました」王が直接会いに来た。
「!? いやその〜」ロロがバツ悪そうに目をそらす。
「いえ、こちらこそ、長旅だったのに待たせてしまいました」
続けてリックが話す。
「申し訳ないのですが、こちらで泊まっていただくことができません。私どもの学園寮に一時的に滞在という形になります」
「嘘だろ? リック王、それが客に対する態度か?」ロロが不機嫌そうに言う。
「まぁまて。学生の留学程度の扱いと言うわけですね」
ルーシュはロロを抑制し、話した。
「こればっかりは特別扱いできませんでした。しかし、長旅なのも承知の上、お食事だけは用意させていただきました」
待合室だったが、豪華な料理が運ばれてきた。
「仕方がない。今日はこれで我慢しておいてやる」豪華な料理を目に、ロロは少し機嫌が良くなる。
「ロロはなんであんな偉そうなの?」リリスは不思議なものを見るように聞いてきた。
「そういう人もいるんだよ」ルーシュは答えに困った。
### レイラン教 教徒
食事中、ルーシュは別室に呼ばれた。
「すいません、大したおもてなしができずに」リックが頭を下げる。
「いや、正体をバラせない以上仕方がないことだ。何名かはロロに気づくと思うが、良いのか?」
流石に身分を隠しているとはいえ、ロロのことは分かりそうな人間もいるだろう。
「気づいても2名ほどです。信頼のできるものなので口止めは問題ありません」
俺とリックはこの先の流れについて話し合った。表向きは**交流会と模擬戦**。実際は、**王国の戦力アップ**、**更に南の魔物の対処**、そして**もう一つ**……。
「国にいる間の資金はこちらで全て請け負いますので、遠慮せずにお申し付けください。何卒ご不便をおかけいたしますが、できる限りのサポートはさせていただきます」
リックは滞在期間中も国を離れるということだった。そして、もう1人紹介をしてきた。
「王妃のマリンです。王の不在の間は私に何なりとお申し付けください」
信頼のできるうちの1人として、王妃には**賢者だということは話した**そうだ。もちろんロロのことも知っている。
「ルーシュです。短い間ですがよろしくお願いします」
「私はこれで。この先はマリンからお聞きください。ちなみに**レイラン教信徒**ですよ」
そう言うとリックは部屋を離れた。
一拍おくと、人が変わったかのように王妃が話しかけてきた。
「嘘でしょ! 本物の賢者様ですか? 私、**大ファン**なんです!」
目がキラキラしている。
「ファンって……」
「もぉ、思っていたより可愛いお顔なんですね? もっと渋めのおじい様と思っていました!」
「まぁ、賢者って言うだけあってイメージはそうなりますよね……文献もおじさんイラストが多いし、銅像も何故か魔王を封印した年じゃなくて、おじいさんになってから建てられましたし……」
ルーシュは、この熱狂的なタイプが苦手だった。
「いっぱいお話聞かせてほしいです! 貴重すぎる! あぁ、本当に信じられません」
「待ってください。私はその話は誰にもしませんよ」
「はぁ、私ったら勝手に盛り上がってしまって申し訳なかったです。そうですよね、ちゃんと節度ある対応をしないと! では、皆さんのところへ向かいましょう」
王妃と食事中のみんなの所へ一緒に来た。簡単な挨拶をして、リリス以外には事情(リックの留守、学園寮滞在、王妃がサポート役)を話した。
「ではごゆっくりお楽しみください」
やっと王妃は出ていった。
ロロたちもお腹いっぱいで疲れている。
「今日はもう無理。ここで寝る……」
「今日くらいは良いか」ルーシュも賛同した。
ひょいっとリリスが横に来た。
「ルーシュ、あんなおねーさんがいいの?」
ちょっと機嫌が悪い。王妃がルーシュの傍から離れなかったのを言っているようだった。
「ちょっとワケアリなんだよ……なんでもないから」
ルーシュは慌てた。賢者だとばらせないから仕方がない。
「何よそれ! 大人の綺麗なお姉さんにチヤホヤされちゃって!」
「王妃だから! 子供もいるから!」
今日はつかれた……。




