秘境の温泉・・・そろそろ反撃
旅の朝と予感
と、そんな事も知らずにロロがテントから顔を出してくる。
「朝ごはん誰だっけ?」
ロロは、昨晩のロマンチックな語り合いなどすっかり忘れたように、いつも通り緊張感がなかった。
「私ですよ」
ヴィニーは既に火を起こし、簡素だが温かいスープを作り始めている。彼の細やかさが、旅の安定を支えていた。
アーサーはまだ寝息を立てている。王族の血筋ながら、彼は朝に弱いタイプだった。
「リリス起きてるか?」
ルーシュは、一人別のテントの様子を見に来た。
「うん、でも待って、準備中」
「分かったよ。朝ごはんもうできるから適当においで」
女の子は時間がかかる。12歳でも、彼女はかなりの綺麗好きで、身だしなみを整える時間は譲れないようだった。
### 焦燥のルーシュと加速する旅
王都を出て何日か過ぎた。盗賊の襲来はあの日以来無いが、ルーシュの魔力感知は、追手が確実に接近していることを伝えていた。来るなら今日だろう。
「ペースが良い。2日は早く着くな」
ルーシュは当たり前のように言うが、その言葉には、追手を撒けるかどうかも試していた。
「ふざけんな! 何が2日早くだよ? クソみたいなペースじゃねぇか!」
お決まりのようにロロが愚痴を言う。彼の不満は、疲労の裏返しだ。
「なんか急ぐ理由あったんですか?」
疲れ気味のヴィニーが尋ねる。誰もがルーシュのペースに消耗していた。
「そりゃ、2日も早く余裕そうに到着してみろよ。**『さすがヴァイオレット王国の学生は体力があるなぁ』**ってなるだろ?」
「おお! そうかそうか、余裕余裕~! もっと飛ばすぞ!」
ロロは**「さすが」**という言葉に弱い。王族としてのプライドをくすぐられると、弱気な性格はどこへやら、すぐさま元気になる。
「馬鹿ですかロロ様! 無理に決まってるでしょ! ルーシュさん、全く何考えてるんですか?」
アーサーは流石に疑ってきた。彼は王族としての冷静な判断力を保っている。
「そろそろ接触してくる。俺達、追われてるんだよっ」
ルーシュは、隠すのを止め、笑いながら駆け足になった。真実を告げても、彼らは動揺よりも好奇心で動くことをルーシュは知っていた。
「嘘でしょ? もぉ、なんで黙ってたんですかぁ」
アーサーは呆れつつも、ロロを追いかけ走り出す。
「リリス、遅れるなよ」
「うんっ」
ここ1週間で、リリスの笑顔はだいぶ増えてきた。彼女の笑顔を守るためにも、ルーシュは足を止めるわけにはいかなかった。
### 秘境の野営地と罠の仕込み
今日は久々の野宿だ。ちょこちょこ小さな村が点在していたため、適当に宿に泊まることができていたが、追手を巻くため、少しペースを乱したことで今日は森の中で一夜を明かすことになった。
「ベッドが良いなぁ。お前のせいだぞ、ルーシュ」お決まりのロロの愚痴。
「たまにはこういうのも良いですよね。それに**温泉**あったじゃないですか」
晩御飯の用意をしながら、ヴィニーが話す。今日は近道のため少し奥まった森を突っ切っていたが、思わぬ収穫、ここは温泉が湧く秘境だった。
「あれは良かったですね。なんか頑張った甲斐があります」
アーサーも疲労が取れたみたいだった。
「おれは少し先まで道の確認に行ってくるわ」
ルーシュはそう言うと、追手の確認と明日の道の確認をしに行った。流石に多くはないが魔物が出る森だ。近道といえど危険だ。しかし、この優秀なメンバーなら心配ない、とルーシュは信頼していた。
### 子供たちによる完璧な反撃
「きゃぁ!!」
大きな悲鳴が響く。温泉のあった方からだ。
「ロロ! 覗きに行ったな!」呆れる3人。
「ふざけんな! 死ね!!」ロロが返す。
「え? じゃぁ……」
4人が顔を見合わせ、青冷めた顔で慌てて悲鳴のする方に向かう。
「随分のんびりしているじゃねぇか? 厄介そうなお前が油断した隙に、準備をさせてもらった」
先日の盗賊だった。完全に油断した。
リリスは着替えは終わっていたが、武器を奪われ3人に囲まれていた。リーダー格の盗賊が、リリスにナイフを突き立てている。
「卑怯だぞ? ここが秘境なだけに……フフ」
緊迫した状況で、こんな冗談を言えるのはロロだけだ。
「この状況で冗談とは。大人を舐めてると痛い目に遭うぞ?」
鋭いナイフがリリスに突き立てられる。他の2人が武器をよこせとロロたちに向かってくる。
リリスからある程度離れたところで、ロロが冷静に詠唱する。
**「ヒート・グラウンド!」**
片方の男の足元から、ロロの炎魔法が仕掛けた火柱が一気に噴き上がる。トラップ型の炎魔法だ。
「ぐわあああ!」
火が全身を覆い、男は転げ回る。
「おいっ!」
もう一方が慌てると、その真後ろにアーサーが立っていた。
「いつの間に……」アーサーの一振りが、光魔法で強化された**ガントレット**の一撃となり、男を容赦なく吹っ飛ばす。
「お前ら、こんなことしてただじゃおかねぇぞ!」
振り落とされたナイフはリリスの胸元に刺さると思われたが、リリスの体をすり抜け、自分の胸に刺さる。
「ゴフッ」
血を吐き、膝をつく盗賊。
「痛そぉ……私の**幻影魔法**です」
ヴィニーが、怯えながらも震える声で答える。
「いつまでも、いつまでもストーカーなんかして!」
背後から、無傷のリリスが現れる。
「何が起こってる!?」
吐血し這いずりながらもがく盗賊。
「俺達、完璧じゃね?」ロロが言う。
「上出来だ」
ルーシュは、吐血している男を湯口へ向かって蹴り飛ばす。
熱々の湯口付近の温泉に、ロロの魔法で燃えている盗賊が飛び込む。先ほどアーサーに吹っ飛ばされた盗賊もここに入っている。
3人は、熱さと炎の痛さにもがく。
「すまなかった。助けてくれ! 金で雇われただけなんだ!」
盗賊は、見苦しく命乞いを始める。
「私のパパは、たった一人で国のために頑張っていたの! **裏切り者なんて言わせない!**」
「だから、俺達じゃ……」
盗賊たちはたじろぐ。彼らには、この少女の怒りが理解できなかった。
**「アイスフォール!」**
リリスは背丈ほどの大剣を大きく振り下ろし、あたり一面の熱々の温泉を瞬時に**凍らせてしまった**。
「熱かったんでしょ。ふんっ!」
華麗に決める少女。氷に閉じ込められた盗賊たちの顔は、絶望に歪んでいた。
「ヴィニー、アーサー……一瞬であんな威力出せるか?」
「「無理、無理」」
2人は声を揃えて言った。リリスの隠された実力は、ルーシュの想像を遥かに超えていた。
### 勝利の裏側と作戦会議
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**数時間前**
「温泉だぁ!」
そろそろ野営の準備をしようと場所を探していると、ツンと指す匂いであたりを探していたところ、温泉を見つけたのだった。
「今日はゆっくりと温泉だな」ルーシュはひと息つけると安堵した。
「それと、ちょうどいい。**お前らだけで追手どうにかしてみろ**」
「ええ~何のためにお前いるんだよ」ロロが文句を言う。
「俺は子守じゃねぇ」
「子守とか言うな! 護衛だろ!」
「護衛? どういうこと?」
リリスは不思議そうに聞く。リリスは、他のメンバーが王族、ましてやルーシュが賢者とは知る由もない。
「いやいや、ちょっとした冗談だよ」ロロが焦る。他の2人もロロに鋭い視線を送る。
「仕方ない。じゃぁ、ヴィニーはアーサーと偵察、隠密して絶対にバレないこと。俺は下準備してくる。リリスちゃんは報告待って、作戦考えようか」
「了解」
ロロはああ見えて、状況判断と的確な指示ができている。自分では当たり前だと思っていて気づいていない、**リーダーとしての才能**だ。
ヴィニーは特殊な能力持ち。幻影や隠密、索敵といった人を選ぶ能力の複数持ちであり、重宝される人材。王家にスカウトされるだけはある。
アーサーも落ち着いていて判断能力及び戦闘能力が高い。光魔法と王族屈指の実力者だ。
「3人ですね」
ヴィニーらが30分ほどで戻ってきた。
「隠密能力持ちですね。結構近づきました。こっちより精度は低く、隠密のみで姿を隠したりはしていませんでしたけど」
「いかにも盗賊。殺しも受けているとなると実力はそこそこ。3人なのはコソコソするタイプ」
「なんだ、ジャックさんとかクシィさんっぽい陰キャタイプねっ」
(アイツラいなくてよかったな)リリスの一言と無邪気な笑顔が、余計にきつく聞こえる。
「なら作戦は**囮作戦**で。でもルーシュの嫌いな逃げ回る作戦じゃなく、ちゃんと考え尽くされた完璧な作戦」
「というと?」ルーシュが不思議そうに聞く。
「ふっふ~、まぁ黙って見てるこった」
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と、こんな感じでまんまと罠にかかった盗賊ども。
「子供を舐めてるからこうなるんですよ」
アーサーが最後に言った。リリスの怒り、ロロの戦略、ヴィニーの幻影、アーサーの剛力。この王国の次世代を担う子供たちは、確実に成長していた。




