最凶の予感――賢者の懸念と出撃
## 王の告白
「考えたと言ったが、実際は何もいい案が出なかった。帰ることも視野に入れたが、王と最強と噂される者。逃げれなかった。逃げても意味がないとも思った」
「さぁて、本気でぶつかる以外道無いけど、どうするよ王様?」
「今になって王様扱いか?」
「そりゃ死なれちゃまずい人ランキング1位だぜ。俺の責任になっちまう」
「お前が生き残って俺が死ぬみたいな言い方やめろよ。俺達が倒せなくて誰が倒せるんだ?」
「わかってるよ。マジの本気でいきますよ」
「私たちは知り合って短かったが、どこかでは信頼していたんだと思う。あの極限の状況で同じ事を考えていた。魔王を討伐した二人と同じように。何故か私たちはできる気がした」
「しかし結果は相打ち。私もガルも瀕死だった。向こうにも大きな深手を追わせることができた。ガルは回復魔法を私に使い、こう言った」
「死なれちゃまずいランキング1位さんよ、残りの魔力全部お前にくれてやる。絶対に死ぬんじゃねぇぞ」
「私はそのまま気を失った。討伐隊が私を探しに来たのはすぐだった。その時、ガルの姿はどこにもなかった。後で聞いた話、あの廃村はガルの故郷でもあったらしい。多分あの魔物がガルをレイモンドにとどめていた原因だと思う。だから無理をした・・・」
「その5年後だったよ。急にバイオレット王国にガルと名乗る男が現れたのは。私は彼を迎い入れた。今まで連絡もなく何をやっていたんだと。彼は一人であの魔物を追っていたんだそうだ。私が着いていくと言うと思い。黙って一人で5年もかけて、その間に仲間も増えて、現在ギルドマスター、ギルドの統括を担っているアラバマもその時の一人だよ。私はいっぱい話したかった。しかしガルはなにかそっけない態度だった。5年も経ったのだから1月程度の友情はそんなものかとも思った。流石に強くなっていたよ、あのまま魔物の討伐も控えるようになった私とは比べようがないほどに。そこからはトントン拍子に彼はグランドマスターになったよ」
「ガルと王様にそんな過去があったのですね」
「まぁ、ただの昔話……ここからが本題だ。ガルには気をつけろ。あの時感じた違和感。ガルが帰って来たときに隠れて見に行ったら同じようなものを感じた。やつは何かを隠している」
「ましてやレイモンドが全滅。ガルが引き返してくるのもおかしい。現在は違和感しか無い」
「肝に銘じておけ。賢者ともバレている。一番排除したい人間だろう。何をしでかすにもあなたが邪魔なはずだ」
そのまま王は時間切れのように元のヴィニーに戻って気を失った。
(もっと話したかったな。何を伝えたかった?違和感?ガルという男、リリスの父、世界最強、グランドマスター。なにか抜けている……俺が邪魔?)
扉の前に気配を感じる。
コンコン。
扉を叩く音がした。
「会議室にお越しください」
声はアラバマだった。
(聞かれたか? 流石にないか)
### 敵の分析と討伐隊の編成
会議室にて。
「報告します。レイモンドにて報告のあった魔物1体と、魔物が数百、レイモンドを拠点にしているようです」
「魔物は1体、無差別に攻撃をしているのではなかったのか? レイモンドを拠点とはどういうことだ?」アリゾナが問う。
「索敵に長けるもの数名にて確認しました。言われていた距離に近づいても敵の反応無し。動く気配なしとのことです。たくさんいる魔物の方も、北の地にて確認された種族ではありません。完全に新種だと」
報告者を退出させ、私含めた数人で会議が開かれた。
初めてギルドマスター5人、グランドマスターガルと俺が揃った日でもあった。そこに預言者様も同行し話が進められた。
「生存者なし……当時街に居なかったものなど数名の安否は確認されたようだが、街は完全に魔物の手に渡ったとみていいでしょう」
「目的はレイモンド? 北の街に何がある? 地図は?」
カロライナが言う
「北は魔王の領地だ」俺が咄嗟に答える。
「魔王? そんなものが関係あるとでも?」
バージニアが不信感を露わにする。
「闇夜から動きがなかったが、魔王の侵略と考えてもおかしくない。まずガルが見たことのない魔物。大規模な侵略。北を攻める理由は根城の確保の可能性は低くない」
「実際魔王のいるとされる場所はもっと北だが、現在はどうなっている?」
「レイモンドという街は歴史が浅く、北への侵略は基本的に魔物が多く、1500年前と殆ど変わっていないと見ていいでしょう」
「村が点在していることは確認しましたが、大きくはならず魔物に攻められては移動しを繰り返しており、特に王国からの支援も行っていませんでした。レイモンドが大きくなったのは、ガル様が居てたことが大きな要因です」
「俺の時代もレイモンドがあった場所は何もなかった。1500年前はあまりにも魔王が動かなすぎて、北への進行だけで苦労したものだ。だから最終的には勇者と2人で乗り込んだようなものだが」
「レイモンドは北では大きい方だが、王国のように大きな壁があったり、要塞化された場所じゃない。攻めること自体は難しくない。こうなっては攻めるしか無いと思うが、どう思う」ガルが提案する。
「おれは敵の強さを把握していない。どっちにしろ近くにまで行かないことには話にならん。勝手に動いてもいいがどうする?」
「賢者様に万が一があっても困ります。国を上げた討伐隊を編成しましょう」
「ならおれが参加するには?」
「学生の討伐隊加を募るしか無いでしょう」
「そんな危険なことにまだ子供を連れていけだと?」
「実際ギルドの方も遠征から戻っていない者もいる。守るのは北だけでは無いのですぞ」アラバマが言う。
「どっちにしろ学生も含めた1000人ほどの討伐隊で向かい、相手の力量も考察しながら最終的にはどうするかの判断が必要そうですね」
### 賢者チームの再編成
先日の学園内の前衛と後衛の戦いが功を奏した。騎士軍からも討伐隊にと志願者がでた。
学生はヴァイオレット校に先に声がかかり、他校は志願者という形だった。イリュウやクシィのようにギルド所属も数名いるので、ある程度は志願者が必要だった。
ロロやアーサー、リリスなど何名かは参加できないようにされていた。ヴィニーは王国に残ってもらうことにした。
学生は100名ほどの参加となった。人によっては討伐隊より実力者なので足手まといにはならないはずだ。
| 総司令官 ガル
| 参謀(ギルド司令) アラバマ
| 参謀(騎士軍司令) カロライナ
この時代の戦い方、ちょっと楽しみになってきた。俺から見れば、前時代的なところもあるが、現代魔法と科学の発展がどう組み合わさるか見ものだ。
ギルドマスターで残るのはアリゾナ、バージニア、ミズーリ。
学生をまとめるのは俺の傀儡を使った教師。実際は各所に散らばされているので大きな役目はないのだが、個人的に俺と組んでほしいメンバーは揃えた。
スザク、メロ、キキ、そして俺。後数人からなるメンバー。学生は後方支援がメインだが、一応実戦兼ねて中間位置としてもらった。
「なぜここだけ学生のみのパーティーなんだ?」スザクが鋭い眼光で俺に聞いてきた。その表情には、不満と、俺への疑念が明確に表れている。
「なんで俺が知ってるんだよ?」俺は肩をすくめる。
「スザクさんにルーシュさんでしょ? そこらのパーティーより強いんじゃないですか?」咄嗟にメロが答える。彼の楽観的な声が、場の重さを僅かに和らげる。
「それに何だこの女? 使えるのか?」スザクはキキを指して言う。容赦のない、冷たい評価だ。
「この人は一度パーティー組んでる。回復魔法優秀なんだぜ」おれはキキを見て言う。
「え!? 私なんて全然Cクラスですしダメダメですよ」慌てて言う姿はかわいい。
「大丈夫かこんなやつ?」女にも厳しい。これでモテるのは謎だ。
「お前、回復してくれなくても知らんぞ」
出発前の談笑。世界を揺るがす大きな戦いだと言うのに、この落ち着きは異常だ。こいつは本当に勇者の素質を持っている。
「ルーシュ……気をつけてね。絶対無事で帰ってくるんだよ?」
少しか弱い声が聞こえる。この戦いから外されたガルの娘、リリスだった。不安の色を隠せていない。彼女の瞳には、討伐に出る父と、そして俺への心配が揺れていた。
「大丈夫。俺達学生は後方支援、殆どはA, Sクラスのギルドの人が倒してくれるよ」おれは彼女の頭を軽く叩き、心配しないように声をかけた。
「ふんっ。世界最強の娘が留守番とはな」スザクが嫌味を言う。
「そう言うなよ。まだ12歳だぞ」
そんなやり取りを交わし、1000人規模の討伐隊が、目的地であるレイモンドへと向けて、長大な隊列を組みながら出発した。




