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七度転生した大賢者、今世では剣士として無双します 〜魔法全盛の世界で剣を選んだ理由〜  作者: ねむのき 圓
3章 魔王軍進撃と失った英雄

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今後の計画・・・最強の本音

肉の山と沈黙の夜

 学園の特別食材保管庫。


 そこは本来、厳重に警備され、城への献上品や、年に一度の学園祭等の祭り事でしか開けられることのない場所だった。しかし今、その一室は、勝利を祝う前衛チームの、荒々しい寝室と化していた。


 メンバーたちが食べて尽くした骨の山が、勝利の激しさを物語っている。


 ジャックは酒と肉に完全に酔いつぶれ、リリスは俺の横で寝ている。ロックの大きな背中が部屋のど真ん中で大の字になって、よだれを垂らしながら深い眠りについている。メロだけが、壁際の魔法書棚にもたれかかり、静かに瞑想しているようだった。そして、デン君は、皆から少し離れた隅で、不安そうに身を丸めていたが、疲れ果ててか、規則正しい寝息を立てている。


 ルーシュは、冷たい石の床に背中を預けながら、ぼんやりと天井を見上げていた。時刻は夜明け前。最も冷え込み、最も静かな時間だ。


 彼の心は、勝利の喧騒とは裏腹に、驚くほど冷静だった。


「これで、第一段階はクリアだ」


 ルーシュの目的は、単にスザクを倒すことではない。この学園、ひいてはこの世界全体の歪んだ序列と常識を破壊し、前世の賢者としての目的を果たすことだ。今回の勝利は、そのための「宣戦布告」に過ぎない。


「この後はどうするかなぁ。やることが多すぎる」


 特に、リリスの父親であり、グランドマスターであるガルの存在が気がかりだった。彼は、ルーシュが「賢者」であることを知っている数少ない協力者の一人であり、その不在の理由と意図が全く読めない。


 ルーシュはゆっくりと立ち上がった。彼のベンテンディアは、激戦によって細かな傷を負っていたが、その輝きは失われていない。


 仲間たちが疲れて眠っているこの場所は、彼の思考を妨げる。ルーシュはそっと保管庫の扉を開け、冷たい外気の中へ、一人で足を踏み出した。


夜明けの散歩と遭遇

 学園の広場に出ると、冷たい朝露が足元の石畳を濡らしていた。東の空はまだ薄墨色だが、間もなく太陽が顔を出す気配が漂っている。


 ルーシュは静かに歩きながら、次の計画を脳内で構築していた。この勝利で学園の注目を集めた今、次はギルドマスターたち、特に管理責任者のアリゾナあたりから接触があるはずだ。その接触をどう利用するか。


 その思考を遮ったのは、広場の中央、マグマと氷の激戦の跡が残る場所に、ぽつりと立っている人影だった。


 ルーシュは足を止め、その人影を見つめた。


 夜明け前の薄明かりの中、ルーシュと同じく黒い学服を纏い、赤髪のロン毛を風に揺らしている。


 その人物は、敗者であり、学園の頂点に君臨していた男。


 スザクだった。


 彼は、激戦の痕を静かに見つめていた。その表情は、敗北の悔しさよりも、何か別の、深い思索に沈んでいるように見える。


 ルーシュは、あえて気配を消さなかった。


 スザクはルーシュの存在に気づくと、ゆっくりと振り返った。眼鏡はないが、そのクールな瞳には、確かにルーシュの姿が映っている。


 広場に響くのは、二人の呼吸と、遠くで鳴く鳥の声だけだった。


「散歩か、ルーシュ」


 スザクの声は、試合中と同じく低く、感情を感じさせない。


「ああ。まさか、お前が先にいるとはな、スザク」


 二人の間に、張り詰めた沈黙が流れた。それは、単なる敗者と勝者の間にある空気ではなかった。


 先に口を開いたのはスザクだった。彼は激戦の跡から視線を上げ、ルーシュの目を見た。


「まず、詫びておく」


 スザクは、感情を一切込めず、事務的に言った。  まさかの言葉に俺は少しびっくりした。


「リントの行動だ。事前にお前たちの作戦を、彼から引き出していた。無論、私が指示したものではないが、後衛チームのメンバーが卑劣な手段を使ったことに変わりはない」


「……卑劣、ね」ルーシュは静かに言った。


「勝利のためなら、手段は選ばない。だが、学園の模擬戦という場で、あのような優越性の誇示に走ったことは、リントの汚点だ。私の管理不行き届きだ」


 スザクは一度、息を吸い込んだ。


「とはいえ、勝敗は覆らない。君たちの勝利だ」


 彼は敗北を認めた。しかし、そこから放たれる雰囲気は、敗者のそれとはかけ離れていた。


「だが、後衛が劣っているとは微塵も思っていない」


 その言葉は、冷たい朝の空気を切り裂くほど鋭かった。


「確かに君は、空間魔法を上書きする規格外の力と、それを瞬時に展開する技術を持っていた。作戦がバレたことを察し、ポテンシャルだけで突っ込んできたのはただの無謀だが良い方に働いた。だが、試合全体の流れを見れば、君たちは常に劣勢だった」


 スザクは静かに、事実を並べ立てた。


 ルーシュは反論しなかった。スザクの言う通りだ。彼はすべてを出し尽くし、勝利は運とデン君という想定外のピースに助けられた側面が大きい。


「今回は、たまたま勝っただけだ、ルーシュ」


 スザクは淡々と結論づけた。


「実践なら、君たち前衛は、一瞬で火力を集中され、完全に殲滅される。まだ、後衛が主導権を握っている。学園の序列も、君一人の規格外の力だけで覆るほど、甘くはない」


 スザクは、ルーシュの目から、この勝利に慢心する姿勢がないことを確認した。


「この程度で思い上がるな」


 スザクはそこで言葉を切った。彼の敗北は、ルーシュを警戒すべきライバルとして、そして共通の目的を持つかもしれない者として、認識し始めたことを意味していた。


「……次の展開が楽しみだ、ルーシュ」


 スザクはそう言い残し、マグマの痕跡に背を向け、静かに立ち去ろうとした。


「待て」


 ルーシュは、冷たい声音で呼び止めた。


 スザクは立ち止まるが、振り返らない。


「お前の分析は正しい。今回の勝利は、お前の言う通り、多くの偶然と、お前の油断、そして俺たちの全てのカードを切った結果だ。俺は、お前ほどの技術と才能を持つ相手を、学園内で他に知らない」


 ルーシュは、スザクの実力を真正面から認めた。それは、敗者に対する皮肉でも慰めでもない、純粋な評価だった。


 ルーシュは一歩、スザクとの距離を詰めた。


「俺の目的は、この学園の序列をぶっ壊すことでも、前衛が主導権を握ることでもない。それは、目的を達成するための、単なる通過点にすぎない」


 スザクはようやく振り返った。そのクールな表情に、微かな疑問の色が浮かぶ。


「……本命は何だ」


 夜明け前の薄暗闇の中、ルーシュの瞳は鋭く光っていた。


「魔王の討伐だ」


 その言葉を聞いた瞬間、スザクの口元に、嘲笑とも取れる冷たい笑みが浮かんだ。


「馬鹿なことを」


 スザクは鼻で笑った。「魔王は、1500年前に英雄たちによって討伐されたと、歴史が示している。常識だ。それに預言と闇夜で復活したとは言い切れんだろ」


「常識、ね」ルーシュは静かに言った。「お前は昨日、その常識を、俺たちに打ち破られたばかりだろう」


 スザクはそれ以上、何も答えなかった。彼はルーシュの真剣な目を一瞥し、その言葉を単なる荒唐無稽な冗談として受け流した。


「せいぜい、滑稽な野望で学園を引っ掻き回すことだ。私を巻き込むつもりなら、次は容赦しない」


 そう言い残すと、スザクは二度と振り返ることなく、広場を去っていった。


 ルーシュは、スザクの背中が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。


「まあ、簡単に信じられても困るがな」


 ルーシュの頭の中では、すでに新たな計画が動き始めていた。


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