優勝・・・前衛の絆
歓喜と困惑の試合後
試合終了のホイッスルが鳴り響き、戦場は一瞬にして静寂に包まれた。勝利を知らせるアナウンスが響き渡るが、誰もがその結果に言葉を失っていた。
前衛チームの勝利。それも、**生存者3名(ルーシュ、イリュウ、デン)**という、誰も予想しなかったメンバー構成での勝利だ。
真っ先に立ち上がったのは、まだ魔力が回復しきっていないルーシュだった。
「イリュウ、立てるか?」
イリュウは肩を借りながら笑う。「ああ、まさかデン君に助けられるとはな。ルーシュ、お前もなかなかの派手だったな」
「ま、結果が全てだ」
その時、周囲から一斉に歓声が上がった。観客席にいた前衛組の生徒たちが、涙を流しながら叫んでいる。彼らにとって、この勝利は76対24という絶望的な序列を打ち破る、歴史的な出来事だった。
だが、その歓声の中心にいたのは、ルーシュでもイリュウでもなかった。
「あいつ、まだ生きてやがったのか」ジャックが倒れた場所で、ロックが呆然と呟いた。
「ええ、数合わせの彼が、ですね」メロは冷静に眼鏡を押し上げた。
主役は、リントに打ちのめされた後、ジャックの体力を回復させたまま、静かに意識を失っていたはずのデン君だった。
ヒーローインタビュー
まもなく、試合を中継していた大型魔力スクリーンが、勝利者へのインタビュー画面に切り替わった。
画面に映し出されたのは、ボロボロで泥まみれの服を着たルーシュとイリュウ、そしてその二人に挟まれた、顔面蒼白のデン君だった。
「わ、わたくし、ですか……?」
インタビューアーの女性は興奮を隠せない様子でマイクを向けた。
「歴史的な勝利です! しかも、驚くべきことに、デン選手が最後まで生き残っていたことが、前衛チームの勝利を決定づけました! 今のお気持ちは!?」
ルーシュはデン君の背中を軽く叩き、代わりに答えを促す。
「ひぃっ、あ、えっと……」デン君は震えながら、絞り出すように言った。
「あの、ぼくは、その、何もしていません。ぼくはあのとき、リント選手に殴られて、ほとんど気絶していて……たぶん、ジャックとルーシュが頑張っているのを見て、勝手に回復魔法が全力で発動しただけで……」
正直すぎる答えに、観客席は一瞬静まり返った。
「いやいや、それが最高の貢献だぞ」ルーシュが笑う。
「リントの魔法を見破り、ジャックの回復に専念し、そして誰にも気づかれずに生き残る。これこそサポートの極意だろ」イリュウもそう言って微笑んだ。
「そうよ! 最後まで生き残ることが、サポートの最大の使命! デン選手、あなたは最高のヒーローです!」インタビュアーは、デン君の消極的な答えを最高の美談へと変換した。
デン君は困惑しきった顔で、ただ立ち尽くすしかなかった。彼は確かに何もしていなかった。ただ、ジャックを抱えていた時に、回復魔法を最大出力で発動したまま意識を失い、運良く誰にも発見されなかっただけなのだ。
崩壊する学園の評価
翌日、学園の空気は一変した。
常識として固定されていた**「後衛至上主義」**が、今回の結果によって根底から揺らいでいた。
これまで後衛組は、優秀な魔法使いが多いため学園内のランキング上位を独占し、「攻撃力が低い前衛は、後衛の盾であり、囮である」という評価を公然と示していた。
しかし、蓋を開けてみればどうだ。
《絶対的な力の敗北》: 1位のスザク、3位のリカルナといったトップランカーが、前衛のチームワークと、警戒はしていたがルーシュの機転よって完全に打ち負かされた。
ルーシュという規格外の存在が現れ、従来の魔法戦のセオリーを全て破壊した。
《最弱の勝利》: そして何より、61位という最底辺のデン君が、誰にも気づかれずに勝利の生き証人として残ったという事実。
「ランキングなんて、全く意味がなかったんじゃないか」
そんな噂が学園中に広まり始めた。力や魔法の序列ではなく、「戦い方」、「戦略」、そして**「チームワーク」**が、この世界で最も重要な要素であると、学生たちは思い知らされたのだ。
特に、ランキング中位〜下位の、これまで自信を失っていた前衛組は、歓喜に震えていた。
「よし、次は私たちだ! ルーシュさんに続いて、私たちも自分たちの力を見せつけてやる!」
この勝利は、前衛組の意識改革を引き起こし、学園全体のパワーバランスは、緩やかに、だが確実に崩壊を始めていた。
控え室での謝罪
戦いを終え、治療を終えたメンバーたちが集まる控え室。ジャックは包帯だらけの身体を壁にもたせかけ、リリスはロックの肩にもたれて居眠りをしている。
メロが静かに回復薬を飲み干すと、デン君が震えながら、ゆっくりと立ち上がった。
彼の顔は、ヒーローインタビューの時よりも青ざめていた。彼はみんなに向かい、頭を深く下げた。
「皆さん……本当に、本当に、ごめんなさい」
場が静まり返る。ジャックとリリスも、何が起こるかと目を覚ました。
「ぼくは……試合の前日、すべての作戦をリント選手に話してしまいました」
その告白は、控え室の空気を凍らせた。
ジャックは壁から離れ、立ち上がろうとした。その顔には怒りがにじんでいる。ロックは目を閉じ、メロはただ静かにデン君を見つめていた。
「リント選手に脅されて……いや、違います。自分が弱かっただけ立ち向かえない自分の弱さのせいで、全部話しました。どのメンバーが、どのタイミングで、どう動くのか……全部、後衛チームに筒抜けでした」
デン君は声を詰まらせた。「ジャックパーティーやリリスちゃんのパーティーが、序盤で狙い撃ちされたのも、ルーシュが一度戦術を崩さざるを得なかったのも、全部、ぼくのせいです。ぼくが、ぼくがチームをバラバラにするきっかけを作ってしまったんです……」
彼は深く頭を下げ、身体を震わせた。この勝利の興奮も、彼にとってはただの罪悪感を増幅させるだけだった。
静かに聞いていたルーシュは、デン君の前に進み出た。
ジャックが口を開きかけたが、ルーシュは静かに手を上げた。
「……そうか」ルーシュは静かに言った。その声には、驚きと、自分自身への苛立ちが混じっていた。
「リントが事前に、お前を脅していたことには気づかなかった。模擬戦という気の緩みがあった。スザクの動向にばかり気を取られて、脇が甘かったのは、俺の落ち度だ」
ルーシュは自らのミスを認めた。その正直さに、メンバーたちは息を飲んだ。
「だがな、デン」ルーシュは再び顔を上げさせた。その目には、強い光が宿っている。
「お前が情報を漏らしたせいで、俺たちは序盤、完全に劣勢になった。それは事実だ。だが、お前の回復魔法の希少性は、その劣勢を覆すための、最も重要な保険でもあった」
ルーシュは淡々と語る。「お前は、最も臆病で、一番格下だ。だからこそ、リントはお前が情報を漏らした後、お前の存在自体を、完全に無価値なものとして見捨てた。それが奴らの慢心だ」
「メロの作戦と、全員の奮闘。そして、お前が誰にも気づかれずに倒れていたこと。お前の行動のすべてが、結果的にリントの油断と傲慢さを最大限に引き出すための、最高のエサになったんだよ」
ルーシュはデン君の頭を、ポン、と軽く叩いた。
「お前は謝る必要なんてどこにもない。俺はお前の臆病さも、弱さも、すべて承知の上で、この勝利のために、お前の回復魔法の希少性のゆえの油断を利用した。お前が仲間を危険に晒した分、その倍以上の価値を、お前はチームにもたらしたんだ」
ジャックは腕を組み、ニヤリと笑った。「なるほどな。裏切り者も、使い方によっては最強の駒ってわけか。まあ、ルーシュが気づいていなかったとしても、結果的に勝ったんだ。水に流すぜ、デン。次はしっかり立てよ」
デン君の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。それは、自分の過失をリーダーに認めさせつつも、その過失さえも勝利の糧に変えてくれた、絶対的な信頼とリーダーシップに対する感謝の涙だった。
勝利の祝宴は肉の山で
「さて、話は終わりだ」ルーシュは手をパンと叩いた。
「怪我人ばかりだし、疲れているのはわかるが、今日は祝勝会だ。学園のカフェテリアなんて、ダサい場所でやるつもりはない」
リリスが目を輝かせた。「わーい! どこへ行くの? 高級レストラン?」
「いや、違う」ルーシュは不敵に笑う。
「俺たちが勝ったんだ。勝者が欲しいものを手に入れる。そうだろう?」
ルーシュは懐から、一枚の紙を取り出した。それは、学園の敷地の最深部にある、許可なく立ち入れないはずの「特別食材保管庫」への入庫許可証だった。
「どこでこんなものを……」メロが驚きを隠せない。
「最大の偉業だ、大抵のものは手に入るんだよ。さて、皆に聞く」
ルーシュはそう言って、改めて仲間たちを見渡した。ボロボロだが、その目には確かな勝利の光が宿っている。
「学園最強の勝利の祝宴に、前回はイタリアンだったし~?」
「肉!」ジャックが即答する。
「肉!」リリスが目を爛々と輝かせる。
「私はフルーツと、最新の魔法書が……」メロが言いかけると、ルーシュはメロを遮った。
「却下! 勝利には、肉だ。それも、この世界で最も美味しく、最も希少な肉だ。」
ルーシュはデン君に向かって手を差し出した。
「デン、お前は最高のヒーローだ。お前の好きなように肉を食え。さあ、行くぞ! 学園のルールを破る、最高の肉パーティー会場へ!」
デン君は、恐る恐る立ち上がった。彼の心の中の罪悪感は、ルーシュの言葉によって救われていた。それ以上に、最高の仲間たちと勝ち取った勝利の喜びが、彼を満たしていた。
ボロボロの前衛チームのメンバーたちは、新しい時代を築くための第一歩として、夜の学園を、肉の山を目指して歩き出した。
前衛 VS 後衛 編
~完~




