状況の打破・・・メロの戦い
賢者の余裕と後衛の焦燥
「さて、2対5だ。上よりはマシな状況だな」
俺は、粉塵の中に消えたアーサーを気にかけながら言った。
「でも、あの人、急に強くなりましたよね」メロが不安を口にする。
「変わった能力だし、出す機会がなかっただけだろ」
俺とメロは、この絶体絶命の状況にもかかわらず、至って冷静に話していた。
(この余裕、メロはさすがだな。もう状況を整理して、勝つ算段ができているのか?)
「なら、お前の作戦で行こうか」俺が提案すると、メロは目を丸くした。
「え? 急になんですか? 何にも考えてませんよ? ルーシュさん、何かあるんでしょ?」
「待て待て、何か作戦があるからその余裕なんじゃないのか?」俺は内心焦る。
「いいえ、ルーシュさんがいるから余裕なだけです。早く指示ください。この状況の無駄話も作戦じゃないんですか?」
(なんか急にダメな奴になったな……いや、信頼か?)
「仕方ない。俺が敵をあぶり出す。お前は、その間に位置と能力、そして勝つ方法を考えておけ」
「えぇ~、あんたのせいで最初から頭フル回転でもう限界ですって」
「限界は自分で決めるな。そして限界は超えろ。わかったな」
そう言って、俺は敵が潜む茂みと木の陰に向かって突っ込んだ。後衛の不利な点を突くため、敵はトラップやダミーを駆使し、警戒態勢を敷いている。なかなか手強い。
「やっぱ、強い後衛はスザク達だけじゃないようだな」俺はわざと声を大にして言った。
「お前こそ、試験日から異様な空気を纏っていたな。スザクも戦う前から警戒しろと言っていた。だが所詮前衛、おれたちの囮になるしか使いみちがない奴等に負けるはずがないんだよ」後衛の一人が冷たく返した。
俺は会話を続ける。「だが今は8対12だ。いい勝負と思わないか? 誰がこんな接戦を予想した」
「こちらの不備があったことは謝る。それでもこの状況は認めざるを得んな。お前達の実力も。しかし残っているのは強者だけだ。ここから先は状況は変わらん」敵の言葉には硬い自信が満ちていた。
その瞬間、ルーシュに向かって攻撃が降ってくる。
俺はすかさず避け、魔法を撃ってきた場所に向かう。
「やはり魔法陣。遠隔系は面倒くさいなぁ。それに、気配を消すのがうますぎる」
その位置についた途端、トラップ魔法が発動し、広範囲が吹き飛んだ。
「やったか?」少し気を緩めたのか、一人が顔をのぞかせた。
「油断しちゃダメだぞ」俺の声が響く。
その瞬間、俺は背後から斬撃を仕掛けた。パチンッ。
いつもの斬撃が一人を斬り刻む。しかし、こいつの背後に魔法陣が現れ、攻撃を吸収し、俺の背後に出現した魔法陣から俺の攻撃がそのまま放たれた。
「いいねぇ」
俺は内心、まだ一人も仕留められていないことに満足していた。
(それにしても、この威力の攻撃がノータイムで返されるとは、流石俺だなぁ。何にでも対応できる。楽しい楽しい)
その後も、俺はトラップを避けながら走り回った。
「悪い、1人も仕留められんかった」
「なんで楽しそうなんですか! そろそろ働いてください」メロの声が焦りを帯びている。
「うるさいぞ。どうだった?」俺はにやけた表情を戻し、メロに状況を聞いた。
「良いのがわかりましたよ。向こうさん、大分こっちのこと警戒しすぎていますね。トラップの数や離れている距離的に、ビビってますよ。大きな魔法も使えないでいる。消耗戦か、タイムアップ狙いぐらいの慎重さです」
「やはりそうか。手応えがなさすぎるもんな。で、どうする?」
「攻めるしかありませんね。けど、裏を取っちゃいましょう」
「もう場所わかったのか?」
「ルーシュさんが飛び回っている間に、弱点を見つけておきましたよ」メロの言葉に、俺は内心で感心した。
(良い洞察力だ。俺も気づいてわかりやすいように動いていたとはいえ、期待に応えてくれるところが天才としか言いようがないな)
「それは、魔法の威力が本体に近いほど強いってことです。多分この魔法が使える人は1人。そして南の方角に向かうにつれて、トラップの形状や威力が大きいものになっています」
「俺ががむしゃらにトラップに引っかかりまくったかいもあったということだな」
「そういうことです。そして、こっちの位置を把握している以上、無駄使いを避けるためにも向こうの背後には魔法は仕掛けていないはず」
「おっけい。じゃ、隠密だな」
パチン。
俺は指を鳴らし、透明になる魔法をかけた。
「ほんとになんでもできますね」
「まぁな。でも、動いていたら背景が歪む。トラップと向こうの視線、くぐり抜けて行けるか?」
「いつもの瞬間移動みたいなやつは?」
「あれはトラップにかかる。位置がバレたら背後に行く意味がなくなるだろ。ここからが本番だ」
アーサーの決死と、メロの秘奥
「これで3人目!!」
**ドゴォォン!**と大きな音を立てて、アーサーは粉塵の中に青白い光をまといながら立っていた。
「もうダメ、限界……」
彼は3人を退場にしたが、魔力の消耗で覚醒状態の制限時間が40分にも満たず、鎧も消え失せて倒れ込んでしまった。
「後は任せましたよ、ルーシュさん」
ピコンと冷たい音が鳴る。
上空に現れる数字。前衛7人、後衛9人。
「今の音、近かったしアーサーだな。3人と相打ちか、頑張ったな」
「予定通りですね」
「あいつもなんだかんだちゃんと仕事してくれた。気合い入れたんだな」
「そうですね。では次は私達の番ですね、いっちょ行きますか」
後衛組が動揺し、焦り始める。
「どこに行った? こんな場所で見失うとは。索敵、どうした?」
「わかりません、ここら一帯にはいません!」
「良いから探せ! 見つかっても良い! こっちが攻められてたら守りきれんぞ!」
向こうは慌ただしく俺たちを探していた。
「メロ、右の2人だ。こっちの3人は任せろ」
「わかりました。僕の能力で仕留められないかもしれませんが、一応受け持ちますよ」
パチンッ。
俺の指が鳴ると同時に、敵は2人と3人に別れるように魔法の衝撃波で吹き飛ばされた。
「なんでコイツラがここに居る? いつからいた!?」
「いつまでもばれないと思ったか? ここでさよならだ」
パチンッ。
「登場は派手なんですから」
粉塵の中、吹っ飛んでいく2人を追いかけるメロ。
「チェンジア・チェーンウィッパ」
メロの武器が変形する。鎖の形をした武器が2人を絡め取る。
「上位魔法……エレキア・リブート!」
そう唱えると、チェーンを伝って青白い雷撃が流れた。捕まった2人は思わぬ攻撃に防御も間に合わず感電した。一人はその場で消えたが、もう一人は鎖を抜け出し、よろめきながらも逃げたようだ。
「くそっ、今の耐えられるのかよ!」
「これしくじったらまたなんか言われるじゃんか」
焦って追いかけるメロ。
「前衛で若いのに上位魔法だと? 前衛はおとなしく剣でも降っておけよ」
逃げてきた一人は息を整えつつ詠唱を始めた。
「みぃつけた!」メロが逃げていた一人を追い詰める。
「残念だが。お前の攻撃はもう効かない」
そこに出現したのは人一人が覆われるくらいの巨大な岩の鎧だった。
「残念だったな、ガキンチョ。この鎧は外からの攻撃を無効化する能力だ。発動したら最後、俺はこの鎧の中で自分の魔力がなくなるまで攻撃するか、耐え続けるか、どっちの戦法も取れる最強の鎧だ。攻撃して痛めつけてもいいが、他のやつがいることを考えるとこのまま最後まで生き残る方を選択させてもらう」
メロはただ立ち止まって聞くことしかできなかったが。
「すいません。もう一回いですか? 外からは誰の攻撃も受け付けないんですか?」
少し考え、メロが岩に話しかける。
「はっはっは。そのとおりだ。試してはいないが、スザクさんの攻撃でも耐えてみせるぞ」
「ならこれやぶったら僕がスザクさんより強いってことでいいんですね?」
「そういうことだ。試してはないがな」中からこもった笑い声が聞こえる。
「でも残念です。逃げ続けてたら勝てたかもしれませんのに」
「何を馬鹿なことを言っている? この状況でどうにかなるとでも?」
「ええ、実はちょっと上級魔法は反動が大きすぎてまともに使えないんですよ。けどね、攻撃を時間差に分けることによって、同等の威力が出せるように僕なりに考えて使っています」
「どういう意味だ?」
「色々条件があってね、またその相手に触れないとダメだとか、何分以内にもう一度唱えないとダメだとか、結構警戒されるんで、詠唱時間長くてめったに成功しないんですよ。でもありがとうございます」
「意味がわからん! 状況を考えろ!」
「僕はもう一度魔法を発動します。そう、あなたに直接同じことが起こります。それは外からじゃなくて中からの攻撃になります。それって耐えられます?」
「……まてまて? やめてくれ、怖いじゃないか!」
「ふふ、では耐えてみてください。エレキア・リブート!」
メロは本詠唱とともに、二重魔法を発動させた。時間と体力を消費するが、確実な方法だ。
岩の中からは、何一つ物音がしなかった。
「あれ? 不発かな? もしもし、生きてますか?」
少しすると、岩の隙間から焦げた煙が上がってきた。
「ぐはっ、お前やるじゃねぇか……」
中から声が薄っすらと聞こえた。
「だが、お前も逃げればよかったのにな……」
「うそ? まさか?」
メロが慌てて引き返そうとした瞬間、岩が内部から爆ぜるように光り、大音響と共に爆発した。




