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七度転生した大賢者、今世では剣士として無双します 〜魔法全盛の世界で剣を選んだ理由〜  作者: ねむのき 圓
10章 王【聖域】と魔王【混沌】

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闇夜の邂逅・・・解かれる封印と致命の一撃

「イザベラめ、相性が悪いと見るやあっちに行きおって……」

 魔族のゼフォロスが、イザベラの軍を抜け、ルーシュと合流した一行を前に忌々しげに呟いた。


「賢者様、ここは私と」

 ヴィニーの中に宿る王が、凛とした声で隣に立つ。


「助かります。あなた達の光魔法は魔族には有効です」

 光魔法。それは限られた血筋のみに宿る、魔族にとっての天敵。

 人間やエルフの王族が歴史の荒波を越えて君臨し続けられたのは、その特効魔法の異質さゆえであった。


「誰だか知らんが、その魔法は忌々しいぞ!」

 ゼフォロスが髑髏の杖を振りかざすと、魔物の大群が地鳴りを立てて押し寄せる。


「雑魚なら私も!」

 エルフの王族であるセレスティアもまた、魔族にとっての脅威。彼女が放つ光の余波が、魔物の群れを容赦なく浄化していく。


「何だよどいつもこいつも、訳わかんねぇ!」

 ロロだけが、急変する状況に足をすくませていた。


「どうしたゼフォロス? 逃げてばっかじゃ勝てないぞ」

 パチン、と指を鳴らす。

 瞬時に魔物が飛散し、ゼフォロスへの直線的な射線が開いた。


「《七剣グランシャリオ》!」

 王の放つ七振りの光剣が、その穴に飛び込む。


「この程度!」

 ゼフォロスはその攻撃を杖で払うが脇をかすめる光の熱だけで、その魔力が削られていく。

(足止めもきつい。あいつら、早くしろ……!)

 圧倒的不利に陥ったゼフォロスが焦燥を見せた。


 その一瞬を、俺は見逃さない。

「隙だらけだぞ」

「――パチンッ」

空間が軋み、無数の光が“落ちた”。

対魔族においては、一点突破よりも物量による飽和攻撃が有効な場合がある。


「その程度で!」

 ゼフォロスは上方に光の盾を張るが、王がその懐へ潜り込んだ。

「下が疎かだな。《光武ルクスアルマ》!」

 腹部へ叩き込まれた重い一撃。


「なに? 王ってあんな強いの?」

「知らねぇよ。戦ってるとこなんか見たことねぇ……」

 セレスティアとロロが唖然とする中、ゼフォロスが膝をついた。


「まだまだ……」

「いや、終わりだ」

 俺が背後を取る。勝負は決した――そう確信した瞬間、視界が、真っ暗に塗り潰された。


(まさか、この感覚……)

 俺はこの状況を知っている。



『やっと会えるな』

 脳髄に直接響く、悍ましい残響。

転生したあの日、世界を塗り潰した【闇夜】の中で聞いた、忘れもしないあの声だ。


『……魔王か。何が起きている』

 急激な異空間の発生。俺は前後不覚の暗闇に問いをぶつけた。


『転生してから一年。俺の動きがないことに、何の疑念も抱かなかったのか?』

 声は耳元で囁かれたかと思えば、遥か地平から響くようにも聞こえる。空間そのものが奴の魔力に同化していた。


『何を……企んでいた……』

『はははは! 企むだと? 愉快なことを。……私は、転生した瞬間に封印されていたのだよ』


 あまりに突拍子もない告白に、思考が一瞬停止する。

『……は?』


『無理もない。私という存在が音沙汰もなく潜伏しているのだ、さぞや盤面を警戒したことだろう。だがなルーシュ、私はそもそもこの世界に存在していなかったのだ!』

 狂ったような高笑い。俺は、かつての宿敵が口にした信じがたい事実に息を呑む。


『待て、どういう意味だ。転生直後の……お前を、マティアスが封印したとでもいうのか?』

『そういうことになる。私も驚いた。まさか、神器を使う者が現れるとはな』


『あの神器は何なんだ? なぜあいつが使い方を知っている……!』

『知らん。お前すら知らぬことを私が知ってるわけなかろう。……ルーシュ、あやつは何者だ?』


 魔王の問いに、冷や汗が背中を伝う。魔王すら「未知」と断じる存在が、現代を操っている。

『……この空間は何だ』


『神器の魔力と私の魔力が臨界に達し、放出される際の中間領域だ。あの神器には、お前の魔力も混ざっているだろう? だからこそ、私とお前の意識が混ざり合った。他の者にとっては、瞬きほどの一瞬に過ぎんがな』


 あの日、世界を覆った暗闇。あれは魔王の侵攻ではなく、マティアスによる「捕獲」の余波だったのか。

『内側から干渉を続け、ようやく出られると思ったのだがな……。中にいたもう一人が、実に厄介だった』


『……王か。マティアスの奴、魔王を閉じ込めた檻で暴れないように光の王族も攫った』

『さあな。光の呪縛から逃げながら1年。ようやく、この窮屈な箱もお仕舞いだ』


 マティアスの底知れぬ狂気が、暗闇の密度を増していく。

『封印は解かれた。世界は再び混沌へ堕ちる。……せいぜい足掻くがいい、大賢者』


 魔王の気配が霧散し、鼓膜に現実の喧騒が突き刺さる。視界に爆発的な光が戻った。


「ヴィニー!!」

 ロロの悲鳴が、張り詰めた空気を切り裂いた。

 振り返ると、ヴィニーが糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。王の精神が、限界を迎えたのか。


 魔王との邂逅。明らかになったマティアスの異常性。

 あまりに急激な情報の奔流に、俺の思考に一瞬の「空白」が生まれた。

 目の前に、深手を負い、死に物狂いになったゼフォロスがいることも忘れて――。


「その余裕が、命取りだぁ!!」

 絶望を食らう道化が、その隙を逃すはずもなかった。

 狙いは、倒れたヴィニーと、彼を抱きかかえる無防備なロロ。

 死に体のゼフォロスが、全魔力を注ぎ込み、呪いの髑髏杖を振り下ろす。


「しまっ……!」

 パチンッ!

 反射的に指を鳴らしたが、思考の遅れは絶望的だった。放たれた斬撃は、杖の軌道を数センチ逸らすのが精一杯で。


 ――ドゴォォッ。


 何かが壊れる鈍い音が、戦場に冷酷に響き渡った。


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