王・・・王子
大気の温度上昇に干渉するように、イザベラがさらなる魔力を引き出し、詠唱を始めた。
「隠れていようが関係ないわ」
呪詛魔法、闇の上位魔術であり、イザベラもまたその威力は超級魔法【虚無】に匹敵する。
仲間をも巻き込む攻撃の嵐が戦場を埋め尽くす。
俺は魔法の縫い目をかいくぐるように避けながら、周囲の敵を対処していく。
「これ、ルーシュがいなかったら死んでるな」
猛攻の合間に、ロロが何気なくこぼした。
「いや、セレスティアならこれは防げるはずだ」
俺は周囲を警戒しながら応じる。
「私? ……ってことは、幻影魔法ね」
光魔法の上位であり、呪詛とは相反する属性をセレスティアが理解する。
「打ち勝つのは難しいが、逃げるルートの確保はできるはずだ」
俺が指示を出す。
「ここにいましたか!」
突如、ゼフォロスが俺めがけて突っ込んできた。その衝撃で仲間と分断される。
「邪魔だな。セレスティア、みんなを守れ。すぐ戻る!」
俺は叫び、パチンと指先を鳴らして魔法斬撃を浴びせる。
「あなたの脅威は魔力への干渉、【概念】の加護付き!!」
ゼフォロスが不気味に笑う。
超級魔法【概念】――俺は生まれた時から大精霊ツクヨミの加護を得ている。
これは誰にも伝えていない秘密だった。
「それがどうした? 知っているとして何ができる。すべての魔法は俺には通用しない」
指を鳴らしてゼフォロスの魔法を打ち消し、さらに斬撃を畳み掛ける。
だが、ゼフォロスはそれを事も無げに消し去ってみせた。
「何をした?」
俺は魔法を消されたことに疑問を抱く。
「研究したのですよ、【概念】を! あなたと並ぶために!」
こいつもまた超級魔法【概念】に匹敵する魔力を携えていた。
「クソッ、模造品ごときが……サシならまだしもこんな状況で」
この状況での足止めは不味い。そう察した瞬間、イザベラの魔力が膨れ上がった。
あの女、自分の軍ごと殲滅するつもりか。俺はセレスティアたちの方へ向かおうとするが、ゼフォロスが執拗に立ち塞がる。
「どこへ行くのですか?」
ゼフォロスが俺の攻撃をことごとく塞ぐ。
「こいつ……! まずい、セレスティアたちが!」
俺はゼフォロスの妨害で動けなかった。
「ロロ様!」
ヴィニーが叫ぶ。強大な魔力の前に、ロロが怯んだ。
「ああやばい、俺たちはこんなところにいるべきじゃなかった」
ロロが強大な魔力に怖気づく。
「そんなこと言ったって仕方ないでしょ、これ絶対防げないから!」
セレスティアもその魔力に気圧されている。
「キャハハハ、生きながら朽ちてしまえ! 《終焉侵食》!」
イザベラから前方、ロロたちのいる辺り一面が魔法に覆い尽くされ、次々と灰と化していく。
「ロロ!!」
俺はその光景に絶句した。
「おやおや? 貴方がいなければただの雑魚。なぜこんな弱いものを連れているのです? 私どもみたいに使い捨てですか? あはははは」
俺の表情を見て笑うゼフォロスに、苛立ちが募る。
「ふざけるなよお前ら!」
パチンと指を鳴らし、連撃で追い詰めるが、斬撃はことごとく打ち消され、決定打を与えられない。
「こんな奴にっ……!」
状況が状況なだけに、俺の苛立ちが目に見えて強まる。
「ほらほら、こんな時はお得意の魔力感知~あれれ~? あっちには誰の魔力も……だれだ?」
ゼフォロスが魔力を探ると、そこには、さっきまでいなかったはずの者の魔力が立ち昇っていた。
「この魔力、王か!」
俺が魔力の先を見渡すと、灰となった戦場に一つ、光を放つ場所が現れる。
「ヴィニー、お前……」
ロロの目に映ったのは、イザベラの魔法を防ぎ切るヴィニーの姿だった。
「こんな大きな魔力の光魔法、あの子にはなかったわよ」
セレスティアも無事だった。
「ロロ、済まなかった。苦労をかけたな。色々と話さなければならないが、まずはあの女の軍を叩く」
ヴィニーの中にいた王の精神が表に現れる。
「この感じ、父さんか? なんで! どうなってんだよ!」
混乱するロロが叫ぶ。
「ああ。だが話は後だ。左の軍を叩き、賢者様と合流する。エルフのお姫様、手伝い願う」
王が告げ、ヴィニーの体が動き出す。
「はっ、はい!」
セレスティアが返事をする。
「ロロ、しっかりしろ。ここはお前の協力が要る。お前は私の子だろう?」
王が手を差し伸ばす。
「うるせぇ、今までどこで何をやってたんだよ! それに、俺はあんたの子じゃない。そんなの薄々分かってたんだ! 光魔法が使えない、そして『聖域』に入れなかった……俺はそこまで馬鹿じゃない。答えは一つしか無いじゃないか!」
ロロは手を振り払い立ち上がる。
「分かっている。だが、息子は息子だ。行くぞ」
王は自身の周囲に幻影魔法を纏い、左翼の軍勢へ突撃を開始した。
「早いし魔法の精度が高い……!」
セレスティアも遅れないように続く。
「くそぉ!!」
ロロも負けじと魔物の群れに突っ込んだ。
「クソ、ゴミどもめ。何が起きたか知らんが……まぁいい、あっちはイザベラに任せて。賢者様、続きと行きましょう」
ゼフォロスは改めて、俺へと向き直った。




