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七度転生した大賢者、今世では剣士として無双します 〜魔法全盛の世界で剣を選んだ理由〜  作者: ねむのき 圓
10章 王【聖域】と魔王【混沌】

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崩壊の前兆・・・王都異変

「ロロ様、戻ってきましたよ」

 俺たちが帰還したことに、いち早くヴィニーが気づき声をかけてくる。


「おい! なんで俺たちはいけなかったんだよ!」

 機嫌を著しく損ねたロロが、語気を強めて怒鳴り散らしてきた。


「詳細はわからんが……俺が『イレギュラー』だったせいで、結界に人数制限がかかったみたいだ」

 俺は咄嗟に嘘を吐く。ロロの血筋の件は隠すことにした。


「ルーシュ……」

 何かを言いかけたセレスティアを、俺は鋭い視線で制す。

「黙っていろ」――その無言の圧力に、彼女は微かに唇を噛んで俯いた。


「……ふん、まあいい。近いうちに、俺も必ず連れて行けよ」

 ロロは吐き捨てるように言い残し、背を向ける。


「それで……何か収穫はあったのですか?」

 何も知らないヴィニーが、探るように聞いてくる。


「移動しながら話す。……次だ」

 俺たちは足早に王都を離れ、ピューターにあるガゼルの隠れ家へと向かった。

 だが、扉を開けた先にあったのは、静寂という名の絶望だった。


 部屋の中はもぬけの殻。かつて叡智が詰まっていたはずの研究資料は、主要な部分が根こそぎ持ち去られた後だった。マティアスの周到さが、部屋の隅々にまでこびりついている。


「……流石に、何も残ってねぇか」

 荒らされた作業台を指先でなぞり、俺は苦々しく吐き捨てる。


「ロロ……大丈夫?」

 セレスティアが心配そうに声をかけるが、ロロは虚空を見つめたまま、石像のように動かない。


「……ああ。聖域に入れなかった理由なんて、今はどうでもいい。それより、このままじゃ……」


 手がかりは完全に途絶えたかに見えた。だが、俺にはまだ、切り札がある。

「……テオ。お前達の出番だ。何か掴めるか?」


「えっ……僕ですか?」

 テオが驚き、一歩後ずさる。


「お前には【物質】の加護がある。この場所でガゼルが何を弄び、どんな魔力を残したのか……その『理の残滓』を探ってくれ」


 俺は精霊語で詠唱を紡ぎ、その権能を強制的に引き出す。

 空間が歪み、テオの背後に【物質】の大精霊――マテリアが姿を現した。


「分かっているな……探せ!」


『えっ、ちょ、はいぃぃ!? ちょっとルーシュ、急に人使い荒くない!? おいら、まだ心の準備が――』

 マテリアが素っ頓狂な声を上げた、その時だった。


「…………っ!?」


 突如として、**肺を握りつぶされるような強大な威圧感**が、大気を震わせた。

 ピューターの街全体が、一瞬で「死」の予感に支配される。本能が、生存を拒絶するような禍々しい波動。


『……やばいよ。……ルーシュ、これ、気づいた……?』

 マテリアが窓の外を凝視する。その実体化された身体が、微かに震えていた。


「ああ、忘れるはずがない……。この魔力、聖域の神器だな。……チッ、どこまで運が悪いんだよ」

 転生してからというもの、あと一歩で真実に手が届くところで、常に先を越されている。この忌々しい既視感。


「こんな異常な魔力……何が起こっているの?」

 セレスティアも冷や汗を流しながら、後ずさりをする。


「……これは、王都の方か?」

 ロロもその瞳に険しさを宿し、空を睨む。


『……たぶんね。ここからでも視えるもの。あんなにドロドロとした『不純物』の光……ありえないわ』

 マテリアが、いつになく真剣な表情で頷く。


「完全に後手ね……! 聖域で茶を飲んでる場合じゃなかったじゃない!」

 セレスティアが青ざめた顔で叫ぶ。


「おい! ぐずぐずしてる暇はねぇぞ! すぐに戻るぞ、ルーシュ!」

 ロロが叫んだ。その瞳には、己の守るべき場所を汚されたことへの、王族としての鋭い憤怒が宿っていた。


「……ああ。全速力でいくぞ。マティアス……今度こそ、そのツラを拝ませてもらう」


 俺たちは一秒を削るように、ガゼルの家を飛び出した。

 背後にそびえる王都の上空は、すでに神器が放つ異様な「拒絶の光」に飲み込まれ始めていた。


「マティアス――ッ!」


王都郊外――神器の魔力源が渦巻く地点へと辿り着いた俺は、その名を咆哮した。

だが――

その先に広がっていたのは、想定を遥かに超えた地獄だった。


積み上がった魔族の死体。

その頂に、不遜な態度で君臨する五つの影。

それが――

【魔導の王冠アルカナクラウン】。

 そして彼らと対峙するように、さらなる魔族の影が蠢いている。


「ホントに来たよ、賢者ちゃん」

 死体の山の上で、鈴を転がすような可愛い声が響く。桃色の髪を揺らした少女――ピチが、無邪気な笑みを浮かべていた。


「あぁ……もう来ちゃった……ということは、失敗じゃん……」

 その隣で、灰色の髪を掻きむしりながら、弱気な男――セズが消え入るような声でぼやく。


「お祖父ちゃん!!」

 テオの悲鳴のような叫びが響く。

 だが、その輪の中に立つガゼルは、聞こえていないかのように冷徹に黙殺した。


「……これはこれは。お久しぶりでございます」

 『芸術家マリオネッター』メイが、ヴォイドの時と変わらぬ狂気を孕んだ笑みを、俺たちに向けた。


「……何が起きている」

 俺は、あまりにも異常な光景を前に、立ち尽くすことしかできなかった。


挿絵(By みてみん)

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