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七度転生した大賢者、今世では剣士として無双します 〜魔法全盛の世界で剣を選んだ理由〜  作者: ねむのき 圓
10章 王【聖域】と魔王【混沌】

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白の聖域・・・偽りの血筋

「ロロ、どこへ行くんだ? こっちだぞ」

 勢いよく食堂を飛び出したロロの襟首を、俺はひっ掴んで止める。


「は? 門はあっちだろ?」

 ロロが足を止め、校門の方を指さす。


「誰が外へ行くと言った。こっちだ」

 俺は親指で、背後にそびえ立つヴァーミリオン王城の巨躯を示した。


「……ここ、ですか?」

 ヴィニーが呆気に取られたように城を見上げる。


「何が『聖域に行くぞ!』よ。もう着いてるじゃない」

 セレスティアも、期待外れだと言わんばかりに肩をすくめた。


 目指すはヴァーミリオン王国、王城の最深部――。


「こんな地下通路の先に、本当にそんな場所があるんですか?」

 ヴィニーが、ひんやりとした空気の漂う石造りの階段を下りながら、不思議そうに尋ねる。


「昔、アーサーと三人でよく鬼ごっこをしたよな。懐かしいぜ」

 ロロは暗がりに目を細め、かつての遊び場を懐かしむ。


「よくこんな湿気が多くて薄暗いところで遊べるわね。肌がベタつくわ……」

 エルフであるセレスティアにとって、この閉鎖的なジメジメ感は相当不快なようだ。


「空気中にも魔力が存在する話をしたよな? 今、ミズーリが地脈を調べているが、俺が以前、無意識に魔術装置を配置した場所は、どれも特定の魔力を強固にする特異点だったらしい。ある程度、魔力操作がしやすい地域があることは分かっていたが、地脈との関係までは俺も把握していなかった。だが、忘れていた装置を繋ぎ合わせると、まさかの関係性が浮かび上がってきたんだ。それを踏まえて国王の件や光魔法を調べていたら……ビンゴだ。エルフの王族も、お前らヴァイオレット家も、例外なく光の魔力が極端に強い場所に根城を構えていることが分かった」


「……難しすぎて、頭がパンクしそうです」

 ヴィニーが目を回す。


「要するに、光の魔力が最も濃いこの場所で『聖域』に干渉すれば、最短距離で辿り着けるってことだ」

 俺は極力噛み砕いて伝える。


「なるほど。原理はさっぱりだが、近道ってことだな」

 ロロが彼なりの解釈で納得する。


「でも、それを最近知ったなら、今まであんたはどうやってその『聖域』に行ってたのよ?」

 セレスティアが鋭い疑問をぶつけてくる。


「賢者だぞ? 無理やりこじ開けて入ってたに決まってるだろ」

 俺が不敵に微笑むと、ロロが露骨に顔をしかめた。


「出たよ、化け物め」


「なら、今回も無理やり行けばいいじゃない」


「……そうはいかない理由がある。まず『聖域』は基本的に、光魔法を扱える者プラス一名しか受け入れない仕組みだ。だから、ロロとヴィニーのセット、セレスティアとテオのセットで行く必要がある。俺は出入り自由だから関係ないがな。……昔、王が聖域の加護を得ていた時代があって、その時にそんなルールを勝手に作ったらしい。王と誰かが密会するための場所として使われていた、なんて三千年以上前の古い話だ」


「生贄を連れて行ってたりして……」

 セレスティアが不吉なことを呟く。


「それで生贄を捧げなくなったから入れなくなって、今では伝説として伝わるだけになった……とか?」

 ロロも悪ノリして乗っかる。


「やめてくださいよ、縁起でもない!」

 ヴィニーが本気でビビりだす。


「セットの必要がある理由は分かったわ。でも、無理やり行かない『本当の理由』は?」

 セレスティアが核心を突くように俺を見つめる。


「…………」

 俺は沈黙する。


「おい、なんか言えよ」

 ロロがニヤニヤしながら煽ってくる。


「うるせぇ! この体じゃ、強引に扉を開けるだけの魔力が足りないんだよ!」

 俺は、隠しておきたかった情けない事実を吐き出した。


「なら『無理やり出入りしてました(キリッ)』なんて自慢するなよ、だっせぇ!」

 ロロが腹を抱えて笑い出す。


「やめてくれ、俺が一番ショック受けてるんだ。転生してもう一年経つのに、全盛期の感覚が戻ってこないんだよ……」

 俺はがっくりと肩を落とし、暗い通路を歩み続けた。


 歩くこと三十分。

「着いたぞ」

 俺は足を止めた。


「なかなか複雑ね、この地下通路……」

 セレスティアが疲れ果てた様子で、その場にしゃがみ込む。


「ここ……王族の墓地ですよね?」

 ヴィニーが、整然と並ぶ棺と厳かな石碑を見て呟く。


「やっぱ生贄説、濃厚じゃない?」

 セレスティアが冗談めかして笑う。だが、反応のないロロに気づき、彼女は首を傾げた。

「……さっきから大人しいじゃない、ロロ」


「いや……だって、俺、光魔法が使えないのに、本当に『聖域』になんて行けるのか?」

 ずっとそのことを考えていたのだろう。ロロの声は、今までにないほど弱々しく震えていた。


「何をビビってんだ。王子だろ? 魔法が使えなくたって、血筋がしっかりしていれば問題ない。門番だって、お前の血を拒みはしないさ」

 俺は努めて明るく、彼を励ました。


「そうだよな……やるしかないよな」

 ロロは覚悟を決めたように、前を向く。


「よし、行くぞ」

 俺は精神を集中し、かつて幾度となく唱えた言葉を紡ぎ始める。


~~~~~~~~~~~~~~~

**白銀に輝く浄化、我が前に『絶対防御』の境界を敷け。**

**悪意を拒絶し、不浄を排せ**

**――穢れなき『聖域アジール・ガーデン』**

~~~~~~~~~~~~~~~


 言葉が結ばれると同時に、世界が爆発的な光に塗り潰された。

 視界が白一色で満たされ、上下左右の感覚すら曖昧になる。


 ――完全な、静寂。

 音が消えた。

 風も、人の気配も、自分という存在そのものが削ぎ落とされたような錯覚に陥る。


 やがて、ゆっくりと光が収束していき、視界が戻る。

 目を開いた先に広がっていたのは――。


 【白】


 ただの白ではない。無限に続く、無機質な白銀の大地。

 足元は硬質な光で形作られており、踏みしめても足音一つ返ってこない。

 空もまた、同じ白。晴れているわけでも、曇っているわけでもない。

 ただ“そこにある”だけの、感情を排した絶対的な光の空間。


 だが、その場に立っていたのは――俺とセレスティア、そしてテオの三人だけだった。


「…………嘘だろ」

 ロロの不安が的中した。

 そんなはずはないと思い込もうとしていた最悪の事態。

 王族の血を引くはずのロロが、この空間に弾かれた。


(まじかよ……)

 あり得ないはずの事態が、目の前で起きている。

 俺は、激しい焦燥感と共に、真っ白な世界を見渡した。



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