鱗の英雄・・・世界を巻込む学園
案内された先では、リザードマンの王が、負傷した戦士たちの手当を自ら行っていた。
魔族の軍勢に攻め込まれ、防戦一方でほとほと困り果てていた……そんな重苦しい空気が、王国全体から漂っている。
「……助かった、旅の者よ。貴殿らが来なければ、この森の半分は灰になっていたところだ。聞けば……賢者だと」
王の視線が、おれに向けられる。その瞳には、感謝とともに、計り知れない存在への畏敬が込められていた。
「はい、人間側では一部の者を除き、賢者という身分は隠していますが。改めて魔王討伐の際の手助けを申し込むとともに、戦力の拡大、そして他種族間の仲を取り繕うつもりで伺いました」
おれが差し出した「学園への招待状」を、リザードマンの王は大きな手で受け取った。震える手でそれを広げ、感銘を受けたように大きく頷く。
「1500年……になるのか。我らは寿命が長いと言っても人間の倍程度。この年月の重みが、どれほど貴方に苦労を強いたのか、計り知れん」
「そうでもないですよ。1500年経っても、おれのほうが誰よりも強いみたいなので」
おれはフッと笑みを浮かべる。その余裕の態度、そして先程の魔族を一掃した圧倒的な力は、周囲のリザードマンたちにとって、何よりも強烈な「威圧」として映っていた。彼らの本能が、おれを「上位存在」だと認識し、畏怖しているのがわかる。
「そうか……。恩人の頼みだ。それに、魔王の脅威を肌で感じた今、若者に外の世界を学ばせる重要性は痛いほどわかる……。ザルガ、お前が若いやつを4人連れて行け。こっちはなんとかする」
「ハッ! 謹んでお受けいたします!」
王の言葉に、一人の若いリザードマンが進み出た。ザルガは力強く拳を胸に当て、おれに向かって深々と跪く。
ドワーフの時の二日酔い騒動とは違い、こちらは至極真っ当な「恩義」と「実力」への敬意による快諾だった。
「ザルガは20歳にして副騎士団長だ。わしの倅ということもあり特別だが、絶対に後悔はさせない実力を持っておる」
王の自慢げな言葉に、おれは頷く。
「いえ、あの戦いを見れば十分です。おれが知っているかつてのリザードマンの英雄にも劣らない実力があることは分かります」
劣勢にあっても果敢に敵陣へ切り込む姿は、士気を高める英雄として申し分ないものだった。
こうして、エルフ、ドワーフ、そしてリザードマン。
想定していた全ての種族から、「最強の五人」ずつの派遣を取り付けることに成功した。
「……これで、準備は整ったな」
おれは、遠く王都の方向を見据える。
エルフ、ドワーフ、リザードマン……多種族が入り乱れる前代未聞の入学式。
保守的な魔法至上主義者たちが待ち構える学園に、おれは史上最強の「問題児軍団」を引き連れて乗り込むことになるのだ。
「いいかお前ら、まず敬語はなしだ。学園では同じ学生、おれは17歳だからな。……あと、決闘できると言ったのは嘘だ。むやみに拳を振るうなよ」
それを聞いたバルカスが、「話が違う!」と突っかかってきたが、おれは軽くあしらう。
「徐々にお前たちの実力を人間に認めさせ、協力関係のハシゴを築く。それが、来たるべき魔王討伐への備えとなる。……1500年前は戦場だらけだったが、今の平和ボケした世の中で、お前たちの腕は鈍ってないだろうな?」
おれはみんなに目的を伝え、歩き出す。
「楽しそうな時間になるな」
エルフィは静かに、だが瞳に期待を宿して言う。
「おれより強い奴らが居るのか不安だが……暴れていい時は、とことん殺るぞ」
バルカスも、不満を抱えつつも、戦いへの渇望を隠さない。
「ただ暴れてるだけだろ、脳筋が。おれのほうが早く、確実にリザードマンという存在を世に知らしめてやる」
攻撃的な種族の副団長であるザルガも、人間との戦いには興味があるようだ。
「まって……こんな化け物たちと学ぶとか無理よ。ルーシュ、なんとかしなさい!」
セレスティアだけは、不安しか無いようで、おれの袖を引っ張る。
「まてまて。最初はおとなしくしてろよ。仲良くするために行くんだからな」
おれはそう言って、彼らを牽制した。……はずだった。
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「……ちゃんと牽制をしたんだよ、おれは。まさか、初日からあんな喧嘩を売るとは思ってなかったんだ」
おれは昔話を終え、頭を抱えて目の前のメンバーに訴えた。
「売られたのよ。一方的にね」
フンッ、とセレスティアはそっけなく言う。
「いいじゃないか、こうなったものは仕方ない。これで、我らをバカにしてくる連中はいないだろうよ」
ザルガが、勝ち誇ったように言う。
「次はいつ戦えるんだ? 人間はこんなもんじゃないだろ? もっと強い奴はいないのか?」
バルカスが、物足りなそうに聞いてくる。
「いや……こんな奴らに勝てる人間、本当にいるのか?」
ロロは、信じられないものを見る目でヴィニーに問いかける。
「お、おそらく……本当にトップクラスじゃないですか……?」
ヴィニーが、引きつった笑いで答える。
「そうだろうな。各国の次世代を担うメンバーだ。おれが選んだんだ、これくらいじゃないと話にならんよ」
おれはコイツらの評価は元々高い。
「今後の活躍に期待だな」
彼らは期待通り、実戦形式の任務も次々とこなし、後衛の多い人間と前衛の多い他種族の連携、そして何より前衛の必要性を、おれと同じように周囲に広めてくれた。
去年の最初、おれがスザクたちと戦った時期よりも、彼らの戦い方はずっと様になってきている。
その裏で。
神器を追っている【魔導の王冠】。
そして、着々と力をつけ目覚めようとしている【魔王】。
その脅威が、すぐそこまで迫っていることも知らずに――。
9章 ~完~
第9章、ここまで読んでいただきありがとうございます。
エルフ、ドワーフ、そしてリザードマン。
それぞれの種族との繋がりが形になり、「問題児軍団」がついに揃いました。
正直、この章は“準備”の意味合いが強いパートでしたが、
その分、ここから一気に物語が動いていきます。
学園という閉じた環境に、異質な存在たちが入り込むことで何が起こるのか。
そしてその裏で進む、もう一つの脅威――。
次章では、これまでとは少し違った形での衝突や、
新たな敵の気配も見えてくると思います。
引き続き、楽しんでいただけたら嬉しいです。




