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七度転生した大賢者、今世では剣士として無双します 〜魔法全盛の世界で剣を選んだ理由〜  作者: ねむのき 圓
9章 入学式と他種族

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灼熱の侵食・・・誇りを喰らう森

――朝。

 ドワーフの山脈から二週間ほど進んだ先、そこにはリザードマンの国が隠れる深い森がある。

 木々が異常なほど生い茂り、一歩踏み込むことすら躊躇わせるその場所は、彼らにとって最高の要塞だった。

 強靭な鱗は鋭い枝葉を撥ね退け、強靭な四肢は足場のない湿地を縦横無尽に駆ける。

 だが、今のその森は、彼らの誇りを焼き尽くす「熱」に支配されていた。



「……酒の匂いじゃねぇ。これは血の匂いだぞ」

 深い森の入口。案内役のバルカスが、二日酔いの鼻を動かして低く呻いた。

 その目はもはや酔っ払いのものではない。森の奥を見据える、研ぎ尖らされた戦士の目だ。


「……おかしいな。この地の魔力が不安定だ」

 エルフィが弓を握りしめ、眉をひそめる。エルフの鋭い感覚が、森の奥で渦巻く異質な魔力を捉えていた。


「……行くぞ。手遅れになる前にな」

 俺は短く告げ、森の中へ足を踏み入れる。

 ドワーフの里の「静寂」とは違う、ここは戦場の「静寂」だ。



 森のリザードの集落。そこは、無残な戦場と化していた。


「……誇り高きリザードか・・・、ここまで弱いとはな」

中位魔族の男が、嘲笑を浮かべる。

その周囲には、数百ものゴブリンやオーク、そして炎の魔力を帯びた《灰被りの魔樹》が、リザードの集落を包囲していた。


「……黙れ、魔族め。我らの森を、これ以上汚させるかッ!」

集落の中央。ボロボロになりながらも、巨大な爪を振るい、群がる魔物を薙ぎ払っているリザードがいた。


その肉体は、魔力を直接筋肉に流し込む《肉体強化》によって、鋼のように硬く、強靭な力を発揮している。だが、圧倒的な物量の前と炎系の魔物には、その誇りも風前の灯火だった。


「……死ね、リザード共ッ!」

魔族の手が掲げられ、広域殲滅魔法の術式が展開される。

リザードが、絶望に目を細めた、その時。


「――《領域防御》、展開」


 俺の声と共に、集落を覆う半透明の多面体バリアが出現した。

 魔族の放った魔法は、バリアに接触した瞬間、ガラスが砕けるような音を立てて霧散する。


「……何ッ!?」

 魔族が驚愕に目を見開く。その隙に、森の影から巨大な影が躍り出た。


「二日酔いの頭に響くんだよ、その汚ねぇ叫び声がッ!」

 バルカスだ。顔色は最悪だが、振り下ろされた槌は地を砕く。


「《剛力》――ッ!」

 衝撃波が地面を駆け抜け、数十のゴブリンが肉片となって四散した。ドワーフ王子の圧倒的な武が、包囲網に穴を開ける。


「二日酔いでよくそんな動けるわね…普通に引くんだけど」

セレスティアがバルカスの動きを見て驚愕する。


「エルフィ、セレスティア。後方は任せる」


「了解!」

 エルフィが時空魔法で魔族の時間を引き延ばし、その動きを縛る。

 セレスティアは氷の刃を振るい、後方から迫る群れを瞬く間に彫像へと変えていく。


 魔族はリザードマンの皮膚呼吸の弱点である「熱」を執拗に突き、戦場を焦がし続けていた。

「もっとだもっと来い!!」

 その原因の魔物を次々と叩くバルカス。


「リザードの弱点を狙った布陣、せこいやつらね」

「その分、我々には倒しやすい」

 セレスティアの愚痴をエルフィが弓で射抜き、俺はザルガの元へ辿り着いた。


「リザードの戦士、まだ戦えるか?」

俺は手を差し伸べる。


「ああ、誰か知らないが助かった。……魔族だけなら俺達でもッ!」

 ザルガと名乗った戦士の言葉通り、俺たちが《灰被りの魔樹》を優先的に潰すと、リザードマンたちは息を吹き返した。形勢は一気に逆転する。


「……おのれ、人間風情がッ!」

 追い詰められた魔族が、魔物たちを核にした自爆魔法の術式を展開した。

 森を灰に変えるほどの膨大な魔力が、中央で渦巻く。


「……ルーシュ様ッ!」

 セレスティアたちが悲鳴を上げたが、俺は静かに、刀身のない刀を構えた。


「――まかせろ。【ツクヨミ】」


『ルーシュ様、また久々じゃないですか!』

 不機嫌そうな少女の声。夜と月【概念】の大精霊、ツクヨミ。


『用事がないのに呼べるかよ。状況はわかるか?』

『はいはい、そうやって私をこき使うのですね。全く愛のない方です』


 不平を漏らしながらも、ツクヨミの冷たい魔力が俺に憑依する。

 目に見えぬ理、魔法の核。すべてが「視える」。


『後で話そう』

 俺は指を弾く。


「《無域》――セロ」


 パチンッ、と乾いた音が響く。

 俺が抜刀のフリをすると同時に、魔族の自爆術式を感知しすべて切り刻んでいく。


「……バカな……魔法を……消し去るだと……?」

 絶望に固まった魔族の隙を突き、ザルガの鋭い爪がその胸を深く貫いた。

 主を失った術式は霧散し、森を焼き尽くそうとしていた熱気が一気に引いていく。


「……お主たちは、一体……」

 ザルガが荒い息を吐きながら、震える声で俺を見上げた。

 その目には、敵意ではなく、圧倒的な「強さ」に対する純粋な畏敬の念が宿っている。


「俺はルーシュ。賢者だ。……急で悪いが、王と話がしたい」


 ――燃え盛る集落、この先の国は機能しているのか不安がよぎった。


挿絵(By みてみん)

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