表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七度転生した大賢者、今世では剣士として無双します 〜魔法全盛の世界で剣を選んだ理由〜  作者: ねむのき 圓
9章 入学式と他種族

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
104/116

不穏な静寂・・・戦士の格

 ――朝。

 王宮の客室で目を覚ました俺を待っていたのは、耳がおかしくなったのかと思うほどの「静寂」だった。

 ドワーフの国といえば、朝から晩まで槌の音が響き、職人たちの怒鳴り声が絶えない場所のはずだ。だが、今は風の音一つ聞こえない。


「……おかしいわね。誰も呼びに来ないなんて」

 隣でセレスティアが、愛剣の柄に手をかけながら眉をひそめる。

 約束の時間はとっくに過ぎている。エルフの鋭い鼻も、ドワーフ特有の熱気や酒の残り香を捉えていないようだった。


「裏切られた……ということでしょうか。昨夜の宴は、我々を油断させるための罠だったと?」


 エルフィが弓を握りしめ、青ざめた顔で俺を見る。

 昨夜のあの笑顔、あの活気。それがすべて演技だったとしたら、今の静寂は「包囲網」が完成した合図に他ならない。


「……行くぞ。王室だ」


 俺は短く告げ、歩き出す。

 もし本当に裏切ったのだとしたら、1500年前の恩義を仇で返すその愚かさを、骨の髄まで叩き込んでやる必要がある。



 玉座の間へ続く大廊下。

 そこにも、守衛の一人すらいなかった。

 代わりに転がっているのは、空になった酒樽と、無造作に放り出された斧。


「……ルーシュ、これって」

 セレスティアが何かに気づいたように足を止めた。

 俺は無言で、王室の巨大な扉の前に立つ。

 魔力探和を広げても、中に潜伏している伏兵の気配はない。ただ、微かに「何か」が動く湿った音だけが聞こえる。


「開けるぞ」


 俺は右手に魔力を込め、物理的な質量を持たせた衝撃で扉を叩き割るように押し開けた。

 重厚な扉が左右に跳ね、王室の全貌が露わになる。

 そこには、俺たちの想像を絶する「地獄」が広がっていた。


「お、おぇぇぇ……っ……もう、飲めん……」


 玉座からずり落ち、床に這いつくばっているのはドワーフの王だった。

 その横では、昨日あんなに凛々しかった王子のバルカスが、白目を剥いて

「ロストハンマー……最高……」

と、うわ言を繰り返している。


 そこにあるのは軍隊でも罠でもない。

 ただ、1500年ぶりの『伝説』に完膚なきまでに叩きのめされた、哀れな酔っ払いたちの死屍累々だった。


「……あ、賢者様……おはよう……ございます……」

 バルカスが震える手で俺の裾を掴もうとするが、その指先は力なく床を滑る。

 静寂の正体は、国中のドワーフが二日酔いで全滅し、声を出すことすらできなくなっていただけだった。


「……おい」

 俺は、冷徹な声を落とす。

 床に転がる王の頭を、容赦なく「圧」で押さえつけた。


「約束の時間に誰も来ないとは、いい度胸だな。……昨日の酒、あれはもう一生渡さん。残りの樽も、今この場で叩き割ってやる」


「そ、それだけは!! それだけは勘弁してくれ」

 王は玉座に座り直し言う。

 酒がなくなるという絶望は、ドワーフにとって死よりも恐ろしい拷問だ。


「なら、条件を飲め。無条件で、だ」

 俺は有無を言わさぬ口調で、用意していた書面を王の鼻先に突きつける。


「……人間との共学、王国第一学園へのドワーフの入学だ。枠は五人」


「……約束を違えたのは、我らだ」

 王は吐き気を堪えながら、それでも俺を真っ直ぐに睨み返した。


「言い訳はせん。条件は飲もう」

 その声は掠れていたが、王としての芯だけは崩れていない。


「……だが、その酒を失うことだけは辞めてくれ――我らドワーフにとって、誇りそのものを失うに等しい」

 王は震える手で、俺の差し出した書類に判を押し、そのまま空を見上げた。


 「……っ、父上……それ、俺が行きます……」

 壁に手をつきながら、バルカスが無理やり体を起こす。

 顔色は最悪。だがその目だけは、まだ死んでいなかった。


「今のドワーフで戦うなら……俺が最適だ……」

 一歩、踏み出す。

 ――その足が、震えている。

 それでも、倒れない。


「何カッコイイシーンみたいに言ってるのよ?ただの酔っ払いでしょ…」

 セレスティアが、心底汚いものを見るような目で呟いた。

 俺は深いため息をつき、エルフィを振り返る。


「……手間が省けた。すぐ準備しろよ、二日酔いははやく治せ」



 こうして、1500年前の「格」を見せつけるはずだった交渉は、「無条件降伏」として幕を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ