新大陸調査2
新大陸で見つけた初めての街の入り口らしき場所に降り立つ。
さすがに街中に降り立つのは、怖がらせてしまうと判断したのだ。
街の入り口と言っても、城壁や分厚い門がある訳ではなく、周囲を囲っている木の柵の途切れている場所に過ぎない。
その入り口の両脇に、門番らしき獣人が2人立っていた。
1人は熊らしき獣人の男で黒に近い濃い茶色の毛に覆われている。
もう一人は羊だろうか、白いもこもこの毛の中から半円くらいの曲がった角が2本生えている女だ。
違和感があるのは、熊男の方は小柄で可愛らしく、羊女のほうはかなり大柄で鍛えられた筋肉が革鎧を着ている感じだ。
突然空から降りてきた巨大な銀竜を目にして、2人は完全に怯えてしまっている。
熊の方は腰が抜けてしまったのか、へたり込んでしまっていた。
「突然すまない。我は竜神シルヴェストル。創造神からの頼みを請けて、南の大陸からここに来た。ここの長はいるか。」
「りゅ、竜神様ですか。すぐに長を呼んで来ます!」
正気を取り戻した羊の獣人の方が、慌てて街の中へ走っていく。
熊の獣人の方はまだ動けないようだが、気を失っていないだけマシだろう。
やがて、羊の獣人が似た姿の老齢の男性獣人を伴って戻ってきた。
毛と角が少し違うので、山羊か何かだろう。
「儂はここラバノ村の村長をしているフィデルと申します。ランメルス大陸から来られたと聞きましたが。」
「村長自ら足を運んでもらってすまないな。我は竜神シルヴェストルと言う。創造神アスシアルフからこの大陸の調査と、ランメルスとの交易ができるかの確認のために来た。」
そう答えると、竜のままでは話しにくいだろうと人化すると、村長や見物にきた村人たちに驚かれてしまったが、これできちんと竜神だと理解してもらえたようだ。
「竜神様でしたか。この村は、かつて南にあるランメルス大陸にいた獣人が、帝国からの迫害を避けるために命を懸けて海を渡った者の子孫の集まりです。西の山脈の方には同じく逃げ延びたドワーフ達がおりますし、ここから北の方にあるいくつかの村にも、獣人と魔族が集まっております。」
確かに帝国の奴隷制度は、人族以外には苛烈だ。
過去にはもっと酷い扱いを受けていた時代もあったのかも知れない。
「今は勇者レオナルトにより帝国もなくなって統一され、人族以外だからといって差別されたり、奴隷に落とされる訳でもない。ランメルス大陸と交易をするなり、移住するなりできると思うぞ。逆に向こうからこちらへの移住希望者も出てくるだろう。」
「そのような事になっていましたか。しかし、この村で最高齢の儂でもこの地の生まれですので、移住希望者はそれほどいないかも知れませんな。」
「無理にする必要もなかろう。こちらに働き手がいなくなっては、交易もできなくなってしまうしな。」
それでも、ランメルスには移住により名をあげたい冒険者や商人もいるだろうし、向こうの孤児の中でも希望するものをこちらに連れてきてもいいかも知れない。
そのままフィデル村長から、この大陸の特産品を聞くと、この村の周囲では芋やカカオ豆らしきものが、ドワーフの住んでいる辺りでは鉱山からの鉄や霊銀とコーヒー豆らしきものが特産になっているようだ。
そして、北の方では水が豊かな所では米がとれるらしく、水はけがいいところでは豆も栽培しているらしいので、大豆もあるかも知れない。
ただ、それらは魔物が弱い南側と東側の海岸付近に限られる話で、魔物が強くなる内陸部や西側がどうなっているのかは、住んでいるものがいるかも含めて分からないとのことだった。
とりあえず、フィデル村長に頼んで、手持ちの小麦や魔物の肉と、村で取れたカカオ豆を交換してもらった。
そして、ランメルス大陸との交易が成った際には、玄関口として港を整備したいと頼んだが、そのような資材も労働力も足りないとの事だったので、それはシルヴェストルが整備するということで了解をもらえた。
ここで知りたい情報は得られたので、集まって来ていたこどもたちにシャルデの街中で買ってきた焼き菓子を分けてあげ、フィデル村長に礼を言ってラバノ村を後にした。
人化したまま宙に浮いた際に驚かれ、そこから竜化した際に更に驚かれてしまったが。
◇ ◇ ◇
シルヴェストルは、獣人や魔族が住んでいるという北に向かって進路を取ったが、特に街道のようなものもないので、なんとなくで進むしかなかった。
港湾の整備をした後は、街道も少し整えないといけないかも知れない。
平原と森の繰り返しをいくつか抜けた後に、シルヴェストルの視界に映ったのは田んぼだった。
水が張られた田んぼには、青々とした稲が育っている。
シルヴェストルは、日本にいた頃は都会育ちだったが、田んぼを見た事がないほどではない。
まだ小さな子供のころだが、母の実家に帰った際には、カエルやザリガニ取りをした事もあるし、稲刈りが終わった後の田んぼで凧揚げをしたこともある。
そんな少し懐かしい風景の中に、ラバノよりも少し大きな町があった。
同じように入り口の付近にゆっくりと降り立つと、門番をしていた魔族の青年に声をかけ、同じように長を呼んでもらう。
「ソリア村の村長、ジュストです。竜神様でしょうか。」
「ああ、先触れもなく突然来てすまない。我は竜神シルヴェルトと言う。相談したい事があるのだがいいだろうか。」
会話がしにくいので竜の姿から人化すると、立ち話も何なので、と村長宅に招かれたので、そのまま村長の屋敷まで案内される。
屋敷と言っても、一般世帯のものに応接用のスペースが足されただけで、特に大きなものでも豪華なものでもなかったが。
村長宅で出された紅茶を飲みながら、南大陸に米と大豆を輸出できないか相談すると、輸送を担ってくれるのであれば出す事は問題ないが、今の生産量ではそれほどの量にはならないとの事だった。
シルヴェストルの力をもってすれば、開拓も簡単に行うことも可能だが、そこまでの介入はよくないと考えていたので、南大陸から入植者を連れてくることを相談してみたが、問題ないようだった。
このソリア村では魔族と獣人が住んでいたが、特に人族を嫌っている訳でもないので、人族でも問題ないそうだ。
ここでエルフが出てこないのは、基本的に森に引き籠っていて出てくることがないため、来るはずがないだろうという共通認識があり、実際にそれが正しいからだった。
大豆も、村で育てている豆を一通り見せてもらうと、その中に枝豆があったのだが、それほど数を育てているわけではないし、連作障害があることが分かっている作物だったため、大幅な増産は難しいという事だった。
そこで、南大陸で育てられないか試すために大豆の豆と苗を分けてもらう代わりに、南大陸の小麦の種を渡すことを提案してみたが、問題なく受け入れられた。
以前はここでも育てていたらしいのだが、一度病気でやられて絶滅してしまったのだそうだ。
小麦と大豆で輪作ができることは元から分かっていたので、ソリア村としても小麦が手に入るのは大歓迎なのだそうだ。
シルヴェストルのストレージの中にも、小麦の種はたっぷりと入っていたので、そのまま出して渡してやると、驚かれるとともに大喜びされた。
その後、ラバノ村との間の街道整備などについて相談した後、魔物の肉と交換に米を手に入れると、転移でレオナルトの所まで戻っていった。
◇ ◇ ◇
「シル、これは本当に米が手に入ったのか?」
「まだ精米していないが、ちゃんと米だろう?」
執務室で仕事をしていた、と言うとかっこいいが、実のところはフェリシーユとアンナマリアから色々と教わっていただけのレオナルトは、解放されるという意味でシルヴェストルの来訪を歓迎した。
そのシルヴェストルが取り出した種もみを見ての反応だ。
「精米か・・・魔術ではできるだろうけど、一般に広めるには何か機械がないと厳しいかな。」
試しにレオナルトが魔術を使うと、種もみが一掴みほど浮き上がり、くるくると竜巻のように回転しだす。
やがて、もみ殻が取れ、胚芽部分も取れるとともに、少し磨かれて白くなってくる。
レオナルト達であれば、一掴みと言わず、何トンでも同時にできるだろうが、王族だけがそれをできるという状態はよくないだろう。
「神域に行ったときにアスカに聞いてみよう。」
「お願い。あと、日本酒とか醤油とかの作り方ももらえると嬉しいかな。麹はどうしようか。」
「麹は俺がどうにかしよう。麹は結局のところカビだから俺の権能の管理範囲でどうにでもなると思う。」
「さすが、神様ともなるとチートが半端ないね。」
レオナルトはチートと言っているが、竜神の権能は当たり前だが竜神になったから使えるようになったもので、転生により与えられたチート能力ではない。
ただ、その辺りはレオナルトも分かって言っているし、なんだかんだ言ってレオナルト自身もそのチート能力に助けられた結果、今の自分がいることも分かっているのだ。
「船と港は大丈夫そうか。向こうの港は俺が力技で作ってくるが。」
「あまり神様が力を振るうのはよくないんじゃないの?」
「創造神様からの依頼だし、その程度なら構わんだろう。」
シルヴェストルもあまりよくないことは分かっているが、創造神アスシアルフことアスカからのリクエストなのだから仕方ない。
「港はテスカーラは海から遠いから、やはりチェナートに作ることになったよ。それでも海からは少し離れているけど、人工的に入り江を作ってそこに港を作ろうかなと。」
結局、シルヴェストルがラバノ村でやろうとしたことと同じことを、レオナルトがチェナートでやることにしたようだ。
「港はそれで大丈夫か。船は足りるのか。」
「とりあえず今あるものでお試しかな。一ヶ月は航行できるものだから、片道10日から15日なら大丈夫そうだしね。あとは航海中にどの程度魔物が出るか、かな。」
「船上から海中の魔物を相手にするのも、空中の魔物を相手にするのも、どちらも難しいからな。手練れでもなかなか対応しきれない可能性がある。」
「かと言って、毎回僕らが付いていくわけにも行かないからね。」
ここにいるレオナルトとその妻たちは、王位を継いだ後も隙を見つけては位階上げをしており、その強さはまさに人外の域に達していると言っていい。
そんな彼らであれば対応することは問題ないのだが、レオナルトが言うように毎回航海についていく訳にはいかない。
国主導にせよ、民間主導にせよ、一般人の手でそれができるようにならないといけないのだ。
「それは移住希望者の件とあわせて、冒険者ギルドや商業ギルドに相談してみるよ。」
「では、その辺りは任せるとしよう。何かあったら呼んでくれ。」
そう言うと、シルヴェストルは執務室のソファに座ったまま転移をしていく。
早く身重のリズの元に帰りたかったであろうことは、この場にいる全員が理解していた。
◇ ◇ ◇
「ただいま、というのも変か。」
「シル様、お帰りなさい。」
「おー、銀次さん。無事で何よりだよ。どうだった?」
「米と大豆は手に入れてきたぞ。試してみるか?」
そう言うと、もらってきた米と大豆を少しずつ出す。
「おお! 早速といきたいけど、大豆から醤油と味噌を作らないといけないから、いま何を食べるか悩むよね。」
「日本酒と醤油、味噌の作り方を羊皮紙にまとえておいてくれ。またレオに渡しておく。調べられるんだろう?」
この創造神は、どうやっているのか知らないが、地球の情報にアクセスができるようなのだ。
残念ながら教えてくれないのは、シルヴェストルの権能では実現できないのだろう。
「しかし何を作るかな。大抵の定食やどんぶりには、醤油が関わってくるからな。」
「じゃあ、カレーとかどう?」
「カレーならこちらのスパイスでもなんとかなるな。やってみよう。」
そう言うと、米を魔術で精米して洗うと、土鍋を取り出してそれを火にかけておく。
また、魔物の肉や野菜を取り出し、それをパパっと刻むとスパイスと一緒に炒め、水などを足してルーにしていく。
それらを、調理器具を使わずに魔術で済ませていくのは、傍から見ると異様だろう。
そして出来上がったカレーライスを口に含んだシルヴェストルとアスシアルフが、涙を流しながら味わっているのを不思議そうに眺めるリズがいた。




