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新大陸調査1

 シルヴェストルは、悠然と大海原の上を飛翔していた。


 何も考えずに飛んでいるように見えるが、後から船での移動をする際の事を考えて、方角を一定に保ちつつ速度も一定になるよう気を付けているのだ。


 それはつい先日、神域でのアスシアルフからの依頼によるものだった。


「もう一つの大陸までの航路か。」

「ええ、人間の船でも問題なく辿り着けるはずなんだけど、いきなりそんな事をやれと言われても難しいでしょ。」

「それで、俺がだいたいの距離や方角を調べて伝えればいいのか。」

「うん、そんなところ。」


 リズが妊娠したため、いまは神域で生活をしているのだが、ある日のお茶の席で唐突にアスシアルフが言い出したのだ。


「リズの側についていたいんだがな。」

「ここにいてもする事もないでしょ。」


 アスシアルフの言う通り、特にシルヴェストルがすることもないのも確かなのだ。

 人間であれば、妊娠中の行動には大きな制約が付くため、周囲の世話が必要にもなるが、リズはハイエルフでもるが精霊神でもあるため、何でも自身の魔術でどうにかなってしまう上に、同じ女性であるアスシアルフも面倒を見ているので、男親である上に竜でもあるシルヴェストルがするべきことは特にないばかりか、心配してやたらと構ってくるので(むし)ろ邪魔なくらいだった。

 そのため、リズとアスシアルフが相談して決めた『お願い』が、新大陸の航路調査だった。


「わざわざその大陸に行く意味はあるのか?」


 シルヴェストルが言うように、元々彼らがいたランメルス大陸は、政情的にも経済的にも魔物的にも安定しており、わざわざ別の大陸まで人間が足を伸ばす必要は、ないと言えばないのだ。


「国というほどの規模はないけど、そっちの大陸にもエルフや獣人が住んでるのよ。未開の土地も多いから、銀次さんの住む場所を決めるにもいいんじゃない?」

「たしかに、閃光城は本来クラウ・ソラスの居城だから、いつまでも居座るのもよくないとは思っているが。」


 シルヴェストルとリズの夫婦は、竜神と精霊神であるので、人間の街中に住むには色々と問題が多い。

 そのため、シルヴェストルが閃光竜だった頃の居城である、ピラート山脈の中にある閃光城に世話になっているのだが、既に次代の閃光竜であるクラウ・ソラスが生まれており、彼の居城であるべき場所なのだ。

 今代(こんだい)のクラウ・ソラスは、シルヴェストルが生んだ卵から(かえ)っているのでシルヴェストルの息子とも言えるのだが、閃光城で世話になるのは息子に養われているような気分であり、シルヴェストルとしても申し訳ないとは思っていた。

 当のクラウ・ソラスはまだ幼い竜であり、シルヴェストルと一緒にいることに対して特に問題とは思っていなかったのだが。


「あとね、そっちの大陸には米と大豆があるのよ。」

「なんだと!」


 シルヴェストルとアスシアルフは、日本からの転生者であるので、米、醤油、味噌、日本酒といったものに対して郷愁の想いはあるのだが、こちらの世界では流通していない。

 アスシアルフが、職権濫用ではないかと思える秘密の手段で、多少手に入れることが出来ているのだが、日常使いができるほどの量ではない。

 だが、そちらの大陸から米や大豆が安定供給ができる、または種を持ち込んで生産できるようになれば、値段はともかくとして、容易に手に入るようになるかも知れない。


「分かった。何とかできないか、レオナルトと相談してみよう。」


 故郷の味のために、すぐさま転移をしていったシルヴェストルに、リズは苦笑するしかなかったが、こちらの世界の生まれであるリズに理解できなかったのも仕方ないのかも知れない。


 シルヴェストルは、テスカーラにいたレオナルトの所に行き、『米と大豆の調達計画』を相談し、まずはシルヴェストルが飛んで大陸を探すことになったのだ。

 なお、計画などと(うた)っているが、たんなる行き当たりばったりである。

 そのせいで、主にフェリシーユとアンナが、北大陸との貿易港の整備計画という一大事業を進めなければならなくなったのは必然ではあった。


 その後、シルヴェストルは一度チェナートまで飛び、そこからまっすぐ北に向かって飛んでいるのだ。


 この世界の流通は、陸路を使った馬車がメインだが、大型船をつかった海路での輸送も行われていた。

 メインとして使われるのは帆船(はんせん)だが、魔法の世界でもあるので風魔法と水魔法を使うことで、地球の大航海時代よりは安定して高速な航海ができるのだが、コストが高かった。

 丸に近い形状の大陸のため、海路はどうしても遠回りになるし、帆船の建造・維持費も、魔法使いを雇う人件費も高かったのだ。


 シルヴェストルは、そんな帆船の平均速度である20km/hの20倍である400km/hで飛行をしている。

 本気を出せば音速の数倍までは出せるのだが、速度が安定しないため大陸間の距離が測りづらいからだ。


 わざとゆっくりと飛んでいることで普段より精神的に疲れる上に、周囲は何もない大海原のため、かなりの苦痛だったが、五刻(10時間)を超えたあたりでやっと大陸が見えてきた。


 見えているのは、まだ海岸線に広がる砂浜と磯浜、そしてその奥に広がる森だった。


 シルヴェストルは、そのまま正面に見えていた砂浜に降り立ち、周囲の気配を探るが、魔物として感知できたのはウルフやボアといった弱いものだけだった。


 気候的ににも、魔族領よりも少し暑いため、熱帯に相当しそうだ。

 米や大豆を探すのであれば、もう少し暑さがおさまるところまで行かないといけなさそうだ。

 ただし、熱帯という事は探せばカカオ豆やコーヒー豆も見つかるかも知れない。

 一区切りついたら、ゆっくりと探してみるのもいいかも知れないが、とりあえず今はこちらの大陸に住んでいる人を探すのと、米と大豆だ。


 再び飛び上がると、大きく高度を上げて周囲の様子を見てみる。

 西の方に高い山が、東の方には森のうしろに平野が広がっており、河も流れていそうだ。


 人がいるなら水が手に入るところだろうと、シルヴェストルは高度を下げると東へ向かって飛翔していく。


 海岸線は緩やかに北に向かっているので、海岸線に合わせて進路を修正していく。

 たまに森の中からソニックバードのような魔物が飛び出してくるが、空気を圧縮した弾丸を撃ちだして追い払いながら進んでいく。


 やがて森が途切れると、草原が広がっており、その中を大きな河が流れていた。


 その河沿いに海から少し遡ったところに、人口の建造物のようなものが見えたので、そこに向かってゆっくりと飛んで行くことにした。


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