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魔神消滅

 シャルワリエ王国の王都シャルデ、そこは帝国との戦争準備でおおわらわであった。

 レオナルトに頼まれ、魔族領の魔都テスカーラから騎士1,000人を転移させたり、同じくレオニーナと獣人領の実質的な首都であるウォルジーからも、100人の猛者を追加で転移させたりと、シルもそれなりに忙しかった。

 なお、リズの故郷であるエルフの森にも一応行ったが、エルフの森には軍が存在しないため、各氏族からの若い有志30人ほどが参加したのみであった。

 ただ、エルフは魔力が高く魔法が得意であるため、たったの30人とは言え全員が下手な宮廷魔導士より戦力になる者で、王国軍には心強い援軍となった。


 翌朝には、13,000の王国軍はシルの転移で出立していた。

 帝国軍が20,000と数で多く、広い場所で戦えば包囲殲滅される恐れがあるため、戦場があまり広がらない場所で接敵するのが望ましいが、ちょうどよい立地を今日明日にも帝国軍が通過しそうだったからだ。

 出立といっても、王都シャルデを出たところで陣を展開し、それをまるごとシルにより転移するだけだった。


 数km先と言う、目の前に陣が突然展開された帝国軍は、斥候の意味もなくなり、多少の混乱は見られたが、すぐに整然と戦闘に入る準備に入ったのはさすがであった。


 一刻ほど後に戦端が開かれたが、緒戦は互角であった。

 数の利を活かせない場所を王国軍が選んだため、どうしても実際に戦闘に参加できる人数は限られ、戦闘は膠着気味であった。


 実際には、精強な帝国軍が有利に進む事が多かったが、王国軍が崩れる前にレオナルトが来て広範囲に魔術での攻撃をばら撒くことで帝国軍を押し返し、その隙にフェリシーユが広範囲回復をかけて立て直すのだ。


 転移で突然現れ、空中を飛びながら魔術で脅威をもたらすレオナルトは、王国軍からは勇者と、帝国軍からは魔王と呼ばれていた。


 シルとリズ、ミュルグレスは戦争には参加しないでいた。

 とは言え、ただ眺めていた訳ではなく、王国軍の周囲にいる魔物を倒すことで、突然の魔物襲来による被害を抑えていた。

 また各地を飛び回り、市中で生活に影響が出ない範囲で物資の調達を行い、シャルデからの物資と合わせて王国軍に運ぶといった輜重(しちょう)代わりの事もしていた。


 戦況としては一進一退、被害としては帝国軍が多めという状態で、開戦から5日目のこと。


 突然状況が動いた。


 戦闘をしている最中(さなか)、両軍の陣の中に突然悪魔や魔物が現れるようになったのだ。

 それらは、上空で監視していたシル、リズ、ミュルグレスによりすぐに倒されたが、その異様さに両軍を一時退く事になった。

 両陣営とも、(にら)み合いを続けながらも警戒をしていると、陣の西側の山の方から魔物の群れが押し寄せてきた。


 悪魔に寄り率いられた魔物たちは、両陣営に雪崩(なだれ)を打って迫ってきたが、王国軍側はミュルグレス、帝国軍側はシルがそれぞれ広範囲殲滅魔術により次々と倒されていった。

 両竜の討ち漏らしは、中央部に控えていたリズが、次々と神弓により屠っており、それからも漏れたものは、両軍により倒されている。


 しかし、押し寄せる魔物の数は更に増えており、範囲が広がりすぎてシルとミュルグレスでも抑えきれなくなてきたため、シルは7体の大天使を、リズは7体の大精霊を召喚し、戦線に投入した。


 襲い来る強力な魔物の群れに怯んでいた両軍だが、光り輝いた姿で魔物を滅ぼしていく神の使いの姿と、伝承でしか聞いたことのない大精霊達が守ってくれているのだと理解すると、自らの不甲斐なさを恥じ、士気高く魔物を相手に戦闘を開始する。

 当然だがレオナルトやブリュナールも王国軍の先頭で奮戦しているため、王国軍側の方が魔物を押し返している。

 漏れてくる魔物自体は少ないが、魔物自体が強力なものばかりで、帝国軍も奮戦しているが苦戦気味だ。


 フェリシーユが回復のために少し前に出てきたところを狙ったかのように、山頂の方から魔力の塊が放たれる。

 シルは竜障壁を魔力弾の射線上に展開するが、強力な魔力弾なのか障壁は然程もたずに破られる。

 破られたところに障壁を張りなおすのを4回ほど繰り返すと魔力弾は消失した。


『怪我は大丈夫なのかい、お坊ちゃま。』


 シルは魔力弾が来た方角に向かって煽る。


「ふん、見た目でこども扱いとか。ボクよりお前のほうがこどもだろう。」


 山頂から浮遊しながら降りてくるのは、魔神メルキオーレだ。

 フォリナリスに吹き飛ばされた腕と脚は、治っているように見えるが実際はどうか分からない。


『いや、外見じゃなくて精神年齢なんだけどな。自分の我儘(わがまま)が通らないと暴れるおこちゃまだからな。』


 煽られたからか、怪我がまだ完治していないからか、不機嫌そうなメルキオーレを更に煽る。


「我儘なんかじゃない! ボクは世界のために!」


 向きになって反論してくるあたり、堕ちたことで精神年齢まで本当にこどもになったのかも知れない。

 ただ、力を持ったこどもは性質(タチ)が悪い。


「そうやってすぐ向きになるからおこちゃまなんだろうに。気に入らないから全部滅ぼす、これのどこが世界のためなんだ?」

「五月蝿い! いちど人間を滅ぼしてアスシアルフにもっとまともな人間を作り直してもらうんだよ!」


 キレてしまったようだ。

 元々、メルキオーレの主張はおかしいので何も変わっていないが。


 キレたメルキオーレは、魔力弾を無作為にばら撒きだした。

 シルは、両陣営の方に飛んでいる魔力弾を、一つずつ同じ魔力弾を当てるか、障壁で打ち消していく。


 その間に、シルは白黒の二刀を取り出し、さらにその分体を作り出してそれを宙に舞わせ、魔力弾の対処の足しにするとともに、メルキオーレに向かっても魔力のブレスを飛ばす。

 メルキオーレは器用に、しかしぎりぎりのところで回避を続けるが、攻撃に回す余裕がなくなったためか魔力弾が減り、結果として自身を狙う分体とブレスが増えて追い込まれていく。


「くそっくそっ! 竜王のくせに生意気だ!」

『残念だったな坊主。すでに竜王は引退済みだ。』

「なに! 竜王でもないのになんでボクにこんなことができるんだ!」

『竜神だからだよ。そうやって相手を舐めてかかるからこうなる。』


 メルキオーレは悔しそうに唇を噛みしめている。


「そんなの聞いてない!」

『そりゃわざわざお前に言う必要ないしな。』

「うるさいうるさい! そんなことボクは認めない!」

『お前に認めてもらう必要はないし、アスシアルフに認められた、と言うか請われて竜神になったんだしな。』

「嘘だ嘘だ嘘だ!」


 回避も余裕がなくなってきたのか、メルキオーレに被弾が増えて少しずつ傷が増えていく。

 左手はだらんと下がったままなので、やはり癒えていないのだろう。


「くそ、覚えてろよ!」


 メルキオーレは叫ぶと、魔術を発動させようとする。

 しかし、何も起こらず肩を射抜かれてよろめている。


「何をした!なんで転移できない?」

『そりゃ、逃げられないように転移防止結界くらい用意するよ。』

「くっ・・・。」

「もう諦めたらどうですか? 悪魔も魔物ももう終わりですよ。」


 リズがこちらに向かってきながら、メルキオーレに言葉を投げかける。

 地上の方の魔物掃討は、大方片付いたようだ。


『久々に暴れて、妾もすっきりしたのじゃ。』


 ミュルグレスはご機嫌だし、心なしか艶が増したようだ。


「みんな死ねっ!」


 メルキオーレが突然叫ぶと、最後に力を振り絞ったのか今までにない数の魔力弾を一斉に放つ。

 障壁と二刀の分体によるブレスを全力で使い、魔力弾を打ち消していくが間に合わず、幾つかが両軍の中に届き、炸裂してしまう。


『いい加減にしろ!』


 シルが純粋な魔力でできたブレスをメルキオーレに向かって放つ。

 もう避ける余力もないメルキオーレは、それをまともに全身でくらい、消滅していく。


「・・・まぞ・・・く・・・た・・・の・・・」


 言い切る事無く、メルキオーレは魂まで完全に消滅する。


『終わったようなのじゃ。』

『ああ、これでもう変な気を起こす奴はいないだろう。』

「お疲れ様でしたわ。でも、戦争の方をどうにかしませんと。」

『ああ、そうだな。』


 シルは両軍の中央に向かって移動していく。


『両軍とも控えよ。魔物どもを使って襲わせた魔神は、竜神である我が討ち滅ぼした。今日は双方とも退き、明日両者の代表同士での話し合いとしたいが如何か。』


 無論、魔神を滅ぼした竜神に意見できるものなどいるはずもなく、両陣営とも大人しく退き、陣の立て直しにとりかかっていた。

 その間、シル、リズ、ミュルグレスの3者は、のんびりとお茶や食事を楽しんでいた。


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