神界の迷宮
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「また来たのー? ほんと忙しない人達ねー。」
「早く位階を上げろと言ったのはお前だろ、アスカ。」
「そっか、迷宮に来たのね。頑張ってねー。」
「ああ、行ってくる。時間の流れは最低限にしておいてくれ。魔神に来られると困る。」
「フォリナリスの一撃で、けっこう魂にダメージ入ってたから、そんなすぐには来れないと思うよ? とりあえず、ここで体感1年いても人界での半刻くらいにしてあるから、好きなだけ迷宮で遊んできなさーい。」
シルはアスカに背を向けたまま手をヒラヒラとさせただけで迷宮に向かう。
リズはペコリと頭を下げて、すぐにシルを追っていく。
「いいなー、いい男落ちてないかなー。」
仲睦まじい2人を見て、羨むアスシアルフだが、神界から出られない上に、神界に来ることができるのは神格を持つ者のみなので、出会いの確率はほぼゼロなのであった。
◇ ◇ ◇
神界にある迷宮は、今までに入ったものと異なり、中は明るく清浄な雰囲気であった。
石造りの洞窟風なのは相変わらずだが、雰囲気が異なるため厳かな神殿のようだ。
そんな1階層に出現する魔物は、ゴブリンだった。
見た目は通常のゴブリンだが、名前はデウスゴブリンとなっていて、位階が200もあった。
魔物中でも能力値がかなり低い方であるゴブリンなので、位階が200あっても所詮は雑魚だったが、これが基礎能力が高い魔物や上位種、さらには竜族等が出てくれば、さすがに2人でも苦戦することになるだろう。
また、階層の広さも相当なものだった。
シルが竜のままでも動き回れるほど広い通路だが、それでも50km四方程度の広さともなれば、探索にかかる時間も多くなり、出現する魔物の数も多かった。
500m四方の部屋の中に、1万匹以上のゴブリンがひしめいているのは、絵面もひどい事もあり、精神的なダメージの方が大きいかも知れない。
もっとも、その程度ならシルのブレスでも、リズの魔術でも一瞬で片付けてしまうのだが。
位階だけは高い雑魚を大量に殲滅しているので、シルとリズの位階は順調に上がっていった。
階層主も、デウスゴブリン・ファイターだったので、特に問題なく片付けられた。
しかし、ボスのいる1km四方程度の広い部屋に、デウスゴブリンファイターが20匹いて、それぞれが40体程度のデウスゴブリンを連れていたし、通常のデウスゴブリンは倒してもすぐに出現するようになっていた。
階層主で出現した木箱もバカみたいに大きく、神金が大量に入っていた。
2階層は、いきなり30km四方の森となり、昆虫型のデウスホーネットとデウスビートルが群れを成していた。
また、木に擬態したデウストレントもいて、かなりの遠距離から枝で作った矢や槍を飛ばしてきたり、昆虫型魔物をけしかけたりしていた。
木も高さが100mほどはある上に、破壊不能とまではいかないものの、シルが本気で何発も殴ってやっと倒れるほど頑丈なため、魔物の群れを範囲攻撃で一掃することができず、時間をかけて各個撃破する必要があった。
シルは自分の名を銘とする刀剣を作り出すことができるようになっていた。
それは、白地に青の線が入った大きな直剣と、黒字に赤の線が入った曲刀の2つで、属性を持たない魔力を纏うことができる。
二剣を覆う属性を持たない魔力は、属性がないがゆえに純粋な破壊力として働き、触れるものを簡単に斬り裂き、破壊することができた。
またクラウ・ソラスのように分体を作り出して操ったり、ダインスレイフのように大きさを変えたりすることも、意のままにできる上に、まとっま魔力をブレスのように放つこともできた。
リズの持っている神弓フォルナリスも、リズの魔力により更に大きく華美となり、威力も増大していた。
矢なしでつがえても、30本程度の魔力の矢を放つことができ、それらは直進だけでなく弧を描いたり鋭角に曲げることもできた。
2人の得物は、間違いなく神器として成長し、消費魔力もほとんどなく魔物を殲滅できるようになっていた。
大木が邪魔で殲滅に時間はかかるものの、順調に探索を続けた2人が見つけた階層主は巨大なトレントだった。
デウスグラントトレントと言う名のトレントは、全長が50mほどあるばかりか、その太さは直径が10mほどもあり、上部の1/3くらいに茂っている枝葉からは、これも直径1mほどもある実を飛ばしてきた。
その実は硬いばかりではなく、爆発するものや炎上するもの、破裂して散弾のように種子をばら撒くものがあり、それらがひっきりなしに飛来するため、いちいち撃ち落とす必要があった。
また、その幹も鋼鉄より硬い上に、近くを飛空している昆虫型魔物を捕食してその傷を回復させてしまうという厄介さも持っていた。
もちろん、昆虫型はどこからともなく無制限に湧出してくる。
2人は役割を分担し、リズが昆虫型魔物と実を弓で射落とす役を、シルがトレント本体に攻撃を仕掛ける役とした。
リズの方は、最初は大変だったが、一度大量にいる昆虫型を殲滅してからは、追加される魔物と実を打ち落とすだけなので、だいぶ楽になった。
とは言え、秒間に10以上の矢を射続けるのは生半可な事ではないが。
シルの方は、白黒の二刀を振りかざして幹を斬っていくが、硬いため少しずつしか斬撃が入っていかない。
ひたすら幹を斬り続ける作業は、精神的につらいものがあったが、四半刻ほどで切り倒すことができた。
出現した箱には、小さな苗木が入っていたが、世界樹の苗木と鑑定結果が出た。
これを使えば、地上に世界樹を戻せるかも知れない、ということでこれは大事に持ち帰ることになった。
◇ ◇ ◇
3階層は、空中だった。
迷宮の中で空中とか意味が分からないが、階段の先には何もなく、大空が広がっていた。
見回すと数km先に、いくつか地面が島のように浮いているが、その下には地面や海面のようなものは見えない。
試しに竜巻を上下に撃ってみたが、どちらも数kmは続いているようだった。
出現する魔物は当然飛行タイプで、デウスキラーホーク、デウススカイイーグルといった猛禽類型のものや、デウスハーピーといった飛行可能な人型に近いものだったが、これが平面ではなく立体、つまり上下にも出現するので量が半端なかった。
倒した際の素材が落下するのでは、という懸念があったが、なぜか倒した位置で素材や魔石が浮遊していた。
原理は分からないが、拾いに行かなくて済むのは助かったのは事実だ。
次の階層への階段があるのは恐らく浮島だろうと、浮島を確認しにいくと、そこには魔物の巣があり大量の魔物に囲まれる事になった。
この階層の魔物は、瞬間的な素早さが非常に高く、シルのレーザーすら躱すことが可能だった。
リズの矢は追尾ができるため問題なかったが、いちいち回避されて苛立ったシルは、点ではなく面での攻撃、つまりどう回避しようと必ず当たるという物量によるごり押しという戦法を取った。
リズも呆れるような、大量のレーザーを浮島の上にばら撒くと、さすがに回避することはできず、一瞬で死屍累々となった。
なお、巣の中にはたまごがあったので、ありがたく拝借することにした。
シルは、次の島ではレーザーを撃つことすらやめ、いきなり島全体を障壁を封じた後、障壁内で火魔術を使って気温を一気に数百度に上げて、群れ全体を蒸し殺した。
リズは、最初からこれを使えば大抵の相手は倒せるのでは、と思ったがそっと心に秘めておいた。
そうやって順次浮島の上の群れを殲滅してたら、そのうちの1つが階層主だったようで、木箱があった。
箱の中には、青い石が入っていた。
飛翔石と呼ばれるその石は、重力をある程度無効化できるため、船を浮かせたりすることができるのだが、今はその石も技術も伝承に残るのみだと後からアスカに教えてもらった。
レオナルトやフェリシーユに渡せば、うまく使ってくれるかも知れない。
◇ ◇ ◇
そこから先の階層も、とんでもない場所ばかりだった。
常人であれば何回死ぬか分からないようなものばかりだったが、神しか入れない迷宮なのでそれでもいいのかも知れないが。
全体がマグマに覆われていて、空からは燃え盛る火山弾が降り注ぐ階層。
広い平野でゴブリンとオークが戦争をしていて、両軍の将を討たないといけない階層。
竜王の眷属クラスの竜が大量に飛び交い、竜王の能力を持つ竜が階層主の階層。
常に通路が変わり続ける迷路の中を、通路を無視して攻撃してくる霊体ばかりの階層。
このあたりまでは、まだこの世界の常識が通じる範囲だった。
魔神が作り出した悪魔達が、その力をより強大にして闊歩している階層は、一度魔神が作り出したことで、悪魔がこの世界に定着したとみなされたからだろうか。
戦車やイージス艦、戦闘機や爆撃機が襲撃してくる階層もあったのは、アスカが作り出したのか、それともアスカの記憶を基に造りだされたものなのか。
月面のような世界で、タコ型やグレイ型の宇宙人らしき生物が相手の階層もあった。
機械生命体やSFのような大型戦闘機械を相手に戦いを挑まなければならない階層では、液体金属でできた人間型のものもおり、これは明らかにアスカが見た映画の影響だろう。
現代日本のような高層ビルの都心街で、サングラスをかけた黒スーツの大軍に追われたのも、映画の影響と思われた。
大きな西洋風の城塞の中で、フランケンや鎌を持ったリッチのような死神、吸血鬼が出てきた階層も、恐らくシルもやっていた悪魔な城のゲームだろう。
迷宮の中なのに更に迷宮があり、黄色い三角を集めさせられたのも、ゲームを模したものに見えた。
これらは、シルからすればある意味懐かしいものも多かったが、リズにしてみれば訳が分からなかっただろう。
ただ、各階層でシルの説明を受けた後は、興味深そうに観察していた。
もちろん、弓でたくさんの魔物を射殺したり、魔術で消滅をさせたりしながらだが。
出てくる魔物の位階も少しずつ上がっており、300階層を超えたところでは、魔物の位階も500を超えていた。
当然シル達の位階も順調にあがり、魔神と問題なく戦えると思えるところまできていた。
名前: 竜神シルヴェストル(知立 銀次)
種族: 上位竜
位階: 428
魔力: 460,365
腕力: 134,880
体力: 103,656
俊敏: 1,103
知力: 151,494
精神: 102,754
名前: 精霊神エリザベト(エリザベト・リクシエール)
種族: ハイエルフ
位階: 384
魔力: 207,227
腕力: 16,023
体力: 27,175
俊敏: 622
知力: 113,927
精神: 65,661
300階層を超えたところで、転移陣がちょうど現れたので、アスカの元に戻ることにした。
「お2人さん、よく飽きずにずっと籠っていられるね。」
「食事や睡眠はおろか、休憩すらいらないようになったからな。どれくらい潜ってたんだ?」
「ここの体感時間で2年ほど。人界で言えば一刻よ。」
アスカが完全に呆れている。
シルとリズも、それを聞いてさすがにやりすぎたかと思わずにはいられなかった。
「とりあえず、食事でもしていったら? ワタシがなんか作ったげるよ。」
「ちゃんと食えるのか?」
「あったりまえじゃん。伊達にここで自炊してないっての。」
胸を張って答えるアスカには、不安しか感じないが、ここは言葉に甘えることにした。
怪しげな鼻歌を歌いながらアスカが作ったものは、バターロールとホワイトシチュー、それにサラダだったが、どれも美味しかった。
怖くて食材は聞けなかったが。
また、どうやって手に入れたのか知らないが、日本のビールも出してくれたので、久しぶりに味わうことができた
食後の紅茶はミルクティーだったが、これも向こうのもので、美味しかった。
「そんだけ位階あれば、まず負けることはないと思うよ。油断しないようにねー?」
と言うアスカの声に送られて、シル達は人界へ戻っていった。




