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皇帝ジークムント

3話更新(2/3)

 獣人領の王、レオニーナを連れて王都シャルデに戻ってきた。

 レオニーナを連れて直接城内に転移するのはまずいので、城門前に出たシルは、衛兵に獣人領の王が来たことを王とレオナルトに告げるよう依頼し、リズにレオニーナの付き添いを頼むと、自身は単身転移する。

 転移した先は、王都シャルデの外で、すぐに竜に戻ると南に向かって飛翔する。


 竜神となった今では飛翔速度は戦闘機並みになっている。

 目前に、帝国軍を見付けると、高度を落としてゆっくりとした飛翔に変える。

 整然と進軍している帝国軍だが、巨大な銀竜が向かってくるのを見付けると(にわ)かに混乱する。

 そんな帝国軍の兵を余所に、シルは本隊らしき場所を探し、その上空でホバリングする。


『我は竜神シルヴェストルである。ここにデロドワナ帝国皇帝はいるか。』


 若干の恐怖の効果を乗せて、周囲に響くよう念話を飛ばす。

 一番大きく豪華な馬車から、一人の偉丈夫が身を乗り出す。


「余が皇帝ジークムント・クルト・バルリングである。竜神殿がいかなる用向きか。」

『心配せずとも、害したりはせぬ。しばし付き合ってもらうぞ。』


 シルは空中にいるまま人化すると、皇帝のすぐ隣に転移する。


「すぐに戻るので、ここで待たれよ。」


 近衛と思われる護衛達に一声かけると、皇帝と一緒に転移する。


 転移した先は、王都シャルデの王城の中、応接室だった。



 ◇ ◇ ◇



 応接室には、シャルワリエ王ランベールと王太子クロード、魔族領の王レオナルトと聖女フェリシーユ、獣人領の王レオニーナ、そして精霊神エリザベトと溢水竜ミュルグレスがいた。

 そこに、竜神シルヴェストルが謎の偉丈夫を連れてきたのである。


「皇帝ジークムントよ、突然の事で失礼した。改めて挨拶を。竜神シルヴェストルと、妻の精霊神エリザベトだ。」


 リズが立ち上がって軽く会釈する。


「余は皇帝ジークムントである。」


 さすがの皇帝も神が相手なので、略式の例で返す。

 それ以外の者は、皇帝がいきなり現れた事に驚いているが、戦争相手の皇帝がいる手前できるだけ平静を装っている。


 そのまま、ランベール達を順に紹介していくと、皇帝もこれだけのメンバーが一同に揃っていることに驚きを隠せないでいた。

 かつて、この大陸の諸国首脳が一堂に会する事などなかったのだ。

 更にそこに竜王が1体と神が2柱いるのである。


 挨拶が終わると、各自席に着いて、お茶が出される。


「ジークムント殿に来てもらったのは他でもない、今回の挙兵について意図を確認したかったからだ。」

「聞かれても、大陸統一のためとしか答えられぬな。攻めるなら王国が魔族領との戦争中で疲弊している今しかない事は誰にでも分かろう。」


 その通りで、王国を攻めるのであれば魔族領と争っている間に掻っ攫(かっさら)うのが一番だろう。


「戦争なら既に終結している。王国軍の勝利ということで、魔族領を勝手に動かしていた宰相イザイアは討たれ、そこのレオナルトが新たな王として立つ。魔族領側はまだ混乱はあるが、シャルワリエ王国は既に兵も戻り混乱もない。」

「なんと、開戦の兆しありとしか聞いておらんが、既に終わったのか。魔族領側に竜王もついており、王国は苦戦するはずと聞いていたのが。」


 終戦していたことは、さすがに聞いていなかったのだろうが、ジークムントは動揺を見せずにいる。


「それは誰から聞いたのだ。堕ちた竜王がついていることは、開戦まで王国側も知らなかったことだ。」

「魔族領を出奔したという男だ。」

「その男の名は?」

「メルキオーレという名だった。まだ年若いが優秀な魔法使いだが、魔族領で冷遇されたため帝国に来たと言っていたが。」


 やはり魔神が絡んでいたようだ。


「そのメルキオーレは、堕ちた魔神だ。残念ながらジークムント殿も、魔神の(てのひら)の上で遊ばれた形になる。」

「なんとも不快なことだ。余を(たばか)るなど不敬にも程がある。・・・とは言え相手が魔神であれば致し方ないのか。」


 唇を噛みしめ悔しそうにしているのを見ると、メルキオーレには本当に騙されていたのであろう。

 幸いなことに精神支配の魔術が使われている気配はない。


「魔神は精霊神フォリナリスにより傷付き、一時退いている。とは言え、奴の狙いは世界を混乱させ滅ぼす事にある。ここは兵を退()かぬか。」


 とりあえず兵を退いてくれれば、魔神対策に注力できる。


「それは出来ぬな。帝国による大陸統一は余の、ひいては帝国の悲願。そのために兵を挙げたのが、魔神に(たばか)られたからとは到底言えぬ。そこのランベール王と雌雄を決するまで。」

「帝国は大陸統一をして何を成したいのだ。」

「一国の指導者たるもの、版図を広げることを目指すのは当然であろう。」

「では、大陸統一は手段ではなく、目的であると。」

「そこまでは言わぬ。帝国が統一すれば戦争もなくなるであろう。」

「しかし、その恩恵は帝国民だけが得られるのであろう。王国民や魔族、獣人は略奪された上に奴隷に落とされる。」

「それは勝者の権利だろう。当たり前の事だ。それに奴隷制度は王国にもあるはずだ。」

「王国の奴隷制度は、奴隷の権利を保護している。少なくとも儂は奴隷に対する粗雑な扱いは認めておらん。」


 ランベール王が反論する。


「確かに、王国の奴隷制度は、借金の返済手段と犯罪に対する刑罰の意味で使われており、決して奴隷の権利を(ないがし)ろにしてはいない。」

「そうだぞ、帝国の奴隷として売られたオレらは、まず生きていられねーんだからよ。」


 レオニーナが息巻いている。

 数多くの仲間が、奴隷狩りによって悲惨な人生を押し付けられたことは事実だ。


「獣人だけではなく、僕ら魔族も、エルフも帝国では奴隷扱いで酷い目にあっている。帝国の侵攻は到底認められるものではない。」


 魔族とエルフの血を引くレオナルトも想うところはあるようだ。

 魂は日本人だったのだが、こちらに順応しているのかも知れない。


「どうやら余とは分かり合えぬようだな。」

「それはそうだろう。儂らに対して奴隷になれと言っているのに、唯々(いい)として従う道理はない。」


 想定していた事だが、帝国との和平はならないようだ。


「では、帝国は兵を退くつもりないということだな。これ以上話す事もないのであれば、陣まで送ろう。」

「そうだな。余としてももう話す事はない。では、戦場で相見(あいまみ)えようぞ。」

「王国は何としても皇帝を討つ。努々(ゆめゆめ)忘れるな。」


 お互いに不敵な笑みを浮かべる皇帝と王。

 これ以上ここにいさせても仕方ないので、帝国の陣中に皇帝と転移する。


「時間を取らせて悪かったな。だが、この戦争には魔神か関与している。創造神の裁可(さいか)次第で我等神や竜王が介入する可能性がある事と忘れるな。ついでに一言言っておくが、我は帝国の奴隷制度は気に入らん。」

「そうか。余としても神や竜王と矛は交えたくないのだが、致し方ないか。」

「滅びの可能性があっても、その道を行かねばならんのか。」

「動き出した以上は止まる事は許されぬ。こうなってしまった原因の魔神は殺しても飽き足らぬな。」

「いづれ魔神は我が討つ。そこは安心せよ。」

「余が(たお)れることがあれば、後は託す。」

「了解した。では、失礼する。」


 シルが再度転移で去っていく。

 皇帝ジークムントとしては、もう少し早く竜神と話す機会があれば、と思わずにはいられなかった。



 ◇ ◇ ◇



 王城の応接室にシルが戻っても、まだメンバーは残っていた。


「皇帝は送り届けてきた。」

「開戦前であれば、分かり合えそうな方でしたが。」

「奴隷制度に対する認識が変わらねば、それは無理であろう。」


 ランベール王の指摘の通り、そこが相容(あいい)れない限り、手を結ぶことは無理だろう。

 王国は、魔族領と婚姻により関係を持ったのだ。


「では、戦争の準備は人間達で頼む。レオナルトに転移を教えておくので、活用するがいい。あと、今回の戦争への俺とリズの関与は、創造神から許可を得ている。ただし、民衆からどう捉えられるのかはきちんと対策しろと言われた。」

「魔族領との戦争の時の幽闇竜のように、民衆にも分かりやすい形での大義名分が欲しい、という事ですわ。」

「そんなめんどくせーことしねーで、神の怒りに触れたとか、てきとーにやっちゃえよ。」


 レオニーナは相変わらずのようだ。


「まあ、一理あるのだがな。では、レオナルトとフェリシーユ、少し時間をもらうぞ。」


 フェリシーユの私室に、シル、リズ、レオナルト、フェリシーユ、ブリュナールが集められる。


「まず、皆に我らの加護を与える。レオナルトとブリュナールには俺が、フェリシーユはリズが担当する。」


 2柱から放たれた光が3人に降り注ぐと、それぞれ竜神の加護と精霊神の加護が付与される。


「これで位階の上限解放と、進化の条件を満たしたはず。進化を促すので目を閉じよ。」


 3人の体が光だすと、フェリシーユとブリュナールは超人へと進化する。

 レオナルトは、魔族とエルフのハーフだったが、魔人とハイエルフのハーフになったようだ。

 背中には、大きな蝙蝠のような翼が生え、耳もリズのように長いハイエルフの耳になっている。


「本当は位階を上げる時間もあると良かったのだがな。それと、例の幽霊はどうする? 名前を教えてもらえれば進化の確認をしてみるが。」

「名前はマウラで種族はファントム変異種なんだけど、確認できるかな?」


 頭の中で、マウラの進化確認と念じると、ウィンドウが開き、進化先について確認される。

 ずらずらと、進化先の種族が羅列されているようだ。


「レオ、これが見えるか? マウラとやらも、いるのなら見えるか確認してくれ。」

「僕からは見えるけど、マウラはどう?」


 しばらく黙っているのは、念話で会話しているからだろうか。


「見えるみたいだ。ここから選べばいいのかな。」

「ああ、この中から進化したい種族を選んでくれ。」


 ファントムの上位と思われる、レイスやリッチ、エルダーリッチ、マギカレックス等が最初に並んでいて、これらには変異種とついているので、恐らく現在の特性がそのまま引き継がれるのだろう。

 その後に続くのは、スケルトン・メイジやスケルトン・ソーサラー、果てはサキュバスやヴァンパイアと言ったものだ。

 しかし、これらには変異種が付いていないので、目に見えないとか昼間でも行動できるといった特性は失われてしまうだろう。


「今のまま目に見えない霊がいいのであれば、リッチ系がいいのだろうな。逆に元の魔族に近い方がいいのであれば、最後の方にあるサキュバスやヴァンパイア辺りだろうが、今の特性は無くなるだろう。どっちがいいのだ?」


 レオナルトがまた念話で会話した後、代わりに答える。


「魔族に近いけど、昼間に動けて光魔法が弱点じゃないものがないかな・・・。」

「むう、このリストには無さそうだな。」


 リストに並んでいる項目の説明を順に確認していくが、やはり希望に沿うものはなさそうだ。


「どうせなら新しい種族を作るか。」

「えっ、そんなのってありなの?」

「竜神は進化を司る神だ。できるらしい。」


 なんともいい加減な感じだが、直感でできると分かる。


「ヴァンパイアをベースに、光魔法の弱点を失くして、血を吸わなくてもいいようにして、昼間でも行動できるようにできないかな。」


 マウラと相談しているだろうレオナルトが、そう要望を出してくる。

 さすがにそこまですると優遇しすぎな気もするが、別に構わないだろう。


 ヴァンパイアをベースに、新しい種族を定義していく。

 不老、不死に近い耐性、霧や蝙蝠への変身、高い腕力と知力、蝙蝠の翼と高速飛行、血を操る能力、光属性への耐性、吸血は不要、人間を眷属化する能力は無効化。

 こんなところだろうか。

 ヴァンパイア・ロードという新しい名前で定義をして、マウラの進化先として選択する。


 今まで何もなかったところが急に光り輝き、少し童顔の女性がそこに現れる。

 白い肌に赤い目、蝙蝠の翼に長い爪、見る限りヴァンパイアだ。


「レオくん!」


 姿を現した女性が、レオナルトに飛びつく。


「マウラ!」


 レオナルトがそれを受け止めて抱き締める。

 恐らく感動の再会なのだろう。

 いや、ずっと一緒にいたようなので再会ではないのだろうが、触れる事もできなかったはずだ。


「ん、ん、レオナルトくん?」


 すぐ傍でフェリシーユが般若のような顔をしている。


「だ、大丈夫です! フェリシーユ王女が正妻なのは私も分かっていますので、私は側にいられればそれで・・・」


 マウラが慌ててゴニョゴニョ言っているが、フェリシーユは既に笑顔だ。


「大丈夫ですよ、レオナルトくんはちゃんとあなたの面倒も見るだけの甲斐性がある方だと思っていますので。」


 笑顔が怖い。

 どうしても、こう女性の笑顔は怖いのだろう。


「シル? 何を考えているのかしら?」


 やばい。また心が読まれているようだ。


「レオナルトはもてるから、大変そうだな、と。」


 なんとか取り繕ったが、大丈夫だっただろうか。

 レオナルトが、未だにわたわたとしているがそれは自己責任で何とかしてもらおう。


「あと、レオに転移だったな。」


 シルはレオナルトに触れると、魔術知識のイメージを魔力として流し込む。


「これで使えるだろう。最初は物で試して練習しろよ。」

「ああ、分かった。しかし、これは制御が難しそうだな。」

「ワープだとでも思えばいい。転移元と転移先の間の空間を切り取って繋げる感じだ。」

「余計に分からなくなったぞ・・・。」


 レオナルトが頭を抱えているが、大丈夫だろう。


「では、創造神のところで位階を上げてくる。このままでは魔神に負けるのでな。」


 シルとリズが転移していくと、残された4人は準備のために各自走り出した。



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