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帝国の内情

3話更新(1/3)

 転移してきたのは、ヘルツェル辺境伯領の街から少し離れた森の中だった。

 そこから、ゆっくりとした低空飛行で街の中へ入っていく。


『ヘルツェル辺境伯はいるか。』

「はっ、しばしお待ちください。」


 ヘルツェルからよく言われているのか、城の門番は何も言わずに取り次いでくれた。

 しばらくすると、城からヴォルフ・ヘルツェルが出てくる。


「シルヴェストル様、お久しぶりです。いかがなさいました。」


 以前は、嫌味な成金な格好だったが、いまは上品だが質素な服装になっている。


『帝国が王国に侵攻したと聞いてな。何か情報を知らぬかと思い来た。』

(かしこ)まりました。中でお話ししようかと思いますが、よろいいですか。さすがに門前で話す事ではありませんので。」

『そうだな。では失礼する。』


 シルは人化すると、ヘルツェルの案内に従い、リズを連れ立って城の中で進んでいく。

 通された応接室は、これも以前とは異なり落ち着いたものになっていた。


「随分と調度品の趣味がよくなったようだな。」

「お恥ずかしい限りで。以前あった無駄に高いものは売り払い、領内の事業に回しました。いまこの部屋にあるのは、領内で生産されたものばかりです。領内の経済を回すためにも、あまり安物を使うのもよくありませんので。」

「なるほど、街の雰囲気もよくなっているし、うまくやっているようで何よりだ。」


 出されたお茶で一息いれる。

 もちろん今回は、痺れ薬など入っていない、ヘルツェル領内産の上質なものだ。


「して、帝都の状況は。」

「ここも辺境ですので情報はあまり多くありません。近隣諸侯には出兵指示があったようですが、ここは距離もあるので指示もありませんでした。」

「諸侯の感じはどうだ。」

「戦争は金がかかりますので、嫌々という感じでしょうか。」

「皇帝への忠誠は思ったほど高くないのか?」

「最近は、この辺境領内の民への還元が厚いお陰か他領からの移民が増えており、うまく経済も回っております。諸侯の中にはそれを真似てうまくいきはじめている所もあり、そんな中での戦争での出費は歓迎されません。帝国への税は高く、不満も大きくなっています。しかし、皇帝に逆らうほどの気概のあるものはいないでしょう。」

「皇都の守りはどうだ。」

「皇帝の直轄軍は半分ほどしか出ていないようです。少なくとも3千ほどの守備兵はいるかと。」

「皇帝自身はどうだ。」

「王都への大掛かりな作戦ですので、親征に出ているようです。」

「皇族は。」

「皇太子は将として従軍しているようです。他の弟妹はそもそもいるかどうかが不明です。」

「この領の兵で皇都は落とせるか?」

「出せて同数の3千でしょうから、城攻めとなるこちらが不利です。それ以前に皇都に付く前に皇帝に戻られてしまうでしょう。それに出兵は領内の随所へ負担となりますので。」

「協力してくれそうなものはいるか。」

「時期がよければ、半数以上は。例えば、王国に惨敗して戻るとなれば、それくらいは。逆に大勝して勢いがつけば、ほとんどないでしょう。」

「ありがとう、参考になった。ここまで戦火の余波はあるかも知れん。気を付けてくれ。」

「畏まりました。また気軽にお越しください。」

「それが俺も竜神になってしまったので、気楽には来れぬのだ。」

「それは、お慶び申し上げます。竜神の訪れた街として恥じぬよう、精進いたします。」

「ほどほどにな。では、失礼する。」



 ◇ ◇ ◇



 2人は一度閃光城に転移する。


「帝国内での反乱を誘うのは厳しそうだな。」

「大義名分も今のところありませんしね。」

「そうなんだよな。俺たちが関与する理由が今のところない。しかし王国が倒れるのは困る。」

「アスシアルフ様に伺ってみるのもいいかも知れませんわ。」

「それも一つの手か。その前にテオドールに挨拶しておかないとな。」


 シルが呼ぶと、すぐにテオドールが現れた。


「お戻りになられていたとは知らず、失礼いたしました。」

「今来たところだし気にしなくてもいい。もう気付いているかと思うが・・・」

「はい、竜神になられたようで、おめでとうございます。」

「めでたいのかどうかは分からないが、ありがとう。ただ、閃光竜ではなくなったので、間もなく次代が生まれるはずだ。そこにある卵が孵ると思う。」


 視線の先には、神界でシルが作った卵がベッドの上に鎮座していた。


「転生体ではなく、純粋な魂で生まれると思うので、面倒を見てやってくれんか。」

「はい、それが私の務めですので。」

「短い間だったが世話になった。ありがとう。」

勿体(もったい)ないお言葉です。それに竜神ともなれば、主の主となるお方です。何かあればお申しつけください。」

「そうだ、この城は次代に譲らねばならん。どこか新しい住まいにいい場所はないかな。」

「どのような場所をお望みでしょうか。」

「ここのように、綺麗で静かな所がよいな。人里からも離れている方がよいだろう。」

「この大陸では難しいかも知れません。エルフの森の世界樹が蘇れば、その頂きなど良かったかも知れません。エリザベト様の故郷でもありますし。」

「確かに精霊神としては、最適な場所かも知れませんね。けれで、世界樹ですか。宛てはありませんですわね。」

「これもアスカに聞いてみるか。」

「そうですわね。」

「では、次の場所へ行くか。では、テオドール。次代を頼む。」

「はっ、行ってらっしゃいませ。」



 ◇ ◇ ◇



「さっき出ていったばかりだけど、どうしたー?」

「ここは時間の流れが違うんだったか。魔神と幽闇竜が暴れていたのを抑えていた間に、帝国が戦争をふっかけてきていて、どうしたもんかと。」

「うーん、細かい事考えずにやっちゃえば?」

「あれ? いいのか? 神がそんな簡単に人の戦争に関与して。」

「ああ、あれは神が勝手に色々しないように釘刺しといたからなんだよね。明確な基準はなくて、メルキオーレみたいにやからしたら、ワタシが独断で他の神を差し向ける感じなだけなの。」

「え、そんなんでいいの?」

「うん、だから問題は、各国の人間がそれをどう判断するかなんだよね。」

「となると、大義名分がないとだめか。」

「そだねー。ま、それが事実かどうかは誰にも分からない状態なら問題ないんじゃない?」

「皆殺しとかしたくないんだけど。」

「それはワタシもできるだけ最小限にして欲しいかな。」

「うーん、創造神アスシアルフ様の神託により、ってことにするか。」

「えっ、ちょっ、まっ?」

「冗談だよ。でも最後の手段はそれになるかも知れん。」

「シル・・・どうして今ので通じるんです?」

「慣れみたいな? 日本語じゃなくてこっちの言葉に翻訳されてると難しいかも。」


 日本語でも今のみたいな若者言葉には、シルみたいなおじさんには理解しづらいものがあるのだが、シルは娘がいたので、辛うじて通じる。

 そう言えばアスカはいつこちらにどうやって来たんだろうか。

 ま? とか り! だけで会話ができる世代なのかどうか。

 そんな事は、色々と片付いてから、ゆっくりと話せばいいか。


「とりあえず、いい案は見つからなかったが、最悪の場合はこっそり暗殺とかもありだと分かっただけでも収穫だな。」

「なんか、竜神なんてすごい立場なのに、やることセコいよね?」

「偉大なる創造神様が、さらっと神罰とかいって皇帝を消すなり、洗脳でもして傀儡(かいらい)にしてくれれば楽なんですけどね?」

「ぐぬぬ。」

「シル、あまりアスカを苛めるのはよくないかと思いますよ。」


 リズがアスカを庇ったので泣きついている。

 やはりリズは純粋なのだな、と思う。


「本心では喜んでいるから大丈夫だよ。」

「あら、そうなんですか。なら大丈夫ですね。」

「えっ、そこで納得しちゃう感じなの? リズってばシルに甘すぎない?」

「旦那様ですし。」


 リズが照れていてかわいい。


「あーー、なんか砂糖が吐けそうなんですけどー。銀次さんもここで油売ってないで、片付けてきちゃったら?」

「もう少し、様子を見てみることにするよ。いざとなったら、創造神の神罰にするし。」

「ま、神罰になった理由は明かせないとかしけばいいけどね。早く片付けて位階上げに行った方がいいよ?」

「分かってるよ。それじゃ、またな。」


 次は獣人領に転移だ。



 ◇ ◇ ◇



 獣人領の街、ウォルジーの近くに転移する。


 街の入り口の門番に、レオニーナへの取次ぎを依頼すると慌てて街の中へ駈け込んでいった。

 ほどなく、セバスティアンが街の入り口まで迎えに来てくれた。


『セバスティアン殿、久しいな。あった頃はまだこんな小さい(なり)だったので分からんかも知れんが。』

「シルヴェストル様とリズ様ですね。印象深かったので、覚えております。随分とご立派になられたよで。」

()むに()まれぬ事情で、急いで進化しなければならなくなってな。レオニーナ殿は息災か。』

「はい、いつも手を焼いております。」

『変わらぬようでなによりだ。話す時間は取れるかな。』

「はい、ご案内いたしますが、そのお姿で街に入れますでしょうか。」


 シルはスッと人化する。


「これで良いだろうか。」

「問題ありません。レオニーナ様が気付かれないかも知れませんが、それもまた一興でしょうか。」

「セバスティアン殿も、存外人が悪いな。」

「この程度では意趣返しにもなりません。では、こちらへどうぞ。」


 この優秀な狼人執事、さらりと意趣返しと言い切った。

 色々と胸に秘めているのかも知れない。


 門番に冒険者ギルドのギルド証を見せて街の中へ入っていく。

 ヘルツェル辺境伯からの脅威がなくなったせいか、以前よりも活気があるようだ。


「以前来た時よりも、人族も増えて活気も増しているようですわね。」

「シルヴェストル様のお陰で、ヘルツェル辺境伯領との取引が盛んになったお陰です。奴隷狩りも取り締まって頂いているお陰で、安全に商いや狩りに出られるようになりました。」

「それはよかったですわ。」


 ここに来た切っ掛(きっか)けも、捕らえた奴隷狩りを突き出す為だった。

 その頃より治安がだいぶ良くなったのだろう。


 セバスティアンの案内で領主の館の応接まで通され、そこでレオニーナを待つ。

 やがて、ドアがバン!と勢いよく開け放たれ、レオニーナが入ってくる。


「おう、リズじゃねーか。その・・・シルヴェストルはどうした?」

「お久しぶりです。シルなら隣におりますわ。」

「えっ?」


 リズの一言を飲み込めないで、レオがキョトンとしている。


「いや、人族じゃなくて竜族だよ。こんなちっこいくせにすごい強い竜の。」


 いや、どんだけ小さいんだよ、と突っ込みたくなるくらいのサイズを指先で示している。


「ええ、上位竜まで進化したので、人化できるようになったのですわ。」

「相変わらず騒がしい奴だな、レオよ。」

「ホントかよ、竜になって見せてくれよ。」

「ここで竜に戻ったら、屋敷が崩れるぞ。」

「そんなにデカくなってんのか。っつか、その姿ならオレを妻にできるだろ? その・・・してもらえないか?」


 レオが急にモジモジとしだした。


「すまんな。既にリズと夫婦(めおと)なのだ。リズ以外は(めと)るつもりもない。」

「・・・そうか。それは仕方ないな。」

「そう落ち込むな。今日来た理由は、お前にとってもいい話しかも知れん。」

「ん、どういうことだ?」

「デロドワナ帝国がシャルワリエ王国に戦争をしかけてきていてな。ヘルツェル辺境伯領とはうまくやっているようだが、帝国自体とはまだ争っているのだろう? シャルワリエ王国と同盟を結ぶつもりはあるか聞きに来たのだ。」

「帝国はぶっ潰してーけど、オレがいかなくても王国なら帝国に引けは取らんだろ?」


 ちょっと気にはなるようだが、さすがに獣人領の王なので安易には乗ってこないようだ。


「王国は、つい先日まで魔族領と戦争していてな。王国が勝利して魔族領側の王は交代となったが、さすがにそのまま帝国と戦争はきつい状況でな。」

「なんでまた魔族領と。」

「魔族領の宰相が、堕ちた魔神と竜王に(そそのか)されていてな。宰相と竜王は討たれたが、魔神には逃げられたのだ。」

「じゃあ、同じようにシルヴェストルが帝国潰せばいいんじゃね?」

「それが簡単には出来ないから困っている。魔族領は魔神が絡んでいたので、竜王と魔物は相手をしたが、人間同士の戦争には加担していない。まだ帝国が魔神と関係しているか分からないので、俺が出る訳には行かんのだよ。」

「相変わらずめんどくせーんだな。神とか関係なくやっちまえよ。」

「俺とリズも神になったのでな。そう簡単にはいかん。」


 レオがその一言で驚いた表情を浮かべる。


「神になるって、さらっと言う事かよ。」

「創造神から直接頼まれましたので、お受けする事にしたんですわ。」

「創造神からって、やっぱり強い奴はすげーな。」


 レオがしきりに感心している。


「それでだ、今の魔族領の王が強いんだが興味あるか? 俺が直接鍛えたから間違いなく強いぞ。帝国との戦争でも、王国軍の1人として参戦するはずなんだが。」


 シルのその一言で、セバスティアンが天を仰いだ。


「強いんなら、一度戦ってみてーな。」


 はい、釣れました。

 猫のくせに素直でチョロすぎじゃないですかね。


「悪いがお前では到底勝てんよ。やめておけ。それでも、戦いを見ることで得る事はあるかも知れんな。」

「そんなのやってみなくちゃ分からねーだろ?」

「無駄だと思うが、一度会ってみるか?」

「おう、行ってやるぜ。」


 セバスティアンからの視線が痛い。

 けれど仕方ないんや!悪いのは帝国なんやで!


 とりあえず、謝っておこう。


「セバスティアン殿、申し訳ない。」

「いえ、王国が負ければここ獣人領もいずれ飲み込まれましょう。放置してよい問題ではない事は分かります。増してや、竜神様からの頼みとあれば、これを無視する訳にも参りません。」

「竜神だからとかは気にしなくていいからな?」

「半刻ほどいただければ、僅かですが手勢を集めますが。」

「協力感謝する。」

「では、レオニーナ様。準備をして参ります。」

「ああ、頼む。」


 セバスティアンが兵を集めに出ていく。

 レオニーナも準備をすると言って、飛び出して行った。

 のんびりと待っていると、リズから念話での会話が飛んでくる。


『レオナルトにフェリシーユがいる事は言わないんですか?』

『戦闘馬鹿だが、強ければだれでも良い訳じゃないと思うんだけど。』

『シルへの態度を見ていると、そうは思えませんけど。』


 嫉妬しているリズもかわいい。

 レオニーナと20人ほどの兵を連れたセバスティアンが戻ってくる。


「準備はいいか。それでは王都シャルデまで行くぞ。」


 そう言うと、シルはとっとと転移してしまう。


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