残念な創造神
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「さすがは竜王、しぶといね。」
突如、目の前に現れたのは魔族の少年。
1対の翼を背に、肌は赤黒く、瞳は金色で、頭には捻じれた角が生えている。
『魔神なのじゃ。』
「さすがは水の竜王、よく知ってるね。でも、折角堕とした闇の竜王を滅ぼしてボクの邪魔をするようだから、君達は滅ぼすしかないよね。」
『なぜ魔神が人の世に関与するのじゃ。元魔族とは言え、魔族の支配に手を貸しても意味がない事くらい分かるはずなのじゃ。』
「うん、分かってるよ。あんなの嘘に決まってるじゃない。竜王は素直で騙されやすいのかな? 闇の竜王は僕の言うことを信じすぎて、心配になるくらいだったよ。」
『巫山戯るななのじゃ!』
「ボクは大真面目だよ。真面目にこの世界を滅ぼそうと頑張ってるじゃないか。」
『そんな事はさせないのじゃ!』
「どうやって? 君達竜王程度じゃ無理だよ。他の神もそこまでの力はないしね。」
怒りに震えている溢水竜ミュルグレスに対し、魔神メルキオーレは、無邪気な少年にしか見えない。
しかし、その少年から感じられる魔力の圧はとんでもないもので、竜王であるシルやミュルグレスであっても、逃げたくなるようなものだ。
その場にいる唯一の一般人であるリズも、気を失わないようにするのが精いっぱいだ。
「ま、御託は良いから、とりあえず君達死んでね? あ、違う違う。死ぬんじゃなくて、滅んでね?」
魔神メルキオーレは、右手のこちらに向けるとそこに白い球体を生み出す。
見る間に、その球体は直径1mほどになるが、その球体からは凄まじい力を感じる。
『マズイのじゃ、あれを食らえば魂ごと滅ぼされるのじゃ。』
『なんとかする手は?』
『ある訳ないのじゃ・・・。』
無駄だと思いつつ、ありったけの竜障壁を眼前に生成する。
「そんなことしても無駄なのにね。それじゃ、さようなら。」
球体がこちらに飛んでくる直前、目の前に1人の女性が現れる。
女性は、両手を前に突き出すと、緑色の光を撃ちだして飛来する白い球体を迎撃する。
しかし、白い球体が近すぎたのか、球体の爆発に女性が巻き込まれてしまう。
一方、緑の光は魔神のもとまで届き、左手と左足の膝から先を吹き飛ばしていた。
「こんな邪魔が入るなんて・・・くそっ。」
魔神は呻くように呟くと、どこかに転移して消えてしまう。
「フォリナリス様!」
リズの叫び声で、目の前に現れた女性が、精霊神フォリナリスであった事に今更気付く。
爆発がおさまった場所には、体中が貫かれ血塗れになったフォリナリスがいた。
「フォリナリス様、すぐに癒しを。」
リズが光魔術で癒そうとするが、魔力をどれだけ注いでも傷は癒えない。
「無駄なのでいいです。それよりもシルヴェストルとエリザベト、2人には至急来てもらう必要があります。」
「何処へでしょう?」
「神の御許へ。」
フォリナリスがそう言うと、フォリナリス、シルヴェストル、リズの3人の姿が消える。
一人残されたミュルグレスは、途方に暮れるしかなかった。
◇ ◇ ◇
気が付くと、ログハウスのような木造建築の部屋の中にいた。
眼前には、フォリナリスが血塗れのまま倒れており、その脇には少女がいる。
「なんとか、間に合いました。」
「無理をさせてごめんね。あなたも早くしないと魂が持たないから、早く転生を。」
「ここまでしか力になれずすみません。では、失礼します。」
そう言うと、フォリナリスは金色の光に包まれて、その姿が消えてしまう。
「間に合ったかな。無事に転生できるといいんだけど。」
「あのう、君は?」
シルが少女に声をかけるが、自分で声を出して初めて人化した状態であることに気付く。
「急にごめんね。私はアスシアルフ。」
「創造神?」
「そそ、なぜかそんな肩書付いちゃって大変なのよね。いま、お茶を淹れるから座ってて。」
少女は軽く言っているが、創造神がこんな軽いノリでいいのだろうか。
シルは鑑定を試みたが、何も情報は得られなかった。
「レディの秘密を探ろうなんて、失礼よ?」
こちらに振り向いて、舌をべっと出す少女は、女子高生や女子大生くらいにしか見えない。
そう、彼女は長いストレートの黒髪と黒目、肌は少し黄色がかった肌色。
どう見ても、10代の日本人女性だった。
状況が掴めないまま、シルは隣にいるリズを誘って木製のダイニングテーブルの前にある、同じく木製の椅子に腰を掛ける。
自然な木目の風合いを生かした、素朴だが品のいいテーブルと椅子だった。
「あれ、そう言えば日本語?」
「そうよ、日本語なのに今気づいた? ここならそちらの奥さんにも通じるはず。」
「え、今話してるのはシル様の世界の言葉?」
「なぜかそうらしいな。」
「創造神様のいる場所だから?」
「創造神様なんて堅苦しい呼び方はやめて欲しいなーなんて。」
「本名は?」
「橘 明日夏よ、銀次さん。こっちではアスカ・シトラスって名前にしてたんだけど、いつの間にか短くなったりくっついたり変わっちゃったりして、アスシアルフになってた。」
ティーセットとティーポットを持ってきたアスシアルフが、紅茶を淹れてくれる。
懐かしいダージリンの香りだ。
「気付いた? これダージリンよ。ものすごい頑張って取り寄せたんだから。」
「世界が違うのに、どうやって?」
「それは秘密よ。」
口元に人差し指を当てて、しーっという仕草をする。
可愛いが、あざと過ぎて危ないタイプだ、これは。
自分の容姿が分かっていて、計算でやっている。
「失礼なこと考えてるでしょ?」
頬を膨らませて怒った振りをしていたら、手元が狂い自分の紅茶を注ぐのに失敗している。
「わわわ、こぼしちゃったよ。」
慌ててテーブルを拭くための布を持ってきて、こぼした紅茶を拭いている。
あざと可愛いと、ドジっ子というこの2つの属性は同居することが可能なのだろうか。
うん、相当ウザくなりそうだ。
「だから、銀次さん失礼だよ? 何千年も生きてるとね、感情の起伏がおかしくなっちゃうから、どうしても、ね。」
シルは、ハッと気付く。
目の前の少女は、下手したら1万年も一人でこの世界を見守ってきたのだ。
ミュルグレスと初めて会った時、長生きしすぎるとおかしくなってくると言っていた。
恐らく、ミュルグレスと同じように、目の前にいるアスシアルフ、いやアスカも自らの魂を守るために、こんな演技をし続けているうちに何が正しいか分からなくなったのだろう。
そうか、ミュルグレスと同じか。
そう気付いたシルは、立ち上がるとアスカの方へ近づいていく。
キョトンとしているアスカと、首を傾げているリズをよそに、シルはストレージから張り扇を取り出して、アスカの頭を引っぱたく。
スパーーン!といういい音が響くと、アスカは頭を抱えて蹲る。
いや、ミュルグレスと会った時に作った紙の張り扇だし、力も込めていないので全く痛くないはずだが。
創造神を引っぱたいたシルに、リズは目を丸くして動けないでいる。
「いたーーーい。いきなりレディを張り扇でドツくとかひどくない?」
「おかしいのなら、これくらいの方が気が楽だろ?」
「そっか、そだね。あんがと、銀次さん。」
創造神を引っぱたいたシルが、お礼を言われている。
リズの理解を超えた状態に、頭の中の混乱は収まる気配がない。
「そこまでワタシの事を理解できるんなら、ここに婿に来ない? 嫁でもいいよ?」
「ダメです! シル様は私の旦那様です!」
一瞬で再起動したリズが叫ぶ。
その様子に、アスカもシルも噴き出してしまう。
突然笑いだす2人に、またリズは照れて戸惑う。
「大丈夫よ、大事な旦那様をとったりしないから。冗談よ。」
「俺にリズ以外の相手がいるはずないだろ?」
「えっ、うん。その、ありがとうございます?」
「うちの可愛い妻をからかわないでくれるかな、アスカお婆ちゃん。」
「ぶっぶーー! 1万年以上生きてても、一切老化も劣化もしていないから、ワタシはまだピチピチの18歳なんですー! 永遠に18歳なんですー!」
可哀そうになってきたから、頭を撫でてやる。
手で撫でるとリズが嫉妬しそうなので、張り扇で。
「張り扇で撫でるとか、扱いが雑過ぎません? これで創造神様ですよ?」
「その扱いをやめろと言ったのがアスカなんだが?」
ニヨニヨしながら突っ込みを入れると、くっと言って悔しそうにしている。
本当に「くっ」て言う人を見たのは初めてだ。
人じゃなくて、神様だけど。




