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英雄の誕生

4話更新(1/4)

 シルは、魔都テスカーラの数km手前に転移をした。

 リズやフェリシーユ達だけではなく、騎士500人、魔法使い500人を連れてだ。


 幽闇竜ダインスレイフが退いた後、シルとリズはシャルワリエ王国軍が本陣を構える中に赴き、魔族領軍の討伐を依頼した。

 自分が堕ちたダインスレイフを討つので、同じく堕ちた魔神の影響を受けているイザイア率いる魔族領軍を、王国軍で討伐して欲しいと。

 厳密には、魔族領軍そのものを打ち倒す必要はなく、イザイアをはじめとする魔神の影響を受けているものを倒せればそれでいいのだが、大人しくしている訳がない。

 竜王であるシルは、極力人間と事を構えるのは避けたいため、このような依頼をすることになったのだ。

 そして、国王の名代(みょうだい)として軍に参加している、王位継承権第二位を持つフェリシーユ王女がそれを承認したのだ。


 ・・・軍を率いている王国軍の将軍にとっては、国王名代であり王族でもあるフェリシーユは、何とも頭の痛い存在だが、もともと国王もそれを認めてしまっているのでどうしようもない。


 そして、出立準備に忙しい本陣の中、シルはレオナルトにあることを告げていた。


『フェリシーユは王女としてだけではなく、聖女として(ちまた)で人気を集めている。そんな彼女が堕ちた神に(そそのか)されているとは言え、イザイアを討つのはイメージがよくない。近衛騎士であるブリュナールもよくない。よってお前がイザイアを討て。』

「シルがやるんじゃないのかよ。」

『俺の担当は闇の竜王と悪魔だ。魔王を討つのは竜王じゃない。勇者の仕事だろう?』

「誰が勇者だ、こら。」

『お前以外いないぞ、レオ。』

「いや、その理屈はおかしい。」


 納得がいかないと肩を怒らせるが、シルとレオナルトでは実力が違いすぎて、何も怖くない。

 ・・・実力は全然違うはずなのに、リズからはなぜか背筋が凍る恐怖を感じるのはどうしてだろうか。

 思わず身震いをして周囲にリズがいないことを確認するシルを見て、レオナルトは首を(かし)げる。


『ダインスレイフは、俺とリズの2人が全力で戦って勝てるかどうか分からない相手だ。イザイアの事まで相手にするのは無理だ。』

「それは分かるが、なんで僕が勇者になるんだ。」

『魔王を倒すからだろう?』

「だから順番がおかしくない? ねえ?」


 レオナルトが問い詰めるが、シルは知らんぷりで意に介さない。



 ◇ ◇ ◇



 魔都テスカーラの前に、ダインスレイフは待ち構えていた。

 その後ろには、眷属であろう黒竜達が控え、更に後ろには数は大きく減らしたものの魔族領軍が控えている。

 鑑定でダインスレイフのステータスを確認すると、今のシルよりやはり高い。


 名前: 堕竜ダインスレイフ

 種族: 上位竜

 位階: 205

 魔力: 121,654

 腕力: 17,755

 体力: 12,899

 俊敏: 447

 知力: 21,991

 精神: 13,843


 名前: 閃光竜シルヴェストル(知立 銀次)

 種族: 成竜

 位階: 149

 魔力: 84,173

 腕力: 14,575

 体力: 14,543

 俊敏: 336

 知力: 20,568

 精神: 13,920


 創造神の加護というインチキ臭いスキルのお陰で、近しい能力にはなっているが、やはり位階差があることと、上位竜に進化していることもある。

 シルの後ろで、王国軍はダインスレイフにビビっている。


『元竜王のくせに、怖くて一人では来られなかったのか?』

『お前のような若造、俺が直接手を下す必要もないだけだ。』

『悪魔と言い眷属と言い、手下を使って裏でこそこそとして肝の小さい奴だ。』

(さえず)っていればいい。眷属がお前も人間達も蹂躙するだけの話だ。』

『お前が手下を使うなら、俺も仲間を使うだけの話だ。』


 リズが、まず闇の大精霊シャドウを呼び出す。


『シャドウ、あれはダインスレイフで間違いないか。』

『ダインスレイフ ダ。デモ ヤミノリュウオウ スデニ チガウ。ダインスレイフ オチタ。』

『そうあ、ありがとう。すまないが、手伝ってくれ。』

『オチタ リュウオウ タオス。』


 口数の少ないシャドウだが、やる気は十分のようだ。


 シルが転移の魔法陣を作動させ、眷属達を呼び出す。

 転移してきた白竜達は、空に舞い上がり、黒竜達を威嚇する。

 幽闇竜と黒竜達に(おのの)いていた王国軍騎士と魔法使いは、こちらにも白竜達がいると分かり、気勢を上げる。


 さらにシルは、両軍の兵たちに届くように念話を飛ばす。


『人間よ。堕ちた竜王 ダインスレイフは、この光の竜王が討伐する。それに(くみ)する魔王イザイアについては、勇者レオナルトが討伐する!』


 レオナルトが、何言いやがるこら、という表情でシルを睨むが、フェリシーユに言われて嫌々ながらも、その剣を宙に掲げる。

 それを見た王国軍も、(とき)の声をあげ、士気を上げる。


『我が方に理がある証明とし、大天使の力を神より借り受けた。その力、その(まなこ)で確かめるがいい。』


 そういうと、再度転移陣を作動させ、大天使を呼び出す。

 光の大天使 メタトロン。

 閃光城の裏の迷宮を守っていたホムンクルスだ。

 しかし、今回はメタトロン以外にも6体転移してきている。

 シルとリズが、こっそりと作り上げてた大天使型ホムンクルス達だ。


『我が名は光の大天使メタトロン。神の意を伝え裁く者なり。』


 メタトロンの念話が全軍に届く。

 更に他の大天使達も名乗りを上げる。

 火の大天使 ミカエル。

 水の大天使 ガブリエル。

 土の大天使 ウリエル。

 風の大天使 ラファエル。

 雷の大天使 レミエル。

 闇の大天使 アズラエル。


 シルが記憶を頼りに、有名な天使達の名前を付けたのだが、元々作られていたメタトロンだけが、神の使いを意味するエルが末尾に付かない事になってしまった。

 誰かに聞かれたら、大天使長だから名前も特別だとか、そんな感じに答えればいいやくらいにしか思っていなかったが。


 両軍の兵は、あまりの事態に頭が追い付かなくなっていた。

 神の使いである天使なぞ、聞いた事もない。

 シルが考えた設定なのだから、当たり前なのだが。


 しかし、眼前にある光景は現実だ。

 人間離れした美しい容姿に、白い羽が生え、宙に浮いている。

 そして、その手には明らかに力を秘めていることが分かる剣や錫杖、鎌などを持っている。

 神の使いとの言葉に相応しいその姿を前に、魔族領軍は大きく戦意を損なっていった。


『神の使いを前に、戦う意思のないものは疾く去れ。堕竜または魔王に強要された故であれば罪に問われる事はない。』


 その言葉を耳にした魔族領軍は、ほとんどが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 イザイアやそれに与していた重鎮たちは、苦々しい表情でこちらを睨んでいる。


『さて、ダインスレイフよ。我らが戦えばその被害は計り知れん。場所を変えるぞ。』

『人間どもが滅びようと知らんが、イザイアを失うのも面倒だ。よかろう。』


 竜王とその眷属、多数の竜たちが空に舞い上がり、魔都から離れた森の上空で対峙する。

 大天使達は、光闇の2体を軍に付けて、残りはこちらに連れてきた。

 もちろん、リズもこちらに付いてきている。


『さて、一応堕ちた竜王様の申し開きを聞く事にしようか?』

『ふん、お前らに魔神メルキオーレ様の悲しみは分かるまい。』

『そりゃ、名前を聞いたことがある程度の神の事なぞ知る(よし)もない。』

『メルキオール様は、この世界の差別が無くならない事に悲しんでおられる。』

『神なのに人の世に関与しすぎじゃないのか。』

『種族同士の差別、(いさか)い、それらによって生まれる悲しみと苦しみ。魔族をそれらから救うために、メルキオール様は世界を統べる事を選んだのだ。』

『魔族だけ救ってどうする。人族、獣人、エルフ達の苦しみはどうなる。』

『メルキオール様が統べれば、それらを無くせる。』

『無くすことは無理だ。もしそうなったとしても、次は一部の傲慢な貴族達により平民、特に貧民達が苦しめられるだけだ。世を歪な形で正せば、その皺寄せは弱き者に行く。』

『メルキオール様ならば、それを正す力があるのだ。』

『それらは神の力ではなく、人間達が自ら成すべきことだ。それ故、神や竜王が人の世に関与するなと言っているのが分からんか。』

『それでは争いは無くならぬ。人間が滅びる。』

『ならば滅びればよい。しかし、人間達はそうはならず、自らの力で自らを正すことができると信じている。自らの欲のために、他者を騙し陥れ、害する事ができるのはイザイアのような一部だけだと俺は信じている。そして、イザイアは勇者レオナルトと聖女フェリシーユによって打ち倒される。世の不条理や民衆の苦しみを理解しており、正しく優しい心を持つ彼らであれば、次の世を正しく導いてくれるはずだ。』


 なお、シルはこのダインスレイフとの問答と、戦っている両軍兵士やシャルワリエ王国の国王や貴族、魔族領の貴族達に届くようにしている。

 今頃は、レオナルトとフェリシーユは顔面を真っ赤にして羞恥に苦しんでいるはずだ。


『もはや是非もない。俺がお前を倒せばよいだけの話だ。』

『では、堕ちた竜王様のお力を見せて頂こうか。』


 それを合図に、黒白の竜達の戦闘が始まる。

 シルは、光刃を20ほど作り出すと、半分をダインスレイフに向かわせ、残りは手元に残して光刃からレーザーを撃ち、黒竜達を撃ち落としていく。

 黒竜に比べて、白竜は数が少なかったので、援護をせざるを得ないのだ。

 リズも、フェニックスと多数のカーバンクルを召喚し、白竜を援護させるとともに、自らも光矢を黒竜に放っていく。


『シル様、レオを無理矢理に勇者にしちゃいましたけど、よかったんですか。』

『イザイアがいなくなった後、魔族領をどうするか考えると、魔族の血を引いていて力があるレオに頼らざるを得ないだろう。』

『あのまま王とかにされちゃったら、可愛そうですよ。』

『あいつも異世界人だ。あちらの教育を受けた人間だし、何とかできるはずだよ。もともと頭も良かったようだし。』

『でも、まだこどもですよ。』

『向こうでも成人手前だし、こちらならとうに成人しているだろ。』

『そうですけど、王族でもないのにあの歳では。』

『では、リズがやるか?』

『レオとフェリに任せましょう!』


 あ、リズが逃げた。

 政治とかそんな面倒なものには関わりたくない、と言うのが一般市民の普通の考え方だろう。

 給与等、もらえるお金が多いのは魅力かも知れないが、その責任の重さと仕事内容の面倒臭さを考えると、それが好きでない限りは到底割に合うと思えない。

 そのために、フェリシーユにも頑張ってもらわなければ。

 色々とランベール国王には根回ししておいたし。


 その前に、この堕竜さんをどうにかしなければ。


 鑑定で、能力値では勝てない事が分かっている。

 リズと連携するなり、どうにか工夫しないと、力押しでは負ける。


 黒竜達も減ってきたので、光刃からのレーザーをダインスレイフに向ける。

 自在の飛び交う光刃による全方位からのレーザー射撃は、行けファン○ル!な気持ちになって楽しい。

 しかし、一向に当たる気配はないが。

 シルは光刃を更に増やし、レーザーも途中で曲げていく。

 弧を描いたり、急に鋭角に曲げたりして、ダインスレイフを惑わしながら狙っていくが、ダインスレイフが呼び出した黒雷球がそれをほとんど弾いていく。

 たまにダインスレイフに届くものがあるが、鱗に傷がつく程度で、ほとんど効いていないようだ。

 リズも黒竜を撃ちながらもダインスレイフに対して不意に撃っている。

 ただ、一度食らっているせいかかなり警戒されており、確実に防がれているが。


『仕方ない、アレを出すか。まだ完全に完成とは言えないんだけどな。』


 そう言うと、シルはストレージから長い金属製の長い筒を2本取り出し、両手にそれぞれ持つ。

 更に、雷の精霊ヴォルトを2体呼び出し、それぞれ筒の根本に付かせる。


『シル様それは?』


 リズも見た事がないもののようだ。

 矢を放ちながら、興味津々で問い掛けてくる。


『向こうの世界の武器を真似たものだ。向こうでも完全な実用化はされていなかったと思うけどね。』


 そう言うと、シルは2本の筒をダインスレイフに向ける。

 ヴォルトがバチバチと言いながら大量の電気を発生させると、轟音とともに筒から鉄の玉が射出される。

 その速度は、この世界にないが銃弾を遥かに超えるものだった。

 鉄の塊は、大電流が流れた事による熱や、高速度による摩擦熱により、プラズマ化しており、それがダインスレイフの翼と尾に触れた途端、その周知をズタズタにして焼き切り、破壊してしまった。

 そう、シルが作り出して放ったのはレールガンと呼ばれる兵器だ。電磁加速砲とも呼ばれるその名の通り、電磁誘導により導体を加速して撃ちだす兵器だ。

 原理としては、フレミングの左手の法則を知っていれば考えられないことはないが、超高アンペアの電流や摩擦熱の扱い等、克服しなければならない課題は多く、実験レベルでは成功しているが兵器運用できるレベルまでは至っていないとされるものだ。

 事実は隠されていて、兵器運用されている可能性も当然あるが、異世界に来てしまったシルには関係がない。

 諸々の課題を、魔術でエイヤと解決というか無視して作り上げたのが、この2本の長い筒なのだ。

 片翼と尾の先を失い、地面に降りていくダインスレイフを見て、レールガンを撃ったシル本人が焦っている。


『シル様、追撃を。』


 まだ黒竜に矢を放っているリズのその一声で我に戻り、再度レールガンを放つ。

 しかし、一射目の熱が冷めていないうちに放った二射目により、その砲身は崩壊してしまった。

 放たれた金属弾は、なんとかダインスレイフの方に飛んで行くが、ダインスレイフは何枚もの竜障壁を重ねて生成することで、それを防ごうとする。

 結果として、13枚の障壁を打ち破ったところで弾は止まってしまった。


『貴様、俺の翼と尾に傷をつけたこと、後悔させてやる。』


 怒り狂ったダインスレイフは、黒剣ダインスレイフを取り出し、こちらに向かってくる。

 片方の翼が傷ついたことで飛翔速度は落ちているが、もともとダインスレイフの方が俊敏が高いので、まだシルよりも早い。

 光刃とレーザーにより迎撃しようとするが、黒いブレスを薙ぎ払うことで一掃されてしまう。

 高速で後退しながら、修復した上で強化した大太刀で黒剣を防ぐが、すぐに大太刀にひびが入り始める。

 このまま剣を交えれば、すぐにまた折れてしまうだろが、防がずに避けきれるようなぬるい攻撃ではない。

 ブレスや竜障壁を使いながらなんとか(しの)いでいるが、すぐに大太刀は折られ爪や鱗が少しずつ傷つけられていく。

 リズが、神弓から光矢を放ち援護するが、ブレスや黒球により阻まれ、ダインスレイフの体まで届かない。

 黒竜達を退け終わったフェニックスとリズが、極大のレーザーを合わせて放っても、竜障壁を重ねられて減衰し、多少の鱗を剥がす程度しかできない。

 また、リズはシルに治癒魔術も送っていたが、離れているため効果も弱く、癒し以上の速度でシルは傷つけられていく。


 あと数分もすれば、シルは討ち取られる。

 それを、シルもリズも理解してしまい、それに抗うために必死に抵抗するが、それも叶わないと思われた時、上空から大量の水流がダインスレイフを包み込み、弾き飛ばした。


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