開戦
フェリシーユ達の位階が99になると、それ以上は上がらなくなった。
何れかの神の加護がない状態では、人間としての限界を超えられないのだ。
レオナルトだけは、武神の加護があるのでまだ上がるのだが、一人だけ突出しすぎると、連携が難しくなる。
そのため、位階上げを切り上げて、軍として行動が出来るようにシャルワリエ王国軍と合流して、そちらの訓練に参加してもらうようにした。
その間にシルとリズは、2人でイチャイチャ・・・はしていない訳ではないが、フォルク雪原にある迷宮を探し出し、そこの攻略に乗り出していた。
その迷宮は水や氷だけではなく、火土風水雷の5属性を帯びた魔物が多数現れる所だった。
魔物の強さ自体は、魔族領内にある黒水の迷宮とおなじ程だが、この迷宮は2人で攻略を進めていた。
ただ、ほぼ毎日フェニックスの元と王都を訪れていたので、攻略はあまり進んではいなかった。
◇ ◇ ◇
とうとう、魔族領のジュリアーノ王が亡くなった。
謀略に屈せず、無事に天寿を全うしたと言うのが救いだろうか。
その報せをフェニックスから聞いたシルは、すぐに王都シャルデに伝えると、リズをそこに残したまま単身魔都テスカーラへと潜入した。
一度見付けられているとは言え、あの時は自ら話しかけていたので隠密の効果は切れており、光学迷彩だけの状態だった上に、探索魔法を使われたからだ。
ただ、魔神がいる可能性も捨てきれないため、シルは慎重に状況を確認していた。
魔神がいる様子はなく、イザイアは粛々とジュリアーノ王の葬儀や王の選定、戴冠式とこなしていき、就任とともにシャルワリエへの派兵指示を出した。
王都へ派兵されるのは、騎士1,000人、魔法使い1,500人、一般兵4,000人、徴兵6,000人となっているようだ。
また、それらの正規の兵の以外に、悪魔と大量の魔物が動員されるようだ。
悪魔は王の指示に従っているようにみられるが、魔物は使役する能力がないものは本来言うことを聞かない。
しかし、悪魔の特殊能力をうまく使って、使役までは行かなくとも、移動先を調整することができているのだ。
それらに情報を小まめにリズ経由で王国に伝えており、王国が優位に立って迎撃できる場所への展開を急がせていた。
本来なら、そもそも王族が親征に出ること自体が少ないのに、最前線で自ら戦うことなど、もっての他だ。
しかし、王位継承権2位に位置する王女フェリシーユは、前線に立っていた。
実戦経験も多く戦い慣れており、回復魔法は王国一の使い手として知られ、魔術も扱うことができ、近接でも立ち回れるというフェリシーユを、本陣で遊ばせておくのは勿体なかったのだ。
そして、既に聖女としての名が売れつつあるフェリシーユがいることは、士気軒昂としてこれ以上の効果は望めないほどであった。
それはシルのスパルタ特訓のお陰でもあり、後ろに下がるように言う騎士や兵たちを伸した上で回復してやると言う事を繰り返して、無理矢理納得させたからである。
その側には、王女付きの近衛騎士ブリュナールと、なぜか一緒にいるレオナルトが控えていた。
「それでは、魔物や悪魔はこちらで片付けておくから、お前らもうまくやれよ。」
「シルヴェストル様もお気を付けて。」
「シルなら魔物の群れの真ん中で寝てても、何ともないんだろうけどな。」
レオナルトが失礼な事を言っているので、軽くはたいておく。
もちろん、少しでも力を込めたら吹っ飛んでいくので、撫でるように、だが。
シルは単身で、魔物たちが移動している先の地点に転移して、待ち受ける。
念の為、リズは王国軍の中に、残してある。
基本的に戦闘には参加しないが、悪魔が出てきた場合に速やかに殲滅することになっているのだ。
「さて、俺もお仕事しますかね。」
そう独り言ちて、魔物の集団に向かっていく。
どこからどう集めたのか、オークやオーガ等の大型の人型魔物の上位種や、熊やバジリスク、ドレイク等の大型魔物が多い。
討ち漏らしや逃げ出した魔物が兵たちの方へ向かうといけないので、死霊術で重装歩兵タイプのスケルトンを500体ほど生み出して、進行を止めるための壁として後ろを任せて、シルが単騎で突っ込んでいく。
自ら持つ大太刀だけでは無く、作り出した光の刃を20本ほど作り出し、それを奮って次々と死体の山を気付いていく。
悪魔が阻止するために襲い掛かってくるが、巻き込まれて倒されていくものを除いて、基本無視していく。
悪魔が倒されることで、魔物の統制が取れなくなり散ってしまうと、兵たちの方に襲い掛かる恐れがあるためだ。
スケルトンの壁も完全ではないため、どうしても漏れはあるし、全く関係ない方に行ってしまい、村や街を襲われてはたまったものではない。
悪魔が何体もシルを止めようと試みるが、魔物の中を縦横無尽に動き回り、死を撒き散らすシルには近付く事も困難だ。
魔物が片付くと、最後の締めに悪魔を倒して、次の魔物の集団のいる場所に移動する。
これを繰り返していくが、一部わざと取り逃してしいる魔物もいた。
それは、魔族領軍の方に逃げていく魔物だったが、シルはある程度はわざとそちらへ追い立てていた。
追い立てられた魔物により、魔族領軍は少なからず被害を出していた。
兵同士の戦闘が始まっても、魔物の集団は引き続き襲ってきた。
事前に確認していた集団はすべて片付いたはずだが、魔物の「おかわり」が続いたため、精霊を何体か偵察に出し、見つけ次第殲滅に向かっていた。
「やっぱり独りは寂しいよなあ。」
文句を言いながら魔物を片付けているが、さすがにもう来なくなってきたようだ。
姿を隠したまま上空から戦闘の様子を見ているが、王国がかなり優勢になっているようだ。
シルがたまたま取り逃がした魔物のせいで、戦闘前から兵に疲労があったことと、ブリュナールとレオナルトの2人の強さが異常なためだ。
戦争は集団での戦闘なので、如何に数で勝るかという点と、それをどううまく動かすかと言う点が重要になる。
しかし、今の2人はそれを簡単にひっくり返すような強さを発揮している。
特にレオナルトは、魔術で範囲攻撃も出来るため、数の差を覆すのに最適なのだ。
フェリシーユの治癒も、兵力の維持と士気の高揚に役立っていて、戦果に繋がっている。
今日も王国優勢で終わるかと思っていたら、魔族領軍の中に、何体か悪魔がでてきた。
シルが、これはまずいかと思っていると、王国本陣から光の矢が飛来し、悪魔を貫いて爆発させ、すぐにすべての悪魔が消された。
本陣から悪魔まで、軽く1kmはあると思われるのに、リズの矢はとんでもない威力と精度だった。
魔族領軍の一部は、味方の中に謎の魔物が現れた上、それが一瞬で倒されたのを見て、恐慌状態に陥り潰走しだした。
一部が逃げ出したことで、戦線が維持できなくなり、総崩れとまではいかないが、兵を退かざるを得ない状況になり、魔族領軍は撤退戦となった。
王国軍側も、深入りしないようにしながらも、追撃戦に移行して残党を掃討しだした。
戦場内に、一条の黒い光が走る。
魔族領軍、王国軍を問わず、その光に巻き込まれたものが吹き飛ばされた。
両軍ともに、数百人はその光により一瞬で殺されたのではないだろうか。
光が飛んできた方角にある黒い点でしかなかったものが、徐々に大きくなりその姿が見えるようになってくる。
そこから再度黒い光が迸るのを確認したシルは、止む無く光学迷彩を解除し、竜障壁により黒い光を上空に受け流す。
突如自分たちの上空に現れた巨大な白竜に両軍陣営が驚くが、それが自分たちをあの破滅を呼ぶ黒い光から守ってくれたのだと認識する。
『我は光の竜王。まもなく、ここに闇の竜王が来る。双方至急兵を引いて逃げよ。』
突如、両軍陣営の兵の頭の中に響く声。
その内容と、先ほどの光の意味を理解し、魔族領軍は散り散りに、王国軍は整然かつ速やかに兵を引いていく。
逃げる兵を狙うように、三度黒い光が走る。
シルは落ち着いて光のブレスを吐き、それを打ち消す。
「シルヴェストル様、あの黒い光は闇の竜王のものなのですか? 竜王がなぜ人間に攻撃を?」
引かずにこの場に残っていたフェリシーユが、シルに訊ねる。
『恐らくだが、あれは既に堕ちている。お前らでどうにかできる相手ではない。下がっていろ。』
「本当に、とんでもない強さですわね。」
いつの間にか、シルの隣に浮いているリズが呆れたように言い添える。
既に竜だと視認できる距離にまで近づいている黒竜を見て、フェリシーユ達は、確かに自分たちがここにいても何もできないと判断する。
「力になれず、すまない。あれを頼む。」
レオナルトがそう言うと、残ろうとするフェリシーユをブリュナールと共に引きずって下がっていく。
『ダインスレイフだな。何をしに来た。』
『閃光竜か。クラウ・ソラスを屍竜にしてから然程経っていないはずだが、もうここまで育ったか。』
『お前がクラウ・ソラスを滅ぼしたのか。』
『俺ではない。魔神メルキオーレ様のお力だ。』
『魔神により堕とされたか。竜王のくせに情けない奴だ。』
『生まれたての小僧が何を言うか。お前ごときにメルキオーレ様のお考えは理解できん。』
『そうだな。竜王であるくせに、わざわざ飼い犬に落ちたお前の言う事なぞ知らん。』
『いい加減その五月蝿い口を閉じよ、小僧!』
その一言を皮切りに、竜王同士の戦闘が始まる。
多数現れた黒球がシルに襲い掛かるが、シルが作り出した白刃により撃ち落とされていく。
白刃は勢いをそのままに幽闇竜に襲い掛かるが、手に取りだした剣を一振りしただけで、全て打ち消される。
その刀身は黒く、赤い線が幾筋か走っており、気味が悪く捻じれている。
この不気味な剣が、ダインスレイフの名を冠し、その力を秘めた剣なのだろう。
白刃をさらに作り出し、ダインスレイフに全方位から斬り掛かる。
さらに、幾筋ものレーザーを撃ち込んでいくが、その悉くが黒剣により防がれ、消されていく。
ダインスレイフは、黒い霧を作り出し、それをシルに殺到させる。
それは視界を奪うだけではなく、闇の力を備えていて触れるだけでダメージを負うものだった。
シルは、黒い霧が到達する前に閃光を迸らせ、霧を打ち消すと、大太刀を手にダインスレイフに斬り掛かる。
右前脚に持った大太刀と左前脚の爪で何度も斬り掛かるが、ダインスレイフは事も無げに黒剣でそれを受けている。
何号も斬り結ぶが、一撃としてダインスレイフの身には届かず、逆に押されだす。
黒剣が光り、ドクンと脈動すると、その刀身が一回り大きくなり闇の霧を纏う。
黒剣での上段からの一撃を、大太刀で受けるが、大太刀にミシリと音がすると折れてしまい、刀身が地に落ちていく。
その一瞬の隙をつくように、黒剣が回避できない速さで襲い掛かる。
しかし、黒剣はシルに届くことなく、停止する。
ダインスレイフが剣を持つ右前脚に、光の矢が突き刺さり爆発したからだ。
その一撃は、竜王とは言え無傷では済まず、鱗が剥がれ血が流れている。
『神具持ちのハイエルフか。面倒な。』
『あら、闇の竜王様にお褒め頂き光栄ですわ。』
『鬱陶しい羽虫風情が。とは言え、その力は侮れん。この場は引くが、続きがしたければ魔都まで来い。』
そういうと、ダインスレイフは魔都のある方角に飛び去って行く。
『助かったよ、リズ。でも無茶はしないで欲しいな。』
『あら、それは無理な相談というものではないのかしら。』
『ですよね。では、こちらも一旦引きますか。』
そういうと、リズを背に王国軍が陣を敷いていた場所に向かっていった。




