表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/61

訓練と結婚

 閃光城のすぐ裏手にある迷宮。

 シルがダンジョンマスターになっているため、その構成はカスタマイズできる。

 その迷宮で、強制的にフェリシーユ達の位階上げをするために選んだ手段がパワーレベリングだ。


 オンラインゲーム等で、強く育ったプレーヤーが、まだレベルの低いプレーヤーを高レベルの狩場に連れていき、経験値の高い敵を殲滅することで大量の経験値を取得させる手段だ。

 ただ、大抵のゲームでは、それを防止するために、高レベルのメンバーがパーティーにいる場合は、そのプレーヤーを基準に取得経験値が計算されたりして、そんなに簡単にはできないように対策をしている。

 ところが、この世界では各プレーヤーの位階を基準に経験値が計算される上に、パーティー人数が多過ぎなければ経験値の頭割もないのだ。

 つまり、フェリシーユが1人で位階100の魔物を倒したのと、シルとパーティーを組んでシルが1人で倒したのと、取得経験値が代わらないようなのだ。

 経験値が減るのは、パーティー人数が7人以上の場合のようだ。


 シルは1階層から8階層までは、魔物の出現数も広さも最低限にし、9階層の広さと魔物の数を最大にした。

 宝箱と言った、迷宮の魔力を使う要素を最低限にし、9階層でひたすら戦闘を繰り返すことで、フェリシーユ達の位階はとんでもない早さで上がっていく。


 フェリシーユ達全員の位階が60を超えたところで、一旦迷宮での位階上げを中断し、魔法を教える事と魔術を扱える練習をさせていく。

 魔術が使えると詠唱が要らなくなるし、威力や範囲外のコントロールができるようになる。

 その代わり、消費する魔力が増えてしまうが、慣れて洗練されてくると、同じ効果なら同じ程度の消費で済むようになる。


 それがある程度できるようになると、また迷宮で実践訓練だ。

 最初のパワーレベリングでは、シルとリズがヒャッハーしていたが、今度は迷宮の構成を戻し、出来るだけ3人だけで切り抜けられるようにさせるのだ。

 いくら位階が上がることでステータスが上昇しても、実戦の勘のようなものは見につかない。


 自分の力で魔物と相対し、緊張感や距離感、呼吸、予備動作等を体に叩き込んで行くのだ。

 そのまま放っておくのは危険なので、ある程度シル達が魔物を間引いたり、適度に手伝ったりはしている。

 そして、それを徐々に減らしていく事で、3人でも立ち回れるようにさせるのだ。


 3人は、魔法や射撃と言った遠隔攻撃手段が乏しいが、それ以外は比較的バランスがいい。

 連携ができるようになってくると、安定した戦闘ができるようになってきた。

 そこからは、シルが出現する魔物の指定をなくし、どんな魔物が出現するか分からないようにした。

 これで、未知の魔物や技に対応ができるようにさせるのだ。

 この迷宮では物足りなくなると、場所を魔族領内の黒水の迷宮に移して、同じことをひたすらさせていく。


 そんな特訓により、3人はよく虚ろな目をしていたりするが、位階は順調には上がっていく。

 シルは(たま)にパーティーから外れ、閃光城の中で装備や魔道具の作成を行っていた。

 特に状態異常を防ぐための装備は、なんとかしたい問題だった。

 どんなに位階を上げても、状態異常になってしまうと、簡単に死んでしまう可能性がある。

 特に即死と精神支配はなんとかしたいものだった。

 苦労した甲斐もあり、この2つは無効は無理でも、かなり抵抗できる装備が出来上がった。

 それと、ある程度の転移が魔道具により出来るようになった。

 転移や次元断といった事象を実現する空間魔術は、リズを持ってしてもなかなか習得ができないでいたのだ。


 一方、レオナルトが全属性の魔術を扱えるようになっていた。

 やはり、日本で得ていた知識があるので、シルの説明でも理解がしやすかったのだろう。

 

 また、シルはたまにフェニックスの所に赴き、カーバンクルを付けている魔族領のジュリアーノ王の様子を確認していた。

 何度も毒を盛られたりしていたようだが、カーバンクルの力で影響がなかったので、まだ存命だった。

 しかし、やはり年齢には勝てず、徐々に衰えているようだった。

 ジュリアーノ王本人が言っていたように、その命が尽きるのは近いようだった。



 ◇ ◇ ◇



 軍靴の音がいよいよ近づいてきた夜、シルはリズと部屋で2人で向き合っていた。


「これから先しばらくは、色々と忙しくなりそうだから、ちょっと話しておこうかなと。」

「あら、何かしら?」

「俺がここではない、異なる世界から来たのは前に話したよね。」

「はい、伺いました。」

「その世界は人間・・・人族だけが住む世界で、魔物や魔法もない世界だった。」

「はい、科学というものが発達した世界だと。」

「そう、その世界の日本という国にいたんだけど、そこでは20歳で成人、つまり一人前として認められる世界で、俺は40過ぎまで生きていた。」

「エルフだと成人前の年ですわね。」

「向こうだと、中堅から年寄りの指導層に入りかけくらいだね。こちらで言えば、大商会で特定の部門を任せられているくらいの立場だったんだ。」

「あら、向こうでも人の上に立つ方だったんですね。」

「いや、それくらいなら幾らでもいるようなものだよ。それはさておき、まあ、その、なんだ。」

「・・・大丈夫ですわよ。」

「ああ、済まないな。まあ向こうでも成人してそれなりだったので、俺も結婚してこどもがいたんだ。」

「一人前であれば、それも義務でしょうね。世継ぎを生んで育てるのは。」

「こちらの貴族みたいに、政略結婚なんてのはあまりなかったんだけどね。で、妻もこどももいた俺が、その記憶を持っているままこんな事を言うのも、虫のいい話しなんだが・・・リズ、俺と結婚して欲しい。」


 リズが、息を呑む様子が分かる。

 こちらだって、緊張で喉がカラカラだが。


「はい・・・やっと言ってくれましたね。そのつもりがないのでは、とずっと心配していました。」

「竜王だからね・・・いいのかどうか悩んでいた。と言うか、どうして俺がリズのことを好きなことが前提になっているのかな?」

「私だって、想いを向けられれば分かりますよ。増してや、こちらも想っている方が相手であれば尚更です。」

「そうか、そうだよね。あ、一応確認だけど、エルフでも結婚できる年齢なんだよね?」

「エルフは50歳で成人ですわ。だいたいのものが100歳くらいまでに結婚するので、私の年齢だと普通でしょうか。」

「そうか、良かった。」


 シルはストレージから、綺麗な箱を取り出して、開けて見せる。


「これをリズに。こちらの世界では分からないけど、向こうでは結婚する時に指輪を用意して、相手の左手薬指につけるんだ。」


 そういうと、箱の中にある宝石の付いた指輪を、リズの左手をとって薬指に通す。


「ありがとう・・・ございます・・・。」


 リズは涙をこらえながらも、笑顔で応える。


「これはペリドットという宝石なんだ。こちらではどう扱われているか分からないけど、向こうでは夫婦円満とかそういう力があると言われている石なんだ。」


 それを聞いてリズが微笑む。


「なんか、改めて説明すると、照れくさいな。」

「・・・素敵ですよ。旦那様。」


 言われて、元々緊張と照れで赤くなっていたシルの顔が、湯気が出るほど真っ赤になっている。


「照れちゃって、可愛いですね。」


 頭を撫でられているが、気恥ずかしいので抱きしめて誤魔化す。


「相変わらず、こういう時に誤魔化すのがバレバレですわ。」

「そういうのが上手いのも、どうかと思うけど。」

「そうですね。」


 リズが、少し身を離し、改めて見つめてくる。


「結婚されていたのは、あくまで向こうの世界の話。シル様の前世の話です。たまたまシル様はその記憶を引き継いでいるので、悩んでいるのでしょうけど、さすがに私も前世のことまで言いませんわ。私が想いを寄せるのは、知立銀次という方ではなく、閃光竜シルヴェストル様ですから。」


 そっとリズが口づけをしてくる。


「ありがとう、リズ。これからもよろしく。」

「はい、何百年、何千年一緒にいるかわかりませんけど、離しませんからね。浮気したら・・・分かっていますね?」


 リズの目から一瞬だけハイライトが消えた気がした。

 背筋に冷たいものを感じる。


「ひゃ、ひゃい。」


 噛んだ。

 ここで噛むのは致命的にまずい気がするが、口がうまく動かないのだ。

 ここは下手だと言われてようが関係なく誤魔化すしかないので、再び抱き寄せて口づけする。



 ◇ ◇ ◇



 今までと同じように寝台の上で2人は朝を迎えた。

 リズがシルを抱き枕にしているのも変わっていない。

 ただ、今までと違うのは2人とも一睡もしていない事だった。

 今まで、結果として色々と我慢していた2人だが、それが解放されたので朝まで貪りあったのだ。


「アルベルトに挨拶に行った方がいいのかな。」

「そう言えば、ハイエルフになったことも報告してないですね。」

「それじゃ、今から行くか。」

「はい、行きましょう。」


 2人は、フェリシーユ達に今日は外出するので訓練は休みとし、迷宮に入らないように伝える。

 フェリシーユとレオナルトが、頬を赤らめてこちらに視線を合わせないので、何か聞こえてしまったのかも知れないが、聞く訳にもいかないので、放っておくしかない。


 リズを背に、エルフの森の上を飛んで行く。

 転移しようかと試したのだが、エルフの森には何か力が働いているのか、直接転移ができなかったのだ。

 仕方なく、森の手前まで転移して、そこから飛んで移動したのだ。


 危うく別の氏族の集落に入りそうになってしまったが、きちんとリズの誘導を受けて、無事に月の氏族の集落に到着する。

 事前の連絡もなく訪れた2人をアルベルトは快く迎えてくれ、結婚についても祝福してくれた。

 ただ、ハイエルフへとなった事については、長老にどう報告するか悩んでいたが、それは長の仕事なので頑張ってもらおう。

 アルベルトは結婚しないのかと聞いたら、長の妻となると色々と大変なので、なかなか見つからないようだ。

 別の氏族長のところに、同じく結婚適齢期を超えそうな娘がいるらしく、そこと縁談が進む事になりそうだが、向こうも一人娘らしく氏族長の後継者をどうするのかが決着がついていないため、話しの進みが遅いのだそうだ。


 アルベルトへの報告も無事に終わったが、こちらでは特に役所への婚姻届けのようなものもないので、あとは特にすることもないそうだ。

 他の竜王に言っておくことも考えたが、特に意味もなさそうなのでやめておいた。

 特に、溢水竜ミュルグレスは面倒な事になりそうだったので。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ