残念な王女
『まだ後詰めが来るかもしれん。一度閃光城に行こうかと思うが。』
「そうですわね。王都へは転移できませんし、それがいいかと。」
「助けて頂いた身ですので、お任せします。」
という事で、全員まとめて閃光城の門前まで転移する。
何度目か分からない驚愕を経験した3人だが、城に入っていく2人に慌てて付いていく。
「テオドール、済まないが3人分の客室を用意してもらえるか。」
「畏まりました。用意しますので、食堂でお待ちください。」
「分かった。では、フェリシーユ殿達はこちらへ。」
シルの案内で食堂まで行き、リズの淹れてくれたお茶で一息つく。
「では、今後のことをちょっと相談してきたいところがあるので、今日はこれで失礼する。しばらくゆっくりと休まれるといい。」
「ありがとうございます、シルヴェストル様。ご厚意に甘えさせていただきます。」
「では、テオドールに案内を任せるので、よろしく頼む。」
客間の準備を手配して戻ってきていたテオドールに後を任せて、シルとリズは転移でその場から消える。
◇ ◇ ◇
転移した先は、堅土竜カリバーンの住む洞窟の中だった。
『カリバーン、いるか?』
『おお、シルヴェストルか。随分と大きくなったな。』
『おかげ様で、成竜までなれたよ。』
『上位竜まであと少しだな、精進せよ。ところで、今日はどうしたのだ?』
『ああ、相談したいことがあって。魔族領が王国に戦争をしかけようとしているようなんだが、竜王はどこまで介入していいのかと思って。』
人の世に関与するなとは言われているが、どこまでがOKなのか、そのボーダーラインが良く分からないのだ。
『人間同士であれば、不干渉が望ましいのだがな。』
『うーん、やっぱりそうか。実は魔族領側に堕ちた魔神が関係しているようなんだけど、まだ明確な証拠まではなくて。』
『魔神か。堕ちた上で関与しているのであれば、竜王の介入も問題ないとは思うが、人間がどう判断するかだな。』
『竜王が介入することで、神から何か制裁でもあったりとかは?』
『聞いたことはないな。望ましくないというだけで、明確に禁止とも言われておらんからな。ただ、やはり竜王が特定の個人や国に加担していると人間から見られるのは、やはり良くないな。』
『では、証拠が見つかるまでは、何もしない方がいいか。』
『直接はそうだな。』
カリバーンが、そのいかつい竜の顔でニヤリとした気がした。
「なるほど、直接はまずいですけれど、何かしらこっそりと間接的に支援するのはあり、と言うことですわね。」
『ほう、さすがはハイエルフだな。そういった事はお前らの方が長けておろう。』
「まあ、ひどいですわね。ひっそりと生き永らえる術を身に着けているだけですわ。」
リズとカリバーンがニコニコしながら、それでいて何か薄ら寒い雰囲気を出しながら話している。
さすが伊達に歳は食っていないな。
「シル様、変な事考えてましたよね?」
『何のことだ? とりあえず証拠が見つかるまでは、裏からばれないように王国を支援するということかな。』
『それで良かろう。やりすぎぬようにな。』
『ちゃんと自重するよ。』
リズからの視線が少し痛い気がするが、気のせいだろう。
カリバーンに礼を告げると、転移で閃光城に戻り、工房に2人で籠ってあれこれ相談しながら準備をしていった。
◇ ◇ ◇
翌日、朝食の後にそのまま食堂に残ってもらい、話しを聞く事にする。
「フェリシーユ殿は、そもそもあそこで何をされていたのだ。」
「魔族領に赴いて、ジュリアーノ陛下への謁見をしていました。両国の食糧事情等について話がありましたので。その際に、陛下から戦争推進派が最近過激なので、早々に帰国した方がいいと耳打ちされましたので、急いで帰国していたのですが、国境を越えた辺りで魔物に襲われていたのです。」
「馬車も馬も捨てて、なんとかしのぎつつ逃げていたのですが、仲間を失いもうダメかというところで、シルヴェストル殿に救援頂いたのであります。」
「で、それになんで魔族のレオナルトが一緒にいたのだ?」
「まあ、それはその、色々とね。」
「話せないことなら別に無理に聞こうとはしない。結局は外交の為に魔族領に行ったら帰りに襲われたと言うことだな。」
「その認識で問題ないであります。」
起きている事は問題だらけだが。
「王国側には、この事は?」
「私達が戻って報告しなければ、知らないはずです。」
「では、今日にでも王都に行こうか。王国は、戦争になれば当然抵抗はするのだろうな。」
「戦争は避けたいのですが、向こうから攻められては応戦しないわけには。王国民を守る義務が、私達王族にはありますし。」
「竜王は人の世の争いには関与しないので、戦争に加担することは出来ない。」
「はい、存じております。私達人間が解決すべき問題です。」
「うむ。しかし、今の魔族領内には、魔神が関与している疑惑がある。もし本当に魔神が争いを起こしているのであれば、俺達竜王はそれを排除せねばならん。」
「では、御助力頂けるのでありますか?」
「その証拠がない今の状況では難しいな。魔神がそのしっぽを出すとは限らないので、宛にされても困る。」
「そうでありますか。」
ブリュナールは残念そうだが、シルが出ていけば一国を滅ぼすのも簡単なのだから仕方ない。
「だが、争いに直接参加するのでなければ、別に構わないと思っている。例えば、お前達を鍛えてやる、とかな。」
「大変有難いお話しですが、私達がそのご恩に報いることができるかどうか。」
「俺は別に金銭等には興味もないし、素材も自分で幾らでも集められる。そのような事は期待していない。」
「では、どのような?」
フェリシーユとしては、報酬が要らないと言われているに等しいので、どうしてと疑問なのだろう。
「簡単な事だ。魔神が現れた際には逆に力を貸して欲しい。まだ具体的に何をとまでは考えていないが。無論、無茶な事を頼むつもりもない。」
「それでしたら、私が父上に説明すれば大丈夫かも知れません。」
「では、報告の際に一緒に頼む。一度王都に赴き、その後鍛える為にここに戻るという事でよいか。」
「私は問題ありません。」
「王女殿下に従うのみであります。」
「俺も乗りかかった船だし、問題ないよ。」
「分かった。では、王都に転移できるように、リズと2人で一度王都に行ってくる。一刻程度で戻るので、それまでここで待っていてくれ。」
「分かりました。ここで待たせて頂きます。」
「では、行ってくる。リズ、ピノンからでいいかな。」
「そうですわね。ピノンからが最も早いと思いますわ。」
そう言うと、シルはリズとピノン近くに転移し、そこからリズの案内に従って空路で王都に向かう。
一刻も待たずに王都が見える場所まで行くと、一旦閃光城に戻り王女達を連れて転移した場所に戻る。
「フェリシーユ殿、このまま竜の姿で訪ねるのと、人化して訪ねるのと、どちらが良いかな。」
「竜のままでよいと思います。きちんと竜だと認識してから人化して頂ければ。」
「人化したままでは、竜だと認識しない恐れもあるか。では、このまま進もう。」
シルは久しぶりに竜の姿のまま、四肢で大地を踏みしめて歩いている。
普段は浮いているので気にしないが、かなりの巨体になっているので、地響きが凄いことになっている。
もちろん、わざとだ。
リズも、そんな怖がらせるようなイタズラをしなくても、と思っているがなにも言わずに付き添っている。
フェリシーユ王女は図太いのか何も気にしていないようだが、レオナルトとブリュナールは落ち着かない。
王都の入り口には、たくさんの商人や冒険者が門から王都に入るための審査を待っていた。
シルを見た人は、驚いて立ち竦んだり腰を抜かすくらいならまだマシで、失禁してしまうものや、泣きながら逃げ出す者もいた。
可愛そうなのでシルがそっと洗浄と乾燥をかけてやっているが、それに気づいているリズから見ればただのマッチポンプだ。
フェリシーユは、相変わらず周囲の喧騒を気にもせずに貴族用の入り口に向かう。
「フェリシーユ殿下、ブリュナール殿、無事に帰還されたこと嬉しく思います。」
「ご苦労さま。この3人・・・竜は人でいいのかしら? とにかく私の連れですので、このまま通らせてもらいますね。」
「申し訳ありませんが、身分証明はお願い致します。規則ですので。」
「相変わらず堅いですね。だからこそ安心して任せられるのですが。すみませんが、身分証はありますか?」
『ちゃんと持っているぞ。ほれ。』
「確認させて頂きます。・・・8級冒険者!?」
シルの取り出した冒険者ギルド証を検めた門番が、それを見て驚く。
『竜で驚かんのに、8級には驚くのか。不思議なものだな。』
「は、失礼いたしました。問題ありません。」
「それじゃ、私のもお願い致しますわ。」
「7級!?」
可憐な女性に見えるリズが、7級と言うのも信じられないのだろう。
隣を見ると、レオナルトも驚いていた。
『お前まで何を驚いている。リズが戦うところは見ていたであろう。』
「いや、でも、7級ってすごいんだよ?」
「シル様の隣に立つには、まだまだ未熟ですわ。」
「はぁ、そうですか・・・。はあ、これが僕のギルド証です。」
「はい、5級ですね。問題ありません。」
心なしか、門番がホッとしているようだ。
『すまんが、この門を通るのは厳しそうなんだが、飛び越えていいか?』
「周りを驚かせるといけないので、私達が先に門に入ってからお願いしますね。」
そう言うと、フェリシーユは1人で先に進んでいくので、慌ててレオナルトとブリュナールが付いていく。
『王女様は、なかなか動じない方のようですわね。』
『さすがは王族、と言ったところなのかな。』
ただ門を飛び越えるだけなので意味があるかは分からないが、リズがシルの背に乗り、フワリと飛び上がると数メートル先の門の中に着地する。
「お2人は、いつも仲がよろしいのですね。」
レオナルトを、横目に見ながらフェリシーユが独り言ちている。
視線に気付いたレオナルトは顔を真っ赤にして俯き、その様子を見てブリュナールは暖かい眼差しになっている。
『お2人はそういうことなんでしょうね。』
『だろうな。しかし人の世で身分違いの恋は大変だろうに。王位継承権を持つ王女と平民、しかも敵国の国民だぞ。』
『駆け落ちとか素敵じゃありません?』
『王族がその責を投げ捨てる訳にはいかんだろ。そんな性格には見えん。』
『でしょうね。』
初々しい2人を見ながら、年寄り?な2人は念話でこそこそと話しながら一行は進んでいく。
本来なら馬車で行く所だが、襲撃を受けた際に馬車は無残な姿になっているし、今回は先触れも出していないので迎えもきていない。
フェリシーユは気にすることもなく歩いて行くが、本来なら王家の在り方云々と小言を言われるところだ。
実際には、フェリシーユはその事に気付いてもいたが、どうやってもシルを馬車に乗せる訳にいかないので、そのまま歩いているのである。
竜を連れて歩いている自分の姿を民衆に晒す事で、逆に王家の権威を増そうと考えていたのだ。
城門以降は、問題なく進んでいけた。
本来なら応接室や客間で控えて、その後にそのまま個室で謁見するのだが、シルが入れないので、仕方なくそのまま謁見の間に進んで、そこで王を待つ事になった。
すぐに、壮年と青年の2人の男性が奥から姿を表した。
壮年の男が段差の上にある玉座に座ったので、この男性がシャルワリエ王なのだろう。
青年の方は横に控えて立っているので、王太子だろうか。
横を見るとレオナルトだけ片膝を床に付き、頭を垂れている。
「お父様、フェリシーユただいま戻りました。」
「よく無事で帰ってきた。安心したぞ。して、この者どもは?」
「光の竜王、閃光竜シルヴェストル様と、一緒に旅をしているリズ様、そして冒険者のレオナルトです。」
その一言で王ががばっと立ち上がり、慌てて段差下まで降りてくる。
「ぶぁっかもーーん! 竜王様ならそうと早く言わんか!」
そのまま王がフェリシーユの頭に拳骨を落とすと、フェリシーユは王女として相応しくない蛙のような呻き声をあげながら蹲る。
「竜王様とは知らなかったとは言え、失礼しました。シャルワリエ王国を預かる、ランベールと申します。」
『なんの連絡もなく、突然こちらに来たのはこちらの失礼だ。非礼を詫びるとともに、フェリシーユ殿を責めないでやってくれ。それに、そんなに謙る必要はないので、普通にしてくれれば良い。王がそれでは家臣も戸惑うだろう。』
「世界の守護者たる竜王に対し畏れ多いのですが・・・では、これくらいで良いだろうか。」
『では、改めて挨拶をさせてもらおう。シルヴェストルだ。』
「エルフの森、月の氏族長家のハイエルフ、エリザベト・リクシエールです。」
リズがフードを取り、美しい髪と長い耳を露わにし、軽く頭を下げる。
氏族長一家は、王国に例えれば王家または公爵家あたりに相当するので、臣下の礼はとらず簡易の礼をとっている。
「おお、氏族長家とな。しかもハイエルフとは。今後とも良しなに。」
ランベール王も、軽く会釈をし礼を返す。
「冒険者のレオナルトと申します。フェリシーユ殿下とは縁あって同行させて頂いておりました。」
「娘が世話になったようだな。礼を言う。ん・・・?お前は魔族ではないのか?」
「はっ、魔族とエルフの間の子のようですが、残念ながら出自を知るものがおりませんので、正確な所は分かりません。」
「なぜ魔族と一緒に、と思っておったが訳有のようだな。」
「次は私が。ランバートの息子、クロードです。」
やはり王太子だった青年が、会釈をする。
美青年なので、軽い会釈だけでもサマになっている。
「では、フェリシーユ、報告せよ。」
「はい、お父様。実は斯く斯く然々と言う訳で・・・」
またゴチン!という音とともに拳骨が落ち、残念な王女が蹲る。
クロードや周囲の兵が、笑いを堪えて肩を震わせている。
「斯く斯く然々で分かるか! ちゃんと説明しろ!」




