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もう一人の転生者

 翌朝、日の出の開門と同時にシルとリズは魔都テスカーラを発った。

 すぐに街道を逸れると、シルは竜に戻りリズを背に乗せて一気に街道を王国方面へと飛び立つ。

 2人で魔力感知と気配感知を全開にして調べながら、シルが全力で飛翔していく。


 王国と魔族領の境界にある関所も上空から素通りし、王国領に入ってしばらくすると、大量の魔物の気配が街道から少し外れたところにあった。

 魔物の群れの端で、数人の人間が魔物と交戦しているのを発見すると、魔物の群れを低空飛行で突っ切るように横断し、人間たちの側に降り立つ

 そして、シルが麻痺攻撃と闇魔術の恐怖を乗せて、全力で咆哮する。


 魔物たちが麻痺と恐怖で硬直し動けなくなっているのを横目に、人間達の近くで戦闘していたため咆哮から外れた魔物を、リズの矢が次々と貫いていく。


『シャルワリエ王国の王女一行か。助太刀する。』


 シルの突然の念話に人間達は混乱するが、王女本人だけは何事もなかったかのように返す。


「フェリシーユ・フォン・シャルワリエです。ご助力感謝します。」

『うむ。ではこ奴らを片付ける故、しばし下がっておれ。』

「しかし、これだけの魔物です。我々も・・・。」

「巻き添えになりたくなければ、下がっていて下さいね。」


 既にシルの背から降りているリズは、そう忠告すると魔物に向って弓を構え、アローレインや乱れ撃ちを撃ち込んでいく。

 シルも光のブレスを薙ぎ払うように放ち、一気に魔物を殲滅(せんめつ)していく。


 魔物の群れは、下はコボルドやゴブリンのような雑魚から、プレーリーウルフ、ワイルドボア、トロピカルベア、そしてジャイアントバジリスクと言った大物まで、様々な種類の魔物の混成であった。

 何百体もいたはずが、今は一方的に蹂躙されるだけの魔物達の中から、3体の魔物が突出してくる。

 例の悪魔のようだ。

 馬に跨る獅子の顔を持つ騎士、体表が青白い有翼の獅子、炎を纏った獅子の顔の騎士の3体だが、その名は、ヴァプラ、オリアス、アロケルと言う。


「あれは悪魔! あいつらの力はかなり強い! いくら竜が強いとは言えあいつらが相手では・・・。」

『ん? あの出来損ないが怖いのか?』


 シルはそう言うと、そのうちの2体に火球をぶつけて爆散させる。

 残り1体は、リズが放った水属性の矢で放たれたデトネーションショットにより、同じく爆散させられている。

 またも、悪魔たちは名乗りを上げる間もなく散っていったのだ・・・。


『リズ、あまり魔物を四散させると素材が取れんな。減ってきたし、素材が取れるように倒すぞ。』

「分かりましたわ。」


 恐るべき相手である悪魔が一瞬で倒された事に、口をあんぐりと開けたままになっている人間達を放っておいて、シルとリズは近接戦に切り替えて素材を残すように殲滅していく。

 逃げ出そうとする魔物も当然いたが、ジャイアントバジリスクやトロピカルベアのような強力な魔物を放置すると、周囲の街や街道を行き交う商人に危険が及ぶため、逃がさないように倒していく。


 戦闘自体はそれほどの時間がかからずに終わったが、その後の素材回収にかなりの時間を必要とした。

 リズのアイテムボックスは容量が大きめとは言え、これだけの素材を入れておくには当然足りないので、全てシルのストレージに入れておく必要があるのだ。

 当然、捌いたり血抜きをしている余裕はないので、丸ごと放り込むだけである。

 シルが飛び回っている間に、リズが人間達の怪我を癒していた。


 その様子に放心しながら傷を癒されている人間達に、やっと落ち着いたシルが声をかける。


『さて、緊急時故挨拶が遅れたな。俺は光の竜王シルヴェストルだ。』

「シル様と旅をしているリズですわ。よろしくお願いしますね。」

「は、はい。よろしくお願いします。フェリシーユ・フォン・シャルワリエです。」

「フェリシーユ殿下の近衛騎士、ブリュナール・ドゥ・ミストラルであります。」

「冒険者のレオナルトだ・・・です。」

『別に(かしこ)まる必要はない。しかし、王女一行にしては数が少ないな。』

「はっ、元は自分含めて8人の護衛がいたのですが、自分以外は魔物の群れに飲まれて生死不明であります。」

「皆、私を逃がすために・・・。」

『それが彼らの役目だったのであろう。後できちんと然るべき対処をしておくことだな。』

「はい、それは勿論です。」

『それで、なぜ冒険者が? ん・・・まてお前は日本人か?』


 シルがレオナルトを鑑定した結果、名前がレオナルト(星野 烈央)となっていたのだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! シルヴェストルさん、ちょっと向こうで話をさせてくれ。」

『うむ・・・そういう事か。分かった。しばし2人で席を外すぞ。リズ、食事の準備でもしておいてくれ。』

「分かりましたわ。」


 シルが異世界人である事を知っているリズは、それだけで察してくれたのだろう。

 シルは、レオナルトを少し離れた所に誘う。


『皆には日本人だと隠しているのだな?』

「ああ。言っても頭がおかしい奴だと思われるだけだし。」

『それでいい。異世界人の知識は狙われる事もあるらしい。さっきは思わず言ってしまってすまなかったな。』

「それは後でごまかすので大丈夫。シルヴェストルさんは、創造神により転生されたってことでいいです?」

『なぜそれを?』

「こちらに呼ばれる時に、武神から聞いたんだ。創造神から呼ばれたものがいるはずなので、伝えて欲しいと。」

『転生する時に説明があったのか。俺にはなかったんだが。』


 創造神からは完全に放置されているシルである。


「創造神の手違いらしい。創造神は力が大きいが色々と制約があるらしく、直接人間と話すことはできないらしい。で、転生前に説明しようとしたけど、その制約のせいで説明ができないまま転生が完了してしまったと。」

『なんとも間の抜けた話だな。忙しくて手違いがあったのならまだいいけど、ただの馬鹿だったら困るな。』


 瞬間、シルは背筋の凍るような気配を感じ、周囲を見回すとともに全力で感知をする。

 特に何も感知できなかったが、気配の原因が分からない。

 創造神による、いつも見ているから不敬は許さんという脅しだろうか。


「何か?」

『いや、何でもない。それより何か言付(ことづ)かったのだろう?』

「そうそう、魔神が世界を滅ぼすために動いているので、それを止めて欲しい、だそうだ。」

『まあ、予想していた範囲か。それだけか?』

「魔神の力は強大なので、十分に準備すること、とも言っていたかな。あと、手違いはすまない、とも。」

『強大な力か。確かに俺はまだ、竜王の中で最弱だからな。』

「あれで最弱・・・?」

『まだ生まれてから1年も経ってないのだからな。少なくとも、直接会った5竜はもっと強いはずだぞ。』

「もっと強いのが、あと5体もいるのに、それでも魔神は危険ってことなのか。」

『それは堕ちても神だから、強いんだろうな。それより、お前自身は何かしろと言われていないのか?』

「シルヴェストルさんへの伝言と、あと人の世が荒れるからできるだけ収めてくれと言われたな。」

『なるほど。竜王としての責務は世界の秩序を守る事で、人を守ることじゃないからな。俺が世界の視点から、お前が人の視点から、それぞれが守れということだろう。』

「どう違うのか分からないんだけど。」

『そこはまた説明しよう。しかし、これだけ面倒なことをさせるんだから、神も何か褒美くらい寄越して欲しいものだ。』

「相手は神様だし、そのあたりは言っても仕方ないのかも知れない。」

『それより、見えない何かが憑いてないか。気配と魔力は感じるんだが、見えない。』

「幽霊みたいなものかな。悪いものじゃないし、僕の戦力にはなっているから、気にしないでいてくれると嬉しいな。」

『まあ良いか。食事の準備ができるだろうから戻るぞ。』


 シルは話を切り上げると、リズの食事を堪能するために戻っていく。

 もちろん、しっかりと味わうために人化をしたので、また3人を驚かせる事になるのだった。


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