悪魔
15階層までは石造りの通路の迷路だったが、16階層からは平野などでできた階層になった。
ただ、暗く広大な荒れ地を大量のデュラハンが走り回っているのは、ある意味壮観ではあったが。
しかも、2輪の戦車に乗っているものだけではなく、騎乗したタイプや、装甲荷馬車と言うようなものに4体乗り合わせているものなど、多種多様だった。
砂浜の階層では、ハサミの代わりに鎌を持った蟹ラグーンサイズクラブや、強固な殻に住む多数のヤドカリが連携してくるシタデルシェルがおり、それらが隠密して砂の中から襲いかかってきた。
一面海の階層では、シーサーペントやクラーケンと言った、有名どころの大型魔物が大安売りのバーゲン品のように巣食っており、水竜の屍竜もいたりした。
たまに獣型の魔物がいる階層もあったが、そこにいたのはオルトロスと言う双頭の狼で、炎と闇のブレスを巧みに操る魔物だった。
途中で何度も野営をしながらも、29層に辿り着いた。
そこは石造りの神殿のような造りだが、その雰囲気は暗く、空気は淀んでいた。
出てくる魔物は、見た目は蛸なのに地上を俊敏に動き回るランドテンタクルが至る所を徘徊している上に、、デュラハンの上位種になるデュラハンロード、一見リッチに見えるがエルダーリッチより遥かに強力なマギカレックスが、隊を組んで巡回していたり、部屋に待ち構えていたりした。
どうにかして辿り着いた階層主の部屋の中には、女性の上半身の下に触手のようなものの先に犬の顔がついたものが6本生えている魔物スキュラがいた。
しかもその大きさは、全高10mほどもあり、触手もそれぞれが同程度の長さがあった、犬の顔も2mほどはあった。
とりあえず様子を伺うために、シル、リズ、レヴィアタン、フェニックスはそれぞれの得意な攻撃を繰り出す。
すると、6つの頭それぞれが魔法を撃ち出してきて、それを迎撃した。
しかも、頭をにより属性が異なっていて、火水土風雷光の魔法が発動している。
その間に上の体が死霊術を発動し、リビングアーマーを4体呼び出している。
通常のものより大型で、持っている武器も大剣、大斧、大刀、棍棒と全て大型で、武器鎧ともに金剛鉄で出来ているようだ。
さすがに6個の頭と上の体、さらに4体のリビングアーマーで合計11体の相手はマズイ。
シルは、しばらく竜障壁を展開し時間を稼ぎ、その間にリズが残りの大精霊を呼び出す。
ベヒモス、ガルーダ、レヴィアタン、フルフール、フェニックス、イフリート、シャドウ。
7体の大精霊が一同に集う事など、そうそうあるまい。
大精霊にスキュラを任せ、まずはリビングアーマーを2人で片付ける。
しかし、リビングアーマーの中に魔石の気配がない。
構わず、シルが大太刀で切り裂いていく。
リビングアーマーの全身鎧も、シルの大太刀も、どちらも金剛鉄製だが、大太刀には芯に霊銀や神金が入っており、魔力を通しやすくしてある。
ここに魔力を通すことで、より頑丈になり、斬れ味も増している。
そのため、驚くほどスパスパとリビングアーマーの鎧は、断ち切られていくが、そのバラバラにされた鎧の中から魔石が出て来ないのだ。
魔石がなく滅ぼせない為か、バラバラにされた鎧が再度組み上がり、斬られた所ももとに戻ってしまう。
光魔術で浄化しようとしても、浄化どころか動きが鈍ることもない。
不死者ではなく、マリオネットのような状態なのかも知れない。
シルは、リズに4体を部屋の隅に突風で集めてもらう。
中が空洞とは言え、金剛鉄の塊のリビングアーマーを動かす風を操るなど、リズの魔術もとんでもない事になっている。
集まった所でシルが大太刀で五月雨斬りを繰り返し発動して、またバラバラにしていく。
ある程度細切れになったところで水を作り出して包み込み、それを一気に凍結させる。
4体のリビングアーマーを動けなくできたので、大精霊が相手にしているスキュラに向かう。
スキュラは、7属性全てを同時に扱えるとは言え、所詮は1体の魔物であり、同時に扱える魔力量には限りがある。
無論、その魔力は桁外れなのだが、それぞれが桁外れの大精霊7体と比べるべくもない。
同じ属性の部位に向かって魔術を放ち、スキュラを圧倒していた。
そのまま任せておいても倒せそうだが、さすがにそれはサボり過ぎだろう。
シルは飛び上がると一気に空を駆け抜け、すれ違いざまに人体部分の頭部を食い千切る。
その一瞬の硬直に、リズの矢が胸に突き刺さり、人体部分が砕け散る。
統率を失って暴れまわる触手を、一本ずつシルが斬り落としていき、残る胴体を燕返しで3分割すると、漸くスキュラは息絶えた。
シルが食い千切った際に【触手操作】を手に入れたが、触手がないので使えなかった。
触手があったとて、何に使うのか疑問だったが。
出現した箱からは、スキュラの牙が3個と指輪が入っていた。
指輪を鑑定すると、レインボーリングと言う名で、全属性の耐性が上がるものだった。
シルは既に魔法耐性を持っているので、これはリズに付けさせることにした。
◇ ◇ ◇
30階層は、通路の奥に扉があるだけだ。
恐らく、この奥に迷宮核があるのだろう。
扉を開けると、そこには奇妙な魔物がいた。
その姿は蜘蛛なのだが、頭部に王冠を戴いた人間の男、蛙、ネコの頭が乗っているのだ。
その人間の頭が語りだす。
「我は迷宮を支配する悪魔の王バエルなり。迷宮の王の部屋に何用か。」
『悪魔? いないんじゃなかったのか?』
『何者かが、魔物を合成して作り上げた疑似生命体といった所だろう。趣味の悪い事だ。』
『キメラか。魔神がやったのかな。』
『それにしては程度が低い。魔神に従う雑魚の所業やもしれん。』
『そのまま倒してもいいけど、悪魔なら天使にお願いするか。』
シルが転移の魔法陣を描くと、そこに天使メタトロンが現れる。
『我が主、お呼びでしょうか。』
『あれ、悪魔らしいから天使であるメタトロンが相手をするのが相応しいかな、と。』
『何とも趣味の悪い造物です。前の主を技を真似ようとした、と言ったところでしょうか。滅ぼしても?』
『ああ、お願いしてもいいかな。』
『畏まりました。』
「其の方ら、我を無視して何を話しておる。」
バエルが行く筋かの黒い光を放つが、メタトロンの羽根がふわりと翻るだけで霧散する。
その羽を少し羽ばたかせると、今度はメタトロンから無数の光が放たれ、弧を描きながらバエルに殺到する。
バエルも黒い障壁を自らの前に出すが、あっさりと撃ち抜かれて、光に刺し貫かれる。
その身に無数の風穴を穿たれたバエルは、その苦痛に悶絶する。
「我を遥かに超えるその力、いったい・・・」
黒い靄に包まれると、バエルの体は崩れ去り、そこには古びた指輪が1つ残されていた。
鑑定すると、呪われた指輪のようだ。
『この指輪の呪いの力で、その身を維持していたようです。作ったのは魔族の者のようですが、魔神かどうかまでは分かりません。』
『ありがとうメタトロン。くだらない事で呼んですまない。』
『我が主の命なれば、光栄なこと。それでは失礼いたします。』
メタトロンが再度転移していく。
シルは念の為指輪を回収して、ストレージにしまっておく。
『さて、あの迷宮核だけど、今度はリズが主になろうか。』
「よろしいんですか? シル様でいいのでは?」
『城の迷宮があるし、リズにしておこう。』
「分かりましたわ。」
リズが迷宮核に触れると、音声が響き渡る。
『現在の迷宮主はイザイアとなっています。書き換えますか?』
『ええ、私エリザベトに変更してちょうだい。』
「命令、受諾しました。これより迷宮主はエリザベト・リクシエールとなります。」
核の光が、瞬くと、すぐに戻った。
『迷宮の構成は変えられそう?』
『階層数は変える事ができなさそうですね。でも出てくる魔物とか、階層の形とか変える事はできそうです。』
『それじゃ、水中のところは普通の通路にしておこうか。』
「はい、できました。魔力が余りましたけどね、どうしましょう?」
『20層より深いところの魔物の数増やしておいて。』
「終わりました。」
『そんな所かな。それじゃ大精霊のみんな、お疲れ様でした。』
迷宮核の操作が終わったリズが、大精霊を帰していく。
『進化条件が満たされたようだから、城に一度戻ろうか。』
『私も満たしたようですから、戻って休みましょう。』
2人は迷宮の転移陣で外に出ると、シルの転移で白亜の城に移動したのだった。




