黒水の迷宮
シルは、その背にリズを乗せ空を飛んでいる。
眼下には自然豊かな島があり、その海岸線には綺麗な砂浜が広がっている。
『この辺りは空間魔力が高いな。』
『ですわね。迷宮から漏れているのか、それとも魔力が多いから迷宮が出来たのか。どちらかしら。』
『いずれにせよ、位階上げには良さそうだな。』
シャドウのいた場所から南、実際には南東だった、そこに自然豊かな島があり、そこに迷宮があるとのことで探しているのだ。
シャドウが言うには、海の中にあるらしいので、空からそれらしいものが無いか探しているのだが、今の所何も手がかりはない。
『何も見つからんな。やはり海に潜らないとか。』
『海の中を探索するのなら、水魔術に長けている方の力を借りましょうか。』
『おお、それはいいな。』
『では、レヴィアタン、力をお貸しください。』
リズの呼びかけに応じ、魔法陣からレヴィアタンが姿を表す。
迷宮探しの話をすると、快く応じてその身を海中に踊らせた。
ものの数分で見つかったらしいので、レヴィアタンの案内に従い、入り口へ向かう。
途中から海中だったが、レヴィアタンが十戒のあのシーンよろしく、海をパカッと別けて入り口までの道を作ってくれたので、素潜りで進むという事態を避けることができた。
障壁を展開すればいいだけなので、然程助かったという訳でもないが、その心遣いはありがたく受け取っておく。
迷宮の中の最初の階層は、例の如く石造りの迷路であった。
ただ、随所で膝丈くらいまで水没しており、進みにくくなっていた。
しかし、シルは普段から浮いたまま飛んで移動ているし、リズも浮くだけなら問題ない。
その上、レヴィアタンがまだ残って付いてきており、水の上を普通に歩けるようにしてくれているので、進むだけなら問題はない。
ただ、その浅い水の中から、ピラニアのような魚のキラーフィッシュが飛びかかってくるので、油断は出来ない。
飛び掛かったところで、シルの大太刀やリズの矢の餌食になるだけではあったが。
しかも、レヴィアタンが水中でウォーターカッターのようなものを操り、事前に殺戮しているので、飛び掛かることができるのは極稀だったが。
しかもレヴィアタンは、狩った魚が残した魔石や素材を、シルの所まで水球で運んできてくれていた。
大精霊は自然の一部のはずだが、久し振りに外で他者と魔物を狩るのが楽しいのかも知れない。
屍竜と戦った際も、なんだかんだでノリノリだったようだし。
しかし、永らく分け入る者がなかったためか、魔物の強さも数も相当なものになっている。
1層から位階50超えの魔物が溢れているとか、普通の冒険者なら初見殺しもいいところだ。
シルとリズ、そしてリズが召喚したレヴィアタンは、魚の魔物達を気にせず、まさに鎧袖一触の勢いのまま蹂躙していった。
鎧の袖に触れるどころか、一切近付くこともできない状態だが。
そのまま階層主の部屋に突入すると、そこで待っていたのは、巨大な魚だった。
蒼く輝く鱗に、大きな背ビレと尾ビレを持ち、その大きさは軽く10mを超えている魚。
それに、足が生えていた。
(これは・・・ガノト○ス・・・!)
銀次はアクションゲームは苦手だったが、それでも下手の横好きでやっていた狩猟ゲーム、ドラゴンハンティングに出てきた魚型モンスターにソックリなのだ。
水のブレスの威力も脅威だったか、何より恐ろしかったのはタックルだ。
どう考えても当たらない位置にいたのに、気が付くと吹っ飛ばされているのだ。
それが、巷で亜空間タックルと名付けられた、当たり判定ガバガバの近接殺しの技だ。
この魚はさすがに亜空間タックルはしてこないだろうが、水のブレスは撃ってきた。
部屋に入った途端にだ。
しかも途切れることもなく、ブレスを吐き続ける上に、狙いを修正して回避しても追尾してくる。
シルとリズは、足元に広がる水から分厚い壁を作り出して、ブレスを受け止めている。
レヴィアタンは、そもそも水で出来ているのでブレスを受けても吸収するだけだ。
レヴィアタンに防御を任せて、リズは雷矢を打ち続け、シルは雷撃は感電が怖いので真空の刃と氷を圧縮した弾をぶつけていく。
次々と全身の鱗を剥がされ血で塗られていく魚が、怒りに任せて吠えると、大量のキラーフィッシュが召喚される。
リズはすぐさまアローレインでそれを撃ち倒し、残りはレヴィアタンが起こした大波で後ろに押し流して壁に叩きつける。
大波でよろめいた所に、リズが足にデトネーションショットを撃ち込んで追い打ちをかけ、横倒しにしてしまう。
その隙にシルが一気に距離を詰めて、大太刀を鱗が剥げてしまっている首に向けて重力を増して速度を上げた兜割りを放ち、頭を切り落とす。
首を切り落とされて息絶えた巨大魚は、魔石へと姿を変える。
現れた箱からは、海神の腕輪という、水魔術と精霊の力を増す装備が出たので、そのままリズが使うことにする。
次の2層は、水がない代わりに、明かりがなく闇に包まれた迷路だった。
そこに巣食うのは、ダークウィスプという黒い球体と、上位種のスケルトンである、スケルトン・ロイヤルガードとスケルトン・ワイズマンだ。
重装歩兵型のロイヤルガードが守りを固め、その後ろからワイズマンが強力な魔法を撃ってくる。
ウィスプは、スケルトンとは別に闇と雷の属性を帯びた黒球をばら撒いてくる。
飛んでくる魔法と黒球を竜障壁で防いでいるうちに、レヴィアタンがどこからか水を大量に作り出し、また大波でスケルトン達を、流していく。
こんどは奥にではなく、一箇所に集まるように流し、そこにリズが光魔術の広範囲浄化を放ち、一気に不死者を還してしまう。
一部のワイズマンが、短距離転移で浄化を逃れていたので、シルが放つレーザーで1体ずつ丁寧に処理していく。
不死者がいるのなら、とリズはフェニックスも召喚する。
屍竜の時のように、レヴィアタンとフェニックスが力を合わせて聖水の雨を降らせると、面白いように不死者達が駆逐されていく。
ばら撒いた聖水は再度集められて光を受け、聖水の雨として使われていくので、魔力消費にも優しい。
階層主は、ギガント・スケルトン。
トロールやオーガ上位種の骨を使って作られた巨人だ。
単に大きいだけではなく、腕は六臂あってそれぞれが巨大な獲物を持ち、しっぽも付いてうまく重心をコントロールしている。
光のブレスやレーザー、光矢は闇の障壁をうまく喚び出してかわされてしまう。
仕方なく、聖水の雨でちまちまとダメージを蓄積し、光矢で牽制したところにシルが爪や大太刀で斬りかかっていく。
しばらくは膠着していたが、ギガント・スケルトンの得物の1つ、槍が壊れてから徐々にシル達が優勢になっていく。
シルの爪を防いだ際、力を受け止めきれずに怯んでいる間に、レヴィアタンが聖水をギガント・スケルトンの周りに集め、シルが竜障壁でそれを取り囲んで動けなくする。
そこにリズとフェニックスが浄化をかけて、一気に消し去った。
2層の箱からは出てきたのは、執行者の鎌と言う大鎌だった。
死神の持つ鎌を模して作られたものだが、死霊術を使う際に召喚される不死者が1段階強くなるものらしい。
シルも死霊術を使えるので、持っていてもいいかも知れない。
3層は、また水の階層だったが、こんどはほぼ水没している有様だった。
そんな中を我が物顔で泳いでいるのが、サハギンだ。
ゴブリン等のように、人間に近い姿を持ち、ある程度の知能を持っている。
そして、この階層にいるのは、彼らの中でも上位にあたるアサシンやセイクリッド、ネクロマンサーがいた。
アサシンは隠密と影分身を使いこなし、短刀二刀流での暗殺を得意とする忍者のようなサハギンで闇魔法も扱える。
セイクリッドは高位の回復と支援を使い、ネクロマンサーは死霊術と闇魔術を使ってくる。
ネクロマンサーが召喚したスカルフィッシュを盾に、アサシンが不意を付いて攻撃を仕掛け、セイクリッドが支援を行うと言った連携をしてくる上に、彼らの庭とも言える水中での戦いのため、シル達は予想以上に苦戦した。
水の抵抗や減衰があるため、光と闇は威力が思ったより出せず、風はうまく扱えない。
雷は自身が感電する可能性があり、土は無闇に使えない。
武器もリズの神弓は使えず、水中でもうまく動けるシルの大太刀と、火魔術で作り出した氷、そして水魔術で何とかしていくしかなかった。
レヴィアタンが突入して爪や牙、長い体で暴れるのをシルが大太刀で補助し、リズが水流や高圧水で連携を崩していく形になった。
幸い、階層主部屋やはすぐに見つかったので、探索せずにそのまま突入した。
中に居たのは、サハギン・クイーンと階層にいた4種があわせて100体ほど。
リズが水魔術で打ち出した渦で動きを撹乱し、レヴィアタンが暴れる。
それで牽制しているうちに、シルが影移動でクイーンの後ろに姿を表し、そのまま頭を噛み砕いて始末する。
その際にシルは、【水生成】と言う便利なスキルを手に入れていた。
指揮官を失って統制が取れなくなったサハギンは、あとは蹂躙されるのみだった。
箱からは、クイーンの鱗が入っていただけだった。
それ以降の各層も、不死者をメインに、不死者と水棲魔物が現れた。
元々不死者の中でも上位に位置するリッチの、更に上位種であるエルダーリッチを始め、火竜や雷龍の屍竜、巨大な狼型の不死者グールハウンドと言った、今までに戦ってきた魔物よりも強力な魔物が多数出てきたが、神弓と精霊神の加護を得たことで、リズの戦力が大幅に上がり、苦労はしながらも攻略を進めることが出来ていた。




