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魔族の街

 魔族領に入っても、今までの人族の様子と特に変わることはなかった。

 気候が温暖なので植生は多少変わっているが、別におどろおどろしいとかそんな事はなく、平野や森林が広がっており、動物や魔物も特に多いという事はない。


 魔物の種類も、気候に合わせて変わっている。

 毒蝶のポイズンパピヨンとパラライズパピヨンは、本来なら厄介な魔物だが、無効スキルがある二人には特に問題がない相手で、鱗粉が高く引き取ってもらえる魔物だ。


 蛙のようなフォレストトードは、体表が粘液で覆われていて斬りにくく、見かけも醜いが意外と肉がおいしい。

 トロピカルベアと名前だけは美味しいフルーツのような熊は、帝国に出る熊に比べて小さいが素早く、発達した爪による攻撃は脅威だが、肝が薬効があるので高く売れる。

 ジャイアントバジリスクは、巨大な石化攻撃をしてくる蜥蜴だが、カメレオンのように擬態がうまく、気配の隠蔽もうまいため、この地域では災害級の脅威なのだそうだ。

 このジャイアントバジリスクから、【光学迷彩】スキルを覚えたシルは、【隠密】スキルと組み合わせることで、巨体に似合わずどこにでもこっそり忍び込めるようになった。

 ただ、そんなことが必要になる事態がそもそもなかったが。


 火山を降りてから、東に進んでいた二人は、海沿いの街モゼットに着いた。

 魔族領なので、面倒なことが起きるかも、という懸念もあったが、何事もなく冒険者ギルド証で街に入ることができた。

 街の住人は、ほとんどが魔族であり、それ以外には獣人が多少いる程度で人族はいなかった。


『魔族と言っても、見た目は人族とあまり変わらない者が多いんだな。』


 肌が少し浅黒く青みがかっている以外は、人族と見分けが付かないものが多い。

 ただ、特定の部族などは、頭に角が生えていたり、蝙蝠のような翼をもっていたりした。


「オニ族やデーモン族は角が生えていたり、ヴァンパイア族やサキュバス族は翼を持っていたりしますが、それ以外は人族の色違いみたいなものですね。人族より腕力も魔力が高いですけど。」

『性格も穏やかな者が多いしな。ただ、あの宗教のものは困ったが。』

「私も竜崇拝というのは初めて見ました。シル様はすごく崇められてましたね。」


 この世界の宗教は、創造神かその眷属である武神や農神、芸神などの各神のいずれかを信仰するといったものだ。

 邪神もいないので、邪教のようなものもほとんどいない。

 それ以外には、自然崇拝に近い形で、精霊信仰もあるが、八百万の神(やおよろず)という文化があった日本にいたシルには特に違和感もなかった。


 世界の護り手である竜王と眷属である竜族を信仰する者がいるのも、ある意味当たり前だったが、シルはそんな事を想定していなかった。

 街中で突然(ひざまず)かれて、お祈りを捧げられた時は、駅前で突然幸福を祈ってくる人たちのようで怖かったのだ。

 なんとか、周りに迷惑だからといって解散させたが、またお祈りされてしまうのでは、と竜王らしくもなくビクビクとしている。


 冒険者ギルドに着いても、対応は他の街と特に変わりはなかった。

 解体代行の依頼では、相変わらずその量に職員の顔が引き攣っていたが、その素材から得られる利益から最後には笑顔になっていた。


 ギルドの受付にいる職員は、他の街では冒険者を引退したおじさんがやっていることが多いが、ここでは綺麗なサキュバス族のお姉さんだったので、シルは見惚(みと)れてしまった。

 更にその営業スマイルと豊満なスタイルにデレデレになってしまったので、リズにこっそりと痛覚刺激の魔術を叩き込まれて、悶絶する破目になってしまった。

 竜族は表情がほとんど出ないにも関わらずそれを見抜かれ、いつのまにか闇魔術の痛覚刺激を使えるようになっていたリズに戦慄しつつも、謝りながらご機嫌を取る羽目になったのは、自業自得だったし、受付のサキュバス嬢にもクスクスと笑われてしまった。


『シル様はああいう豊満な体形がお好きなのですね。貧相でごめんなさいね。』

『いや、そういう訳じゃないから。誤解だから。』

『何が誤解なのかしら。』

『いや、だから、その・・・。』


 なお、リズはスレンダーではあるが、エルフとしては胸もお尻も大きな方である。

 エルフ族は、だいたいが真っ平に近い体形なのだが、リズは人族としても大きな方に入るくらいだ。

 だが、サキュバス嬢は男性を魅惑する能力がある種族であり、体形は当然ダイナマイトな感じなので、比べるべくもない。

 別にシルはもともと巨乳派でもなかったが、男としてはつい気になってしまうのだ。


 竜王としての尊厳が欠片もない感じでへこへことしながら、掲示板にある依頼を確認していると、更に東にある荒れ地に出る不死者の討伐依頼が多かった。

 闇の精霊は半島の東にいるとの事なので、恐らくその住処(すみか)の辺りなのだろう。


 ギルドを出て、甘味でリズのご機嫌を直しつつ、東にある荒れ地の方に進む事をリズに告げた。

 2人とも嗅覚に優れているので、不死者はあまり遭遇したくない相手だが、仕方ないだろう。


 ギルドの解体と査定には2日ほどかかるそうなので、その間は海沿いで漁港もあるモゼットの海の幸を堪能した。

 海にいる魔物は、巨大で強力なものが多いが、沿岸にはあまり強い魔物が現れず、弱い雑魚しか出てこないので、漁で生計を立てている者も多い。

 中には、対魔物の準備をして遠海への漁に出るものもいた。

 もちろん危険な漁になるが、リスクを取る分、得られるリターンも非常に大きかったのだ。


 一度、沖まで出て魔物狩りと漁をするのもいいかもしれない、と海の幸に期待するシルとリズであった。


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