火山の試練
火の竜王と大精霊の元に行く前に、一度ピノンの街にもどる事にする。
少し逸れるものの、ほぼ経路上なので買い出しをするためだ。
リズを背に乗せて、空を飛んで向かう事にする。
竜障壁も使うことで、かなりの早さで飛んでも、リズが風圧で振り落とされることもない。
『なかなか空の旅も快適なものですね。』
『ああ。自由に飛べるというのは、気持ちいいものだな。』
飛行機に乗って空を飛ぶのとは異なる気持ち良さがある。
のんびりと、本人はそのつもりだがもの凄い早さで、飛びながら景色を楽しんでいると、下に見覚えのある姿がある。
シルは、高度を下げるとわざと風が起こるように近くを飛ぶ。
「うわ!」
「なにー?」
大慌ての3人組の冒険者の近くに降り立つ。
『久しいな。うまくやっているか?』
「シル様!」
「いたずらしないで下さいよー!」
ジェイク、フィック、ファラの3人は、思いがけない再開に喜んでいる。
『元気なようで何よりだな。』
「シル様は随分と大きくなりましたね。」
「可愛くなくなっちゃいましたねー。残念です。」
「ファラ! お前失礼だろ!」
「一緒にいるのはリズさんですか?」
『ああ、人間の常識には疎いのでな。助かっている。』
「シル様は、変な所で抜けてますからね。皆さんもお久しぶりです。」
『依頼を終えて、街に帰るところか?』
「護衛で出てたんで、その帰りですよ。」
「シル様、私も乗っけてー!」
『すまんな、流石にこれ以上は無理だ。頑張って歩け。』
「はあーい。仕方ないですねー。」
『では、先に失礼する。』
シルは再び飛び上がり、あっという間に街の方へ飛び去る。
「リズさんは乗れていいなー。」
「シル様に付いて行けるだけの強さがあるからな。俺たちも頑張って階級上げないとだな。」
「おー!」
◇ ◇ ◇
街の近くまで来ると、高度と速度を落として、門の外にゆっくりと着地する。
『カーク、久し振りだな。』
「シルヴェストル殿か。大きくなったもんだ。」
『これでもまだ成体ではないらしいんだがな。通って良いかな。』
「一応規則なのでギルド証を頼む。」
『ふむ、これで良いか。』
「私のはこれですわ。」
「2人とも問題なし、と。騒ぎは起こさんでくれな。」
2人は久々に門を抜け、ピノンの街に入っていく。
リズの家に帰る前に、冒険者ギルドに寄っていく。
いつものように、素材を引き取ってもらう為に。
また素材担当の職員が、あまりの量に顔を引くつかせているが、悪気はないので許して欲しい。
数もだが、この辺りでは見かけない、ピラートベア、マウンテンウルフ、アルパインディア、クリフボアと言う凶悪な魔物ばかりだったからなのだが。
解体後、それぞれの肉を半分は返してもらうよう頼んでおいた。
ついでに、ギルドマスター代行のラングにも挨拶をしておく。
「シルヴェストル殿、今日はまた大量に素材を出してくれたようだな。うちの職員が嬉しくて泣いてたぞ。」
『倒したのを放っておくのも勿体無いしな。』
「リズも7級になったんだってな。おめでとう。」
「ありがとうございます。シル様といると、魔物を狩るには不自由しないので。」
「だろうな。」
『ところで、魔神について何か知らないか。どこにいるかとか、何でもいい。』
「魔法の神だよな。魔族が神になったらしいってことくらいかな。」
『ほう、魔族なのか。魔法が得意な種族だったな。』
「エルフに次いで、ですわ。そして近接戦闘も獣人並に得意です。」
『ずるいなそれ。』
「竜のシル様がそれ言います? それに魔族、エルフ、獣人は、どの種族も集団行動が苦手なのですわ。なので、数も考慮するとやはり最大勢力は人族なのです。」
「協力していられるうちは、だがな。」
ラングの言う通り、人はすぐにいがみ合い、争いを起こすのも事実だ。
『内部での潰し合いは、どこもそう変わらんだろう。』
「基本的には他者に不干渉なエルフですら、ありますからね。」
『人族には欲があるからな。だからこそ、成長するのだが。』
「シル様にはなんの欲もないのかしら?」
三大欲求もなくなってしまった感はある。
『強くなりたい、様々なことを識りたい、という思いはあるが、世界を護らねばならないと言う義務の裏返しなだけだしな。無いのかもしれない。』
「なんか寂しいもんだな、それも。」
『あ、美味しい物を食べたい、と言うのはあるな。』
食欲自体はない、と言うか食べる必要がないのだが、おいしいものを食べるのは人間だった頃と変わらず好きだ。
だが、そのために何かを頑張ろうというほどでもないが。
「食事の時は楽しそうですものね。」
『リズの料理はうまいからな。』
「ギルドでイチャイチャしないで欲しいんだがなぁ。」
『しておらんわ。』
「あら、照れちゃって可愛い。」
『もういい、帰るぞ。』
さすがにラングの前でからかわれるのは耐えられないので、逃げるように買い出しに行く。
その後を楽しそうにリズが付いていく。
◇ ◇ ◇
ピノンの街を出たのは3日後だった。
ギルトに持ち込んだ素材が多すぎて、解体に時間がかかったためである。
大量の肉と金貨を渡してきた職員は、死にそうな表情だったが、仕事をやりきった満足感からか誇らしげでもあった。
ピノンを出てからは、空からではなく陸路でガットゥーリ火山へと向かった。
空からでは魔物が狩れないからだ。
森を抜け火山に近くなると、生態が変化する。
赤い飛竜フレイムワイバーンや、火を纏った蜥蜴ボルケーノリザード、巨大な猪グレートボア等が生息するし、植物はあまり生えていない固まった溶岩地帯になっていた。
蜥蜴からは期待した通りに、【火耐性】を覚えることができた。
火口に近くなってくると、徐々に気温が上がってくる。
雪原でやったように、周囲の温度を調整しながら進んでいくが、気温だけでなく地面の表面温度も上がってきていて、思うほど効果が出ないない。
周囲に溶岩が流れる事もでてきたため、シルは空を飛んで移動するようにした。
魔力の気配を感じるのは、まだ先の火口の方である。
しかし、火口からは噴煙が噴き上げられ、溶岩も流れ続けている。
『あの溶岩の中に、ってことはないですよね?』
『気配がするのはあそこなんだよな。』
『どうします? 他に入り口があるかも知れませんよ。』
そんな話をしていると、微精霊が現れた。
微精霊は、ふよふよと火口に向かって飛んでいく。
『あー、やっぱりそうなるのか。』
微精霊は火口の溶岩の中に、入っていく。
『障壁に集中するから、温度の方任せていいか?』
『分かりましたわ。』
シルは、竜障壁を自分の周囲に二重に展開し、溶岩の中にそろそろと入っていく。
障壁は溶岩に触れても壊れる気配もないので、微精霊の気配を追って進んでいく。
溶岩の中なので、当然視界もない。
感知にも気を配りながら進んでいくと、途中で下降から水平になり、上昇に転じる。
そのまま溶岩から抜け出すと、洞窟の中であった。
念の為障壁を維持したまま進んでいくと、中は神殿のようになったが、相変わらず所々で溶岩は流れている。
神殿の奥に進むと、精霊が待っていた。
宙に浮いている小型で人に近い火の蜥蜴のサラマンダーと、火を纏う角の生えた巨人イフリートである。
『光の竜王だな。俺はイフリート。フェニックスから聞いているぞ。』
『シルヴェストルだ。魔神については何か知っていることはあるか?』
『残念だが、特にないな。しばらく見たという情報もないな。』
そうそう都合よく情報は手に入らないか。
『そうか、まあ仕方ないか。試練をお願いしていいか?』
『お前ら溶岩の中から来たよな? であれば試練は合格だ。』
「もしかして他に入り口があったんですか?」
『そりゃそうだろ。溶岩の中を通らないと入れないとかあり得ないと思わんのか?』
『思ったけど、入り口は見つからなかったし、微精霊の案内に従っただけだしな。』
『魔族領側に入り口があるんだよ。微精霊が火口の方を案内したのは、微精霊の気紛れだな。』
『随分と適当だな・・・それじゃ合格ってことでいいのか?』
『ああ、火の知識を与えよう。』
イフリートから、火精霊と火魔法のイメージが知識として流れ込んでくる。
『レーヴァテインはどこにいるんだ?』
『魔族領側から出て、少し上った所にいる。暇だろうから、向こうから出てくるんじゃねえかな。』
「暇ですか。他の竜王の方々って普段何をしてるのかしら。」
『世が荒れてなきゃ、しなきゃならん事はほとんどないしな。』
「大精霊もですか?」
『大精霊は、一応何もなくても世界で使われている魔術や魔法に異常がないかは見てるんだが、基本的には微精霊に見させて、怪しいのを確認するぐらいだな。』
「大陸全部を見るのは、大変ですものね。」
『大陸全部じゃねーぞ。世界中だから、他所の大陸もだ。ま、他所の大陸はあんまり魔法が浸透してないから、ほとんどここだけどな。』
この大陸以外にも、陸地があるようだ。
今までは、この大陸が世界のすべて、という感じだったから新鮮だ。
『ランメルス以外の大陸もあるのか。』
『おお、あるぞ。だいぶ離れてるから、人間には渡るのはかなり大変だがな。』
「船では難しいということでしょうか。」
『何ヶ月も船の上だけで、海の魔物を相手にしながら生きられるなら、大丈夫かもな。』
さすがに厳しそうだ。
コロンブスも魔物の相手はしていないからな。
『竜王や大精霊なら、行けるのか。』
『竜王は疲れねーし、飯も睡眠も要らねーからな。精霊は遍在してるから、ここにいると同時に向こうにもいるからな。』
『大精霊って便利そうだな。』
『便利って、ひどい言い草だな、竜王よ。多少の自我はあるが、基本的には世界の一部だからな。』
『システムに組み込まれた1つのモジュールで、そこから外れることは許されないって事か。』
『異世界後で言われても良く分からんが、多分合ってるぞ。』
「大抵のことはできるけど楽しみがないのと、ほとんどできる事がないけど楽しみはあるのと、どちらが幸せかってことですかね。」
『精霊にゃ、その幸せってもん自体ないんだから、気にすんな。』
「そうですね、エルフとしてシル様との旅を楽しむ事にします。」
色々と考えさせられたが、長居しても仕方ないので、イフリートの洞窟を出て、火の竜王を探す。
洞窟を出てすぐに、火竜の城があった。
イフリートの言う通り、中に行くまでもなく竜王が外に出てきていた。
『おう、シルヴェストルだな。俺様がレーヴァテインだ。』
『シルヴェストルだ。こっちはエルフのエリザベト。』
「レーヴァテイン様、よろしくお願いいたします。」
『堅苦しい挨拶なんざいいよ。仮にも竜王が同行を認めている奴だ。』
「恐れ入ります・・・って言うのがよくないんですね。地の話し方がこれなので許してください。」
『無理して変な喋り方する必要まではねーよ。で、シルヴェストルよ、魔神をブッ飛ばしにいくなら俺も行くぜ。クラウ・ソラスには鍛えてもらった恩もあるしな。』
『まだ魔神のせいと決まった訳ではないからね。堕神だった場合には頼むよ。』
『おう、すぐ呼べよ! どこでも飛んで行くからよ!』
レーヴァテインは、シルの次に若い竜王らしく、何とも元気だ。
というか、元気を通り越して若干暑苦しく感じるのは、周囲の溶岩の熱だけのせいではあるまい。
『と言うかシルヴェストルよ、もっと位階上げてとっとと進化しろよ。そんなんじゃ殺られるぞ。』
『そうだな、やっと若竜になれたばかりだからな。早く成竜までならないととは思っている。』
『成竜じゃだめだ。竜王と眷属の一部はその上の上位竜まで進化できるし、成竜になれば竜王の称号も付く。』
『そうなのか。しかし、そんなに狩る魔物もいないぞ。』
あまり狩りすぎると生態系に影響が出る。
バタフライエフェクト、とまで言えるかは分からないが、魔物も狩りすぎるとどのような影響がでるのか読めないのだ。
『成竜くらいまでは、お前んとこの迷宮使えばいけるだろ。あと、ミュルグレスとダインスレイフのとこにも、人間には知られてない迷宮がある。そっちの方が扱える魔力が多いはずだ。』
『おお、その情報は助かるな。闇の精霊に会ったら探してみよう。ダインスレイフも音沙汰ないのか?』
『生きちゃいるはずなんだがな。どこにいるのかも感じられねえ。』
『一応、魔族領で探してはみるよ。』
『ああ、頼むな。』
新しい迷宮の情報も手に入れたので、後で位階上げにいこう、と意気込むシルだった。




