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大天使

 薄暗く広大な土地に、白い石が整然と並んでいる。

 しかし、本来は整えられた形のはずの石は、崩れたり欠けたりして朽ちる寸前といった有様だ。

 その陰鬱な雰囲気に包まれた場所は、荒れ果てた墓地と言う他なかった。


『臭いはそれほどないけど、やはりアレかな。』

『こんな場所ですしね。』


 そのまま歩を進めると、遠く離れていても視認できる巨体がある。

 その魔力は強大で禍々しい。

 そして、どう見ても竜なのだ。


 鑑定したシルは、唖然としてしまう。


 屍竜 クラウ・ソラス


 有り得ない名前がそこにあった。


『あの魔物、屍竜らしいんだが、クラウ・ソラスの名を持っているんだが。』

『先代、ですか。フェニックスを呼んでみれば何か分かるかも知れませんね。』

『そうか、そうだな。』


 いい機会なので、大精霊を皆呼んでみることにしよう。


『我が呼びかけに応え顕現せよ フェニックス ベヒモス ガルーダ レヴィアタン フルフール』


 5つの魔法陣が描かれ、5体の大精霊が現れる。


『呼んだか、光の。少しの間に見違えたな。』

『しかし、属性を無視して5精霊同時に召喚とは、無茶をするものじゃ。』


 本来は召喚する際には属性を意識しないとダメらしい。


『呼んだのは他でもない。あそこにいる屍竜の名が、クラウ・ソラスらしくてな。』

『ふむ、屍竜に成り果てておれば、転生に失敗したのも頷けるのじゃが。』

『恐らく、弱らされた上に捕らわれ、屍竜にされたのであろう。』

『そんな事ができる者なぞおるのか?』

『そんなのがいたから、そこにあんな化物がいるんだろ?』

『迷宮の生み出した紛い物とは言え、あれは厄介だな。』

『どれ、儂らも光のに手を貸すかのう。』

『竜王の屍竜なぞ、聞いた事もないのじゃ。何をしてくるか分からんぞ。』


 2人と5精霊は、屍竜に向かって走り出す。


 レーザーと竜巻と雷撃が一斉に屍竜に向かって放たれる。

 しかし、屍竜が張ったであろう障壁に防がれ、レーザーと雷撃が打ち消される。

 しかし、障壁もそれで破られており、竜巻だけが届くかと思われたが、目前にして現れた複数の黒い球により防がれる。

 逆に、その黒い球がこちらに向かって殺到するが、地面からせり上がった幾重もの土壁が、何個も破壊されながらもそれを打ち消す。


 突如、屍竜が咆哮をあげると、地面から、数百ものスケルトンが湧き出て、こちらに向かって襲い来る。

 上空に作られた水球に対して光の祝福がかけられると、水球からスケルトン達に向かって、雨が降り注ぐ。

 祝福を受けた雨は聖水の効果を持ち、不死者であるスケルトンの体を神聖なる炎に包み、焼き崩していく。

 その雨から逃れた者に対しては、今度はリズの放つ矢の雨が降り注ぐ。

 本来、スケルトンは表面積の問題から矢による攻撃は効果が薄いのだが、確実に魔石を撃ち抜いていき、スケルトンを土に返していく。


 その間に屍竜は、黒い剣を手にしていた。

 聖剣クラウ・ソラス。

 それが不死者として闇に堕ち、魔剣と化したもの。

 白く華やかながらも荘厳な剣であったが、今はただただ黒く冷たく威厳を放つのみとなっている。

 その剣身が黒く怪しく光ると、ずずっとその刃がズレる。

 空中に、合計で13もの剣身が浮かんでいる。

 そのそれぞれが自在に宙を舞いながら、一斉に襲い来る。

 フェニックス、シル、リズがそれぞれ生み出した光の剣と光の盾が宙に浮かび、それを迎撃しようとするが、実剣であるクラウ・ソラスの分身である黒い刃の方が威力が高く、光の剣と盾はすぐに打ち消される。

 そこに更に光の剣と盾を作り出し、次々とぶつけていく事で、物量で圧倒し、黒い刃を打ち消して行く。


 その間にも、聖水の雨は屍竜の体に、降り注ぎ身を焼いている。

 また、上空から次々と雷撃が打ち据えられ、屍竜の鱗を剥ぎ、腐肉を傷つけていく。

 再度咆哮してスケルトンを呼び出すが、動き出す前に地面から生えた石の槍で魔石を貫かれ、消えていく。

 屍竜の全方位から真空の刃が降り注ぎ、その腐肉を切り刻んでいく。

 障壁で防ごうとするが、数が多く半分も防ぐことができず、障壁も消されていく。


 そこにフェニックスから極太レーザーが打ち出されるが、屍竜の吐く闇のブレスとぶつかり、せめぎ合っている。

 そこに、更にシルの光のブレスが屍竜に向かって吐かれ、直撃してその身を、一気に焼いていく。

 魔石が僅かに見えたところに、リズの放ったデトネーティングショットが炸裂し、魔石が爆散する。


 屍竜は、その身を震わせると、倒れ伏して、やがて塵と消えた。


 そして、その後には木箱が一つ現れていた。


『やれやれ、召喚された身とは言え大精霊5体と竜王とエルフ、これだけ揃ってかなり本気を出さねばならんとは、な。』

『光の竜王の魔力もよくもったものじゃ。』


 魔力はまだ余裕があったんだけどね。


『大精霊達に、戻る前にお願いがあるんだが、いいかな?』

『なんじゃ?』

『このことを本体に伝えてくれないか。クラウ・ソラスが不死者となっていたことを。そしてそれを各竜王にも。』

『それなら一番近いフェニックスにだけ伝え、そこからカーバンクルを各所に送れば良いじゃろう。』

『承った。では行ってくる。』


 フェニックスは、そう答えると、そのまま飛び去る。

 地中の迷宮なのだが、精霊だから大丈夫なんだろう。


『では、儂らはこれで失礼するぞ。』


 残りの4精霊は、現れた魔法陣の中に消えていく。


『しかし、とんでもない強さでしたね。』

『あれで屍竜になって力が落ちて、さらに迷宮が模倣した劣化品だって言うんだから、先代はどれだけ強かったんだって話だな。』


 そう愚痴を零しながら、木箱の中を(あらた)める。

 中には杖が1本だけ入っていた。


 聖杖エイルテイン

  聖女エイルが身を変じたとされる癒やしの杖

  光魔法の回復効果を大きく上昇させる

  (回復効果+400% 回復効果範囲+200% 回復魔法の消費魔力-75% 精神+200)


 なにこの壊れ性能。

 しかし、回復限定だから微妙といえば微妙な効果だ。


『神聖な力に溢れている杖ですわね。』


 リズには、杖の効果は黙っておこう。


『しかし杖では使いどころが無さそうだな。売っていいものじゃなさそうだし、このまま、持っておこうか。』

『シル様にお任せしますわ。』


 聖杖をストレージに保管し、階段に向かう。


 次の階層は、石造りの通路に扉があるだけだった。

 中に魔物の気配も罠も無さそうなので、そのまま扉を開ける。


『我が主よ、お待ちしておりました。』


 声を掛けてきたのは、部屋の中にいた天使だ。


『天使?』

『よくご存知で。大天使メタトロンと申します。』


 メタトロンと言えば、ユダヤ教のでもかなり力のある天使の名前のはずだ。

 しかし、この世界での信仰の対象は創造神アスシアルフ、またはその眷属神である武神等だ。


『この世界には天使はいないはずじゃ。』

『はい。異世界より来た人族の情報を元に、クラウ・ソラス様に作られたのが私です。』


 先代クラウ・ソラスは、やはりとんでもない力を持つ竜王だったようだ。


『シャルワリエの建国の祖が異世界人だったか。』

『はい。私は作られた後、この迷宮の番を任されておりました。次代の光の竜王に、この迷宮と知識を引き継ぐ為に。』

『迷宮を引き継ぐ?』

『こちらの魔道具に、少し魔力を流してください。それで、この迷宮の管理者、ダンジョンマスターになります。』


 ダンジョンマスターとか聞いたことがないけど、大丈夫かな。

 この迷宮から出られなくなるとかないか心配だ。


『何か管理者になることで不都合なことは?』

『特にありません。この迷宮に対しての操作権限を得るだけです。登録後には魔力も必要ありませんし、行動にも制約はありません。』

『じゃあやってみるか。』


 魔道具に魔力を注いでみると、すぐに魔道具が光り出す。

 光が収まると、ログに【ダンジョンマスター】の称号を得たと表示された。


『これでいいのかな。』

『はい、あとはいつでもこの魔道具に、手をかざせば迷宮の管理が可能になっています。』

『どれどれ。』


 手をかざすと、視界に管理者用と思われるメニューが出てきた。

 溜まっている魔力を使って、階層や魔物の数、強さ、宝箱の数や中身について調整ができるようだ。

 いまは、階層も最低限度の10にして、魔物の数と強さに比重を置いているようだ。

 あと最後の9階層の箱の中身も。


 魔物の種類も指定できるようなので、不死者のフロアを肉が取れる獣系の魔物に変更しておいた。

 また、魔力は貯めておけるようで、長らく誰も足を踏み入れなかったため、結構な量が貯まっているようだった。

 これはそのまま貯めておけばいいだろう。


 一通り確認が終わると、メニューを閉じる。


『終わりましたか?』

『ああ、とりあえずはこれでいいと思う。』

『では、次は魔術の知識についてです。異世界の科学と呼ばれる知識を応用したもののようですので、我が主には理解しやすいのではないでしょうか。』


 そう言うと、メタトロンがそっと触れてイメージを流し込んでくる。

 重力を操り、特定の場や相手の重力を増減させる魔術、空間を操り離れた場所と繋ぐ魔術や亜空間と繋げる魔術、相手の精神に影響を及ぼす魔術、時間を操り自身だけ早く動けたり相手の動きを遅くする魔術。

 中には、核分裂や核融合に関するものもあるが、これは危険なので封印だな。

 放射線による汚染は非常に危険だ。


 そう言ったものが、物理学等の学問知識との結びつきと合わせて頭に流れ込んでくる。

 確かに異世界の科学に関する知識がなければ、これを理解するのは難しいだろう。

 異世界人だったと言う初代国王は、物理学者かそれを専攻していた人だったんだろうか。

 教えた方もすごいが、聞いて理解したクラウ・ソラスもすごいな。


 また、生物学と魔術を融合させたもの、つまりホムンクルスに関する知識もあった。

 これを元に、今目の前にいるメタトロンは作り出されたようだ。

 この知識を得た時点で、【錬金術】のスキルを得た。


『メタトロン以外にもホムンクルスは作られたのか?』

『作られたそうですが、残っているのは私だけだと聞いています。』


 他にもいれば便利だと思ったけど、いないのであれば仕方ない。

 必要になったら作ればいいだろう。


『クラウ・ソラスの身に何が起きたかは把握してる?』

『細かくは存じません。ただ、魔法と魔術を司る神、魔神メルキオーレが堕ちた可能性があると言う事で、色々と調べていたようです。』

『墮神か。』


 これだけの知識を持ち、独自の魔術を使えたクラウ・ソラスが捕らえられて、不死者にされたのだ。

 その力を超える可能性があるのは、同じ竜王か大精霊、そして神だろう。

 大精霊は意思を持っているように見えるが、自然の力と意思そのものであり、それが堕ちると言う事はないだろう。

 そうなると、竜王か神しかない。


『やっぱり、どうにかしないといけないのかな。』

『神様のことは神様にお願いしたいですわね。』


 リズの言う通り、神が引き起こした問題は、神同士できちんと幕を引いて欲しいと言うのが本音だ。

 世界を守るのが竜王の役割と言われても、シルにはそれほどの竜王としての義務感みたいなものはない。


『いざと言う時のために、もっと力を付けておかないとな。せめて自分たちの身を守れるくらいには。』

『それはそうですけど、神から身を守るとなると、いったいどれほどの力があればいいのかしら。』

『それだよな。想像がつかないや。』

『取り敢えずは、残りの火と闇の加護を頂きに回ることかしら。』

『やらることをやるしかないな。』

『私はここの守護を続けますので、何かあればお呼び下さい。』

『分かった。それじゃここはお願いする。』


 ここで得られるものは、もう無さそうなのでまずは大精霊と話しておこうか。


『リズ、フェニックスの所に行こうか。』

『分かりましたわ。』


 リズの側に寄ると、知識を得たばかりの空間魔術を使い、転移のために空間に干渉するよう魔力を展開する。

 一瞬フワリと浮いたような感覚に襲われると、フェニックスの祠の前に立っていた。


『転移ですか・・・? これはすごいですね。どう魔力を使ったのかさっぱり分かりませんわ。』

『ぶっちゃけると、自分も完全に理解してる訳じゃないしね。』


 そう肩をすくめると、フェニックスに合うために祠に入っていく。

 フェニックスには、魔神に関する情報を伝えた上で、分かったことがあれば教えてくれるよう頼んでおいた。


 そして城に戻って一息つくことにする。

 人化してお茶を飲みながら、テオドールに確認をする。


『クラウ・ソラスが研究とかしていた部屋はここにある?』

『はい、何をされていたのかは存じませんが、よくお一人で何かをされていた部屋はあります。』

『それじゃ、後で案内してもらえるかな。把握しておきたい。』

『畏まりました。』


 お茶を飲んだ後に案内された部屋は、実験室という趣きだった。

 様々な素材や器具が所狭しと並べられ、研究内容をメモしていたと思われる紙も積み上げられている。

 それに目を通していると、ホムンクルスの制作に関するものもあった。


『これがホムンクルスの材料と作り方をまとめたものだな。』

『そう言えば、ホムンクルスって何ですか? 古代神聖語のようですが。』


 そうか、ホムンクルスはこちらの言葉じゃないか。

 英語? ラテン語? か分からないが、このままでは通じないだろう。


『魔術で擬似的に生命を作り出したものだよ。魂をもったゴーレムみたいなものかな。いや、魂はあるのか分からないな。』

『クラウ・ソラス様は、本当に凄い方だったんですね。』

『そうだね、先代が偉大だと後継者は胃が痛いよ。』

『無理をなさらないでくださいね。』

『無理してどうにかなるものじゃなさそうだよね。』


 取り敢えず、ここにある素材や器具を把握しておき、部屋を後にする。


 今できること、つまり残りの大精霊の所へ行かないとな。

 そのままその日はゆっくりと休むのであった。


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