若竜への進化
城に戻り、翌日はゆっくりする事にした。
厳密には、ゆっくりせざるを得なかったのだ。
『テオドール、これから進化に入ろうと思うのでしばらくリズの世話を頼む。食材になりそうな素材を渡しておくので、それで何とかなるかな。』
『畏まりました。人間の食べる物は、ある程度蓄えてありますので。』
『では、厨房で渡しておこう。リズ、済まないが1日か2日か、それくらい俺は動けないので、ゆっくりしていてくれ。』
『分かりましたわ。竜王の進化に立ち会えるとか、私は運がいいわ。』
『その間は動けないから、人前でする事ではないしな。』
『お側でお守りします。テオドール様もいらっしゃるので、私の出番はないでしょうけど。』
『恐れ入ります。眷属一同でお守りしますので、ご安心ください。』
『ああ、頼りにしている。ここには何も来ないだろうけどな。では、厨房に行くか。』
厨房の隣にある倉庫のような食材置き場に行き、担当の白龍に兎や熊の死体や木の実・果実、麦等を渡す。
『良ければ、眷属にも振る舞ってくれ。兎や熊を食べるならだけど。』
『この辺りでは手に入らない肉です。皆喜ぶでしょう。お心遣い有り難う御座います。』
『大した事をしてやれていないしな。』
『我らは閃光竜であるシルヴェストル様がおられるだけで良いのです。』
そのような忠誠を受け、面映ゆくなる。
日本ではこんな事なかったし。
『では、部屋に戻るから、後はお願い。』
『はい。このような表現で合っているか分かりませんが、ごゆっくりなさって下さい。』
あとは眷属に任せて、リズと部屋に戻る。
『多分、また繭のようになってると思うから。その間のんびり休んでいればいいよ。』
『はい、休ませて頂きますね。一人で寝るのは寂しいですけど。』
『はいはい。それじゃ。』
広い部屋の中の、竜のサイズの部分の中心で、メニューに出ていた進化確認ダイアログを確認する。
位階が50になってから出ていたものだ。
はい、を選択するとシルの体が白い繭に包まれていき、ゆっくりと意識が沈んでいく。
ゆっくりと繭は大きくなり、翌日の夕方には繭が割れて白竜が出てきた。
若竜となったシルヴェストルは、全高が2mくらい、全長はしっぽまで含めると4mくらいの竜王となっていた。
小さめの飛竜やドレイクくらいの大きさはある。
自身のステータスを見ると、大幅に能力が向上していた。
名前: 閃光竜シルヴェストル(知立 銀次)
種族: 幼竜
位階: 52
魔力: 7,291
腕力: 1,385
体力: 1,295
俊敏: 108
知力: 2,038
精神: 1,471
名前: 閃光竜シルヴェストル(知立 銀次)
種族: 若竜
位階: 52
魔力: 13,681
腕力: 2,474
体力: 2,622
俊敏: 144
知力: 3,408
精神: 2,514
『シル様、何ともありませんか?』
『ああ、お待たせ。暇じゃなかったか?』
『シル様の繭を眺めているのも楽しかったですよ。』
うーん、どんな様子だったのか分からないが、そんな楽しいものじゃ無さそうなんだけどな。
目覚めたのに気付いたのか、テオドールもやって来ていた。
『シルヴェストル様、見事な若竜になられましたね。』
『自分では大きさ以外は、よくわからないけどね。』
『恐らく、もう人化をされても大丈夫だとと思いますよ。10代中頃くらいの姿になるかと。』
『おお、それじゃ、試してみるか。』
シルが、カッと光るとそこには1人の人間が立っていた。
鏡があれば、シルが銀次であったころと同じ顔だと分かっただろうが、今はそれがない。
ただ、それは40過ぎのおっさんではなく、15手前くらいの少年だった。
また、日本人の特徴である真っ黒だったはずの頭髪は、完全に白髪になっていた。
リズから見て、その少年は見慣れない顔だった。
この世界の人間の顔立ちは、比較的濃い。
しかし、少年の顔はあっさりとしている。
エルフのような美しさとは異なるが、惹きつけてやまない何かが少年にはあった。
「おお、成功かな? ちょっとまだ背が低そうだけど。」
「それがシル様の人間としての姿ですか?」
「そうか、ちよっと待ってね。」
以前、銀塊から作っておいた銀鏡を取り出し、自分の顔を見てみる。
うん、だいふ若く、と言うか幼くなっているが、中学生の頃の自分の顔だ。
ただ、白髪だが。
「髪の色以外は、若かった頃の自分の顔のままだ。」
「やはり、こちらの世界の人間とは雰囲気が異なりますね。元々は白髪じゃなかったのですか?」
「みんな黒髪の民族だったんだよ。若い子は茶色に染めてたりしたけどね。」
シルの年代では、あまり茶髪にしている者はいなかったが。
「黒髪ですか。今の白髪のほうがいい気がしますけど。」
「歳を取ると白くなるだろ。だからなんか老人みたいで。」
「そんなことないですわ。それに、どちらにせよ、シル様のお顔は素敵です。」
「珍しいだけじゃないかな。」
銀次としては、特に容姿を褒められたとかモテたとか言うことは無い。
結婚はできたので、ひどいものではないと思うが、よく言えば平均的、悪く言えば無個性な顔立ちだったと思う。
なので、リズから正面切って褒められると、何やらむず痒く感じてしまう。
再度、シルが光ると竜の姿に戻っていた。
リズの言葉が照れくさかったのである。
『ここまで大きくなれば、リズを乗せて飛べるかな。』
『あら、私と一緒に飛びたかったんですね。うふふ。』
誤魔化そうとして、墓穴を掘ったようである。
テオドールが、目の前でいちゃつく2人を、暖かく見守っている。
『それじゃ、また明日から迷宮探索の続きかな。』
『そうですね。』
なお、シルが入っていた繭には、進化の際に取れたと思われる鱗が大量にあったのできちんと確保しておいた。
その日の夜は、さすがに抱き枕にするには大きくなりすぎたので、しっぽを抱えて寝るリズの側で、そっと寝ることになった。
さすがに人化した状態で一緒に寝るのはまずいと思い、リズを何とか説得したのである。
◇ ◇ ◇
迷宮の入り口にある魔法陣に入ると、きちんと平原に戻ってきた。
膝丈くらいの草が生い茂り、所々に背の低い木も生えているのが確認できる、
そんな平原を我が物顔で闊歩しているのは、ゴブリンとオークであった。
先の階層のように、上位種ばかりである。
しかも、10匹以上の群れでの行動が基本のようで、各個撃破もままならず乱戦となる。
しかし、シルが進化して能力が上がっただけではなく、体が大きくなったことにより、戦闘は大分楽になっていた。
爪やしっぽを振るった時の攻撃範囲が格段に上がっているので、数匹まとめて片付けることができるのだ。
戦闘時間が短縮されたため、魔物の数は多いものの、すんなりと階層主のもとに辿り着いた。
階層主は、ゴブリン・キングとオーガ・アドミラル。
それと、多数の取り巻きが砦に詰めていた。
ゴブリンもオーガも、ジェネラルが複数にナイトやアーチャー、メイジ、プリーストと、多数の魔物が陣形を組んでいたが、構わずに正面から突っ込んでいった。
ジェネラルの指揮の元、後衛職に近付けないようにナイトが立ち回るが、それを押し退けて、後衛を片付けていく。
後衛が次々と倒れていくのに業を煮やし、アドミラルとジェネラルが突貫をかけてくるが、それを受け止めて倒していく。
アドミラルからは【体力増】を、覚えることができた。
その後も順調に数を減らし、砦の制圧には然程時間もかからなかった。
現れた木箱からは、ゴブリン・キングの王冠と、オーガ・アドミラルの角が手に入った。
次の階層は、雪原だった。
深い雪に覆われているのみではなく、高低の差も大きく進みにくい上に、オークの上位種が彷徨いている。
オークは比較的鈍重な魔物だが、上位種ばかりなので、崖上や洞窟から果敢に飛び掛かってくるのだ。
しかし、感知の精度が上がってきている2人は、怯むことなくオーク達を片付けていく。
ここの階層主は、砦ではなく洞窟の中に陣を敷いていた。
洞窟の中にある迷宮の中にある洞窟、と意味が分からなくなってくるが気にしては負けだ。
そこに待ち構えていたのはオークだけではなく、トロールがいた。
オーク達より、かなり大きな体を持つトロール・エンペラーと、周囲にはオーク・キングをはじめとするオーク上位種達が待ち構えている。
シルはリズを背に軽く飛び上がる。
洞窟内で天井もあるので、それほど高くはないが、オーク達を相手に射角を確保し、後衛達にブレスを掃射しながら、エンペラーに向かって突っ込んでいく。
その直前でリズは飛び降り、キング複数を相手に、体術と魔術を駆使して戦い出す。
トロールは、シルよりも大きな棍棒を叩き付けてくる。
前脚でそれを受けたシルがしっぽでトロールを叩き伏せようとするが、腕でそれをガードして逆にしっぽを掴もうとしてくる。
伏せてそれを躱しながら、足払いをシルがかけるが、跳んでそれを避けながらトロールが飛び蹴りを浴びせてくる。
それを左前脚でいなしながら、右前脚で腹に爪を突き刺す。
ズプリと爪が食い込むが、トロールはそのままシルを掴みベアハッグのように締め付けてくる。
ギリギリと締め付けられるが、腕を解けずに逃れられない。
腕を解くのは諦め、そのままトロールに噛み付きその胴や腕を次々に食い千切っていく。
片腕を失い、胴が抉れているトロールは残った腕を叩き付けてくるが、その腕を爪の一撃で斬り飛ばし、そのまま頭にも爪を振るい霧散させる。
食い千切った時に【腕力増】を手に入れたシルは、リズの救援に向かうが、既にオーク・キング4体は倒されており、今はジェネラルを順に屠っている所だった。
そのまま合流してから、全て倒し切るまではすぐだった。
その階層の木箱からは、神金塊とオークの霜降り肉が手に入った。




