ダンジョン攻略中 2
階段を降りている途中から、シルは顔をしかめた。
隣を見ると、リズも苦悶の表情を浮かべている。
『くさい・・・』
『臭うどころじゃないですね。』
そう、とにかく臭いのだ。
死臭、腐敗臭、呼び方は色々とあるのだろうが、要はそんなニオイで満たされているのである。
『これはやはり、アレかな。』
『それしかないでしょうね。』
予想通り、通路の先から顔を出したのは、骸骨である。
不死者と呼ばれる魔物。
人間や魔物の死体から作り出される、スケルトンやゾンビ等の魔物だ。
通常の魔物と異なり、痛覚や恐怖もなく魔石さえあれば蠢き続ける。
ただ、光属性と火属性に極端に弱く、その2属性を扱えるものならば、然程怖くはない。
シルとリズは、光も火も扱えるので、戦力としては驚異も感じない。
しかし、不死者の独特のニオイは、2人のヤル気を大きく削ぐのに十分であった。
『とにかく、ここは早く終わらそう。』
『全面的に賛成ですわ。』
2人は、光属性の魔術で魔物を倒しながら進んでいく。
スケルトン系は骸骨なのでまだいいが、ゾンビ系は腐肉を纏っているので、近接攻撃をすると飛び散った腐肉が付く可能性がある。
それは、さらにこのニオイに苦しむ事を意味するので、できるだけ近接戦闘を避けることになった。
無論、シルのスキルのための食事も封印である。
ここの階層主はリッチであった。
黒いローブを纏った魔法使い型のスケルトンなのに、手には真っ黒な剣を手にしている。
精神支配魔法と、不死者を作り出していく死霊術の使い手だが、光属性以外の魔法も扱え、それもかなりの威力である上に詠唱速度も驚異的な早さである。
2人とも精神支配無効を持っているのでよかったが、なかったら苦戦では済まなかったかも知れない。
次々と生み出されるスケルトンは、空気の塊をぶつけてバラバラにすることで対応しつつ、光魔術と近接攻撃で削っていく。
リッチから放たれる、真空の刃や電撃、火球、そして闇の力を固めただけの球体等の攻撃は、こちらも魔術で作り出した攻撃をぶつける事で打ち消していく。
シルは意を決し、リッチの左腕を斬り落とし、その落ちた骨を齧る。
口の中が腐敗臭で満ち、半端ない嫌悪感に耐えていると、【死霊術】スキルを覚えた。
その途端、口の中にある骨の欠片をぺっと吐き出すと、水球を作り出して口にし、うがいをしだした。
スッキリとすると、シルは光のレーザーを幾条も放ち、リッチの体を刻んでいく。
両手と頭を落とされたリッチには、もう反撃する手段はない。
怪しげな笑い声を響かせながら、リッチは消えていった。
木箱の中は、剣が1本でブラッディソードという禍々しい名前だった。
リッチが持っていた剣のようで、相手の生命力と魔力を奪う能力が付与されていた。
どの程度吸えるのか分からないが、この手の武器は当たらなければどうしようもないのだ。
シルにとっては、やはりあまり意味がない武器なのでストレージに無造作に放り込む。
それを終えると、2人はすぐに階段に向かう。
とにかくこの階層に居たくないのだ。
次の階層は、オーガのフロアであった。
オークより力が強く、俊敏な動きも出来る魔物だ。
剣等は扱わず、体術か棍棒を使って殴りかかってくる相手だ。
頭は良くないが、戦闘のセンスは高いので、戦闘自体もゴブリンあたりを相手にするのとは訳が違う。
以前、依頼でオーガ・リーダーを狩った際は、遠距離からの不意打ちをしたこともありあっさりと終わった。
しかし、この迷宮の中、とくに階層主との戦闘においては、多数との乱戦になる。
人間離れした能力を持っているとはいえ、リズは普通のエルフなので、攻撃をそもそも受けないようにしないと、何があるか分からない。
畢竟、シルは今まで以上にリズを庇うような戦い方になっていった。
リズとしても、体術は使い慣れてきたとは言え、まだ高い以外に任せている部分があることは認識しているため、早く戦力となれるよう、集中して戦闘に臨むのだった。
とは言え、まだこの階層での相手は、強さとしては下位となるオーガなので、2人からすれば油断さえしなければ問題ない相手だ。
そのまま問題なく、階層主の部屋に辿り着いた。
今までの階層と同じように、オーガ・ジェネラルとその取り巻きであるソルジャーが多数、と言った感じだ。
先制でジェネラルの首を真空の刃で狙ったが、ソルジャーが身を呈してそれを阻止したため、そのまま乱戦に突入せざるを得なかった。
ジェネラルにより統率されているため、ソルジャー達は連携を意識して絶え間なく攻撃をしかけてくる。
シルはリズをへの攻撃を牽制しながらも、確実に数を減らしていき、リズもシルが護ってくれる範囲は任せ、自分が対応すべき魔物を屠っていく。
ジェネラルも、持ち前の格闘センスで対応しようとするが、シルの速さには付いていくことができず、数合で打倒されることとなった。
もちろん、忘れずに少し肉を齧り、【体力増】を覚えていた。
木箱からは、霊銀塊を2つ入手していた。
次の階層は、森だった。
洞窟の中であるはずなのに、陽の光で照らされたように明るく、木々が生い茂っていた。
『洞窟の中なのに、これはいったい。』
『迷宮の中には、海や火山もあることがあるらしいですよ。』
『魔道具だから、なんでもありなのか?』
『そんな感じなんだと思いますわ。』
一応、壁はあるが森の周囲を取り囲むような形であるだけで、森の中には壁がない。
ただ、木々が複雑に絡みながらも生えていて通ることができない場所もあるため、単純な森とも言えない感じだ。
天井も、一見すれば空のように見えるが、上空に向かって飛ぶと頭をぶつけた。
30mほどと、かなりの高さはあるが、空のようにどこまでもと言う訳ではない。
とりあえず、森に踏み込む前に食事にする事にした。
調理の簡単なステーキだが、食べ応えはあるしリズの味付けのお陰で味も満足だ。
匂いに釣られて、虫のような魔物がフラフラと飛んでくるが、1匹だけでくるので特に問題はない。
フォレストビートルと言う名で、甲殻が奇麗なので比較的高値で売れるらしいが、ここは迷宮のため素材はほぼ手に入らない。
食事の片付けが終わると、探索を開始する。
森の中は、食事中に来たフォレストビートル以外にも、大きな蜂のようなピアスホーネット、凶暴な熊のスターヴベアが出没した。
また、厄介な事に普通の木にしか見えないワンダートレントと、蔓にしか見えない食虫植物のインセクトイーターと言う魔物もいた。
気配を巧妙に隠すので、魔力感知でうまく探さないと奇襲を受ける羽目になる。
シルは途中からは面倒になり、通常の木も伐採して進んでいたが。
幸いにも木の実が多少は採取でき、それは時間が経っても消えなかったので、食料としてストックできたのだ。
階層主は、大きな広場にいたエルダートレントだが、自身も枝と根を自在に操って地上地下それぞれから攻めてくるし、従えているビートルとホーネットをけしかけてくるのだった。
更に風魔法も使ってくるので、近付くのもなかなか大変だった。
しかし、エルダートレントの知能は高かったが、虫な単調な攻撃しかできないので、すぐにトレントとの差を詰めて本体を攻撃できた。
詰めてしまえば、後は伐り倒すだけなので、シルの大太刀を何度か当てれば半ばで真っ二つに折れてお終いだった。
木箱からは、木の枝が入っているだけだった。
シルはガックリとしたが、リズ曰くこれは世界樹の若枝で大変貴重なものだそうだ。
世界樹はエルフの森に生えていたらしいのだが、過去に神と墮神の戦いで傷付き、それを癒やすためにその姿を隠したそうだ。
木が姿を隠す、と意味がわからないが、伝承があるという事は何かしらの秘密もあるのだろう。
杖にできるような大きさでもないので、これはどうしようかと思いながらストレージにしまうのだった。
次の階層は、山だった。
厳密には山の上に出てきて、下に降りていく形だ。
途中には岩場も川や滝もあり、小さな森もある。
その至る所に、コボルドの上位種が走り回っている。
岩陰や崖上を巧妙に取られて、遠距離攻撃や魔法攻撃をされると非常に戦いにくい。
また、コボルド・アサシンという隠密タイプの魔物が、気配感知も魔力感知も回避して、密かに後ろを取られるので、それに対する警戒が非常にストレスになった。
救いは、アサシンから【隠密】スキルを得られたことか。
そのような、常に狙われるかもしれないと言う緊迫した中での行軍、戦闘は2人に戦闘時の独特の張り詰めた緊迫感をもたらし、精神面での成長を遂げさせた。
それは、スキルではなく経験でしか得られない、貴重な成長であった。
結果として、気配の消し方や探し方、魔物との間合いの取り方と詰め方、魔物の隙きの突き方、お互いの死角や隙きの補い方、こういったものを自然と行えるようになり、行軍速度が早まることとなった。
速やかにコボルド達を殲滅しながら進むと、やがて砦に辿り着いた。
洞窟の中で砦、と違和感が凄いのだが、あるものはあるのである。
防壁に囲まれ、門にはナイト、物見櫓にはアーチャー等が配され、防御体制は万全という感じだ。
『守りは堅いな。普通に突っ込んでもやれることはやれるけど。』
『魔術で一掃してみます?』
『試してもみるのもいいか。奥の物見櫓のを矢でやれるか?』
『問題ありませんわ。』
リズは弓矢を取り出し、挽き絞る。
それに合わせてシルは、手前の物見櫓を目標に魔力を練る。
『行きます!』
リズの言葉を合図に、矢と真空の刃が放たれ、コボルド・アーチャーの命が絶たれる。
『砦内に風で竜巻を頼む。』
シルの一言で、リズは砦上空に竜巻を作る準備をする。
シルも、火球を用意して大きくしていく。
『少し遅れてやってくれ。』
『はい。』
シルが火球を飛ばして砦の中で弾けさせて炎弾を降り注がせる。
至る所で火の手があがり、気づいたコボルド達が慌てて消化しようと動き始める。
そこにリズが竜巻を下ろし、炎を舞わせて延焼半位を広げていく。
コボルドの魔法使いが、近くの川からか水球を持ってきて消化しようとするが、竜巻の風に煽られて思うように、消化したい所に水が届かない。
瞬く間に、砦の中の家屋や防壁も炎上しだし、炎と煙、そして風に巻かれてコボルド達は傷付いていく。
このまま数を減らせるかと思いきや、一番大きな建物から一際大きなコボルドが現れると、遠吠えをする。
それを機に、コボルド達は気を取り直すだけではなく、格段に良くなった動きで延焼しそうな建物を打ち壊したり、地道な消火活動をするとともに、乱れていた連携を取り戻していく。
『コボルド・キングか。流石だな。遠吠えだけで建て直したか。』
『最後は、正面からですか?』
『ああ、行こうか。』
大太刀を構えると、シルは飛び出していく。
その後を、リズが風魔術でシルを狙うコボルドを牽制しながら後に続く。
それからは、それまでの狩りと同じだった。
研ぎ澄まされた感覚を維持しつつ、ただただ魔物を殲滅していく。
回復が使えるコボルド・プリーストもいて、最初の魔術による傷を癒やしていたので、優先して倒して行く。
コボルド・キングがそれを牽制してくるので、それをいなしつつ遠距離攻撃手段をもつ魔物から倒していく。
コボルド・キングは、自分の配下が打ち倒されて行く現実に苛立っているのか、攻撃が牽制から徐々に苛烈になっていく。
魔剣と思しき逸品で斬り掛かってくるキングは、腕力・俊敏ともにシルには遠く及ばないものの、見事な剣技で渡り合っている。
多少の傷は、まだどこかに隠れていたのか、プリーストが必死に回復をかけ続け治してしまう。
埒が明かないと判断し、シルはキングと相対して大太刀をしまい、浮遊を止めて地上に降り立つ。
リズは、シルの考えを察して迎撃に専念する。
左前脚による袈裟掛けの斬り裂き、と思わせて右前脚の爪での斜め斬り上げを振るい、キングが剣を持つ右手を肘あたりで斬り落とす。
それが地面に落ちる前に、斬り落とした腕ごとストレージに収納してしまう。
キングは痛みで一瞬怯んだものの、すぐに鋭い牙で噛み付いてくる。
それをバックステップで躱しながら、右前脚を頭にかけて引き倒し、地面に叩き付ける。
そのまま首筋に噛み付き、首を落としてとどめを刺す。
キングを倒されたコボルド達は、怒りに我を忘れてシルに遅い掛かる。
その半分ほどはリズにより斬り裂かれ、残り半分は爪としっぽで肉塊にされた。
周囲が片付いても、砦近辺に潜んでいるコボルドを見つけ出し、倒していく。
周囲から一切の気配が消えたため、砦の中に戻ると木箱と階段が現れていた。
木箱の中は、コボルド・キングの爪と牙だった。
滅多にお目にかかれない魔物なので、やはり高額らしい。
なお、ストレージに収納したキングの右腕と魔剣は、キングが倒された時点でストレージから消えてしまっていた。
階段の奥には、平野が広がっていた。
そして、階段出口のすぐ脇に魔法陣が、光っていた。
リズが言うには、迷宮には途中に魔法陣があることがあり、それを使うと入り口まで転移でき、逆に入り口から行ったことがある階層まではいつでも転移できるのだそうだ。
2人は、疲れ切っていたこともあり、魔法陣を使って一度城に戻ることにした。




