ダンジョン攻略中
テオドールは洞窟と言っていたが、入り口は綺麗に整備されていた。
その見た目は神殿と言うには重々しく、地下牢という感じだ。
『うーん、どう考えても魔物の気配だね。』
『しかも相当な数。計り知れませんわ。』
『ま、行くしかない。』
中に踏み込むと、石畳が敷かれた通路が伸びている。
壁、天井も石でしっかりと固められており、崩れそうにない上に、微かに発光していて、通路を照らしている。
2人は暗視があるので、なくても問題はないが。
すぐに通路は突き当り、左右に道が別れている。
そのどちらにも、魔物が控えていた。
左にはゴブリン、右には犬顔の人形の魔物であるコボルド、それぞれがかなりの数の群れでひしめいている。
『どっちがいい?』
『どちらも面倒なんですけど。』
『そう言わないでよ。これも訓練ってことで。』
『それじゃ、コボルド相手に体術だけでいくわ。』
『よろしく。』
2人が飛び出した瞬間にはには、それぞれ数匹が頭を吹き飛ばされたり、真っ二つにされていた。
魔物達が襲撃に気付いて、体制を整えようとした頃には、半分ほどに減らされている。
間もなく、2人による蹂躙劇は閉幕となり、周囲は死屍累々・・・とならなかった。
魔物の死体が、床に溶けるようにして消えていくのである。
あとに残されたのは、魔石と僅かなコボルドの爪だけであった。
『これはどういう事?』
『迷宮かも知れません。冒険者ギルドでは、ダンジョンとも呼ばれていますわ。』
『へえ、ただの洞窟とは違うんだ。』
迷宮だと、ラビリンスじゃないのかな。
ゲームだと、フィールドの対義語としてダンジョンと呼ばれたりもするけど、迷宮と言うと中が迷路になっているものを想像してしまう。
『迷宮は、その存在価値全体が魔道具のようなもので、中には魔物や罠が溢れているかわりに、魔道具や武器が手に入る事もあるんです。その代わり魔物を倒しても、捌くことはできなくて、魔石と素材だけが手に入る事があるんです。』
この世界自体も大概だけど、迷宮と呼ばれるここは、もっとゲームに近いもののようだ。
異世界のゲームを元に、神が作ったのかも知れない。
『迷宮の中では、魔物は倒されてもすぐに生み出されます。早いものだと数分、長くても半刻もすれば戻ります。ただ、階層主と呼ばれる強力な魔物は、数日かかるそうですわ。』
すぐに次が生まれるから、生態系を気にする事なく、狩り尽くしても問題ないらしい。
『狩り放題だが、あまり金にはならないのかな。』
『素材はそうですわね。その代わり、位階が上がりやすいとされていますわ。』
経験値ボーナスも付いてる感じかな。
『クラウ・ソラスが迷宮で何をしていたのか、確かめないとだな。』
『ですわね。しばらくは雑魚ばかりのようですし、先に進みましょうか。』
リズの言う通り、この辺りにはゴブリンとコボルドのみのようだ。
偶にゴブリン・リーダーやコボルド・ウォーリアと言った上位種もいるが、構わずに殲滅して進んでいく。
しかし、魔物の脅威はなくとも、迷路を抜けるのは簡単ではなく、行き止まりに当たったりして、なかなか進まなかった。
(マップがオートマップしてくれるから助かってるけど、これが無かったら危なかったな)
このところ、使う事がなかったマップ機能だが、通った道は自動で記憶してくれるため、確実にマップを埋めて進むことができる。
たとえ時間がかかったとしても。
『そうそう、迷宮の中では火、土の魔術は使わないようにね。』
『土は崩落しないようにだと思いますが、火はなぜですの?』
『狭い空間で火を使い続けると毒が発生するんだ。そうなるとこちらも死にかねない。』
喚起しないで火を使い続けると、やがて一酸化炭素が発生してしまう。
呼吸をしていないシルは平気だろうが、リズは一酸化炭素中毒により、命を落とす可能性がある。
『分かりましたわ。』
結局、半分ほどマップを埋めて、やっとフロアボスと思われる部屋の前に辿り着いた。
中には、ゴブリン・ジェネラルとコボルド・アークメイジ、その取り巻きがそれぞれ30匹程度はひしめいている。
取り巻きも、ゴブリン・ソルジャー等の上位種だ。
『あのコボルドもらっていい?』
『それじゃ、ゴブリンは頂きますね。』
2人が一斉に飛び出す。
リズの蹴りがゴブリン・ジェネラルを盾ごと吹き飛ばす。
盾は砕け散り、盾を持っていた手も、そしてその先にある頭も弾け飛んでいる。
シルは真っ直ぐにコボルド・アークメイジに向かって飛び、すれ違うとともに、その頭を食い千切っている。
倒すと消えてしまうため、スキルが得られそうな相手は生きている間に食うしかない。
そして、シルはそれを実行しただけであり、結果として【魔力増】と【俊敏増】を手に入れたのだ。
大量にいるゴブリンとコボルドの統率者を倒したとは言え、残りも上位種であり数もいる。
1対1での勝負であれば問題はないが、これだけいると囲まれては面倒である。
シルはすぐにリズと合流すると、お互いに背を預けるようにカバーしあいながら、少しずつ数を減らしていく。
特に、魔法が使えるメイジや弓が使えるアーチャーを優先して片付けることで、不意を突かれるリスクを減らしていく。
この先がどの程度あるのか不明ないので、できれば魔力や矢を温存できるよう、シルは大太刀を振るい、リズは特訓中の体術で戦っている。
リズは単体にしか攻撃できないが、シルはワイドスラッシュで広範囲に攻撃ができるので、極力複数の魔物を巻き込むようにして片付けていく。
シルの大太刀は、アダマンタイト製でとんでもない硬度を持ち、魔術により切れ味も鋭い。
ソルジャー等の盾を持ち全身鎧に覆われている相手でも、紙を切るようにスパスパと斬り裂いていく。
もっとも、リズの正拳や蹴りも、盾を砕いていくのであまり差はないのかも知れないが。
数分もすると、立っているのはシルとリズのみとなり、周囲には魔石と素材が転がっているだけとなった。
すると、部屋の奥の床で魔法陣が輝き、木箱が出てきた。
『階層主を討伐した報酬の宝箱ってことかな?』
『開けてみましょうか。』
『待った。罠がないか見てみる。』
念の為、鑑定で確認するが大丈夫そうだ。
鑑定で罠が検知できるとは限らないが、見ておいた方がいいだろう。
『大丈夫そうだけど、一応少し離れてて。』
『心配性ですわね。』
『リズに何かあったら思うとな。』
『あら、こんな所で愛の告白ですか? もう少し雰囲気の良い所を希望しますわ。』
『言ってろ、全く。』
照れを誤魔化すように箱を開ける。
中には、金属塊と杖が入っていた。
『これはミスリルのインゴットかな。小さいがまあ有り難い。杖は鉄製のようだけど。』
『魔石がありますから、魔道具でしょうか。』
『調べてみるか。』
鑑定で見ると、小さな炎が出せる魔道具のようだ。
攻撃用ではなく、日常生活で着火に使うためなのだろう。
『炎が出せるようだが、日常生活用のものだな。』
『冒険者には、それなりの値段で売れそうですね。野営の時に魔法使いがいないと、火を起こすのは一苦労ですから。』
『まあ俺たちには必要ないものか。』
『冒険者ギルドか商業ギルドで引き取ってくれますわ。金貨数枚くらいは期待していいかと。』
『じゃ、街に戻ったら、だな。』
どちらもストレージにしまって周囲を見ると、奥にあった扉が開き、下に降りる階段が見えている。
『ここから次の階層に行けるみたいだな。行こうか。』
『はい。』
降りた先の階層も、同じような石造りの通路でできた迷路で、出てくる魔物はゴブリンとオークだった。
オークは、ゴブリンより大きく力も強い。
しかし、ゴブリンより知能が低いのか、単調な攻撃しかしてこないので、特に苦労することはない。
そして、何より有り難いのが、素材として肉を落としてくれる事だった。
ストレージの中には、まだたっぷりと魔物が入っているが、自給自足が出来るだけで安心感が違う。
肉の回収のために、積極的にオーク達を狩りながら迷宮探索を続ける。
途中に、オーク達がひしめくようにいる大部屋があったか、シル達には肉ボーナスステージのようなものだった。
その部屋のオークを全滅させると、階層主ではないのに木箱が出てきた。
中ボス的な感じだったのだろうか。
箱からは、容器に入った魔力回復薬が2本入っていた。
魔力が回復できる薬は非常に希少で高く売れるらしい。
しかし、いざと言う時のためにこれは取っておいた方がいいだろう。
この階層では、かなり迷ったので、マップが8割埋まったくらいで階層主の部屋に辿り着いた。
部屋の中にはオークがいるが、中央にオーク・ジェネラル、その左右にオーク・ナイトが10体ずつ、さらに後ろにオーク・ソルジャーが40体くらいはいる。
全員が、何かしらの武器で武装していて、鎧も装備している。
『これは数が多いし面倒そうだな。』
『先ほどと同じ遣り方でもいけますけど、時間が掛かりそうですわ。』
『最初にブレスを掃射する。それで数を減らすのであとは同じで。』
『はい。』
シルは部屋に突っ込むと、威力を抑えたブレスで薙ぎ払う。
本気でやってしまうと、壁が持つかどうか分からないからだ。
そのブレスで、ナイト数体とソルジャーの大半が力尽きている。
生き残ったものも、盾が破壊されていたりも手傷を負ったりしているので、効果はまずまずだ。
ジェネラルが叫ぶと、生き残りが特攻をかけてくる。
あとは、こちらが傷を負わないように気を付けながら、ただ順番に片付けていくだけだ。
最後のジェネラルを倒すと、また木箱が現れる。
中には、胡椒が詰まった大きな袋だった。
胡椒は店でも買えるが、結構高いのでこれは野営をする時に助かる。
有り難く回収すると、次の階層へと向かった。




