白亜の城
雷平原、平原とは名ばかりの湿地帯から脱出したシル達は、北上してピラート山脈を目指していた。
ピラート山脈をは、急峻で登坂が難しい上に、出てくる魔物も飛竜など厄介なものが多く、人が入る事はまずない。
リズが浮遊できなかったとしたら、シル達が進むことができるルートも限られ、進むのは非常に大変だっただろう。
ただ、それでも崖がどうにかなるだけであり、魔物自体は対処できる相手なのだが、やり合う場所を確保するのが大変だったりで、普段に比べるとやはり進みは遅かった。
折角倒した魔物が、遥か崖下に落ちて行ったことも数知れない。
平野部の魔物より強いため、その素材は高く売れるのに、である。
魔物も、平野部にいるものより大きく、位階も高くなっているようだった。
おおよそ2割増くらいだろうか。
個体によっては5割増くらいの巨体もいる。
その巨体でどうやって、という速さで崖を駆け回り、襲いかかってくる熊なぞ、恐怖でしかない。
しかも狭い崖道なので、禄に躱すためのスペースもなかったりなのだ。
野営地を探すのも一苦労だった。
途中からは、探すのを諦めて土魔術でうまく設営できる場所を作るようになっていた。
『お肉がおいしいのは嬉しいんですけど、それ以外は大変ですね。』
『こんな所、普通は来ようと思わないよね。』
『先代は、なんでこんな所に住んでたんですかね。』
『行けば分かる、といいかな。』
リズも念話を多少使えるようになっていた。
まだ、普通の発声と変わらず、周囲に垂れ流しだが。
山脈の中央に、一際高い山が連なっているので、恐らくそこに何かあるだろうと読んで、そこに対っている。
あと数日でそこに到達できるだろう。
◇ ◇ ◇
山の峰を超えると、広大な盆地が広がっていた。
そこには、湖と森、そして白亜の城とも言うべき美しい城。
中世ヨーロッパの王族のための避暑地、と言われてもなんの不思議もない光景が広がっていた。
隣のリズも、その美しさに息を呑んでいる。
『こんなに綺麗な場所、見たことないです。』
『ああ、そうだな。素晴らしい。』
ただ、恐らくあそこは閃光竜、つまり自分の城なんだよな。
日本にいた頃は、高額なローンを組んで、郊外になんとか一戸建てを買ったが、それに比べたら雲泥と言うのも憚られるレベルだ。
『あの城が目的地だと思う。行こうか。』
盆地なので、今いる峰からは下りなので、リズに掴まってもらい滑空していく。
その先の森は、程よく光も差し込むような感じで、魔物もおらず進みやすい。
すぐに城の前まで出る事ができた。
城の門の前には、1匹の白竜が待ち構えていた。
『我が主よ、お帰りなさいませ。』
『ただいま、でいいのかな。俺はシルヴェストル。クラウ・ソラスが転生に失敗したらしく、彼の記憶は俺には引き継がれていないんだ。』
『然様でしたか。お戻りにならないので、心配しておりましたが、そのような事になっていたとは存じませんでした。私は、閃光竜近衛隊隊長、白竜のテオドールと申します。』
近衛隊長とか、やけに物々しいが、眷属のまとめ役と言ったところだろうか。
『よろしく頼む。実感がないけど、ここが俺の本拠地でいいのかな。』
『はい。閃光竜クラウ・ソラス様が建てられた城です。今代の閃光竜であるシルヴェストル様の居城となります。』
クラウ・ソラスがこの白亜の城を造ったようだ。
『まだ行かなければいけない場所があるから、まだ留守にする事が多いので、暫くはここを頼むことになる。いま、眷属の白竜はどれくらいいるのかな?』
『上位竜の白竜が30ほどこの城におります。下位竜のホワイトワイバーン、ホーリードレイクが、合わせて100ほどですがこの地の周囲に散って守っております。』
『結構いるのね。それじゃ、すまないけど休める部屋があったら案内してくれるかな。』
『畏まりました。それではこちらへ。』
テオドールは白髪の執事服の男性に人化すると、城内へ案内してくれた。
城の造りは、巨体をもつ竜でも支障がないよう、廊下などは大きく作られていたが、閃光竜の居室は人間サイズの家具も用意してあった。
『お連れ様の部屋は如何いたしましょうか。』
『同じ部屋でも違う部屋でもいいけど。どうする、リズ?』
『問題はないのでしたら、同じ部屋でお願いしますわね。』
『本来なら問題あるけど、まだ幼竜で人化もできないから同じでいいか。』
『お食事はどうされますか。人族用も御用意できますが、エルフであるエリザベト様は大丈夫でしょうか。』
『うん、問題ないけど、後でいいかな。二刻後くらいで。』
『それでは、何かありましたらお呼びください。』
そう言うと、恭しく礼をしてテオドールが退室していった。
『なんか貴族みたいで落ち着かないや。』
『シル様は竜王なんだから、おかしくないんじゃないですか?』
『カリバーンとフラガラッハは、綺麗な所にすんでたけど、ミュルグレスと武甕槌は城とか見なかったからな。』
『しばらくはここで過ごすことになるんです?』
『いや、明日にでも大精霊に会って、その後は火山に向かうことにしようかと。それでいいかな?』
『私は問題ないないですわ。』
リズに淹れてもらったお茶を飲みながら、今後のことを話しあい、その後夕食を楽しんだ。
食事は、過度に豪華ではないが、上品で美味なものであった。
食事の際に、テオドールに聞いたところ、大精霊は湖畔にある祠にいるはず、とのことだった。
また、テオドールから大精霊との対面が終わったら相談したいことがあるとの事だったので、それは後で聞くことにした。
久々のベッドでの睡眠だが、当然だが今までとは比較にならないほどふかふかで、リズの抱き枕になりながらも、久々に熟睡するのだった。
◇ ◇ ◇
翌日、湖畔を散策するとすぐに祠は見つかった。
それは、祠と言うには大きく立派で、神殿と言うべきものだった。
奥で待っていたのは、獣と鳥の姿をした精霊だった。
僅かに青が混じった白く輝く毛に包まれた小さな獣はカーバンクル。
リスのような愛くるしい姿で、額には赤く輝く宝石がある。
鳥の方は巨大で、両翼は5m以上ありそうだ。
その身は白く輝く炎に包まれている。
実際には、それは普通の炎ではなく聖炎と呼ばれ、神聖な力が溢れ出たものだそうだ。
聖なる生命の力の象徴である聖鳥フェニックスが、大精霊の名だった。
『試練は要らないと?』
『光の力の守護者たる者に対し、光の力を試しても仕方ない。』
『まあ、そうなのかな。』
『私はどうなるのでしょう?』
『光の竜王が信頼し、光の竜王に付き従う者だ。同じく不要だろう。』
『拍子抜けですが、それで良いのでしたら。』
聖炎がフェニックスから放たれ、2人を包むと光魔法の知識が分け与えられる。
今までの属性と異なり、様々な効果の魔法があるようだ。
聖なる盾を作り出すセイントガード、味方の能力を上昇させるブレイブハート、アンデッドに対する攻撃魔法のホーリーレイ、アンデッドを地に返すターンアンデッド。
これらを解析して応用することで、他の属性でも色々な効果が実現できるのでは、とシルは意気込んでいた。
『そう言えば、光の力でもやはり、蘇生は無理なのかな?』
『死者蘇生の意味ならば無理だろうな。魂が抜ける前に回復すれば当然助かるが、抜けた魂をどうにかすることは難しいだろうな。魔術ではないが、降霊術もあるので、絶対に無理とは言わんが。』
やはり蘇生は無理なようだった。
ゲームの世界だから、魔法一つや教会に棺桶を持って行ったところで、生き返るのは無理だろう・
『魂か。死とは、魂と身体の繋がりが切れる、という事かな。』
『そうだな。それ故、一度切れた繋がりを戻すことは無理だろうと考えられている。だから、蘇生ではなく転生と言う形で竜王は魂を繋いでおるのだろう。』
『なぜ竜王だけなんだ?』
『魂を扱えるのは、神だけとされている。竜王の転生は、創造神の権能により与えられたからだな。もしかしたら魔術でも可能かも知れんが、それはもう禁術の範囲だな。』
おおう、禁術とか気になるものが出てきた。
滅びの呪文とかもあるのかな。
まさか、たった3文字の呪文で滅んだりはしないだろうが。
『禁術かどうかは、どうやって決まる?』
『禁術を使うと、神からの警告が神託として告げられるらしい。通常の信託は大司教や大神官に告げられるが、禁術に関しては本人にも直接降りるらしい。』
神託か。
いい加減、自分の役割についての神託をして欲しいところなんだけども。
『それを無視すると、神罰でも落ちるのかな。』
『そうだな。どういう神罰なのかは知らぬが。』
『塵になるとか、塩の柱になるとか、色々と伝承はありますね。』
『精霊は人の世に出ないから、エルフの方がそう言った伝承が伝わりやすいのかもな。』
さすがリズ先生、物知りである。
『召喚されて知ることは?』
『聞いたと思うが、あれは文体でな。召喚された時点で本体とは切り離されてしまい、本体には何も分からんのだ。近くに微精霊でもいれば分かるのだが。』
召喚して戻すと、無かったことになるのか。
文体の経験を本体にフィードバックするには、何か考えないといけないようだ。
『そもそも、大精霊に会った上で、力を授けられる者なぞ、竜王を除けば百年に1人いるかどうかだ。』
『だそうだぞ。リズは凄いんだな。』
リズ先生、普通に大精霊の加護もらってるしね。
竜王と一緒にいるから、ってのも大きいのだろうけど。
『シル様と出会えたからこそ、ですね。』
『竜王が人間と共にいることも珍しいからな。遥か昔に、武神が堕ちたことがあったが、その際にクラウ・ソラスやミュルグレスが人間と共に戦った。その時の人族の一人が、シャルワリエ王国を作ったらしい。』
『そんな事があったんですね。初代国王が墮神を誅したとは伝えられていますが。』
フェニックスから様々な情報が得られたので、神殿を後にして城に戻る。
一休みしてから、テオドールの話を聞く。
『ご相談と言うか、お願いになります。』
『まだテオドールの方が強いのに、なんでまた態々俺に?』
『クラウ・ソラス様からの言い付けがありまして。この城の裏手に洞窟があるのですが、その中を見てきて頂きたいのです。ただ、眷属の竜族は入らぬように、と言われておりまして。』
眷属の立ち入り禁止じゃ確かに本人に頼むしかないかな。
『そこには何が?』
『申し訳ありませんが、存じません。』
『それじゃ、俺が見に行くしかないか。リズもいいのかな?』
『問題ありません。禁止されているのは竜族だけと言われております。竜族以外の眷属を想定していなかっただけかも知れませんが。』
『では、明日行ってみることにしようか。』
と言う事で、明日洞窟の様子を見に行くことになった。
そこで、クラウ・ソラスが何をしていたのか分かるかもしれない。




