雷平野
雪原を抜けてから、平和な旅が続いていた。
もちろん2人にとって、なので一般的には全然平和ではない。
魔物は、遭遇どころか気配を感じれば積極的に狩っていたし、盗賊も見つけては殲滅して街の警備兵に引き渡していた。
街に入っても、ヘルツェル辺境伯領のようにトラブルに巻きこまれることなく、ゆっくり観光や買い出しを楽しんでいた。
冒険者ギルドでも、討伐報酬と素材引取でたっぷりと金を稼いでいた。
今までリズは、あまり積極的に魔物を狩ることはなく、狩らなければならない依頼だけをやっていたので、階級がずっと上がっていなかったのだが、それまで積み上げていた実績と、シルと旅に出てから狩りまくっていたこともあり、7級に昇級していた。
特に何が変わると言うこともないのだが。
2人は、雷平野と呼ばれる場所に来ていた。
雷の竜王と大精霊がいると言われる場所がここである。
平野と呼ばれているが、実際には湿地になっている場所がほとんどで、低木がまばらに生えているくらいで、木や草はほとんど見かけない。
地面はぬかるんでいたり、水たまりが多くなっていて、歩きにくいことこの上ない。
このような状況になっている原因が、空を覆っている雲だ。
晴れ間が覗く事はほとんど無く、しょっちゅう雨が降ってくる。
霧雨や小雨が多いが、たまに豪雨となり、その際は雷鳴が鳴り響く。
そのため、出現する魔物も水や雷属性のものが多い。
水の刃を飛ばしてくる巨大井守のマーシュニュート、威力は低いが大量の雷撃を放ってくるライトニングドレイク。
ドレイクは飛竜と同じく竜族である。下位で弱いとはいえ、腐っても竜族である上に多数で群れを為しているので、とにかく面倒な相手だった。
湿地帯なので、野営地を探すのも一苦労で、平野に比べると進みは遅いものの、2人の探索は進んでいた。
途中で微精霊の気配があったので、それに従っていくと、ぬかるみのない広い場所に出た。
そこに雷光が輝くと、精霊がそこに立っていた。
『光の竜王よ。よくぞ参られた。』
全高3mほどの金色の鹿。
ただし、その背には白い2対の翼があり、周囲には常にバチバチと放電している。
大精霊フルフールが、その名である。
そばに従うのは、紫色の法衣のようなローブに身を包んだ小人。
精霊ヴォルトである。
『何も無い所ではあるが、汝を歓迎する。』
その後は、いつも挨拶と説明。
よくクラウ・ソラスはここに赴き、雷の竜王と手合わせしていたとのこと。
属性としては異なるものの、雷と光は似ている所がある。
気の合う所があったのだろう。
『この後探すのも面倒であろう。雷の竜王もここに呼ぼう。』
フルフールが天に向かって雷撃を放つ。
しばらく待つと、空を覆う雲から、紫色の龍が降りてくる。
翼がなく細長い姿は、まるでまんが日本昔話やシェ○ロンのようだ。
紫の龍はそのままフルフールの隣に降り立つ。
『何事かと思えば光のが来ておったか。某は雷の武甕槌。今後とも良しなに。』
また自己紹介と説明をする。
どうせ一緒にいるのなら、説明前に読んでくれれば楽だったのに。
『クラウ・ソラス殿とは違うのか。彼奴とは良き競い相手であった。其方とも、良き相手でいられると良いな。』
『そうだな、未だ俺は弱い。早く相手になれるよう精進しよう。それに、武甕槌は元いた世界では、俺がいた国の神の名前だった。関係があるのかは分からんが、親近感も覚えるしな。』
『創造神アスシアルフ様より頂いた名だが、某もその由来は知らなんだ。其方がここに呼ばれたのも、何か意味があるのやもな。』
『そう言えば、武甕槌の力を顕現した武器はこんな形なのかな?』
シルは大太刀を取り出して見せる。
『おお、某のものと似ておるな。やはり縁があるのか。』
武甕槌が手をかざすと、紫電を纏った大太刀が姿を表す。
美しさと禍々しさを併せ持つ、恐ろしい刀だ。
『やはり、見事な日本刀だな。元いた国で古くから使われていた、独自の武器なんだ。』
『ほう、それではやはり、何かしらの縁があるのであろうな。』
2人? 2竜? は感慨深げにしている。
『取り込み中すまんが、汝の試練はどうされるか?』
フルフールの事を放ったらかしにしてしまっていた。
『悪いな。色々と思う所があって。もちろん試練はやらせてもらう。』
『そうか、では試させていただく。内容は簡単で、半刻ほど雷に当たらなければよいだけだ。』
『分かった。リズ先にやるか?』
「では、お先に失礼いたしますわ。」
この世界での時間は12時間制である。
2時間で1刻なので、半刻で1時間である。
皆がリズから離れると、リズは地中から金属を集めて4本の棒状にし、それを組み合わせて自分の周りに四角錐、つまりピラミッド状にして配置する。
地面を伝う電流をもらわないように、飛翔で宙に浮遊するとその状態で待機する。
要は避雷針を自分の周りに置くことで、雷が自分の所まで届かないようにしたのだ。
天からはひっきりなし落雷が降り注ぐが、全てピラミッドに吸い込まれて、リズに届くことはない。
『ふむ、半刻待つ必要もないな。汝はそれで合格だ。本来の目的と異なるが、その知識と、適切な道具を生成する魔術。問題はない。』
「お褒め頂き有難う御座います。ズルをしてしまったようで心が痛みますが。」
『条件として禁止しなかったので、自らの能力で適切な対応しただけのこと。その代わり、光のは物を使うのは禁止だ。半刻自力で避けてみせよ。あと竜障壁も禁止だ。』
『やっぱりそうなるか。だからリズに先にやってもらったんだから問題はないが。』
「シル様、助かりましたわ。」
『しかし、雷を避けろとか無茶だよな。』
「大丈夫ですか? かなり難しいのでは。」
『普通にやったらね。光速ほどではないとは言え、音速なんかより遥かに速いから、見てから避けるのは無理だよな。まあ、何とかするよ。1回でも当たったら失敗?』
『当たっても即失敗にはしない。最後に当たってから半刻当たらなければよい。』
『普通は当たった時点で死んでもおかしくないんだけどね?』
無茶振りに、皮肉も言いたくなるが、それで合格する訳でもない。
皆から距離を取り集中するが、やはり見てからでは間に合わない。
見えた瞬間には当たっている、と言っても過言ではない。
シルは雷に撃たれまくっている。
落雷が発生する場所とタイミングを察知できないか、と集中するが至る所で発生しているので、どこから来るのか察知するのは困難だった。
ここで、シルはまともに避けるのは諦める。
逆に、自分に落ちないように、周囲で雷を発生させることで、電位差を解消させることで自分の周りに落ちないようにする。
更に離れた所で、逆に地表から迎える様に逆方向の雷撃を発生させることで、上空の電位差を、どんどん解消させていく。
これにより、雷自体があまり発生しなくなってしまったし、発生しても関係ないところに誘導されていく。
『うむ、これも見事だ。雷の魔術を正確に理解している証拠だな。汝も待つまでもなく合格だ。』
『避けてないけどいいのか?』
『必ずしも落雷を体で回避しろとは言っていない。当たらないように誘導することの方が重要だ。』
『そっか、それじゃ合格ってことで。』
『では、雷の術を教えよう。』
フルフールがシルとリズに触れ、知識を授けてくれる。
『雷は扱いも難しいうえに、応用が効きにくい。今後も精進せよ。』
『ああ、竜王の名に恥じぬようにな。』
「お世話になりました。」
2人は、竜王とセイレイ達のもとを辞する。
次は、光の竜王。
つまりクラウ・ソラスがいたとされる場所だ。




